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もう一度世界を救うなんて無理っ  作者: 白石有希
7章 もう一度ここから始めよう
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7章 4話 王は絵画に重ね塗る

 《怪画》サイドです。

「この時より《前衛将軍(アバンギャルズ)》は解体し、《魔王親衛隊(インヴェスターズ)》を再編成する」


 王座にてラフガはそう告げた。

 彼の宣言を聞いているのは4人の《怪画(カリカチュア)》。

 加賀玲央――トロンプルイユ。

 キリエ・カリカチュア。

 ギャラリー。

 そして、灰原エレナ――グリザイユだ。

 彼らはその場で跪き、王の言葉を待つ。


「トロンプルイユ。お前を《魔王親衛隊》の隊長とする」


「……ありがとうございます」

 玲央はラフガの言葉をそのまま受け取る。

「そしてグリザイユ」

「っ……はい」

 ラフガに声をかけられ、グリザイユの肩がわずかに跳ねる。

 その反応に宿る感情が恐怖である事は誰の目にも明らかだった。

 一方で、ラフガは玉座から立ち上がり、わざわざ彼女へと歩み寄った。

 本来なら、王がわざわざ家臣へと近づくことはない。

 少なくとも、ラフガがそのような振る舞いをすることはない。

 ならば考えられる理由は――


「お前を、()()()()()()()()()()()


 ――その相手が、ラフガと対等な存在だから。

「お、お父様……!?」

 そんな時、声を上げたのはキリエだった。

 彼女は伏せていた顔を上げ、ラフガに抗議する。

「お、お父様ッ……!」

 彼女は立ち上がる。

 キリエ・カリカチュアはラフガ・カリカチュアを敬愛している。

 自分の手で《残党軍》を組織して、《怪画》という勢力を復活させるほどに。

 そして、封印されたラフガを女神から取り戻した。

 ――正直な話として、彼女には一つの期待があったことだろう。

 父に――ラフガに後継者として認めて欲しいという思惑が。

 だが結果はどうだ。

 後継者に選ばれたのはエレナ。

 挙句の果てには、《魔王親衛隊》の指揮を任されることさえなかった。

 それはキリエにとって絶望だろう。

「アタシは――」

「黙れ」

 それは一瞬のことだった。

 キリエが経っていた場所から彼女の姿が消えた。

 同時に、入れ替わるようにしてその場にはラフガが現れる。

「がぁッ」

 玲央たちの背後でキリエの声が聞こえた。

 苦痛の声。

 弾かれるように玲央たちは振り返る。

「キリエ。()()()()()()()()()()()()?」

 城の壁には蜘蛛の巣のようなヒビが広がっていた。

 それはキリエが壁に叩きつけられてできたもの。

 おそらくあの刹那、ラフガは彼女を殴り飛ばしたのだ。


()()()()()()()()()()()()()()()()()


()()()()()()()()()()()()()()


 そうラフガは言い切った。

 あまりにも独善的。

 しかしそれこそがこの場でのルールだった。

 誰も意見できない。

 ただ、従うしかない。

「ごめんなさい……お父様」

 涙をにじませ、キリエは許しを乞う。

 その涙は痛みのせいではないのだろう。

 彼女なら分かっていたはずだ。

 父を尊敬しているからこそ、あそこで反抗すればこのような事態になることなど理解していたはずだ。

 それでも彼女は、耐えられなかった。

 それほどまでに、ラフガに認めて欲しかったのだろう。

(報われねぇ話だな)

 玲央は内心で嘆息する。

 もちろん態度には見せない。

(これが――魔王ラフガ)

 最強の《怪画》。

 そして、稀代の暴君。

 理不尽の体現者。

 玲央は確信する。

 目の前の男は、世界に争いを招く存在だ。



「お前たちは弱い」


 ラフガはそう言い放つ。

「5年前もそうであった。どいつも、我の足元にも及ばん」

 散々な言い方。

 しかし彼の言うことも大きく間違ってはいない。

 おそらく《新魔王軍》の総力を以ってしても、ラフガを殺すことはできないのだから。

 たった一人で、残る全兵力を凌駕する存在。

 それこそが魔王ラフガ。

 彼にとっては、この場にいる《前衛将軍》――《魔王親衛隊》ですら塵芥なのだ。

「とはいえ、我も女神と戦うとなれば邪魔が入るのは手間だ」

 現状、ラフガと比肩しうるのは女神マリアのみ。

 部下である《怪画》の存在意義は、己が女神を打倒するまでの露払い。

 きっとそんなところだろう。

「故に、()()()()()()()()()()()()()()()

「力……?」

 キリエが疑問の声を漏らす。

 おそらく、稽古をつけるなどという話ではないだろう。

 それでは力を与えるという言葉と微妙に齟齬がある。

それにラフガが部下を鍛えるために手間を割くとは思えない。

 であればもっと即物的な――

「魔法少女には《花嫁戦形(Mariage)》がある」

 《花嫁戦形》。

 それは魔法少女が真の力に目覚めた姿。

 その状態になれば戦闘力は数倍に跳ね上がる。

「お前たちにも、それに準じた力が必要だろう」

(準じた力……?)

 玲央は内心で首をかしげる。

 《怪画》と魔法少女では種族から違う。

 当然、その力の性質も違う。

 ――《怪画》の能力は変化しない。

 厳密にいえば成長はする。しかし《花嫁戦形》のように圧倒的な変貌を遂げることはない。

 《怪画》にとって能力とは生まれ持った力なのだから。

 魔法少女の力は女神から許可を得て振るうもの。

 ゆえに成長すれば、許可される権限の範囲も拡大してゆく。

 あらゆる魔法を保有する女神から魔法を借りるのだ。多少は異質な変化があっても不思議ではない。

 しかしその不自然を、ラフガは起こそうとしている。

「覚えておけ」


「――《彩襲形態(オーバーコート)》」


「それこそが、お前たちに与えられる力の名だ」


 次回は《怪画》の最終形態――《彩襲形態》の登場です。

 

 それでは次回は『《彩襲形態》』です。

 《前衛将軍》たちの強化形態を披露します。

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