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もう一度世界を救うなんて無理っ  作者: 白石有希
7章 もう一度ここから始めよう
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7章 2話 失意の中で

 悠乃たちの壊れた日常回です。

 時は流れる。

 だが、この場にいる者たちは世界において行かれたかのように動かない。

 蒼井悠乃。

 朱美璃紗。

 黒白美月(こはくみつき)

 黒白春陽(こはくはるひ)

 4人は公園にいた。

 いつものように集まった面々。

 しかし4人を取り巻く空気は並々ならぬ重さだ。

 理由は分かっている。

 理由は――ここにいない二人と一匹だ。

 金龍寺薫子。

 灰原エレナ。

 そして――イワモン。

 悠乃たちにとって大切な友人であり、戦友だった者たちだ。

 薫子とイワモンは《正十字騎士団》。

 エレナは《新魔王軍》に。

 大切な仲間たちはそれぞれの陣営へと向かった。

 それを裏切りだとは思わない。

 考えた結果だろう。

 やむを得ない事情があったからだろう。

 それを理解できているから。

 だが、それが納得できるかを意味しない。

 納得なんて……できるわけがないのだ。

「ツッキぃ……。わたしたち、どうなっちゃうのかなー……?」

 春陽が空に呟いた。

 いつもの快活さは影に沈んでいる。

 普段なら、彼女の明るい声がみんなの不安を拭ってくれるのだろうけれど。

 残念ながら、今の彼女にはそれだけの気力がないらしい。

 彼女に限らず、悠乃たち全員がそうだった。

「そんなこと……分かるわけないじゃないですか」

 美月は突き放すようにそう言った。

 しかし彼女には悪意も悪気もない。

 ただ――余裕がないのだ。

 周囲を気遣うには――現状はあまりに過酷だった。

(僕は……どうすればいいんだろう)

 悠乃はそう自問した。

 自答は……できない。

 蒼井悠乃は魔法少女だ。

 世界を守るために戦わねばならない。

 それはただの役割だけではなく、悠乃自身もこの世界を守りたいと思っている。

 この世界には、彼にとって大切なものが数えきれないほどあるのだから。

 だが、分からない。

 ――誰と戦えばいいのかさえ。

 《怪画(カリカチュア)》を倒せばいいのか。

 女神を倒せばいいのか。

 そもそも、倒せるのか。

 そんな思考が巡ってゆく。

 味方はいない。

 脅威は迫っている。

 だが、敵が誰なのか分からない。

 山積みの課題を前に途方に暮れるしかない。

(薫姉なら、こんな不安も解決してくれたのかな?)

 彼女の指示があれば、悠乃たちは迷わずに歩けたのだろうか。

 そう思ってしまう。

(女神――)

 自然と悠乃の思考は女神へと移ってゆく。

 これまで聞いたこともなかった世界のシステム。

 世界を守るため生贄となった少女の話を思い出す。

(薫姉は望んで女神になろうとしているのかな……?)

 だとすれば、それを止める権利はあるのだろうか。

 世良マリアを救うため、身を捧げる薫子を止める権利など。

 エレナが《新魔王軍》に戻ったのは、望んでの行動ではないように思えた。

 しかし薫子は違う。

 彼女は己自身で考え、選んで《正十字騎士団》へと合流した。

 なにより――


(薫姉を連れ戻すということは――()()()()()()()()()()()()()


 必然的に女神の後継者がいなくなるのだから。

 そうなればマリアは終わりのない戦場へと帰ってゆく。


 つまり――()()()()()()()()()()()()()()()


 その事実がさらに事態を難しくする。

(――分からないよ)

 悠乃は唇を噛み締める。

 涙をこぼさなかったのは、自分が唯一の男の子だからというプライドか。

 だが――視界がぼやけた。


(誰か……教えてよ)


 ――誰もがハッピーエンドを迎えられる道筋を。



「よっ」

 失意の帰り道。

 悠乃の歩みを遮ったのは、一人の少年だった。

「――玲央」

 加賀玲央(かがれお)

 悠乃のクラスメイトであり――《残党軍》において《前衛将軍(アバンギャルズ)》を務めていた最強の《怪画》。

 いや――魔王ラフガが復活した以上、最強の座は返上だろうか。

 ともかく、この場ではあまりに不釣り合い――

 ――端的にいえば、会いたくない人物だった。

「……っと、そう邪険にしないでくれよ」

 悠乃は沈黙したまま玲央の隣を抜けようとしたが、彼はそれを許さない。

 苦笑いのような、それでいて悲しげで――それだけでは言い表せない感情のこもった表情を浮かべながら。

「……何?」

 このままでは玲央は立ち去らないだろう。

 悠乃は視線だけを彼に向けた。

「……酷い顔だな」

「……誰のせい?」

「オレ、だな」

 あえて玲央はそう言った。

 彼は神妙な表情を浮かべており、一抹の罪悪感を覗かせている。

「別に、玲央だけのせいじゃないよ」

 だからか、悠乃はふとそう口にしていた。

「で、どうしたの?」

 長々と話す気分ではない。

 悠乃は本題へと切り込んだ。


「悠乃。最後に会いに来た」


「最後?」

 悠乃が問い返すと、玲央は首肯する。

「ああ。学校も辞めたし活動拠点も向こうの世界になる。だからもう、悠乃と会うこともないだろうな」

「……そう」

 当然といえば当然の話だ。

 そもそも、敵同士である二人に接点がある事のほうが異常なのだ。

 彼が悠乃のもとを去るのは必然だろう。

 仮に会うことがあるのなら、それは戦場だ。

 もしも、悠乃がその覚悟を取り戻せたのならばの話だが。

「ちょっと、付き合ってくれねーか?」

 ――話がある。

 そう玲央は言った。

 今、悠乃たちがいるのは人通りが多い道だ。

 確かに、魔法少女関連の話ができる場所ではないだろう。

「話?」

「……ああ」

 玲央は悠乃の返事を待たず、彼に背を向け歩き出す。

 そして首だけで振り返ると――


「一つ目は、《新魔王軍》からマジカル☆サファイアたちへの話」


「二つ目は――加賀玲央から……()()()()()()()()


 ただ、どうあがいても薫子には苦難が待ち構えています。

 理由は簡単。

 決戦は1月。大学受験も1月。

 ぁ……。


 それでは次回は『友人として』です。

 玲央が悠乃にかける『友人として』の言葉。そんなお話です。

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