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もう一度世界を救うなんて無理っ  作者: 白石有希
7章 もう一度ここから始めよう
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7章 プロローグ2 僕がいつか、君を迎えに行く

 始まりのプロローグ後編。

 テッサはイワモンに様々なことを教えてくれた。

 それは女神についての事。

 彼女に課せられた過酷な運命について。

 それを聞いてイワモンが感じたのは――怒りだった。

 たった一人の少女が、世界を救うための礎となる?

 そんなこと、イワモンの正義感が許すわけもない。

 そんなこと、イワモンの恋心が許すわけもない。

 善意とわずかな下心。

 彼女を――世良マリアを女神という重責から解放したいと考えるようになるまでにそれほど時間はかからなかった。


「――どうやら、女神に会って来たらしいな」


 気が付くと、テッサが背後に立っていた。

 彼は本を読みながら壁に背を預けている。

 ――別に珍しいことではない。

 効率主義者である彼は、読書をしながら並列思考で他人と会話する。

 無作法にも思えるが、彼に聞いても『本を読んでいようがいまいが、私の返答内容は同じだが?』とでも返されるのだろう。

「どうして……そう思ったんですか?」

 図星を突かれ、イワモンは無表情のままに問い返す。

 一方でテッサは眼鏡をクイと上げ――

「単純な話だ。今年の魔法少女は自力だけで世界を守ることはできず、女神が出張る事態となった。そして、()()()()()()()()()()()。――女神に懸想するお前が、彼女と直接話せるタイミングを狙ったとしか思えん」

「…………」

 否定はしなかった。

 今年も、世界の危機に抗うために魔法少女が生まれた。

 しかし結果は――どうにもならなかった。

 別に、彼女たちが弱かったわけでも、手を抜いていたわけでもない。

 ただ――世界が救われないという事実だけが残った。

 しかし、それでも世界は滅ばない。

 女神がいるから。

 世界がどうにもならなくなったとき、女神が現れ世界を救う。

 そうして魔法少女の尻拭いをして、彼女は消えてゆく。

 ――だからイワモンは、人間界へと向かった。

 世界を救うために戦っている最中。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 そして――聞いたのだ。

 ――女神という役割から逃れたいとは思わないのか、と。

 その答えは――


「決めたよ。テッサさん」


 イワモンはテッサと対峙した。

「僕は、女神を――マリアを救う」

 マリアは言っていた。

 ――普通の女の子として生きたい、と。

 もう……女神として生きるのには疲れたと。

 ――言ったのだ。


 ――()()()、と。



 女神を人間に堕とす。

 それはいわば世界への叛逆だ。

 この世から恒久的な平和を奪う所業だ。

 当然ながら、知られたのならばすぐさま粛清されるであろう危険思想。

 それでもあえて、イワモンはテッサにそう宣言した。

 そんな一世一代の宣言を前にしてテッサは眉さえ動かさず――


「実現には、優秀な人材がいるな」


「え……?」

 ただ、そんな提案をしてきた。

「まず前提として、計画の実現には女神の顕現が不可欠。それも、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「? ? ?」

「まあ、そのあたりは残党軍を上手く支援すればどうにでもなるか。昔滅ぼしたはずの勢力を確実に壊滅させるためなどと謳えば、ほぼ100%お前は魔法少女の監督役として人間界に行くことができる」

 困惑するイワモンを無視してテッサは喋り続ける。

 彼が落ち着くのを待つなど非効率といわんばかりに。

「お前の計画を実行するうえで重要なのは、管理された世界の危機を作りだすことだ。女神を人間に戻したところで世界が終われば本末転倒なのだからな」


「となれば、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「世界を救う側と、滅ぼす側。両方に所属することで、上手く戦場を調節し……未覚醒の女神が安定して羽化できる環境を整えねばな」


「そして、そうなれば当然だが戦力がいる」


(……戦力)

 テッサが撃ち出すマシンガントークにやっとイワモンの思考が追いついた。

 ――正直、相手の理解を待たずに話す彼の性格は悪癖というべきだろう。

 とはいえ彼の言うことは正しい。

(戦力……)

 そうイワモンが思った時、浮かぶのは三人の少女。

 蒼井悠乃(あおいゆの)

 朱美璃紗(あけみりさ)

 金龍寺薫子(きんりゅうじかおるこ)

 同じ戦場を駆けた――最も信頼する仲間。

 だが――

(駄目だ……あの三人を世界を滅ぼすための戦いになんて――)

 言えるわけがない。

 君たちが頑張って救った世界を、今度は滅ぼしてくれだなんて。

 そうイワモンが俯きかけたとき――


「人材のアテならある」


 テッサはそう言った。

美珠倫世(みたまともよ)。私の知る限り、最も信頼性のある駒だ」

「確か――」

 その人物の名前には覚えがあった。

 美珠倫世。

 それはテッサのパートナーであり――最強の魔法少女。

「人間界での手駒が欲しいのならあいつに会え。私が話をつけてやる」

 彼の言う通り倫世を仲間に加えられるのなら、それはかなりの朗報だ。

 一人で世界を救える魔法少女など彼女くらいしかいないのだから。

「――手伝って……くれるんですか?」

 いまさらな質問をイワモンは口にした。

 先程からテッサが語っているのは計画を実現させるうえで必要な事項だ。

 つまり――彼はイワモンの計画を後押ししている。

「勘違いするな。より効率的な世界の運用のためだ」

 そう言ってテッサは背を向ける。

「上手く女神の能力を解析できれば、女神システムに頼らない世界救済システムの構築もできるかもしれない」


 ――たった一人の小娘に任せられた平和など、私は信頼していない。


「それ……テッサさんが言うんですか?」

 イワモンはわずかに呆れた表情になる。

 たった一人の魔法少女と共に世界を救ったテッサ。

 そんな彼が、たった一人の少女に世界を任せていることが不安要素などと――

 どうしようもなく矛盾している。

「ふん……下らん事を言う奴だ」


「私が、()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 それは己の才覚への自負か。

 それともパートナーへの――――



 テッサが去った部屋。

 イワモンは外を見上げた。

 そこにあるのはクリスタルと融合した塔。

 あの摩天楼には円卓がある。

 そしてそこには――彼女がいる。


「待っていてくれ。マリア」

 

 イワモンはまっすぐに塔を見つめた。

 新たにした決意を胸に。


「僕がいつか――君を迎えに行くから」


 この日――イワモンは世界の敵となった。


 テッサはツンデレ。 

 ちなみに、これからイワモンは魔法少女たちをスカウト→本作開始、といった感じです。


 それでは次回は『魔女たちの宴』です。《正十字騎士団》の日常回となります。

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