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もう一度世界を救うなんて無理っ  作者: 白石有希
7章 もう一度ここから始めよう
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7章 プロローグ あの日、僕は恋をした

 プロローグ前編です。

「イワモンよ。君をこの議会の一員と認めよう」

「――ありがとうございます」

 イワモンは声に向かって頭を下げた。

 彼の前にいる者たちは全員が議会のメンバーだ。

 円卓を囲むその姿は壮観というほかない。

 彼らは魔法界の最高意思決定機関――議会の構成員。

 そしてイワモンは本日より、その一員となる。

 世界を救ったその手腕が認められたのだ。

(ここでなら、僕はもっと多くの人を救えるんだ)

 そうイワモンは期待に胸を膨らませていた。

 彼は、魔法少女たちと共に世界を救った。

 だが、世界の危機はこれで終わりではない。

 これまでも魔法少女が生まれ続けてきたことがその証明だ。

 ゆえにイワモンは思っていた。

 ここで努力を積み重ねれば、悲しむ人々を減らせるのだと。

 思って、いたのだ。

「3人の魔法少女。事件解決まで約9カ月。確かに良いスコアだ」

 円卓にいた魔法生物のうちの一人がそう呟いた。

 眼鏡に白衣という研究者風の姿をした猫だ。

「あなたは――」

「テッサだ。今日中にメンバーの顔と名前は憶えておけ。会議が円滑に進まない」

「テッサ……確か最強の魔法少女と――」

「その会話は必要ない。知りたければデータベースを見れば良いだろう」

 ――迅速に会議を進めるべきだ。

 そう彼――テッサは進言した。

 どうやら彼にはイワモンと友好を深めるつもりはないらしい。

 もっとも、会議を真剣にしようとしているあたり悪い魔法生物ではないのだろう。

 ――少なくとも、円卓の中に混じっている怠惰な連中と比べれば。

 イワモンはその一部へと目を向けた。

 女を侍らせている者。

 寝ている者。

 何が面白いのか――世界の危機について記されているはずの書類を見て笑っている者。

(――僕がしっかりしないと)

 そんな冒涜的な態度を取っている者の多くは年を取った魔法生物――いわゆる古参の者たちだ。

 彼らはきっと、議会という権力に飲み込まれ、世界を救うという熱い思いを捨ててしまったのだろう。

 それがイワモンには嘆かわしくてたまらなかった。

 彼らが真剣に取り組んでいれば、流れない涙があったかもしれないのに。



 イワモンはうんざりしていた。

 その原因が難航する会議のせいであればどれだけ幸せだっただろうか。

 しかし、原因はその真逆――

(なんで、今にも迫る危機を前にしてそんなに贅を貪れるんだ……!)

 会議なんて彼らにとっては集まるための名目でしかなかった。

 円卓には豪奢な食事。

 その周りには過剰なほどの余興。

 それを見て馬鹿笑いする者たち。

 会議資料を見ている者など一人もいない。

 馬鹿のように遊びほうける古参連中。

 そんな彼に取り入ろうと、タイミングを外さぬように大笑いしている新参者。

 ――分かっている。

 ここで古参の機嫌を損ねれば、上手く行くものも上手く行かない。

 あれは()()()なのだ。

 分かっているが――納得がいかない。


「非効率だと思うかね?」


 ふと、そんなイワモンに声をかけるものがいた。

 テッサだ。

「……そう、ですね」

「…………所詮、奴らは慢心しているのだ」

 テッサがそう言うと、ある場所を指さした。

 それは円卓の間より伸びた階段――その先だ。

 そこには大きなクリスタルがあった。

「世界の危機が訪れたのなら魔法少女を作ればいい。たとえ失敗しても、()()()()()()()()()()()()。それを知っているから、議会の連中はすべてを楽観視しているのだよ」

「あれは――」

「女神システム。世界を守るための装置だ」

 イワモンが見たのは少女だった。

 高校生くらいの少女が、クリスタルの中で眠っている。


 ――それこそがイワモンと世良マリアの初邂逅だった。


 ――そして


(ぁぁ……)


 イワモンが――初めて恋をした瞬間だった。


 議会に入ることでイワモンは魔法少女システムのカラクリを知ることになりました。

 それこそが、この物語の始まりです。


 それでは次回は『僕がいつか、君を迎えに行く』です。

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