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もう一度世界を救うなんて無理っ  作者: 白石有希
6章 崩落へのカウントダウン
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6章 エピローグ 人身御供

 女神サイドのエピローグです。

「で、本気で女神になりたいとか思ってるワケ?」

 《正十字騎士団》の本拠地――美珠邸に戻ってきてリリスが最初に発したのはそんな言葉だった。

 無論、その標的は薫子だ。

「ええ」

 薫子はそう小さく微笑んだ。

 女神。

 薫子は《逆十字魔女団》との合流にあたりその説明も受けている。

「女神となれば、あらゆる世界、時間軸から解放され――()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 そう聞いている。

 必要とあれば、過去にも未来にも移動して世界を守る。

 それが女神なのだと。

「これまで、何百では足りない魔法少女たちが世界の危機と戦ってきたわ」

 倫世はそう語る。


「なのに、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」


 至極当然の話だ。

 敵は世界を滅ぼす災厄。

 数人の魔法少女で世界を救うなどという所業が毎回成功するわけがない。

 ――敗北したこともあったはずだ。

「そうやってね、もし今代の魔法少女が負けそうになったり、負けちゃったときが女神の出番なんだよっ」

 マリアは薫子に笑いかける。

「少し助言をしてあげたり、魔法を貸してあげたり――どうしてもって時には、直接敵を倒しちゃうこともあるけど」

 そう明るく話していたはずのマリアの表情に影が差した。

「でもね。あたしが意識を保てるのは戦っている時だけ。世界が滅びかけている時だけ。だって、あたしはその時のためだけに存在しているから」

 女神が世界を守るシステムであるのなら。

 世界の均衡が保たれている時に彼女の出番はない。

 世良マリアには、平和な世界を見る権利が与えられていないのだ。

「いつだって世界を守るために戦って……それなのに、平和な世界を見る前に次の戦場へと向かう。そんな永遠が続いて行くんだよ」

 マリアの目尻の涙が浮かんでいる。

 彼女は何億年も生きているという。

 それが本当なら、彼女が経験した戦場の数は途方もないものだ。


「だからね……ありがとう。薫お姉ちゃん」


 マリアはそう感謝の言葉を口にした。


「薫お姉ちゃんが後継者になってくれたら、あたしはこの世界で生きていける」


「アイスも、えーっと……名前忘れちゃったけど美味しいスパゲティも食べられるよっ」


 明るい笑顔。

 それだけで薫子は微笑んだ。

(きっと――)

 マリアはきっとこれまでずっと戦ってきた。

 薫子たちがいるこの世界は、彼女を犠牲にして回ってきた。

 だから、薫子の番が回ってきたのだ。

 救いの掌に、マリアが乗る順番が回ってきた。

(きっと、わたくしの人生は――彼女を助けることで意味を成す)

 世界を一人で守ってきた少女に平和な日常を。

 これまでのねぎらいを込めて。

 それこそが、薫子の生きてきた意味となる。

 終わらない時間を。

 そのすべてを世界の救済へと費やす。

 そうすることで、金龍寺薫子という人間が存在した意味が生まれる。


 薫子自身が――自分の価値を認めてあげられる。


「死ねないのは……怖い」

 ふと雲母はそんな声を漏らす。

 死にたがりの彼女にとって、永遠の戦いとは終わらない拷問だ。

雲母にとっては想像するのも恐ろしい未来なのだろう。

「寧々子さんは……?」

「………………………………にゃ?」

 雲母に話題を投げかけられるも寧々子の反応は鈍い。

 数秒経ってから事態を理解したのか、わずかに彼女は慌てた様子を見せる。

「アタシも……永遠はちょっと怖いにゃん。だから――」

 何か言いかけて寧々子は口を縫い止めた。

 そして、笑顔を作ると。

「だから、世界のためにすべてを捧げようだなんて言える薫子ちゃんは凄いと思うにゃんっ。にゃはは……」

 寧々子は頭を掻いて照れ笑いを見せた。

「ふーん」

 一方で、自分から話題を出したわりにリリスは興味なさげだった。

 彼女はつまらなそうな表情で歩いている。

「そういえば、女神になるためには儀式のようなものがあるんですか?」

 薫子はそうマリアに尋ねた。

 女神を継ぐとは言ったが、具体的な方法を知らないのだ。

「儀式っていうほど特別なものはないかなぁ」

 マリアはそう答える。

「今のあたしって、権能が一割しか回復していないから、まだ薫お姉ちゃんに力を渡せないんだよね」

 世良マリアは覚醒してから半刻ほどしか経っていない。

 故に彼女の体は万全には程遠く、女神としての権能の大半を失っているのだ。

「それでは、いつ頃に?」

「三割くらいの権能は必要だろうから……一カ月くらいかな?」

「一カ月……ちょうど新年を迎える頃ですね」

 薫子は気付くと少し笑っていた。

 つくづく縁があると思う。

 確か、五年前の戦いも新年を迎えてから少し経った頃だった。

 今度の戦いもまた、同じ時期になるというのだから面白い。

「それに、女神の力を譲渡し終える前に魔王ラフガを殺す必要があるな」

 そう口にしたのはイワモンだ。

「女神となっても、覚醒直後では薫子もそれほど飛躍的に強くはなれない。現実問題として、魔王ラフガはマリアでなければ殺せないだろう」

 女神という大きすぎる力だ。

 与えられてすぐに使いこなせるものではないのだろう。

 だからこそ、魔王ラフガを倒すには女神マリアでなければらない。

 そうイワモンは言っているのだ。

「例えマリアを女神から人間に戻せても、世界が滅びては意味がない。どこかで魔王ラフガと決着をつける必要はあるだろう」

 自然と話題は、これからの戦いへと向かっていく。

 女神の権能を譲渡するタイミング。

 そして、魔王ラフガとの決着をつける機会。

 それらを突き詰めてゆく。

 女神と魔王。

 これから行われるのは――戦争なのだ。

 きっと多くの人が傷つくだろう。

 しかし、薫子は選び取った。

 

 世界の救世主として――世界の礎となる道を。




「ごめんね薫子ちゃん。本当はアタシ――――」


 寧々子の声は、誰にも届かなかった。


 決戦は1月。

 7章『もう一度ここから始めよう』、そして8章を経て9章で完結予定です。


 次回は『黄泉戸喫よもつへぐい』となります。

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