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もう一度世界を救うなんて無理っ  作者: 白石有希
6章 崩落へのカウントダウン
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6章 33話 幻想の終わり

 作中最強格な前日譚の中ボスです。

「《氷天華・凍(アブソリュートゼロ・)結世界(レクイエム)》ッッッ!」

 時が、止まる。

 悠乃が止めることのできる時間は2秒。


(再び時間が動くときには――)


(レクイエムは終わっている……!)


 悠乃は氷翼を生やし、ラフガへと肉薄する。

 彼の手中で氷剣が閃く。

 蒼い魔力が研ぎ澄まされてゆく。


「――――《大紅蓮二輪目》」


 一撃で決める。

 いくら魔法を消す両手も、時間を止められてしまえば無力。

 そのまま――殺す。

 5年前と同じようにして――この戦いは、悠乃が魔王を殺して終わる。


「《紅蓮葬送――――》」


「――()()()()()()()()()()?」


 しかし、そんな幻想は容易く終わる。

 ――ラフガの声で。

(なんで……)

 悠乃は瞠目した。

 脳がフル回転して、意識が体を置き去りにしてゆく。

 だが世界はもっと遅く――止まっている。

 そのはずなのに――

(なんで……()()()()()()()()……!?)

 魔王ラフガの視線が悠乃を射抜く。

 彼の瞳には――意志が宿っている。

 勘違いではない。

 時間が止まった世界の中――ラフガは意識を保っている。


「――我は最速の《怪画(カリカチュア)》」


 ラフガが拳を握る。

 嗚呼。

 腹立たしいほどに自分の動きが緩慢だ。

 泥の中に沈んでいるかのような感覚が苛立たしい。


「お前にできて、()()()()()()()()()()()()()()


 一方で、ラフガはスムーズに動いている。

 彼は身をひねり、体重を乗せた拳を放つ。

 弧を描く拳撃。

 それはカウンター気味に悠乃の側頭部へと突き刺さる。

 吐き気のするような音が頭で響く。

 頭蓋骨の割れる音。

 脳が潰される音だ。


「ぁ……」


 時間が動き始める。

 だが悠乃は――動かない。

 彼女は脱力したまま地面に落ちる。

「ぁ……ぁ……」

 悠乃の口から意味のない声が漏れる。

 意志に反して体が痙攣しており、様々なものを垂れ流している。

(やば…………)

 嫌でも理解してしまう。

 今のダメージは――致命傷だったと。

 頭を砕かれ、脳にも甚大なダメージ。

 即死していないだけでも運が良いほどの負傷だ。

「悠乃!」

「悠乃君!」

 璃紗と薫子の声が聞こえる。

 だが脳機能が破損しているのかその内容までは理解できない。

 ただ、きっと心配をかけているのだろうと考えていた。

(これ……死んじゃうかも)

 今は戦闘中だ。

 すぐに治療を受けられる状態ではない。

 しかし、いくら魔法少女の体が丈夫でもこれは死につながる傷だ。


 悠乃の意識は、そのまま霞んでいった。



「てめーッ!」

「鈍い」

 ラフガの蹴りが璃紗の顔面を打ち抜いた。

 だが璃紗は身じろぎもしない。

 身じろぎする余裕もなく、首から上が引っこ抜かれた。

 璃紗の頭蓋がサッカーボールのように飛んでゆく。

 噴水のように飛び散る血飛沫。

 すでに再生は始まっているが、璃紗は意識を失っている。

「ニャぁぁッ!」

 ラフガの背後にいるのは――寧々子だ。

 黒い毛を纏う化け猫は爪撃を振り下ろす。

 だが、もうそこにラフガはいない。

「時間を――」

 寧々子が気付いたときには、ラフガの攻撃は終わっている。

「にゃ……?」

 寧々子が呆けた声を漏らす。

 彼女はゆっくりと視線を落とし、空笑いをする。

 地面にこぼれた臓物を見て、理解したのだろう。

 自分の腹に大穴が開いていることに。

 寧々子はその場で膝を突き、顔面から倒れた。


「確か、お前がこいつらを強化しているのだったな」


 ラフガが消える。

 次の瞬間、彼はリリスの背後に現れた。

「……?」

 彼女の両脚が地面を転がる。

 たった一瞬の交錯。

 それだけでラフガはリリスの両足を捥いだのだ。

 そこへとさらにラフガが拳で追撃を放つ。

 背中を叩き打たれ、リリスは意識を飛ばした。

 ――この場にいる者たちにかかっていた強化が失われる。


「《表裏転滅の(フェイトロット)――》」


「くだらん」

 ラフガの背後を狙う雲母。

 しかし、それさえも彼は容易く畳みかける。

 ラフガの右手が雲母の首を掴む。

「ぁ……!」

 首を絞められ、雲母の表情が苦悶に歪む。

 もがく雲母。

 だがラフガの膂力になす術はない。

 そのまま彼女は衰弱し、失神する。

 ラフガは紙屑のように雲母を放り捨てた。

「《女神の涙・叛(アメイジングブレス・)逆の魔典(リベリオン)》」

 ラフガが放った回し蹴りが空振る。

 隔絶された世界に、薫子はいた。

 しかし彼女の表情に余裕などない。

 切迫した表情で、今にも泣き出しそうにラフガへと飛びかかっていた。

 だが普段の冷静さを失った彼女がまともに太刀打ちできるわけもなく。

「邪魔だ」

 ラフガの肘が薫子の脳天を打ち据える。

 そのまま薫子は地面に叩きつけられた。

 ラフガがトドメを刺そうと足を上げた時――


「――させないわ」


 ついに倫世は動いた。

 彼女が手にしているのは――ガトリング砲だ。

 倫世は余力をすべて注ぎ込み、広範囲に魔弾をバラまいた。

 すさまじい濃度の弾幕。

 100を越える魔弾。

 それをラフガは――()()()()()()()()

 一つずつ、丁寧に。

「な……!」

(レベルが……違いすぎるわ……)

 薙ぎ払ったのならまだ分かる。

 だが――掴んだ。

 あの数の魔弾を、着弾までの間に掴んだのだ。

 スピードレンジが違いすぎる。

 倫世が一度攻撃するたび、ラフガは何十回も攻撃できてしまう。

 しかもその一撃は、倫世より何倍も重い。

 勝ち目など、あるわけがない。


(私たちが目覚めさせたのは――とんでもない化物だったみたいね)


 あれは魔王などではない。

 

 ――魔神だ。


「ぁぐッ」

 ラフガの腕が倫世を襲う。

 彼の手は容赦なく彼女の首を掴んだ。

 倫世の体が容易く宙に持ち上げられる。

 すると、倫世が纏う鎧が――砕けた。

 衝撃を加えられていないにも関わらず、だ。

 それが示すのは――

(変身が――)

 ()()()()()()()

 ラフガの両腕が魔力を分解するのなら、その行き着く先は当然といえるのかもしれない。

(彼の前では、魔法少女は無力)

 軽く触れれば魔法を、触れ続ければ変身をも解除する。

 元をただせば人間でしかない魔法少女にとっては天敵といって良い。

 魔法少女では――魔王ラフガを殺せない。

 そう確信した。

 ――しかし、倫世は微笑む。

 ただの一人も味方がいない状況で。

 避けられない死の気配が蔓延している戦場。

 それでも倫世は――微笑んでいた。


「もう終わりね」


「魔王が……魔神が復活した」


「かつて世界を救った魔法少女が7人集まっても、勝てなかった」


「もう、()()()()()()()


「だから――――」


 倫世は微笑む。

 倫世は――祈りを捧げる。


「――――――――救済(たす)けて。()()()


 ラフガの名前の由来は『裸婦画』です。

 RPGのラスボス感ある銀髪イケメンにあるまじき由来……。

 ラフガのチート一覧――魔法無効、強制変身解除、超スピード、超パワー、時間停止。


 それでは次回は『はじまり』です。

 これまで積み重ねてきた火種が燃え上がり、最後がはじまります。

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