6章 31話 共鳴のMariage2
ラストバトルは続きます。
「……どうしよう」
悠乃は目の前の戦いをただ見つめていた。
彼女の前では激戦が繰り広げられている。
《逆十字魔女団》と先代魔王との戦いが。
4対1でありながら、ラフガが押されている様子はない。
彼は冷静かつ的確に対応している。
(あの4人が《花嫁戦形》しても倒せないの……?)
彼女たちの強さは悠乃が一番分かっている。
だからこそ、ラフガを押しきれていない事実に驚かされる。
「薫姉。僕たちも戦うべきかな……?」
悠乃は薫子に問いかける。
すでに悠乃の腰は治療されている。
だから戦うだけの力は戻っている。
意志次第では《逆十字魔女団》に協力することも可能だ。
「確かに、ここは《逆十字魔女団》に協力する手もありますね」
薫子はそう言った。
現状、悠乃たちだけではラフガを倒せない。
しかし、《逆十字魔女団》と協力する形でならラフガを倒すこともできるかもしれない。
「今、一番ヤベー奴は魔王ラフガだからな。そーしたほうが良いかもな」
悠乃たちの意見に璃紗も同意する。
「考えようによっては、千載一遇のチャンスだ」
悠乃は目の前の戦場を見据えた。
戦いは拮抗している――ように見える。
まだ誰も有効打と呼べる一撃を食らってはいない。
であれば、悠乃たちの参戦がこの均衡を崩すキッカケとなるかもしれない。
(――約束、したんだ)
悠乃は思い出す。
ピンク色の髪をした、姉想いの少女の姿を。
彼女と、悠乃は約束をした。
先代魔王の復活を止める、と。
その約束は果たせなかった。
それなら。
だからこそ、悠乃は動かなければならない。
「――行こう」
「おう」「はい」
(ここで、僕たちはもう一度世界を救う)
魔王ラフガを倒し、世界の崩壊を防ぐ。
そう決意した。
悠乃たちは歩き出す。
宿命の敵を討ち果たすために。
「「「――――――Mariage」」」
「《氷天華・凍結世界》」
「《既死回帰の大鎌》」
「《女神の涙・叛逆の魔典》」
☆
「――アイツらッ……! どこまで不敬を重ねれば――!」
キリエが歯ぎしりをする。
彼女の視線の先にいるのは蒼井悠乃たち。
悠乃たちが花嫁衣装を纏う瞬間を目にした彼女は怒りの形相を浮かべる。
そして、そのまま悠乃たちへと飛びかかろうとするが――
「――信じていないのね」
「…………は?」
ギャラリーがふと口にした言葉。
それがキリエを引き留めた。
それを確認すると、ギャラリーは澄ました表情で言葉を続ける。
「だって、そうでしょう? キリエは、魔王様がたった7人の魔法少女ごときに不覚を取ると思っている。だから――加勢に行くんでしょう?」
キリエの口元が引き攣る。
動揺ではない。怒りだ。
ギャラリーはよりにもよって、キリエが魔王ラフガの実力を疑っているのではないかと言ったのだ。
先代魔王を敬愛するキリエが許容できる暴言ではない。
「ふざけンじゃねぇぞ。半端物がさァ……!」
(半端物……ね)
ギャラリーは内心で自嘲する。
キリエが言った言葉が妙にしっくりきたからだ。
5年前、その未熟さゆえに姉を守れなかった。
今も、彼女の不安を取り除けるだけの力はない。
そしてこの瞬間も、ギャラリーはどの陣営に身を置くべきか決めかねている。
体から乖離した心は、どの陣営にも属することができずに漂っている。
こんな宙ぶらりんな自分は、確かに半端物だろう。
もっとも、キリエにそんな意図があったのかは分からないが。
「まあ、行きたければ行けばいいんじゃないかしら? 万が一のことがあると困るでしょう?」
「チッ」
キリエは盛大な舌打ちをする。
一方で、不機嫌そうな表情をしながらも跳び出してゆくことはない。
「加勢なんて……しないさ。アタシが、お父様を疑うわけがない」
――あの人は、絶対に負けない。
そう言うと、キリエは黙ったまま戦場を睨みつけた。
(これで……キリエが参戦するのは避けられたわね)
ギャラリーは内心で安堵の息を漏らす。
キリエを戦いに赴かせないための挑発だったが、有効だったようで助かった。
あのまま彼女が戦場に向かっていれば、戦いの均衡は崩れていたことだろう。
(トロンプルイユも……動かないわね)
ギャラリーはちらりと隣にいる男を盗み見た。
飄々とした男。
残党軍の情報収集役もこなしているらしく、多くの情報を手にしている男だ。
真っ先に《逆十字魔女団》の存在を察知したのも彼だった。
そして、封印石について突き止めたのも。
ある意味でキリエ以上に警戒すべき人物だ。
そんな彼もまた動かない。
ただ、空虚な瞳で戦場を俯瞰していた。
いつもの飄々とした様子もない。
ただの無表情だ。
(アイツも、魔王の存在に思うところがあるのかしら)
彼は、先代魔王と会うのは初めてだ。
これまでは伝聞でしか知らなかった相手との対面。
それが魔王ラフガともなれば受ける衝撃は相当なものだろう。
彼にも思うところがあったのかもしれない。
(ともかく、《前衛将軍》が増援に行く事態だけは避けられたわ)
ギャラリーは悠乃へと目を向けた。
純白にして潔白の花嫁衣裳を纏う彼女を。
(アタシにできるのは……ここまで)
これ以上肩入れすれば、残党軍にはいられない。
確かに、このまま悠乃たちと協力する方法もあるだろう。
案外、ギャラリーの存在は受け入れられるかもしれない。
少なくとも、魔王グリザイユなら――エレナなら邪険にはしない。
――だが、それはギャラリーの望むところではない。
また、エレナに庇護されるだけの存在となりたくはない。
ギャラリーがなりたいのは――家族を守れる自分なのだ。
そのためには、まだ家族のもとには帰れない。
(お願い。蒼井悠乃――)
(――――ここで、魔王ラフガを殺して)
悠乃たちを含めた7人の魔法少女VS魔王ラフガの戦いとなります。
それでは次回は『共鳴のMariage3』です。




