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もう一度世界を救うなんて無理っ  作者: 白石有希
6章 崩落へのカウントダウン
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6章 30話 共鳴のMariage

 《逆十字魔女団》VSラフガの始まりです。

「…………ほう」

 倫世の宣言を耳にして、ラフガはそう漏らした。

 彼の表情から感情は読めない。

「――どうやら、封印されていた間に面白い冗談の種類が変わったらしいな」

 涼しい顔でラフガはそう言った。

 一方で、倫世の笑みは深まった。

 そして彼女は大剣をラフガへと向ける。

 それに伴って、彼女の背後にいる《逆十字魔女団》の面々も魔力を練り上げた。

「面白い冗談、ね……」


「残念だけれど」


「貴方が見るのは、面白くない現実よ」


 倫世は一歩も引かない。

 ラフガという王者を前にしても臆することはない。

 そして――解放する。


「「「「――――――Mariage」」」」


 《逆十字魔女団》の魔力が跳ね上がる。

「――――《貴族の(ノーブルアリア・)決闘(グローリア)》」

 倫世はウエディングドレスを彷彿とする桜色の鎧を纏う。

 魔法少女として最終形態である花嫁衣裳。

 相棒が自分のためだけに作った衣装。

 この二つを纏うということは、彼女は最強であり続けなければならないということだ。

「《暴虐の侵(サイレント・)蝕病魔(テンペスト)》ォォ」

 リリスなねっとりと自らの能力を謳う。

 彼女の頭上に黒い心臓が現れる。

 激しく脈動する心臓が――破裂した。

 血飛沫を思わせる赤黒い絵の具は彼女に降りかかり、返り血のように付着する。

 触手が編み込まれた黒いウエディングドレスを身に纏いリリスは嗤う。

「《表裏転(フェイトロット・)滅の(タロット)占星術(・マッドプロット)》」

 白い花嫁衣装を纏う雲母。

 彼女の頭へと白いベールがかかる。

 それも肩まで垂れるようなベールではない。

 地面に擦れそうなほどに丈が長いシースルーの布地。

 それは占い師のようでいて――

 ――外界との接触を恐れる少女の拒絶だ。

「《黒猫は死人(キャッツアイ)の影踏まず(・デスサイト)》」

 寧々子の体から黒い毛が生える。

 毛は手足を覆い、長い尾が伸びた。

 化け猫を思わせる姿に近づく寧々子。

 彼女が纏うのは純白にして潔白の白無垢だ。


「行くわよ魔王ラフガ」

 倫世は大剣を構える。

 大剣へと魔力が収束してゆく。

 膨大な魔力により微振動を始める剣。

 臨界点に到達した魔力を倫世は振るう。


「――――《救済の乙女の剣(ラ・ピュセル)》」


 救済の剣が、最悪の災厄へと振り抜かれた。



「……なるほど」

 ラフガはそう呟いた。

「確かに、我の言ったことは間違っていた。そして、お前が正しい」


「どうやら、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 なんでもない雑談。

 それが相手に脅威を感じさせることはないだろう。

「……そんな」

 ――最高火力で放たれた《救済の乙女の剣》を()()()()()()()()()()()()()()()

「アー。結構、ヤバイ感じの相手なワケ?」

 リリスは頭を掻く。

 今のやり取りで察したのだろう。

 ラフガの強大さを。

「――リリス。お願い」

「分かっテル」

 倫世の要請を受け、リリスは頷く。

 すると彼女のドレスの下から触手が伸びた。

 触手は鎌首をもたげ先端を異常に膨張させた。

 破裂する触手。

 同時に、ウイルスが拡散する。

「《傲慢の災厄》」

 リリスの一声でウイルスは活性化。

 そして――倫世たちの魔力が増大した。

 体が軽い。

 気分が高揚し、万能感が体の内から湧いてくる。

 《傲慢の災厄》。

 それはリリスが選んだ者のみを強化するウイルス。

 勝者を選別する傲慢な能力。

 7つの災厄を操る魔法。

 それが彼女の《花嫁戦形》の力だ。

 ――もっとも、今の魔法は彼女の魔法の本質とは程遠いが。

「力が湧いてくるにゃん」

 寧々子は快活に笑う。

 そして――


「――《化猫憑依(けびょうひょうい)》」


 彼女が持つ最高戦力を解放した。

 寧々子が着ていた白無垢が弾け飛ぶ。

 露出する雪のように白い肌。

 体毛によって局部が隠されただけの姿。

 それはまさに――化け猫だ。

「行くにゃん」

 寧々子は軽快に跳ぶ。

 彼女は空中で縦回転をしながらラフガとの距離を詰める。

余興(サーカス)か?」

 ラフガは嘆息すると、左手を引いて構える。

 どうやら利き手を使う気さえないらしい。

 彼は適当な動作で左拳を打ち出した。

 しかし――

「……!」

 寧々子がラフガの拳に踵落としを放った。

 下へとパンチの軌道がズレ、攻撃は外れる。

 一方で、寧々子は蹴りの反応で跳びあがる。

 そして回転速度は増してゆき――

「うにゃぁッ!」

 寧々子の踵がラフガの脳天を打ち抜いた。

 彼は衝撃で体勢を崩し、頭を下げた。

「……この程度か」

 しかしラフガの声にダメージは感じられない。

 脳を揺さぶるであろう衝撃もラフガには届かない。


「だが、王を踏むなどあってはならんな」


 ラフガが左拳を握り――打ち上げた。

 強烈なアッパーカットが寧々子を襲う。

 寧々子はそれを間一髪で回避した。

 彼女の能力は未来予知。

 おそらく今の一撃も、前もって知っていたのだろう。

 そうでもなければ躱せるはずのない速度とキレだった。

「びっくりにゃん」

 寧々子はよろめきながらも着地する。

 そのわずかな隙。

 それを突かんとラフガは動く。

「にゃッ……!?」

 瞬間移動と見まがうほどのスピードでラフガが動く。

 走ろうとした瞬間も、動いた経路も見えなかった。

 ただ彼はそこにいて、同じ姿勢のまま違う場所に現れた。

「死ね」

 ラフガは寧々子の顔面に向かって拳を振るう。

 体勢的に躱せない絶望的な状況。

 少しでも衝撃を緩和するためか寧々子は首ごと顔を背ける。

 ラフガの拳が寧々子の顔面を打ち砕く直前――

「あら」

 倫世が割って入る。

 彼女が大剣を振り下ろした時、ラフガは拳を止めた。

 王としての本能だろうか。

 とはいえ、それがなければ今ごろはラフガの手首が地面に転がることとなっていただろう。

「ああ、本当につまらない冗談だ」

 ラフガはそう独り言を漏らした。

 そして彼は、倫世の大剣に触れる。

「な……!」

 大剣の刃を片手で掴む。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()

 まるで砂団子でも握り潰すかのように、容易く大剣を握り砕く。

 驚愕する倫世に、ラフガは語る。


「我の能力は《基準点(オリジン)》」


「我の両腕は、()()()()()()()()()()()()


 ラフガが語るのは己の強さの源だ。

 強靭な肉体。

 そして、魔法をすべて無力化する能力。


 魔法で彼を倒すことはできない。

 だが、魔法なしで彼と戦うことはできない。


「始まりの世界を――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 他を寄せ付けない身体能力。

 そして、魔法をすべて消し去る両腕。

 組み合わせるには、あまりに理不尽な力だった。


 ちょっとした能力解説。

《暴虐の侵蝕病魔》

 傲慢という言葉からも分かる通り、7つの大罪になぞらえた7つのウイルスを使用する。

 ちなみに『傲慢』は、リリスが現役だった頃の魔法――他者の強化の正統進化といえる。

 もしも4章で彼女が使おうとしたMariageがこれであったなら、「そのMariageは危険すぎる」などと強キャラ感を出して制止した倫世はすさまじく恥ずかしい思いをすることとなっただろう。

 傲慢という割に一番謙虚なウイルス。


《基準点》

 敵の能力を無効化。ちなみに直接触れなければいいので、手袋や籠手を身に着けることで魔力製の武器を握ることもできる。

 魔法の無効化。その性質故、バトルものにあるまじきすさまじいズルができる能力(ラフガの由来となった効果)。

 このような能力の持ち主は、基本的に肉体が弱いと決まっているのだが彼は作中最強のフィジカルを持つため、魔法を無効化して筋力でボコボコにするという凶悪コンボが成り立つ。


 雲母のMariageは数話先で見せることになると思います。


 それでは次回は『共鳴のMariage2』です。


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