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もう一度世界を救うなんて無理っ  作者: 白石有希
6章 崩落へのカウントダウン
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6章 29話 王の帰還

 ラフガもエレナも灰髪。

 ラフガはヴィジュアル系、キリエはロック。

 血は継がれています。

「――久しいな」

 男は――ラフガ・カリカチュアはそう口にした。

 彼は凪いだ瞳で世界を見回す。

 この場で動いているのは彼だけだった。

 なんらかの力が作用しているのではない。

 存在感だ。

 彼の圧倒的な――生物としての次元が違う在り方が、周囲の者たちを押さえ込んでいるのだ。

 この場にいる誰も、構えることさえできない。


「おいおい。マジかよ……」


 悠乃の後ろからそんな声が聞こえる。

 そこには璃紗が立っていた。

 服は破れ、血がついている。

 激戦の跡は残っているが、無事のようだ。

「どーすんだよ……これ」

 彼女は嫌そうに表情を曇らせていた。

 璃紗もまた先代魔王の脅威を知っている。

 だからこそ事態の重大さを理解できてしまうのだ。

「最悪、だね」

 悠乃は眉を寄せる。

 5年前の戦い。

 先代魔王に勝利できたのは、奇跡に奇跡を重ねた結果だ。

 あれを再現することは不可能に近い。

 しかも、今回の敵は彼だけではない。

 まさに人類壊滅の危機だ。


「…………お父様」


 そんな中、最初に動き始めたのはキリエだった。

 彼女は茫然とした表情で、一筋の涙を流す。

 その姿は恐ろしい化物ではなく――父との再会を果たした娘だった。

 先代魔王は人間にとって絶望の象徴だ。

 先代魔王派《怪画(カリカチュア)》にとって支配と恐怖の象徴だ。

 しかしキリエにとっては――家族以外の何者でもない。

「――キリエか」

「……はい。お父様」

 二人の視線が交わる。

 そしてラフガは彼女から視線を外すと――


「――()()()()()()()()()()()?」


「ッ……!」

 そう言った。

 その言葉を聞いたときのキリエの表情。

 あの――大きな喜びの裏で絶望と諦めがちらついたような表情が脳に焼き付いてしまい、悠乃の頭から離れない。

 キリエにとってエレナは――魔王グリザイユは嫉妬と憎悪の対象だ。

 そんな彼女にはあまりに辛いことだっただろう。

 大切に想う父の一言目が、自分に向けられたものではなくエレナに向けられたものであったことは。

 父が、目の前にいる自分ではなく、この場にいない妹を見ていたことは。

「…………」

 キリエはただ黙って俯いている。

 しかしそれは数秒の事。

 すぐに彼女は顔を上げ、笑った。

 悠乃が見たことのないような朗らかで、そして痛々しい笑顔を浮かべた。

「グリザイユは……もういません」

 あえてエレナの生死には言及しないキリエ。

 その意図は彼女にしか分からない。

 分かることがあるとすれば、ラフガはそれを『グリザイユは戦死した』と解釈したということくらいか。

「奴も運命には勝てなかったか」

 意外にもラフガの声音に責めるような色はない。

 むしろ想定したかのようにも聞こえる。

「あの精神性ならあるいはと思ったが、やはり運命と結ばれた『約束』を破るには至らなかったか」

 そうラフガは語る。

(約束……?)

 悠乃は彼の言葉に疑問を覚える。

 先程からラフガは運命という言葉を多用する。

 それも、まるで運命には直接的な力が存在しているかのような言い方だ。

(そういえば、マリアもよく言ってたっけ)

 運命に導かれた、と。

 もしかすると――本当に運命はあるのだろうか?

 ラフガの言い分に乗るのなら、世界の上で結ばれた運命というものが。


「……魔王、様」


 悠乃がそんなことを考えていると、その場に新たな少女が現れた。

 ギャラリーだ。

 彼女は空間のゲートを通し、この場に移動してきた。

「ほう……あの面白い能力を持っていた娘か。どうやら、やっとものになったらしいな」

「…………はい」

 どこか覇気のないギャラリーの声。

 悠乃の目から見て、彼女は完全に委縮していた。

 仕方がないことだろう。

 実力を身につけたからこそ、5年前には理解できなかった先代魔王との隔絶された力量差を悟ってしまったのだから。

 ギャラリーの目標は魔王となり、エレナを迎えに行くこと。

 だが、それを成し遂げるための障害としてあまりにラフガが強大すぎることを知ってしまったのだ。

 それゆえにギャラリーからは反抗心や負けん気が削ぎ落されていた。

「そういえば、お前は見ない顔だな」

 ラフガの視線が玲央へと向かう。

 加賀玲央は5年前の戦いが終わってからスカウトされた《怪画》。

 ラフガとの面識はないのだ。

「……あ、ああ……いや……はい。オレはトロンプルイユ……です」

 妙に歯切れの悪い玲央。

 返事までの間といい、心ここにあらずといった様子に思える。


「これで第一段階はクリアね」


 そんな声が響いた。

 そう発言したのは――倫世だ。

 彼女はラフガを前にしてなお涼しい微笑みを浮かべている。

 彼女にとっては先代魔王の復活さえ織り込み済みとでもいうのだろうか。

 ただ彼女は大剣を手に、ラフガと対峙していた。

「ほう」

 一方でラフガは興味深げに倫世を見ている。

「見覚えのない魔法少女だな」

「でしょうね。だけど、貴方の知らないところで世界を救ってきた魔法少女よ」

 ラフガは息を吐いた。

 そして憂うように曇天を見上げた。


「運命の奴隷。神の小間使い。あるいは、世界の調律者」


 よく分からない言葉の羅列。

 しかしそれは、倫世にとって意味のあるものだったらしく――


「……貴方は知っているのね。魔法少女のこと」

 

 倫世のつぶやきの意味も……悠乃には分からない。

「まあ……どちらでも良いことね」

 倫世は会話を打ち切る。

 直後、彼女のもとへと三つの魔力が降り立った。

 ゴスロリ服を着た人形のような少女。

 地肌にエプロンを身に着けた異常性の際立つ女。

 化け猫を思わせる風貌の女性。

 そんな三人だ。

 現れたのは星宮雲母、天美リリス、三毛寧々子。

 皆――特に雲母とリリスの二人はボロボロだが、何事もないかのように悠然と立っている。

 この場に《逆十字魔女団》のメンバーが勢ぞろいした。

「これで作戦は第二段階よ」

 そう倫世は宣言する。

 

「――私たち《逆十字魔女団》の総力を以って、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 ――今、《逆十字魔女団》とラフガ・カリカチュアの総力戦が幕を開ける。


 次回は『共鳴のMariage』です。

 《逆十字魔女団》VSラフガ・カリカチュアとなります。

 第2部のラストバトル。その結末はいかに――

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