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もう一度世界を救うなんて無理っ  作者: 白石有希
6章 崩落へのカウントダウン
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6章 28話 覚醒後・絶望前

 ついにラスボス候補が……。

「無事で良かったわ。……ねぇ? 団長」

 そう倫世は微笑んだ。

 

「……団長?」


 悠乃は彼女の言葉を反芻した。

 団長。

 それではまるで――


「ええ。彼女は、《逆十字魔女団》の団長よ」


 ――世良マリアが《逆十字魔女団》のリーダーのようではないか。

 悠乃の時間が止まる。

 世界に思考が追いつけない。

「…………」

 悠乃はマリアへと視線を向ける。

 彼女はどこか呆けたような表情で佇んでいた。

 色即是空の面持ちで。

 何を見ているか分からない瞳には――幾何学模様が浮かんでいた。

「…………んー?」

 マリアの表情が色を取り戻す。

 彼女は顎に指を当てて思案する。

 しかし彼女は事の重大さを理解していないように思える。

 そんな彼女の姿に、倫世は苦笑した。

「……まだ記憶がちゃんと戻っていないようね」

「んー。確かにまだ完全には思い出せないかなぁ」

 マリアはそう答えた。

 これまでとは明らかに違う人格。

 それでいて穴開きの記憶。

 いうなれば半覚醒の状態だ。


「なら――こうすれば目が覚めるんじゃないか?」


 最初に動いたのは玲央だった。

 彼は幻影で身を隠し、マリアの背後から襲いかかった。

 閃く剣撃。

 マリアは間一髪で躱すも、彼女の頬に一筋の線が引かれた。

「いきなり後ろから襲って来るだなんてエッチだなぁ」

「わりぃな、オレが心に決めた女はもういるんだ」

「へー」

 興味なさげなマリア。

 彼女はゆらりと体を揺らしながら歩く。


「今が一歩目」


「一歩目で一生を越え――」


「二歩目で無二の存在へと至り――」


「三歩目で三千世界の神となる」


 そうマリアが謳いあげる。

 直後だった。

 彼女の足元に曼荼羅が現れたのは。

 幾何学模様の陣が光り輝く。

 照らし上げられたマリアの姿は美しい。

 儚げで――なにより超越的だった。

 まるでその姿は――


 ――神のようだ。


「あ……」

 しかし陣が光を失ってゆく。

 同時にマリアはふらつき地面に座り込んだ。

「まだ権能が足りてないなぁ」

 そうぼやくマリア。

 だが次の瞬間、彼女の表情が苦悶に歪む。

「ぃ……ぐぅ……」

 マリアは胸を押さえて唸る。

 彼女は少しでも息を吸おうと体を反らし、口を開いた。

 そこからの異変は唐突だった。

 ()()()()()()――()()()()()()()()()()()

「あれは……」

 悠乃はあのクリスタルに見覚えがあった。

 ――魔法少女の力を得るために渡される結晶だ。

 多少雰囲気は違うものの、悠乃が体に取り込んだものと酷似している。


「やっぱりお前だったか。()()()()()()()()()()()()()()()()


「え…………?」

 玲央の言葉に悠乃は驚きの声を漏らした。

 先代魔王の封印体。

 その言葉には聞き覚えがある。

(確かに、あのクリスタルに宿っている魔力は先代魔王の――)

 結晶という形に押し込まれているため気がつかなかったが、あのクリスタルが纏う魔力は確かに先代魔王のものだった。

 だとしたら――

(5年前の戦いで聞こえた声は――)

 ――世良マリアだったのか。

 正直にいえば、断定はできない。

 どこかノイズがかった声だったし、何より命のかかった緊急事態だ。

 そんな余裕があるわけもない。

 しかし状況証拠は、あの声の正体が世良マリアだったのだと語っている。

「つーわけで、それはもらうぜ?」

 そう玲央が言った時には、すでに彼はクリスタルを手中にしていた。

 彼は幻影を駆使して誰にも邪魔されることなく結晶を掠め取ったのだ。

 もっとも、マリアの近くにいた倫世も本気で止めようとしているようには思えなかったのだが。

 むしろ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「近くで見るとすごいな」

 クリスタルを眺め、玲央は感心したような声を上げた。

「正直、封印を解ける気がしねぇ」

 彼の言葉は謙遜などではない。

 それほどに高度な封印術だった。

 封印対象ごと破壊するつもりで攻撃しても、破ることは叶わないであろう強固な封印。

 それだけで解除を諦めそうになる代物だ。

「でも、オレたちには関係ねぇか」

 それは傲慢ではない。

 彼らには、どんな強固な封印でも破る術がある。


 より正確にいえば――()()()()()()()()()


「ほらよ。父親は自分で救いてぇだろ?」

「うん。そうだね」

 玲央はクリスタルを空中に放り投げた。

 その先には――キリエがいる。

「褒めてあげるよ。優秀な部下を見出したアタシの目をさ」

 キリエは鉤爪を振りかぶり――結晶を斬り裂いた。

 彼女の能力は絶対切断。

 どんな強固な封印であろうと――あらゆるものを切断するという概念で押し通る。

「……ったく、普通オレを褒めるとこだろ」

 玲央は肩をすくめた。

 結晶は――砕かれる。


「これは――!」

 直後、暴風が吹き荒れた。

 これは自然現象ではない。

 結晶から大量に魔力が噴き出したことで起こった風だ。

 それほど、あのクリスタルに込められていた魔力が多いということ。

 そこに封印されていた存在は、それほどに強大であるということ。

「うん。やっとだ」

 キリエは恍惚とした笑みを浮かべる。

「やっと見つけ出したよ」


「――――()()()


 キリエは突風に逆らい、魔力の中心を見据えていた。

 一瞬でも早く、そこにいるはずの人物を目に焼きつけたいと言わんばかりに。

「まさか本当に――」

 悠乃もまた目を離せない。

 無論それは親愛の情などではない。

 憎悪でも好奇心でもない。

 ――恐怖だ。

 あれの強さを知っているからこそ、悠乃は恐れている。

 だから目を離せない。

 自分の考えが間違いであると信じたいから。


「――長い暇であった」


(ああ……)

 声が聞こえた。

 どこか色気のある男性の声。

 悠乃は背筋を悪寒が走るのを感じた。

(あれは紛れもない――)

 そこにいたのは美丈夫だった。

 すらりと高い身長。

 芸術家が手掛けた彫刻かのように美しい肉体。

 そして――腰まで伸びた灰色の髪。

 装飾の多い黒コートもあって、どこかヴィジュアル系を思わせる姿。

 それでいて、それが当然であるかのように似合っている。

 これほどまでに同性を美しいと思うことはないだろう。

 妖気じみた美貌。

 だが、それゆえに恐ろしい。

 彼が人間ではないのだと、本能で理解してしまうから。


「――――ラフガ・カリカチュア」


 この日この瞬間、世界に再び魔王が現れた。


 ちなみにラフガ・カリカチュアの由来は『ラフ画』ではありません。

 多分、この章が終わるくらいには軽く触れることになるかと。

 今解説してしまうとネタバレになりますし。


 それでは次回は『王の帰還』です。

 《残党軍》と《逆十字魔女団》。二つの陣営の首領が戻ってきたことで、さらに戦いは大きくなってゆきます。

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