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もう一度世界を救うなんて無理っ  作者: 白石有希
6章 崩落へのカウントダウン
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6章 26話 争奪戦

 第2部のラストバトルが近づいてきました。

(体が――勝手に動く?)

 マリアは走っていた。

 彼女の足は地を蹴り続ける。

 しかしそれは彼女の意志ではない。

 激しい頭痛の後、彼女の肉体の支配権はマリアからこぼれ落ちた。

 口も、体も、すべて意志とは違う動きを見せる。

 今逃げているのもマリアの意志ではない。

(私は……どうなってしまうの?)

「~~♪ ~~♪」

 マリアの不安とは裏腹に、彼女は鼻歌を奏でる。

 飛行機のように両手を広げ走る。

「んんぅ?」

 なぜかマリアが立ち止まる。

 すると彼女の眼前で爆発が起きた。

 遅れて聞こえる発砲音。

 マリアは音のしたほうを振り返る。

 はるか彼方にあるビル。

 その屋上には――大砲が設置されていた。

 かたわらには金髪の騎士――美珠倫世がいる。

 この位置から彼女が砲撃してきたらしい。

「危ないなぁ♪」

 しかしマリアの体は意に介さない。

 軽快な笑みを浮かべて倫世に背を向ける。

(やっぱり――)

 マリアが背後をわずかに確認した。

 倫世は彼女を追ってきている。

 距離としてはまだ300メートル以上離れている。

 しかしその距離は目に見えて縮まっている。

 《逆十字魔女団》を率いて生きた魔法少女。

 なぜかマリアの命を狙う魔法少女。

 やはり彼女たちはマリアを追いつめるのだろう。

「追いかけっこだね♪」

(なんで――私は追われているの……?)



「結構ギリギリね」

 倫世はそうつぶやいた。

 あくまで今の目的はマリアに追いつくこと。

 ゆえに鎧は纏っていない。

 武器も剣を一本だけ。

(スピードは完全にこちらが上ね)

 一分もあれば追いつける。

 そう倫世が考えた時――


「なんとか間に合いましたね」


 倫世の隣を走る少女がそう言った。

「――金龍寺、薫子さんね」

 倫世は魔法少女の名を口にした。

 彼女よりも一回り小柄な少女が倫世と並走している。

「――それに、もう一人いるようですよ?」

 薫子が言った。

 彼女の視線を追い、倫世は後方を確認した。

 そこには――

「……キリエ・カリカチュア」

 恐ろしい形相で駆ける少女がいた。

 キリエは周囲の建物を足蹴にして加速する。

 障害物があれば鉤爪で細切れにする。

 あまりに乱暴な追跡だ。

「……さすがに速いですね」

 薫子は目を細める。

 どんどんキリエは追い上げてきている。

 ――おそらく、倫世たちがマリアに追いつくよりも早く、キリエに追い抜かれることとなるだろう。

 美珠倫世。

 金龍寺薫子。

 キリエ・カリカチュア。

 マリアを巡る争奪戦の役者が揃ったらしい。

 3人は町を駆け抜ける。

(――どうしたものかしら)

 倫世は考える。

 単純な速度では、倫世のほうが薫子よりも速い。

 しかしマリアに攻撃をするには、追いついてからさらに一手が必要だ。

 そしてその一手を打つほどの時間的余裕を薫子は許さないだろう。

 加えて言えば、キリエに抜かれるリスクもある。

(面倒ね)

 運命のいたずらか。

 今ここには三勢力の魔法少女が揃っている。

 マリアを追っている現在も目に見えない睨み合いが続いている。

(いっそここで追手を迎え撃つべきかしら)

 そう考えかけ、否定する。

(駄目ね。他の誰かに隙を突かれる可能性があるわ)

 先程マリアが放った一撃により、この町にいる魔法少女と《怪画》は異常を察したことだろう。

 おそらく動けるメンバーは全員ここに向かっているはず。

 たとえ倫世が足止めをしようとも、別方角から他の魔法少女たちにかっさらわれては意味がない。

 そうなれば倫世にできることは一秒でも早くマリアに追いつくことくらいか。


「――美珠倫世さん。提案があるのですが」


 そんな時、薫子がそう言った。

 彼女は走りながらも視線をよこしてくる。

「――()()()()()()()、先にキリエ・カリカチュアを倒しませんか?」

 一時的な同盟。

 それこそが彼女の提案だった。

(悪い条件ではないわね)

 目下の障害は、倫世たちよりも速いキリエの存在だ。

 彼女はすぐに排除できたのなら、倫世の勝率は上がる。

 ――薫子から提案してきた以上、彼女にも勝算はあるのだろう。

 それを踏まえても、自分より移動速度の速い敵がいなくなるというのは魅力的だ。

 薫子も決して油断できる相手ではないが、三つ巴に比べれば不確定要素が少ない。

「その提案。乗らせてもらおうかしら」

 倫世はそう微笑む。

 同盟は成立した。

 そう確信した薫子も笑みを浮かべる。

「それでは、わたくしが爆弾を投げて彼女の動きを阻害します。一撃で仕留めてください」

「分かったわ」

 二人は駆ける。

 ――まだキリエとの距離が開いている。

 確実に彼女を止めるには、もっと近づくまで待たなければならない。

 薫子もそれを理解しているのだろう。

 彼女は手元に爆弾を出しつつも行動に移らない。

 まだ遠い。

 まだ、まだ。

 倫世もキリエとの距離を測る。

 倫世も薫子も歴戦の魔法少女だ。

 ゆえに言葉を交わさずとも最適のタイミングが分かる。

 ――各々が最高と判断したタイミングこそが正解なのだから。

「今ですっ」

「今ねっ」

 二人はその場で急ブレーキをかける。

 倫世は地面を滑りながら振り返り、剣を構える――

 だが――

(………………!)

 ――()()()()()()()()()

 一瞬の空白。

 倫世は事態を理解した。


「わたくしにとって一番邪魔なのは――()()()()


「……そういうことね」

 金龍寺薫子は、最初から倫世と協力するつもりなどなかった。

 ただキリエを迎え撃つことに集中する彼女を討つことが目的。


「過去にも未来にも、わたくしは後悔ばかり」


「《花嫁戦形(Mariage)》」


「《女神の涙・(アメイジングブレス)叛逆の魔典(・リベリオン)》」


 薫子が拳を突き出す。

 しかしそれは《自動魔障壁(エスクード)》に阻まれた。

「――《魔光(マギ・レイ)》」

 だが薫子に焦りはない。

 彼女は拳に魔力を集め、障壁を砕いた。

 自動防御であるがゆえに、その強度は《花嫁戦形》に耐えられない。


 ついに――薫子の拳が、倫世の側頭部を打ち抜いた。


 マリアを巡る戦いは続きます。


 次回は『ロンギヌスは誰の手に』です。

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