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もう一度世界を救うなんて無理っ  作者: 白石有希
6章 崩落へのカウントダウン
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6章 23話 近づく覚醒

 超ミスりました。

 できれば今日は二話投稿でいくので許してください……!

「――――――――あはっ♪」


 砂煙の中から現れたのは――笑うマリアだった。

 彼女は天真爛漫な笑みを浮かべている。

 ――これまでと雰囲気が違う。

 世良マリアはどこかミステリアスで、物静かな少女だった。

 だが目の前の少女はあまりに様変わりしていた。

 中学生くらいに見えた体は少し成長し、女性的な成熟を始めている。

 一方で、その表情や仕草は幼げで、先程までよりもかえって年齢は低く見える。

 記憶の有無による齟齬か。

 記憶――経験を失ったことで浮世離れした様子だったマリア。

 だが記憶の覚醒により彼女本来の人格が戻った。

 そう解釈するべきなのか。

 もっとも――


「《挽き裂かれ死ね(カット&ペースト)》」


 ――キリエには関係のないことだが。

 彼女は最速の動きで腕を薙ぐ。

 絶対切断の一閃。仮に躱そうとも、スイングが巻き起こす烈風が敵の体を裂くことだろう。

 しかし――


「《オールマイティ》っ」


 気が付くと、()()()()()()()()()()()()()

 彼女は太陽の光を遮るように目の上に手をやると、感心したような声を漏らす。

「おー。凄い威力だねぇ」

 呑気な感想を述べるマリア。

 彼女の声に危機感は微塵もない。

 何より――面影がない。

 まるで別人のような仕草だ。

「このッ」

 キリエは体を反転させて鉤爪を振るう。

 マリアは回避動作に入っていない。

 獲れる。

 そう確信するも――

「《オールマイティ》」

 またマリアが消える。

(こいつの魔法の効果なのか……?)

 キリエは思考する。

 今のがマリアの固有能力なのか。

 そうとしか考えられない。

 そうでなければ――動きがまったく見えないなどありえない。

 キリエは《怪画(カリカチュア)》最速。

 そんな彼女を凌駕する速力などありえてはいけない。

(馬鹿げた魔力が特徴の火力偏重型かと思っていたけど。うん。予想外に珍妙なタネがありそうだ)

「うん。君の記憶は戻ったと思っていいのかな?」

 一応、キリエはそう問いかけた。

 とはいえ、それ以外にマリアの変調を説明できないのだが。


「ううん。記憶は戻ってないよ。()()()()()()()()()


「?」

 意外にも、マリアの口から語られたのは否定だった。

 その意図は――分からない。

「じゃあ君は誰なのかな?」

「あたし?」

 マリアは顎に指を当て思案する。

 そしてたっぷりと悩むと――

「あたしの名前はね? せ――」

「やっぱ興味ないや」

 キリエはマリアの言葉を遮って攻撃する。

 意図的に呼吸をズラしての一手。

 それでも――彼女を捉えられない。

「もー。そっちから聞いておいてヒドヒド非道だよっ」

 マリアは頬を膨らませる。

 その動作は本当に子供っぽい。

 まるで無垢な子供だ。

「でも、まだ時間がないから、あたしも急がなきゃなんだよね」

 ようやくマリアが弓を構えた。

 しかしそこに矢は存在しない。

「矢も使わずに、どうやって攻撃するのかな?」

「知らないの? 昔のすっごい達人はね? 矢を撃つ動作だけで、飛ぶ鳥を落とせたらしいんだよっ?」

「そうかい。でも、アタシには当たらないから無駄だよ」

「そうだね」


「だって――()()()()()()()()


「ッ……!?」

 キリエの腿に痛みが走る。

 気が付くと、彼女の足には矢が深々と刺さっていた。

「これで、あたしも達人の仲間入りっ」

「矢を使ったように見えたけどねッ……!」

 このまま居座るのはまずい。

 そう判断したキリエは距離を取る。

(今のは――)

 何も見えなかった。

 マリアが矢を出した瞬間も。

 撃つ瞬間も。

 矢が飛んでくる過程も。

 ただ撃たれたという事実しか分からなかった。

(――時間を止めた? まるで、彼女だけが時間をスキップしたみたいに世界が回っていく)

 ――先程からそうだ。

 マリアが行動した際の過程をキリエは認識できていない。

 彼女が攻撃を躱しても、どのように躱したのかが分からない。

 彼女が攻撃をしても、どのように攻撃したのかが分からない。

 気が付くと、彼女が思い描いた通りの未来を歩んでいる。

 キリエの経験において、一番近いのは――蒼井悠乃の魔法だ。

 時間を止められ、気が付くと相手の行動は終わっている。

 ゆえに、狙われる側の視点では物事が唐突に動いているように思える。

 そんな気持ちだ。

(ただの空間移動っていう感じじゃない)

 一応、空間転移の可能性も考えられる。

 一瞬の回避も、過程の見えない攻撃も。

 すべてそれで説明できる。

 しかし、どうにもしっくりこない。

 もっと――得体の知れない能力のような気がするのだ。

「仕方ないなぁ」

 マリアの手から弓が消える。

 同時に――彼女は手を前方に伸ばした。

 すると空中に光が収束し――弓を形成した。

 巨大な弩弓を顕現させ、彼女は笑う。

 快活に。

 天衣無縫に。


「――《天を堕(フォールダウン)とす一矢(・スキャフォールド)》」


 そして一矢が撃ち放たれる。

 ――これが先程までの奇妙な攻撃でなくてよかった。

 キリエは心からそう思った。

 なぜなら――

「うん……冗談キツイね」

 マリアの一矢はキリエの脇をすり抜け――天へと昇った。

 その結末は――晴天。

 彼女が放った矢の風圧だけで、曇天に風穴を開けたのだ。

 どんな防御をしようとも、あれを防ぐことは叶わない。

 食らえば最後、細胞一つさえ残る保証はない。

 そんな一撃だ。

「あはっ♪ 外れちゃったね」

 特に気にした様子もなくマリアは笑う。

 あれほどの大火力を放ってなおこの態度。

 彼女の明るい笑顔は、ある意味で薄ら寒さを感じさせる。

 ――とんでもない異物を相手取っている気分にさせられる。

「じゃあ。()()()()()()?」

 再び弩弓が起動する。

 ――そうか。

 得心がいった。

 なぜマリアは攻撃を外したことに残念そうな素振りさえ見せないのか。

 単純な答えだ。

 ――彼女にとってさっきの攻撃は、ボタン一つで撃てるような普通の攻撃でしかないからだ。

「チッ」

 キリエが再び回避動作に入った時――マリアの腕が空間のゲートに吸い込まれた。

「あれれ?」

「さすがに、そんなのを無差別に撃たれるのは困るわね」

 その原因はギャラリーだ。

 おそらく空間門で、マリアの腕だけを上空にでもつなげているのだろう。

 あのままマリアが攻撃を続ければ余波だけで殺されかねない状況だったから。

「んー。本当に時間がなくなってきたなぁ」

 マリアはそう言って腕を組む。

 そして、彼女は再び笑顔を取り戻して――


「よしっ。逃げよーっと」


 ――駆けだした。

 キリエたちに背中を向けて。

「世良さん!?」

「え、えーっと。……どーゆうことかなー?」

 めまぐるしく変化する事態に、仲間であるはずの黒白姉妹さえ困惑している。

 彼女たちにとっても想定外の出来事なのだ。

「ギャラリー! 君はそこで魔法少女の相手をしておきなよ」

「はあ? 何を勝手に――」

 キリエはただそう言い捨てると、ギャラリーの返事を待たずに駆けだした。

 だが――

「そ、そうはさせませんッ!」

 なんとか落ち着きを取り戻した美月がキリエの進路を妨害する。

「追いかけさせないよー!」

 それに追従する形で迫る光刃。

 そうして生まれるロスは数秒。

 しかし、その数秒でマリアは曲がり角の向こう側に消えた。

 まして、黒白姉妹はキリエをここで食い止めるつもりのようだ。

 そうなればすぐには追跡を再開できない。

「――面倒になってきたなァ。うん」

 不機嫌を隠すことなくキリエはそう言った。

(まあ、振り切るだけならそう時間はいらないよね)

 スピードという面において、キリエはこの場で抜群に優れている。

 上手く隙を突けば、この場にいる全員を差し置いてマリアを追える。

 黒白姉妹を殺すよりもずっと早く。


「さっさと終わらせないとね」


 キリエは鉤爪を構えた。


 これより、マリア争奪戦が始まります。

 逃げるマリア。彼女に追いつけるのは悠乃たちか《残党軍》か《逆十字魔女団》か。

 運命を決定づける追跡です。


 それでは次回は『《貴族の決闘》』です。

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