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もう一度世界を救うなんて無理っ  作者: 白石有希
6章 崩落へのカウントダウン
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6章 21話 その意志は不敗

 かつて殺戮を避けた魔王VSかつて殺戮を実行した魔法少女です。

「これでお終いだヨォ」

 リリスはそう宣言した。

 彼女の体から汚泥の触手が伸びる。

 それらはエレナの手足を絡めとり、彼女の体を穢してゆく。

(さすがに判断が早いのう……)

 もしもリリスが触手を使うのが数秒遅れていれば、エレナは圧倒的優位を確保できている膂力によって拘束から逃れていただろう。

 たとえリリスに捕まろうとも、殴り合えば勝つのはエレナなのだから。

 故に彼女はエレナをすぐさま触手で縛った。

 純粋な筋力ではエレナが間違いなく勝っている。

 しかし魔法で抑え込まれては話が変わる。

 いくらリリスよりもパワーで優れているとはいっても、本来のエレナは遠距離型――力を重視していないタイプなのだ。

 リリス自身を振りほどけても、彼女自身の魔法から逃れるには力不足。

 おまけに――

「体が――」

「痺れちゃうヨネ?」

 皮膚からウイルスが染み込んできているのだろうか。

 徐々に、エレナの手足から力が抜けてゆく。

 脳と体が断ち切られたかのように四肢が動かない。

 不幸中の幸いといえば、それが致死性のウイルスではないことだろう。

 しかしそれを喜ぶ暇はない。

 結局のところ、海のような不幸に浮かんだ小さな幸いでしかないのだから。

「ぬぐぅ……!?」

 エレナは声にならない悲鳴をあげた。

 触手の一本が、彼女の口に侵入してきたのだ。

 顎が壊れそうなほどに大口を開くエレナ。

 限界以上に口を開かされたせいか、顎に力が入らない。

 もっとも、この触手を噛み切ったところで手遅れなのだが。

 それほどまで奥深く触手は体内に侵入している。

 すでに取り込んだウイルスはもう取り除けない。

「ホォラ」

 リリスは触手を使い、エレナを地面に叩きつけた。

 エレナの体は仰向けの体勢で地面に縫い付けられる。

「!? !? ッ!?」

「吸わなくても、内臓に直接塗りたくってアゲル」

 あの触手はウイルスが大量に付着している。

 肌に触れただけで感染するのだ、内臓に直接接触されたのならばどうなるかなど明らかだ。

 全身から感覚が失われてゆく。

 体中の筋肉が弛緩し、緩んだ股座が生温かくなる。

「そういえば試してこなかったんだケド。アタシのウイルスって、どこから感染したほうが早く進行すると思う?」

 ――いつも即死だから分からないんだヨネ。

 そうリリスは嗤う。

 どのような意図があるのかは分からない。

 これまで戦った敵として、エレナを短時間で殺すのは惜しいと考えたのか。

 合理的な理由なのか、快楽的な理由なのか。

 それはエレナには判断できないが、今回リリスが使用したウイルスは殺傷力が比較的低いものだ。

 そうでなければ今ごろエレナは死んでいるはずだ。

「ぬ……」

 汚泥がエレナに降りかかり、彼女の服を――その下にある素肌を溶かす。

 火傷のように爛れる白い肌。

 しかし痛みは感じない。

 おそらく体が麻痺したことで痛覚も薄れているのだ。

 太腿にまで絡みついた触手が、エレナの両足を左右に持ち上げた。

「腸と鼻。どっちの粘膜を先にスル?」

 そう尋ねるリリス。

 もっとも、返答など求められていないが。

「やっぱり両方だヨネ」

 逡巡なくリリスはそう決める。

 初めから彼女には、ウイルスを利用した実験をするつもりなどない。

 最初から最後まで、本能に従うだけなのだろう。

(――負けられぬ)

 ここでエレナが負ければ、大切な仲間を失うかもしれない。

 それは、死んでも許せない。

 そこだけは、譲れない。

(すでにウイルスに感染し、妾の体は壊れかけておる)

 まともに動かないからだ。

 放っておけば死んでゆくような状態。

(この状況を覆すには――)

「ッ……!」

 リリスが驚愕の表情を見せる。

 それも当然のことだろう。

 なぜなら、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「…………」

 リリスの驚きはエレナにそれほどの力が残っていたこと――ではない。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「これは致命傷じゃの」

 エレナは口元を歪めた。

 すでに触手の切れ端は胃袋におさまっている。

 言うまでもなく致命傷だろう。

 ゆえに――

「つまり、ベストコンディションじゃ」

 エレナの魔法が最大の威力を発揮するシチュエーションだ。

 《敗者の王(グランドグレイ)》は傷つけば傷つくほど攻撃の威力が高まる。

 死に瀕した今ならば、これまでにない一撃を放てるだろう。

「ふざけ――」

 リリスもそのことに気付いたのだろう。

 彼女は怒りと焦燥を浮かべて黒い魔力をエレナに撃ちこむ。

 だが、間に合わない。


「――《絶えぬ王の威光(グレイ・スレイ)》」


 狙いは定めない。どうせ腕など動かないのだから。

 だからこそ、リリスに妨害の暇さえ与えずに引き金を引く。

 そして、灰色の光が撃ち出された。

 規格外に膨れ上がった魔力砲は世界を灰色に染め上げた。



「が……は……!」

 リリスは血を吐いた。

「ありえないん……だケド」

 そう毒づいても虚しいだけだ。


「余波だけでこれとか……フザけんなって話だヨネッ……!」


 ()()()()()()()()()()()姿()()()

 エレナが決死の一撃を射出する直前。

 リリスは銃口の反対側に回り込んでいた。

 体調から考えて、エレナに照準を定める余力がないのは分かっていた。

 だからこそ銃口の反対側に陣取れば、彼女の魔力砲をやり過ごすことは可能だと判断していたのだ――が。

 結果として、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 両手両足が周囲に散らばっている。

 いくら肉体強度が低い魔法少女とはいえ、食らってもいない攻撃でここまで負傷するとは思わなかった。

 それほどまでに強力な一撃だったのだ。

(意志に反してウイルスが沈静化するなんて……本格的に死にそうってことなんだケド)

 リリスは感覚的に、自身が放ったウイルスが活動を止めていることを察知していた。

(ここまで狙っていたなら大したものだヨネ)

 エレナはあえてウイルスを取り込むことで魔力を引き上げた。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 最終的には、あえてウイルスを取り込むことで彼女はウイルスに打ち克ったのだ。

 これら一連の流れを予測していたのならばさすがというべきだろう。

 エレナは解毒され、リリスは死にかけている。

 この状況が生み出されたのだから。

(さすがにヤバイよネ)

 このままでは死ぬ。

 そうリリスは確信していた。

「仕方ない――か」

 このままでは死ぬ。それは事実だ。

 しかし、このままでは終わらせない手段を持っているのもまた事実。


「――――Mariage」


 リリスは放つ。

 夜より暗く、絶望よりも深い黒を持つ魔力を。

 そしてそれはドレスの形を形成してゆき――


「――――《暴虐の(サイレント)侵蝕病魔(・テンペスト)》」


 ――リリスに纏われた。


 ペスト→テン『ペスト』

 ちなみに、癌は初期症状がなかったりするためサイレントキラーと呼ばれることがあります。


 次回は『刻み始めるカウントダウン』です。ついに6章も後半戦となります。

 

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