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もう一度世界を救うなんて無理っ  作者: 白石有希
6章 崩落へのカウントダウン
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6章 17話 貴族を前にして凡夫はひれ伏すのみ

 やっと倫世のMariageが見せられます。

「最強であることの意味をここに示す。最強であることの価値をここに誓う」


「――――《貴族の(ノーブルアリア・)決闘(グローリア)》」


 光が閃いた。

 倫世を中心として白い光が広がり、悠乃の視界が塗り潰される。

 白い世界。

 明るい闇を越えた先には――黒の世界が広がっていた。

「ここは……」

 悠乃は様変わりした世界を見回した。

 半径約100メートルの半球形に世界が切り取られている。

 それよりも外側は、黒い壁に覆われており見えない。

 先程まであったはずの建物は消え、足元にはただの荒野が広がっている。

「別世界を作りだす《花嫁戦形(Mariage)》か?」

 玲央もまた周囲の状況を確認している。


「そうよ。この世界こそが私の《花嫁戦形》」


 倫世はそう告げる。

 彼女は纏っていた。

 純白にして潔白の花嫁衣裳を。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 倫世は微笑む。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「私が死ねば、三毛寧々子、天美リリス、星宮雲母も死ぬ。

蒼井悠乃が死ねば、金龍寺薫子、朱美璃紗、黒白美月、黒白春陽、グリザイユ・カリカチュア、世良マリアも死ぬ。

 トロンプルイユが死ねば、キリエ・カリカチュア、ギャラリーも死ぬ」


 ――分かりやすいでしょう?

 そう倫世は言った。

 決闘の強制。

 それはある意味で、かなり凶悪な能力だ。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「この力で、私は50の軍勢を一人で殲滅したわ」

 ――数の優位は通用しない。

 一人で倫世を倒せなければ、自分が属している陣営ごと殺される。

 どれだけ数を揃えても、《貴族の決闘》の前では代表者一人の戦力しか考慮されないのだから。


「さぁ、決闘の始まりよ」


 倫世の言葉がキッカケだったのだろうか。

 黒い壁に大量の剣が出現した。

 主の手に渡るのを待つかのように。

 臆病者が決闘から逃げるのを防ぐかのように。

 100を超える剣が滞空している。

「景色を楽しむだなんて余裕ね?」

「っ」

 ――すでに決闘は始まっているのだ。

 倫世はガトリング砲を構え――撃ち放つ。

 大量の魔弾が悠乃を襲う。

「《凍結世界(レクイエム)》!」

 悠乃はとっさに時を止めた。

 魔弾の壁が推進力を失い停止する。

 悠乃は横に跳んですべての魔弾を躱すと、再び時間を動かした。

 世界が時間の流れを思い出す。

 そして再び魔弾が動き始め、先程まで悠乃がいた世界を抉り飛ばした。

(やっぱり基本能力も上がってる……!)

 《花嫁戦形》の特徴は二つ。

 それは強力な固有魔法と――基本性能の飛躍的な上昇。

 倫世も例外ではない。

 1対1の強制。そして自己強化。

 独りで大勢を相手取ることを前提とした魔法だ。

 悠乃は一気に距離を取る。

 しかし――

「逃げたらダメよ?」

 倫世の言葉。

 同時に、何かが悠乃の背中に押し当てられた。

 花嫁衣裳の構造的に開いた背中。地肌に冷たい感覚を覚える。

 そして――悠乃の全身に電撃が走った。

「んぁぁあああああああああああああああああッ!?」

 感触の正体はスタンガンのようなものだったのだろう。

 脳まで焦げ付きそうな電流が悠乃を蝕む。

「ぁ……ぁ……」

 悠乃は地面に手を突くことさえできずに倒れ込んだ。

 彼女の体からは煙が立ち上り、全身を引き攣らせている。

 これはおそらく逃亡阻止ライン。

 不必要に戦場の端に近づいてしまえば、背後から倫世の武器が襲ってくるのだ。


「決闘から逃げた貴族は――()()()


 倫世の号令で、世界の端を守っていた剣が悠乃を狙う。

 そのうちに幾本かが彼女に向かって飛来した。

(やば……動けない……)

 躱さねば。

 分かっているのだ。

 しかし体が痺れて逃げられない。

 悠乃はただ、無様な格好で倒れたまま剣を睨むことしかできない。

 そしてそのまま――


「よっと」


 玲央に救われた。

 彼は悠乃を抱きかかえると、剣の着弾地点から逃げる。

「……玲央?」

「おう。大丈夫か?」

 玲央は悠乃をお姫様抱っこしたままニヤリと笑いかける。

 そして彼は倫世に向き直ると――

「……こいつが、お前の《花嫁戦形》の弱点だ」

「――そうね」

 玲央の指摘を倫世は否定しない。

「複数の勢力を同時に巻き込んでしまえば、自分以外の勢力が結託してしまう。それが、この能力の弱点だ」

 言ってしまえば当然のことだ。

 決闘の強制は倫世の能力。

 言いかえれば、倫世を倒せば能力は解除され、人数の不利は解消される。

 だから複数の勢力が決闘を強制された場合、自然と倫世以外の代表者が協力する形となるのだ。

 それが《貴族の決闘》の弱点。

「悠乃。立てるか?」

「……大丈夫」

 悠乃は玲央の腕から離れ、一人で地面に立った。

 時間が経ったことで体からある程度ダメージが抜けた。

 まだ体中が痛いが、戦える。

 二人は肩を並べ、最強の魔法少女と相対した。


 仲間の命を懸けた決闘の始まりだ。


 最強の魔法少女なのに1対1を強制。挙句に、敗北した陣営は強制的に全員死亡。

 術者が弱ければ意味がありませんが、倫世が使えばかなり凶悪な能力です。

 実際、彼女は現役時代にこの能力でラスボスを隔離し、敵を全滅させています。

 ちなみに、この能力で連動死させられるのは、倫世視点から見て代表者より格下のメンバーだけです。

 そのあたりの下っ端を捕まえてボスを連動死させることはできません。

 あくまで代表にふさわしい実力を持った相手であることが前提です。

 

 それでは次回は『壊して』です。璃紗VS雲母の決着編――前編となります。

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