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もう一度世界を救うなんて無理っ  作者: 白石有希
6章 崩落へのカウントダウン
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6章 16話 最強であることの意味

 戦いは続きます。

「……ほぉ」

 玲央が小さくそう漏らした。

 彼が振り下ろした黒い一撃。

 それは――倫世の肩で止まっていた。

 原因は空中に浮かんだ六角形の障壁だった。

 厚みは数ミリ程度。

 半透明の膜が玲央の攻撃を防いでいたのだ。

「――()()()()()()()

「《自動魔障壁(エスクード)》。緊急防御用の魔法よ」

 そう倫世は微笑んだ。

(あれは――)

 あの防壁。

 悠乃には見覚えがあった。

 以前、彼女と戦った時のことだ。

 最後に悠乃が氷剣を振り下ろした時――あの魔法に防がれたのだ。

 無防備な脳天に放った一撃が防がれたのだ。

 たった一枚の薄膜に。

「私は一人で戦ってきたのよ? 防御を盤石にするのは当然じゃない?」


「もちろん――死角もよ?」


「…………!」

 悠乃は手が痺れる感覚に顔を歪めた。

 彼女は倫世の背後から首筋を狙って氷剣を振るっていた。

 だがそれも、《自動魔障壁》によって防がれる。

 美珠倫世は一人で世界を救った魔法少女。

 ゆえに開発されたのが《自動魔障壁》なのだろう。

 一人では消しきれない隙を補うために。

「じゃあ、こうするか」

 直後、玲央の姿が揺らいだ。

 彼が持つ能力は――幻影。

「っ」

 唐突に、虚空から障壁が出現した。

 次の瞬間には別の場所に障壁が現れる。

 しかし肝心の攻撃が見えない。

 ――おそらく、玲央は自分の姿を幻影で隠しているのだ。

「はあッ」

 倫世が大剣を振るう。

 大振りの一撃は玲央を捉えない。

 ――また倫世の首元で障壁が現れた。

「――ちょっと不利ね」

 倫世は笑う。

 そして――


「戦い方を変えましょう」


 倫世は一気に跳びあがった。

 そして、戦場から少し離れた位置にある建物の屋根に跳び乗った。

 消える大剣。

「《貴族の血統(ノーブルアリア)》」

 次に彼女の手に現れたのは――


「…………ふぇ?」


 ――()()()()()()()()()

 巨大な銃身を彼女は両手で携えている。

 あまりにも想定外な武器。

 悠乃の思考が凍りつく。

「第2ラウンドよ」

 銃弾が放たれた。

 何十、何百という魔弾が悠乃たちを襲う。

「ちょ、う、嘘ぉ!?」

 転びそうになりながら悠乃はその場を離れる。

 だが彼女が放つ弾幕は走って躱せるような生易しいものではない。

 数多の魔弾はすぐに悠乃の姿を捉えた。

「ぅ……くぅ……!」

 悠乃は重厚な氷壁でガードに回る。

 繰り返される銃撃音。

 そのたびに氷壁が砕け、削られてゆく。

 次々と氷壁を補充してゆくが逆転の目が見えない。

 このままではいつか壁を貫通されてしまう。

「うーん。やべぇな」

「……なんでここにいるのさ」

 悠乃は半眼で背後を睨む。

 そこには玲央がいた。

 彼は呑気な表情で悠乃の後ろに隠れている。

「そりゃあ、オレには防御手段ねぇしな。お邪魔するぜ」

「……なんだよぉ」

 悠乃はため息をついた。

 大量の弾丸。

 それはただ相手を削り倒すだけではない。

 着弾の衝撃で道路が抉れ、周囲の環境が変わり続ける。

 ――それを幻影で再現するのは難しい。

 一瞬ごとに変わる状況を忠実に再現できない――つまり、違和感が出る。

 そうなればたとえ幻影で姿を隠していても、景色の差異から玲央の居場所を特定できる。

 あのガトリング砲は、玲央の幻影対策だったのだ。

「……魔力だから弾切れもないのか……」

 悠乃は汗を垂らす。

 撃ち出される魔弾の勢いに衰えは見えない。

 このまま永遠に続くのかと錯覚してしまいそうなほどだ。

「こうなりゃ悠乃。協力しようぜ?」

「――協力」

 玲央の提案を悠乃は反芻した。

 このまま決断を先延ばしにしても圧殺されるだけだ。

 そう考えると悪い提案ではない。

「――分かったよ」

 悠乃は渋々ながらも同意するのであった。



「うふふ。どうするのかしら?」

 倫世は戦場を俯瞰する。

 少し高く、離れた位置。

 そうすることで悠乃たちの動きがよく見える。

 後はこの距離を保ち、ガトリング砲で蜂の巣にするだけだ。

(もっとも、向こうも仕掛けてくるんでしょうけど)

 このまま悠乃たちが撃ち殺されるとは思いづらい。

 機を見て、行動するはずだ。

 そして来るのなら――


(――今!)


 氷壁が撃ち砕かれたこのタイミングだ。

 悠乃と玲央。

 二人が二方向に分かれた。

 両者は建物の陰に消えた。

(路地を利用して近づくわけね)

 一旦、倫世はガトリング砲による大量射撃を止める。

 このまま撃っても、建物を破壊するだけだ。

 さすがに住民ごと建物を崩壊させるわけにもいかないだろう。

「ふぅ……」

 倫世は瞳を閉じる。

 そして、周辺の音を逃すことなく拾い集めた。

 

「…………そこ!」

 

 倫世はガトリング砲を思い切りスイングする。

 その先にいたのは――倫世の背後を取っていた悠乃。

「なッ」

 驚愕する悠乃。

 彼女は建物の裏に回り、倫世の背後を突く形で跳躍してきたのだろう。

 だが彼女の目論見は倫世に看破された。

 現在、悠乃の体は宙に浮いている。

 躱す手段は――ない。

「ぁぐぅッ……!」

 ガトリング砲の銃身によって横殴りにされた悠乃は屋根に転がる。

 その隙を逃さない。

 倫世はガトリング砲の銃口を悠乃の胸に押し付けた。

「チェックメイトよ」

「ぅ……」

 銃口が悠乃の胸に沈み込む。

 ガトリング砲によって彼女の体は縫い付けられており、逃げられない。

 倫世が弾丸を放てば、彼女の胸に大穴が開くことだろう。

「それじゃ、終わりね」


「――そうか?」


 声が聞こえた。

 ――()()()()

「オレたちにとっては始まりなんだけどな」

 倫世の足元で――()()()()()()()()

(幻影?)

 先程まで、あそこにいたのは悠乃だった。

 なのに、現実にいるのは玲央だ。

(幻で、トロンプルイユが蒼井悠乃に化けていた……?)

 もしそうだとしたら。

 次に考えられるのは――


「Mariage」


 今度こそ、悠乃の声が聞こえた。

 倫世の背後から――


「《氷天華・凍(アブソリュートゼロ・)結世界(レクイエム)》」


 純白にして潔白の花嫁衣裳が揺れる。

 悠乃は身を低くして、氷剣を腰だめに構えていた。


「《大紅蓮二輪目・紅蓮葬送華》」


 悠乃が一気に、氷剣を突き出す。

 切っ先から放たれる暴虐の冷気。

 極限まで凝縮された氷撃が倫世を襲う。

 躱すには間に合わない。

「――――!」

 《自動魔障壁》が発動し、倫世を守る。

 しかし――

「行っけぇぇぇ!」

 それでも悠乃は押し貫く。

 そして――《自動魔障壁》にヒビが入った。

(《自動魔障壁》が――)

 結局のところ《自動魔障壁》は緊急防御だ。

 どうしても意識的に行う防御よりもクオリティが落ちる。

 だから――

(――砕かれる……!)

 冷撃がバリアを貫いた。

 そのまま氷撃は倫世の肩口を斬り裂く。

 ギリギリで身を引いたが掠めたらしい。

「くッ……!」

 倫世は地を蹴り、距離を取り直す。

 しかし、

「まだだァッ!」

 悠乃は叫んだ。


「《大紅蓮》!」


「っ……くぅっ……!」

 突如、倫世の肩の肉が弾けた。

 ほんの数ミリ程度だった切り傷が破裂し、血が迸る。

 《大紅蓮》。

 敵の血を一部だけ凍らせ氷の血栓を作る技。

 そうなると血栓が詰まり、押し寄せる血流の勢いで内部から肉が弾ける。

 それこそが悠乃の《大紅蓮》の正体。

(さっきの一撃で仕込まれたのね……!)

 先程の《紅蓮葬送華》はあくまで《自動魔障壁》を砕くためのもの。

 そして《大紅蓮》の発動条件を整えるための布石だったのだ。

 結果として、致命的ではないものの重い傷を負うこととなった。

「うふふ……苦戦……しているわね」

 そう思うと笑えてきた。

 倫世の口元は自然と緩む。

 肩が痛い。

 だが、ちゃんと動く。

 まだまだ戦える。

 独りでも戦える。

「仕方ないわね」

 倫世は悠乃たちと対峙する。

 切るべきだと判断したのだ。

「見せてあげるわ」


「私の――Mariageを。」


 ――最大の切り札を切るべきだと。


「最強であることの意味をここに示す。最強であることの価値をここに誓う」


「――――――《貴族の(ノーブルアリア・)決闘(グローリア)》」


 《貴族の決闘》はわりと語感が気に入っている《花嫁戦形》です。

 次回こそ倫世の《花嫁戦形》の能力を見せることができるでしょう。


 それでは次回は『貴族を前にして凡夫はひれ伏すのみ』です。

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