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もう一度世界を救うなんて無理っ  作者: 白石有希
6章 崩落へのカウントダウン
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6章 15話 完璧に瑕を引け

 悠乃VS玲央VS倫世、前編です。

「実際に戦うのは初めてね」

 玲央の斬撃を、倫世は涼しい顔で受け止める。

「《逆十字魔女団》と《残党軍》。大将対決ってか?」

 一方で、玲央の表情にも焦りはない。

 互いにとって、この程度の攻防は小手調べなのだ。

「《氷天華(アブソリュートゼロ)》」

 そんな戦いに、悠乃は一撃で介入する。

 彼女が巻き起こす氷の津波は、玲央と倫世の二人を射程に捉えている。

 悠乃は察していた。


 ()()()()()()()()()()()()()()


 だから、それを活かす。

 一番弱いからこそ、一番狙われない。

 玲央にとっても、倫世にとっても――()()()()()()()()()()()()()()()()

 そこを利用するのだ。

 悠乃は玲央と倫世が戦うように戦場をセッティングしてゆく。

 どちらか一方が有利になれば、不利な敵をフォローする。

 そうして戦いを長引かせるのだ。

 二人が受けるダメージを増やし、漁夫の利を狙う。

 それこそが悠乃に許される勝ち筋。

 とはいえ深入りは禁物。

 悠乃が狙われにくいのは敵であると同時に――拮抗を崩すキーパーソンだから。

 悠乃の目から見て、玲央と倫世の力は対等だ。

 ゆえに、悠乃が味方についたほうが勝つ。

 それを理解しているからこそ、二人は悠乃を攻撃し、彼女が敵に回ることを避けようとしているのだ。

 しかし悠乃が過剰に介入をしてしまえば、キーパーソンとしてのメリットよりも障害としてのデメリットが目についてしまう。

 そうなれば最悪、玲央と倫世の二人が結託して先に悠乃を消そうとしてくる可能性さえある。

「どうしたんだ? 動きが鈍くなってきてねぇか?」

 そう玲央が嗤う。

 少しずつだが、倫世の動きに陰りが見え始めたのだ。

 理由は体温の低下。

 金属の鎧に包まれた彼女の体は、悠乃が放つ冷気の影響を大きく受けているのだ。

 そうして体が冷え、パフォーマンスが低下してゆく。

 それが現状につながっていた。

「そうね。少し体が冷えてきたわね」

「冷え性か? ベテランだしな」

「別にそこまで歳を重ねているつもりはないけれど」

 ――これじゃあ、かえって鎧は邪魔ね。

 そう倫世は口にした。

 今、地面は薄い氷に覆われている。

 そのため鎧姿の倫世は足元が滑りやすくなっており、全力を発揮できていない。

 普段は彼女を守っているであろう鎧が完全に裏目に出ていた。

「――なら。こうするわ」

 一旦距離を取ると、倫世は鎧を霧散させた。

 体に張りつくような黒いインナー姿になる倫世。

 そしてすぐに――

「これなら問題ないわ」

 倫世が身に纏ったのは白いコートだった。

 胸当てを除けば、多少デザインが変わっているだけの服だ。

 薄手の白いコートに、丈の短いスカート。

 最初の鎧に比べると身軽さを優先した装備だ。

 足元もブーツとなっており、先程に比べると滑りにくだろう。

 金属の甲冑から、布の服へと。

 装備重量の変化。

 それは――戦闘スタイルの変化でもある。

「っと……」

 玲央がわずかに驚いた様子で後ずさる。

 倫世が突進するかのような勢いで斬りかかってきたのだ。

 その速度はさっきまでよりも数段上。

 これまでは待ち構え、迎撃に徹することが多かった倫世。

 そんな彼女が積極的に攻め始めたのだ。

「はぁッ!」

 その出端をくじくように悠乃は氷撃を放つ。

 氷撃を躱すため、玲央と倫世が別々の方向へと跳ぶ。

 そうすることで戦いの空気を一度変えた。

 ――あのまま倫世を攻め続けさせてはマズいと悠乃の経験が語っていたのだ。

「っし!」

 それは玲央も同じだったのだろう。

 倫世が動くよりも早く、彼は攻撃に移った。

 玲央が操るのはサーベル。

 倫世の大剣に比べると取り扱いやすい武器だ。

 それを活かし、彼はコンパクトな動作で攻める。

 繰り出される刺突。

 倫世はそれを身のこなしだけで回避する。

 何度も、何度も。

 途切れない連続突き。

 その最中、倫世は大剣の先端でわずかに地面を削った。

「《救世の乙女の剣(ラ・ピュセル)》」

 引っかくような一斬。

 だがそれは魔力で威力を増し、地面ごと玲央のいる位置を抉り飛ばした。

 ――攻守が入れ替わる。

「ちっ」

 金属音。

 剣と剣がぶつかる音だ。

 大剣のメリットはその重量。

 大振りだが、一度振るえば一気にペースを掴める点だ。

 あれほどの重量武器を受け止めてしまえば、敵は大なり小なり体勢を崩してしまう。

 そこで間髪入れずに次の一撃を放つ。

 そうすることで、相手を反撃できない状況に追い込んでゆくのだ。

 押して押して、封じ込める。

 それはまさに王者の戦い方だ。

 ――やはり、先に倫世を倒すべきか。

 そう悠乃が判断を下そうとした時――思い知らされることとなる。

 勝つべくして勝つのが王なら――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「ッ……!」

 倫世が大剣を振り上げる直前、玲央の手が添えられた。

 ――彼女の右手首に。

 スイングの前に勢いを殺され、倫世の連撃が止まる。

 残ったのは剣を押さえられた倫世と――


 ――剣を振り上げた玲央だ。


「――終わりだ」

 玲央のサーベルが黒い魔力を纏う。

 それはおそらく、彼が持つ最強の一撃。

 とはいえ、玲央は本来大技で戦うタイプではない。

 あの一撃も強力ではあるが、悠乃の《紅蓮葬送華》や倫世の《救世の乙女の剣》に太刀打ちできる威力はない。

 だが――()()()()()()()()()()()()

 防御ごと敵を討ち倒すような大規模魔法は必要ないのだ。

 虚を突き、隙を突き。殺しきれる一太刀があれば。


「じゃあな」

 

 黒い斬撃が倫世の肩へと振り下ろされた。


 次回こそは、倫世の《花嫁戦形》までいきたいですね。

 ある意味、相当なクソゲー魔法ですので楽しみです。


 次回は『最強であることの意味』です。

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