表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
もう一度世界を救うなんて無理っ  作者: 白石有希
6章 崩落へのカウントダウン
134/305

6章 11話 死神と殺戮人形

 璃紗VS雲母です。

「ったくよー」

 璃紗はため息を吐くと、手に残っていたパンを口に放った。

 彼女の前にあるのは大きなクレーター。

 隕石が落下したかのような惨状の中心にいるのは、一人の少女だった。

「パンが砂でジャリジャリじゃねーか」

 璃紗は不快な気分を隠すことなく吐き出す。

 そして、目の前にいる少女――星宮雲母を睨んだ。

 ゴスロリ服を着た小学生くらいの少女。

 何より、すべてを諦めたかのような虚ろな瞳。

 黒白姉妹から聞いていた情報と符合する。

「しかも、相性最悪の相手か」

 雲母の魔法はすでに聞いている。

 その能力は、反射。

 本来は確率発動らしいのだが、星宮雲母は『運悪く』すべての攻撃を反射してしまうという特異体質だという。

 近づく、斬る。が基本の璃紗には最悪の相手といえるだろう。

 少なくとも、雲母の魔法は正面突破できる類のものではない。

(いざとなりゃ、泥仕合にでも持ち込むか?)

 雲母に攻撃が当たらずとも、彼女の体力は有限だろう。

 璃紗の力ならば、彼女の体力が尽きるまで戦い続けることも可能なはず。

 結局のところ、雲母を倒せる必要性はないのだから。

 倒すまでは届かずとも、彼女のこの場で抑え込むことはできる。

 そこまで判断し、璃紗は――変身した。

「《死の大鎌(デスサイズ)》」

 彼女の手の中に赤黒い大鎌が顕現する。

 魂を刈り取らんとする巨大な得物を璃紗は肩に担ぐ。

「あなたでは……死ねなそう」

 失望したような声でつぶやく雲母。

 そして彼女は――足元の小石を蹴った。

「ッ!」

 璃紗は本能的に首を傾ける。

 耳元を掠めてゆく弾丸。

 その正体は、()()()()()()()()()

 雲母が小石を蹴った時、不自然なほどに小石がスピードを上げて飛来してきたのだ。

(蹴りの反動を反射して、倍の力で撃ち出すってか?)

 先程の現象を璃紗はそう判断した。

 雲母は相手を捕え、相手の肉の弾力を反射することで相手を挽き潰すことができるという。

 ならばこの程度は容易いだろう。

「《表無し裏(フェイトロット・)無い(タロット)》」

 雲母の声が聞こえた。

 璃紗が小石に意識を向けた瞬間、彼女はタロットを空中に展開していた。

 そして雲母は運命を占う。


「結果は――()()


 ガシャン。

 そんな音が聞こえた。

 人々の悲鳴。

 思わず璃紗は背後へと視線を向ける。

 そこでは――

「なッ」

 ()()()()()()()()――()()()()()

 雲母が蹴り飛ばした小石によって()()()構造的に致命的なダメージを受けたのだろう。

 綺麗に組み合わさっていた骨組みが崩れ、鉄の雨が降る。

「くっそ……」

 璃紗は鉄骨の落下地点から跳び退いた。

 しかし雲母は動かない。

 そして予定調和のごとく、大量の鉄骨が雲母へと落ちた。


「やっぱり、わたしは死ねない」


 それでも雲母に傷はない。

 むしろすべての鉄骨が彼女を避け、四方八方へと散らばってゆく。

「ぐッ……!」

 そして()()()()そのうちの一本が璃紗の胸を直撃した。

 柔肉が潰れる感触と同時に、彼女の体は後方の建物を貫いた。

「……痛ぇーな」

 璃紗は胸を押さえて立ち上がる。

 口の中を切ったのか、口内に鉄の味が広がった。

 璃紗は闘志を込めて雲母を睨む。

「ッ!」

 璃紗は全力で地を蹴る。

 彼女の強靭な脚力は足元の地面を爆散させた。

 赤い弾丸と化し、彼女は雲母へと一直線に突っ込んでゆく。

 大鎌を振るいさえしない、ただの単純なタックルだ。

「ぐぁ……!」

 だが届かない。

 璃紗の体が空中へと打ち上げられる。

 突進の衝撃が反射されたのだ。

(やっぱ直接攻撃は意味ねーか……)

 璃紗は宙で姿勢を整える。

 だが反撃はしない。

 したところで、雲母の反射をすり抜ける手段が浮かばない。

(ま、考えても分かるわけねーか)

 璃紗はそう割り切る。

 考えてなんでも分かるほどデキの良い頭ではない。

(愚者は経験に学ぶって言うしよー)

 璃紗は力強く大鎌を握り直した。

 落下は続き、二人の距離が縮まってゆく。

 そしてそれがゼロになる直前。

(トライ&エラーだッ……!)

「らぁッ!」

 一瞬だけ、璃紗は肘から全力で炎を噴射した。

 横からの力が加わり、垂直に落下ししていた璃紗の軌道が変わる。

「…………!」

 雲母の脇に着地した璃紗。

 まっすぐに待ち構えていた雲母は、想定外の動きにわずかな動揺を見せた。

「っ…………」

 雲母は隙だらけな動作で腕を振るう。

 彼女は反射能力の恩恵もあり、カウンターを恐れない。

 だからこそここまで防御を考慮しない戦いができるのだ。

「ちっ……」

 しかし、璃紗もこの程度のフェイントで終わらせるつもりなどない。

 璃紗は身を低くしたまま片足を軸にし、回転するように雲母の背後に回り込む。

「また……」

 雲母は見失った璃紗を追う。

 だが――遅い。

「おらァッ」

 璃紗は大鎌を突き出した。

 大鎌の――石突を。

 彼女が狙ったのは――雲母の口内だ。

「んっ……!?」

 雲母は石突を咥え込んだまま目を白黒させる。

「どーだ。()()()()()()()()()()()()?」

「んぐ……!?」

「ま、後で治せるくれーの火傷で済ませとくからよ」


「恨んで良いけど、もう起きんなよ?」


 大鎌から火花が散った。

 そしてそのまま――

「――《炎月》」

「ぅ、がぁぁぁぁぁ!?」

 雲母の口から炎が噴き出す。

「ぁぅ……ぁ」

 やがて雲母は身を反らした姿勢のまま動かなくなる。

 その瞳からは――涙がこぼれていた。

 涙が示すものは――


「やっぱり……死ねなかった」


 ――()()()

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「もう、良い」

 雲母の視線が璃紗へと注がれる。

(やべぇッ……!)

 璃紗の本能が、身に迫る危機を察知した。

 だが――間に合わない。

「……やっぱり、あなたでは死ねない」

 雲母が放ったのはローキックだ。

 コンパクトな動作で放たれたそれは、璃紗が離れるよりも早く彼女の足首を打ち据える。

「がぁッ!?」

 吹っ飛んだのは――足首だった。

 まるでダルマ落としのように璃紗の足首が吹っ飛んだ。

 蹴りの威力に、蹴りの反動が反射された力をも加算された衝撃。

 それは容易く璃紗の末端を削り飛ばしたのだ。

「く……そッ!」

 璃紗は痛みに顔を歪めながらも、片足だけで一気に距離を取る。

 雲母は――追撃しない。

 ただフラフラと立ち上がるだけだ。


「やっぱり死ねない」


「わたしが死ぬためにはやっぱり――」


「――――世界の真実に到達しないといけないんだ」


 今回の雲母の戦い方は、彼女が現役だった頃に近いです。

 自身の攻撃行動を占い、その結果を上乗せした一撃で敵を倒す。

 ちなみに、当時の反射確率は10%程度なのであまりアテにできません。


 次回は『未来を見通す参謀と猫』です。未来予測VS未来予知でしょうか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ