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もう一度世界を救うなんて無理っ  作者: 白石有希
6章 崩落へのカウントダウン
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6章 10話 それぞれの戦場

 ついに戦いが始まります。

「……………………来たんだね」

 空き家の多い閑散とした住宅地。

そこで悠乃は静かに呟いた。

 その言葉は、背後にいる人物に向けてのものだ。

「――気付いていたのね」

 少女――美珠倫世は微笑む。

 大剣を携え、鎧を身に纏いながら。

 最強と呼ばれた魔法少女がそこに立っていた。

「そりゃあ……あそこまで魔力を向けられていたら気付くよ」

 一方、悠乃もすでに魔法少女へと変身していた。

 ――挑発だったのだろう。

 ここに来るまでの間、倫世は魔力を悠乃のいる方向に向けて放ち続けていた。

 戦意のこもった魔力。

 それに気付かないほど鈍感ではない。

 そして――似たようなやり取りが各地で起きていることに気付ける程度の実力はあった。

「分かれて戦いましょう、ってこと?」

 悠乃は尋ねる。

 今回、倫世たちはあえて分散して襲撃を行っている。

 本来であれば戦力の分散など悪手の手本のようなものだ。

 しかし《逆十字魔女団》のメンバーはそれぞれが一騎当千。

 単独で戦っても充分に戦果を上げられると判断したのだろう。

 ――もっとも、リスクが高いという事実は変わらないのだが。

 それでも、そうするべき理由が彼女にはあるのだろう。

「そうね、今日はこの町全体を舞台にしての全面戦争よ」

 倫世は笑みを崩さない。

 それは余裕。あるいは強者の風格か。

「……そっか」

 そう呟くと、悠乃は氷剣と氷銃を精製した。

 彼女は鋭い視線を倫世へと向ける。

「なら……ここは僕が抑える」

「あら。私を倒して、みんなの加勢に行かなくていいの?」

「必要ないよ」

 ――みんな、負けないから。

 そう悠乃は続けた。

 今回は想定外の襲撃ではない。

 悠乃たちにも心構えをする時間はあった。

 だからこそ、信じられる。

 友人たちは、誰一人欠けることなくこの戦いを切り抜けられると。

「そう。仲間を信頼しているのね」

「そうだ。信じているんだ。心の底からね」

 悠乃は腰を落として構える。

 美珠倫世の魔法は《貴族の血統(ノーブルアリア)》――武器召喚だ。

 その応用魔法である、彼女自身を中心とした軌道円状を複数の剣が高速周回する《円環の明星(ダ・カーポ)》は驚異の一言。

 一方で《円環の明星》は彼女を中心とした半径3メートル以内に侵入してくることはない。

 付け加えるのなら、ある程度距離を取ってさえいたのなら、悠乃の動体視力と反射神経でなんとか対応できる。

 つまり、彼女と戦う上で一番やってはいけないことは()()()()()()()()()()()()()だ。

 相手が万能なら、こちらの得意分野で押し切る。

 手札の多さは、弱点を突く手段の多さ。

 ゆえに、自分が最も隙のないと考えるスタイル――最強の手札で押し潰す。

 そんな単純な戦法こそが正解だと悠乃は結論付けた。

 悠乃は遠近共に戦える魔法少女だ。

 しかし、戦いの引き出しが多いのは――接近戦だ。

 遠距離からの攻撃だけとなるとどうにも単調さが否めない。

 《円環の明星》に勝てる遠距離魔法がないのなら、離れて戦う理由もない。

 そうして、悠乃が選んだのは――インファイト。

「はぁ!」

 悠乃は氷剣を振り下ろす。

 だが倫世はそれを軽く飛び退いて躱す。

(間合いを取りに来た――)

 悠乃の思考を呼んだのだろう。

 ゆえに倫世は悠乃が選ばなかった選択――遠距離戦に持ち込もうとしている。

 それは自分の強みを――幅広い能力で敵の弱点を的確に突けるという特徴を理解しているからこその立ち回りだ。

(でも、それは当然のことだよねッ……!)

 悠乃だって、同じ魔法を持っていたら同じ戦い方をする。

 端的にいえば――予想できている。

「《氷天華(アブソリュートゼロ)》!」

 悠乃は地面へと叩きつけられた氷剣に魔力を与える。

 すると倫世を追うようにして地面が凍ってゆく。

 蛇のように伸びる氷は跳んだ倫世の足元を追い越し、彼女の背後に氷壁を生み出した。

「逃がさない」

「《円環の明星》」

 倫世は魔法で一気に氷壁を斬り崩す。

 だが――それは紛れもないロスだ。

 その数瞬で、悠乃は再び倫世の懐に入り込む。

「せいッ!」

「ッ……!」

 倫世は氷剣を防ぐ。

 彼女の表情は歪まない。

 だが、悠乃を射抜く眼差しは真剣なものだった。

 しかしそれは悠乃も同じこと。

「今度は……負けないから……!」

 彼女にとってこれは、リベンジでもあるのだから。



(――これは)

 倫世は大剣を盾にして氷剣を弾く。

 何度も繰り返されるやり取り。

 その中で、倫世は違和感に気付いていた。

()()()()()()――()()()()

 普段と比べて、悠乃が振るっている氷剣が短い。

 ちょうど小太刀にあたる長さだ。

 その意図は――()()()()()()()()

 刃渡りが短くなることでリーチは狭まるが、軽い刀身はコンパクトなスイングを可能とし攻撃の回数が増える。

 それは――大剣とは正反対の性質だ。

(徹底して、私の弱点を突くわけね)

 大剣の魅力は、その一撃に宿る圧倒的な威力。

 しかしそれも、存分に振るえたらの話。

「く……!」

「はぁ!」

 倫世が大剣を振るい始めた直後――スピードが乗るよりも早く悠乃の氷剣が大剣の勢いを相殺した。

 結果として、倫世は大剣を振るうことができず守勢に回らざるを得ない。

「まだまだッ」

「っ!?」

 悠乃が叫んだ。

 その時、倫世の視界が回転した。

 ――()()()()()()()()()()()

(ッ――足が)

 突然、足元のグリップが失われ尻餅をついた倫世。

 普段からはありえない失態に動揺が走る。

 当然ながら、歴戦の魔法少女である倫世がこのような初歩的なミスをすることなどあるはずがない。

 原因は――

「――地面を……!」

 地面が凍っている。

 スケートリンクのようになった戦場こそ、倫世が転倒した理由だった。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 金属は滑りやすい。

 鎧姿の倫世が、氷の上で満足に動けないのは当然のことだった。

 それを見越して、悠乃は戦場を銀世界に変えたのだ。

「はぁ!」

 悠乃は氷剣を振り下ろす。

 倒れたままの倫世は体を横に滑らせて剣閃を躱す。

 そしてそのまま立ち上がると、大剣を横に薙いだ。

 悠乃はそれを軽く跳び回避。

 その動作は普段と変わりなくスムーズだ。

 ――氷は彼女の魔法である。

 氷上での戦いなど、彼女にとって特別な技能ではないのだろう。

「ぅ……!」

 挙句の果てに、大剣の勢いに振り回されて倫世は再び転びかける。

(これじゃ、満足に踏ん張ることもできないわね……!)

 踏ん張れなければ、大剣の重さに振り回されるのは倫世自身だ。

 この滑りやすい戦場は、明らかに倫世の力を削ぐための魔法だ。

(それに――)

 倫世は視線を落とす。

 彼女の甲冑――その表面には氷は張っていた。

 攻防の合間に、悠乃が冷気を吹きつけていたのだろう。

 金属は熱しやすく冷めやすい。

 冷気を与え続けられたのなら――

「動きが鈍ってきたんじゃないかな?」

 悠乃はそう尋ねてくる。

 冷え切った鎧に包まれた倫世の体温はどんどん下がっている。

 激しく動いているはずなのに体がかじかんでゆく。

 そうして低下してゆく運動能力。

 それだけではない。

 表面が凍りついていることで金属同士が張り付き、鎧の関節部などが動かしづらい。

 鎧の挙動に妙な抵抗感があるせいで、体が動き始めるまでに一瞬のラグが生まれてしまっている。

 それらの要素が倫世の反応速度を落とし、悠乃へと反撃する機会を掴めずにいた。

(一度戦い方を見せた分、やっぱり対策は取ってくるわよね)

 悠乃も世界を救った魔法少女だ。

 戦いのための頭脳は熟練のものだろう。

 そんな彼女に戦法を見せてしまった以上、こうなることは仕方がない。

「まあ良いわ」

 倫世は微笑む。

 追い込まれながらも余裕の笑みを浮かべて見せる。

「貴女の努力も、戦術も、覚悟も」


「すべて――微塵に砕いて見せるわ」


倫世は左手の籠手で氷剣を防ぐ。

氷が伝播して左腕が凍るが気にしない。

その一瞬の余裕。

そんなタイミングで、倫世は大剣を逆手に持ちかえる。

そして――


「――《救世の乙女の剣(ラ・ピュセル)》」


 大剣を地面に突き立てた。

 《救世の乙女の剣》。

 魔力を大剣に注ぎ込み、増大した剣撃を撃ち放つ魔法だ。

 そんな魔法で、地面を突き刺した。

 魔力の斬撃により、周囲が地面ごと覆る。

 めくれ上がる道路。

「ぐぅ……!」

 氷の地面は砕け、悠乃もガレキと共に吹き飛ばされてゆく。


()()()()()()()()()()()()


 互いの距離は10メートル。

 完璧な間合い。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 そんな距離感だ。

「しま――」

「《円環の明星》」

 倫世は魔法を発動させる。

 そのまま周回する剣で悠乃の体を八つ裂きにしようとしたが――


「ッ!?」

 

 反射的に、倫世は魔法を解除してその場を離れた。

 結果としてその判断は――当たりだった。

「おや。外れちまったか」

 先程まで倫世がいた場所には、()()()()()()()()()()()()

 男はサーベルを振り抜いた姿勢で意外そうな表情をしている。

 もしも倫世が本能的に避けていなければ、あの刀は倫世の腰を裂いていたことだろう。

「偶然ね。あなたがここにいただなんて」

「だな。他の奴に任せて良い相手じゃなかったから嬉しい誤算だ」

 男――トロンプルイユはそう言って笑う。

 そんな彼に、倫世は微笑み返した。

「他の奴に任せて良い相手じゃない、ね。そんなことないと思うわよ?」


「だって、誰が相手でも私は負けないもの」


「……そうかい」


 蒼井悠乃。

 美珠倫世。

 トロンプルイユ。

 3人の強者が戦場に揃った。


 こちらは各陣営の代表者対決となります。

 現時点での予定としましては――

 悠乃VS倫世VS玲央

 璃紗VS雲母

 薫子VS寧々子

 エレナVSリリス

 美月、春陽、マリアVSキリエ、ギャラリー

 といった感じですかね?

 

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