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もう一度世界を救うなんて無理っ  作者: 白石有希
6章 崩落へのカウントダウン
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6章 5話 磔の聖女

前哨戦スタートです。

「……道に迷いましたねぇ」

 路地裏でそう男性はぼやいた。

 世良マリアたちの眼前にあるのは――廃墟だった。

 崩れ落ちそうな石造りの建物。

 どう見ても営業中の喫茶店ではない。

「んんー。地図を確認していたはずなんですがねぇ」

 男性はケータイの画面を見て首をひねっている。

 そして男性は廃墟の中へと歩いてゆく。

「それにしても良い廃墟ですね」

「良い廃墟って……何?」

 そう言いつつもマリアは男性についてゆく。

 穴の開いた天井から日光が差し込んでくる。

「いやはや。年を取りますと、これくらい枯れた場所のほうが落ち着くのですよ」

「不思議なのね」

 周囲を見回すマリア。

 とはいえ、全盛の姿を失った光景というものも不思議な魅力があるのかもしれない。

 郷愁とでもいうべきか。

「おや。そちらに何か書いてありますね?」

 ふと男性はそう言った。

 廃墟だからと落書きをした人物がいたのだろうか。

 マリアは男性が示した方向を振り向いた。

 確かにそこには絵が描かれていた。


「ぁ…………」


 それは――女性だった。

 磔にされた女性だ。

 そして何よりも問題だったのが――

「……私?」

 描かれた女性の容姿が――()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 トン。

 背中を押された。

 不意の出来事に、抵抗もできずにマリアはつんのめった。

 眼前に迫る壁。

 このままでは顔面を打つことだろう。

 故にマリアは反射的に両手を前に突きだした。

 そこで異常事態が一つ。

「え?」

 両腕が――()()()()()()()()

 何の抵抗もなく。すり抜けた。

 腕だけではない、顔も、首も、胸も、腰も。

 壁などなかったかのように、マリアはその場で四つん這いの体勢となった。

(これは……おかしい……)

 現在、()()()()()()()()()()()()()()

 だが壁の感触は微塵も感じられない。

 まるで自分が幽霊にでもなったかのようだ。

(このままではいけない)

 そうマリアの本能が警鐘を鳴らした。

 だから急いでマリアは体をひねり、元の場所に戻ろうとするが。

「《我関せず(ノータッチ)》。解除」

「ッ!」

 突如、マリアの体が動かなくなる。

 ()()()()()()()()()()()()()()()

 先程までなかったはずの壁の存在が現実のものとなる。

「おやおや。驚きましたか?」

 男性の声が聞こえる。

 さっきまでいた男性の声。

 しかしそれは落ち着いた男性のものではなかった。

 もっと嗜虐的で、愉悦に染まった醜悪な声だ。

「そういえば、まだ名乗っていませんでしたね」


「私はミュラル。《前衛将軍(アバンギャルズ)》が一人でございます」


 そう名乗る男――ミュラル。

 マリアを嘲笑う男。

 もっとも彼の表情はマリアの位置からでは確認できないのだが。

「どうですか? 私の《我関せず》は」

 男性は壁越しにそう言った。

「ん……」

 マリアの臀部に違和感が走る。

 ミュラルの手が、彼女の肌を滑っているのだ。

「《我関せず》の能力は――()()()()()。私が触れている相手の体を透過状態にする能力です。もちろん、触れている状態でも透過を解除して、このように磔にすることも可能ですが」

(――まずい)

 マリアは状況の悪さを理解する。

 現在、マリアは腰を壁に固定されている。

 それだけではない。

 先程彼女が元の場所に戻ろうとした時、伸ばした左手が壁と重なってしまったのだ。

 つまり、今のマリアは腰と左腕が壁と一体化していて動けない。

 何より――()()()()()()()()()()()()()()

 それはマリアの攻撃手段が失われたことを意味する。

 状況は限りなく詰んでいる。

「ぃッ……!」

 マリアは小さな悲鳴を漏らした。

 腿のあたりに刺すような痛みを感じたのだ。

「以前から《怪画(カリカチュア)》の間では、人間の肉派と魂派で意見が分かれているんですがねぇ。私は断然肉派です」

 ――そちらのほうが、痛がって面白いですからねぇ。

 そう言いながらミュラルはマリアを嬲る。

「――変身」

 このままでは一方的に殺されるだけだ。

 そう判断したマリアは変身した。

 服が弾け、光を纏う。

 次の瞬間には、ドレスを纏ったマリアの姿があった。

 レース生地に、ピンクから白へと移り変わるグラデーションが美しいドレス。

 彼女の右手には弓が握られている。

 ――世良マリアは異常ともいえる魔力量を誇る。

 だが弓という武器の性質上、片手が使えないマリアに攻撃手段はない。

 この状態からマリアが逆転するためには両手を解放するか、片手でもミュラルを倒す手段を考えるしかない。

「はッ……!」

 マリアは思い切り廃墟の壁を殴る。

 だが壁は砕けない。砂埃が落ちるだけだ。

「貴女は、魔力が多い反面、身体能力に恵まれていないタイプの魔法少女のようですねぇ」

 魔法少女にはそれぞれ得意分野がある。

 才能の総合値はあらかじめ決まっていて、そこからどう能力が振り分けられるのかで魔法少女としての性質が決まる。

 その理屈からいくと、世良マリアは明らかに魔力偏重の才能を持つ。

 魔法においては無類の強さを持つが、身体能力は人間より多少強い程度。

 それこそ壁一枚も殴り抜けないほど。

(壁を壊して逃げるのは難しい……)

 マリアは唇を噛む。

 魔法を使うには両手が必要だ。

 しかし、両手の自由を取り戻すことは困難。

 突破口が見つからない。


「それでは、その潤沢な魔力を食らうとしましょうか」


 最後にして最新の将軍ミュラルの戦闘となります。


 次回は『運命に導かれて』です。

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