6章 3話 5年前の真実
ギャラリーとの対談後編です。
「――……僕たちに……四人目なんていないよ」
そう悠乃は搾り出した。
だがその答えがギャラリーには不服だったらしく。
「嘘」
そう彼女は言い切った。
「キリエの事は好きじゃないけど、あの場で嘘を吐くタイプじゃないわ。それに、あなたたちが3人だけで先代魔王を倒せたという話に違和感があるのも事実」
ギャラリーはそう続ける。
仕方がないことだろう。
彼女の推測は的を射ている。
実際、悠乃たち3人では先代魔王に一撃を加えることさえできなかったのだから。
「本当に、僕たちに四人目はいないよ」
――ただ
「――ただ、手を貸してくれた誰かは……いた」
悠乃はそう口にした。
彼の意識は、過去へと遡ってゆく。
5年前の戦いへと。
「姿は見ていない。でも、声が聞こえたんだ」
「声……?」
「女の子の声だった」
悠乃は過去を振り返りながらそう答えた。
「彼女に声をかけられたとき、戦況が一気に変わった」
「僕たちは一斉に《花嫁戦形》へと至り、先代魔王の力は奪われた」
その出来事は唐突だった。
悠乃の戦力は増強され、先代魔王は能力の大半を失った。
そうして戦いは拮抗したのだ。
――ゲームバランスを調節したかのように。
そのおかげで悠乃たちは先代魔王を打倒できた。
「――先代魔王を封印したっていうのは本当なのね?」
「うん……僕たちは先代魔王を殺していない。封印するのが限界だった」
あまりにも先代魔王は強かった。
固有能力と魔力を根こそぎ奪われてなお、彼の命を奪えなかった。
だから――封印したのだ。
「誰が封印したの?」
そうギャラリーが聞くのは必然だろう。
悠乃たちの中に封印魔法を使えるものはいない。
つまり、封印を行ったのは4人目と考えるのが自然なのだから。
「――璃紗……マジカル☆ガーネットだよ」
「マジカル☆ガーネット……?」
悠乃の言葉にギャラリーは眉を寄せる。
朱美璃紗は――インファイターの魔法少女だ。
封印といった絡め手には不向きに思えるのだろう。
「戦いの最中、声が聞こえた時に――封印の力も貰ったんだ」
思えば、あの戦いは御都合主義なんてレベルではない。
力を与えられ、敵は力を削がれた。
それでなお埋まらない戦力差は、封印術によって補われた。
まるで、勝つことがあらかじめ決められていて――無理矢理にその過程を修正したかのようだった。
「なら――マジカル☆ガーネットが封印体を持っているの?」
封印を行ったのが璃紗と知り、ギャラリーはそう問いかけてくる。
だが悠乃は首を横に振る。
「ううん。僕たちの誰も、先代魔王の封印体を持っていないよ」
正確には、持ち帰る余裕などなかった。
「戦いの余波で人間界と《怪画》の世界をつなぐゲートは壊れかけていたからね……封印体を回収する余裕もなかったんだ」
――だから、封印体はあの場に放置してきた。
放っておいたところで、解除できる次元の封印術ではなかったから。
「ということはつまり……あの場にいた誰かが回収していてもおかしくないということかしら?」
ここで疑惑を向けられるのは――謎の声だ。
あの場にいて、誰にも見られていない人物。
均衡の崩れた戦いに介入し、バランスを調節した人物。
彼女が先代魔王の封印体を持ち帰っていたとしてもおかしくない。
考え方を変えれば、先代魔王の封印体を手に入れるために悠乃に力添えしたとさえ考えられる。
「そうかも……しれない」
悠乃は言葉を濁す。
あの封印体がどうなったのか彼は知らない。
断言などしようがないのだ。
(5年前――)
久しく思い出すことはなかった過去。
蒼井悠乃にとって、5年前の戦いには辛いことが多かった。
希望がなかったとは言わない。
そこには出会いがあった。
朱美璃紗。金龍寺薫子。
かけがえのない友人と出会えた。
だが、最後の戦いで魔王グリザイユを殺したと思った時――それまでの戦いは悔いの残るものとなった。
だから5年間、悠乃が過去に思いを馳せることは極端に少なかった。
――ゆえに、思い出すのに時間がかかった。
「あ…………」
思わず悠乃の口から声が漏れた。
彼の反応に、ギャラリーが首をかしげる。
「な……何よ」
「思い出したんだ」
悠乃は一つの事実を思い出していた。
答えへと至る一助となるかもしれない事実を。
「あの戦いの時、言っていたんだ」
その時は必死だったからそれほど疑問には思わなかった。
しかし、あの戦いの中で先代魔王は意味深な言葉を言っていた。
「先代魔王――ラフガ・カリカチュアが言っていたんだ」
それは確か――
「『女神。――お前の仕業か』って……」
ついに明かされた先代魔王の名前。
そして彼は、自力で世界の真実を知った数少ない人物です。




