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もう一度世界を救うなんて無理っ  作者: 白石有希
5.5章 過去への微睡み
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5.5章 1話 黒猫は月夜に鳴いて

 ついに始まる回想編第一弾。寧々子編です。

「なんでそんなことするのさッ」

 サイドテールの少女――犬飼アリサは月夜に叫んだ。

 月光に照らされた建物の屋上。

 そこには黒い少女がいた。

「答えろ! 怪盗キャッツアイ!」

 黒い着物に、猫のような耳を生やした少女――怪盗キャッツアイはにやりと笑う。

「封印石を返して!」

 アリサは怪盗キャッツアイにそう叫ぶ。

 犬飼アリサは魔法少女だ。

 二人の仲間と共に《封印石》を集めている。

 それには世界を守る聖獣が封印されているのだ。

 その封印石を集め、世界の平和を取り戻すのがアリサの任務。

 だが、アリサには敵がいた。

 それこそが怪盗キャッツアイ。

 彼女は魔法少女でありながら、アリサが手に入れた封印石を奪い、世界を混沌に陥れようとしている。

「ったく、今日という今日はとっ捕まえるわよ」

 そう言って小柄な少女――有川大河が歩み出す。

 彼女は木刀を構え、怪盗キャッツアイを睨む。

 有川大河。

 彼女はアリサたちの中で最年長の魔法少女。

 もっとも、怒りっぽいせいであまり大人という雰囲気はないが。

「『捕』まるまでの『(つか)』の間の悪行だった。そう諦めて欲しい」

 黒髪ロングの少女――羽鳥翔子も戦闘体勢に入る。

 ……いつものくだらないシャレは健在だが。

 それがなければかなりの美人なだけに残念でならない。

「答えろ……ね」

 怪盗キャッツアイは顎に指を当て、思案する。

 そして彼女は招き猫のように手を振ると――

「嫌にゃん。答えは未来に教えてもらうにゃん♪」

 そう言い残すと、キャッツアイは屋上から飛び降りた。

「……させないッ」

 アリサは右手を突き出す。

 そして掌に魔力を収束させ――

「《猟犬と餌(ハウンドドッグ)》」

 放たれる魔力弾。

 その軌道は――曲がる。

 これはターゲットを追いつめる追尾弾だ。

「にゃんにゃんにゃん」

 四つん這いで夜の街を駆け抜けるキャッツアイ。

 彼女はギリギリで頭上からの追尾弾を躱してゆく。

 すると追尾弾は道路と接触してしまい誤爆する。

 追尾弾が軌道を曲げるまでのラグ。それを利用して、追尾弾を回避したのだ。

「もう……イタズラ失敗……!」

「ったく、アテにならないわねッ」

 アリサを追い抜いてゆく大河。

 彼女は大きく息を吸い――吠えた。

「うがあああああああああああああッ!」

 震える空気。

 それがキャッツアイに届いたとき――

「ぎにゃぁッ!?」

 転倒するキャッツアイ。

 それこそが大河の魔法《獅子咆哮(クラウンクライ)》の力だ。

 相手の体を硬直させる咆哮。

 それによって、大河はキャッツアイの逃走を妨害したのだ。

「『とり』あえず、『トリ』はこの羽『鳥』が……『取り』掛かる」

 そう宣言したのは翔子だ。

 彼女は背中に白い翼を生やし、天へと飛翔する。


「選り『取り』見『取り』の《風見『鶏』》」


 矢が――射出される。

 空中で矢が複数に分裂する。

 そしてそのすべてには――鳥の翼が生えていた。

「そーれ」

 翔子は両手を振るう。

 それに合わせ吹き荒れる暴風。

 風に乗って矢の軌道が変化した。

 まさに変幻自在。

 四方からキャッツアイを襲う矢の弾幕。

「わにゃにゃにゃにゃん!」

 慌てて走るキャッツアイだが、彼女に攻撃は当たらない。

 紙一重で躱し続けている。

(いつもこうだ……()()()()()()()()()()()()()()()()()……!)

 そうして、最終的には逃げられる。

 これがいつもの展開だった。

(だけど今日こそはイタズラ成功だ……!)

「《猟犬と餌》!」

 アリサは追尾弾を撃つ。

 ――わざと弾速を落として。

「どこまで逃げても、この追尾弾がある限りアタシはお前を見失わないッ」

 追尾弾とキャッツアイの距離は開いてゆく。

 だが、それこそが狙い。


「それとも、()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」


 アリサは笑みを浮かべた。

 このままキャッツアイが逃げれば追尾弾は彼女の居場所を示し続ける。

 それを防ぐには、彼女自身がアリサたちの元に戻るしかない。

 居場所がバレたままの逃走か。

 掴まるリスクを負っての接近か。

 そんな二択を迫ったのだ。

「どーするのかなー?」

「にゃにゃにゃ……性格悪いにゃん」

「イタズラ成功☆」

「ぐぬぬぬ……」

 キャッツアイは走りながらも忌々しげに追尾弾を睨む。

 だが選択しなければならない状況は変わらない。

(場所がバレ続ける以上、最終的に怪盗キャッツアイはこっちに戻って来なきゃいけない)

 だから、そこがチャンス。

 それを理解したうえで、アリサたちは追尾弾を追いかけ続ける。

 追尾弾を追い抜く必要はない。

 だってすぐに、キャッツアイはここに戻って来るのだから。

 アリサたちは待ち構えていれば良いのだ。

「怪盗キャッツアイはこれくらいのピンチで負けないにゃん」

 キャッツアイ目が覚悟の色を宿す。

 そして彼女はその場で急ブレーキをかけ――

「《猫踏まず(キャッツアイ)》」

 小石を拾い、投げた。

 風を斬って石は直進する。

 そして投石は正確に追尾弾の軌道を読み切り――接触した。

 誤爆する追尾弾。

「うっそぉ~~」

 アリサは力なく立ち止まる。

 追尾弾を潰しにキャッツアイが戻ってくることを前提にした作戦だったのだ。

 だから速度を緩めていたアリサと本気で走っていたキャッツアイの間にはもう追いつけないほどの距離が開いてしまっていた。

 今から全力で走ってももう追いつけない。

 ――作戦は失敗だ。

「お、おのれー……。次はイタズラ成功させてやるんだから……!」

 アリサは見えなくなったキャッツアイの背中にそう誓うのであった。



「やっと追いかけっこはお終いにゃん」

 壁に身を預け、怪盗キャッツアイ――三毛寧々子は変身を解除した。

 三毛寧々子は魔法少女だ。

 ――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「アリサ。また強くなってたにゃん」

 犬飼アリサ。

 先程まで対峙していた彼女と寧々子はクラスメイトで――親友だ。

 もっとも、彼女は寧々子が怪盗キャッツアイであることなど知らないのだろうが。

 普通の――守るべき人々として認識しているはずだ。

「あーあ。やっぱり辛いにゃん」

 寧々子はぼやく。


()()()()()()()()()()()()()()()()()……さすがに傷つくにゃん」


 寧々子はアリサが騙されていると知っている。

 だから、彼女と敵対しているのだ。

 それが、アリサを救うと知っているから。

 一方で、真実を知らないアリサにとって寧々子は邪魔者でしかない。

 世界を救うために、排除すべき敵だ。

 そのすれ違いが、辛い。

「でも、アリサにはまだ真実は伝えられないにゃん」

(黒幕が分からない以上、下手に教えると危険にゃん)

 もしかすると、口封じのためにアリサが殺されるかもしれない。

 だから、彼女に真実を明かせないのだ。

 結果として、寧々子は真実を隠したまま封印石を奪取し、世界を救うために戦い続けていた。

 ……アリサに敵として憎まれたとしても。

「でも、あと少しの辛抱にゃん」

 残る封印石はあと一つ。

 それを集めてしまえば、アリサとも和解できる。

 こんな戦いの日々は終わるのだ。

「だからもう少し……頑張るにゃん」


「世界から……不安と恐怖を盗み切る日まで」



「ふにゃん……?」

 寧々子は目を開いた。

 見えたのは――品のある天井。

 少なくとも、寧々子の自宅ではない。

(そういえば、昨日は倫世ちゃんの家に泊まってたのかぁ)

 少しずつ蘇る記憶。

 昨日、寧々子たちは《逆十字魔女団》の方針について話していた。

 予定外のタイミングで黒百合紫が死んだことで、計画を実行するタイミングにも調整が必要と判断されたからだ。

 そして、帰宅が面倒になった寧々子は倫世に部屋を借り、そのまま泊まることにしたのであった。

「にゃぁぁ……」

 寧々子はベッドの上で伸びをする。

(それにしても……懐かしい夢だったにゃん)

 世界を救った頃の夢。

 今では良い思い出だが、過ぎ去った今だからこそそう言える過去。

 辛さや苦しさも、愛情や友情もあった戦場の記憶だ。

「それより気にすべきは、今日の会社にゃん」

 もっとも、今の寧々子は昔とはまた違った戦場に身を置いているのだけれど。

「バイバイお布団。またいつか寝かせてくれにゃん」

 自宅のものより5倍は高価であろうベッドの柔らかさを惜しみながらも、寧々子は部屋を出るのであった。


「あら。寧々子さん」

「倫世ちゃん」

 廊下を歩いていると、金髪の少女が現れた。

 少女――美珠倫世は高校の制服を着ていた。

 確か、近くでは一番の名門校の制服だ。

「倫世ちゃんは今日も学校かな?」

 寧々子が問いかけると、倫世は上品に微笑む。

「ええ。寧々子さんもお仕事よね? 頑張ってね」

 《逆十字魔女団》として活動している寧々子たちにも表の世界での生活がある。

 寧々子は会社員。

 倫世は高校生だ。

 平日となれば、各々がそれぞれの居場所へと向かってゆく。

 そんな日常は変わらない。

「倫世ちゃんも。学校でお友達と――」

「ぅ……」

「ぁ」

 寧々子は何気なく世間話をしようとして、失言を悟った。

(倫世ちゃん、友達いなかったにゃん……)

 さすがにここで「友達と仲良く」は酷すぎただろう。

 慌てて寧々子は言い直す。

「が、学校で良い成績を取れるように頑張るにゃん……!」

「え……ええ。が、頑張るわね……」

 若干引きつった笑みで返す倫世。

 どうやら致命傷は避けられたらしい。

 ――深手は負っていたが。

「それじゃあ、お互い頑張りましょうね」

 一応平静を取り戻したらしい倫世が寧々子の脇を通り抜けた。


「日常も――戦いも」


 そう言い残して。

(因果かなぁ)

 寧々子はふとそう思った。

(アタシはまた、誰かに憎まれながら戦っている)

 時が経っても、また繰り返していた。

(でも、まだやめられないのにゃん)


(――()()()()()()、その日までは)


 寧々子は窓から外の景色を一望した。

 広い庭園に朝日が差している。

 その光景に彼女は目を細め――微笑んだ。

(それでも――昔ほど寂しくないにゃん)

 理由は簡単だ。

 なぜなら――


(だって今のアタシは……一人じゃないから)


 簡単にいうと、寧々子の立ち位置は『敵だと思っていたら本当は味方だったキャラ』ですね。最後あたりで主人公たちが『自分たちが悪で、敵が正義だった』と気付くパターンの物語です。

 ちなみに設定としては、最終的に寧々子たちは和解して4人で協力しながら世界を救います。そして4人全員が生き残り、今でも頻繁に会っています。


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