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もう一度世界を救うなんて無理っ  作者: 白石有希
5章 悪魔の花が咲く頃に
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5章 21話 世界に巣食う大樹

 VS《魔界樹》決着編 (前編)です。

「これはキツいかなぁ」

 悠乃は空を見上げて嘆息した。

 そこにいるのは、天を衝かんばかりの巨大なグリーンガウン。

 大質量のそれは、足元を凍らせたくらいで進撃を止めはしない。

 触手のように伸びてくるツルは、一瞬にして氷壁を食い破る。

「とりあえずマリアは下がってて」

「――分かった」

 悠乃はマリアを下がらせる。

 今回、悠乃の役目はマリアを安全圏まで護衛すること。

 本来であれば彼女と離れるのは悪手でしかない。

 しかし、このまま一緒にいては余波で巻き込みかねない。

 だからこその決断だった。

「璃紗――!」

「分かってるよ。さすがに薫姉も、こうなったらあの木を切り倒すよーに言うはずだしな」

 悠乃の言葉に璃紗は頷く。

 最初に薫子から出されていた指示は、あの大木――イワモンが言うには《魔界樹》というらしいが――を無視して、町中に散らばったグリーンガウンを掃討すること。

 不用意に《魔界樹》を刺激することを避けたのだ。

 とはいえ、今となっては街にいたグリーンガウンが集結し《魔界樹》の一部となっている。

 そうなればこの場に薫子がいたとしても、《魔界樹》の破壊に踏み切ったはずだ。

「一撃で焼き切ってやるよッ!」

 璃紗は全力で跳びあがった。

 そして――

「《既死回(デスサイズ)帰の大鎌(・リザレクション)》!」

 純白にして潔白の花嫁衣装を纏う。

 跳ね上がる魔力。

 それを炎に変え、大鎌に収束させた。

 その熱量は破格。

 柄を握っている璃紗自身の腕をも焼き、骨に至るほどだ。

 朱美璃紗の《花嫁戦形》の能力は『超速再生』だ。

 それがあるからこそ実行可能な自爆技。

「《大焦熱炎月》ッ!」

 回復手段を持たずに使えば、両腕が一生使えなくなりかねないほどの大熱量を璃紗は振り抜いた。

 豪炎が《魔界樹》に直撃する。

 溶けるようにして穴が開く《魔界樹》。

 しかすすぐに他の場所からグリーンガウンが伸びてきて修復されてゆく。

「マジかよ……。効いてはいるみてーだけど。あれじゃ結構な回数ぶち込まねーといけねーな」

「…………できそう?」

「無理だな。その前に再生限界が来ちまう」

 璃紗は首を横に振った。

 超速再生にも限界はある。

 短時間に何度も傷つけば、再生速度は落ちてゆく。

 それに加え、体力と魔力は回復しないのだ。

 先に限界を迎えてしまうのは璃紗である事は明白だった。

「最低でもあと三人は同じくらいの火力の奴がいるだろーな」

「三人……」

 悠乃は顔を曇らせる。

 璃紗は悠乃たちの中で最大の火力を誇る。

 彼女に準ずる高火力の魔法を扱える人物をあと三人揃えるなど無茶だ。

「そーいえば、イワモンと連絡とってたろ? なんか言ってなかったのか?」

「《魔界樹》には()()()()――そう言ってた」

 核。

 それは《魔界樹》にとっての中枢らしい。

「――どこにあるんだ?」

「分からない。常に移動してるって」

「つまり、あれを削らねーことにはどうしよーもねーのか」

 ある程度の所まで破壊しなければ核を探しようがない。

 結局のところ、火力不足が問題となるのだ。

「本来なら《魔界樹》の内部に入れるらしいんだけど」

「それっぽいのはねーな」

「多分、グリーンガウンが塞いでいるんだと思う」

 黒百合紫はかつて《魔界樹》を破壊している。

 なら当然《魔界樹》の弱点も理解しているだろう。

 だからこそ、内部から核を破壊するという手段をあらかじめ潰しておいた。

 そう考えるのが自然だ。

 つまり、これから悠乃たちは――正攻法ではない手段で《魔界樹》を打倒しなければならないということだ。

「《敗者の王(グランドグレイ)》」

 悠乃たちとは別方向から灰色の奔流が《魔界樹》を襲う。

「エレナ……!」

 遠くから飛んでくる灰色の少女の名を悠乃は呼んだ。

 エレナは二丁の拳銃から灰色の炎を噴射し、こちらへと向かってきた。

「薫子からの伝言じゃ。『わたくしは街にグリーンガウンが残っていないか確かめます。悠乃君たちは、全員であの大樹を破壊してください』――じゃ」

「薫姉……」

 薫子は大火力の攻撃手段を持たない。

 だがグリーンガウンを倒すことはできる。

 ゆえに彼女はグリーンガウンが残っていないかを確かめることにしたのだ。

 火力を持つ他の魔法少女が《魔界樹》の伐採に注力できるように。

「それじゃあ――」

 協力して《魔界樹》を破壊しよう。

 そう悠乃が言いかけた時、天から声が聞こえた。


「はぁぁぁぁぁぁッ!」


 空から少女が落ちてくる。

 ロックファッションを身に纏い、()()()()()()()()

「キリエ・カリカチュアッ……!」

 突然出現した少女――キリエを見て悠乃が驚愕の声を漏らす。

 彼女は《怪画(カリカチュア)》の残党軍。その中でも幹部に位置付けられる《前衛将軍(アバンギャルズ)》の一人だ。

 持つ能力は――絶対切断。

「うん。予想はしていたけど、斬っても戻るみたいだ」

 キリエは着地すると《魔界樹》を見上げて頷く。

 現在、大樹は縦に大きく裂けている。

 だがすでに再生が始まっており、このまま切り刻もうとも伐採には至らないだろう。

「――縦に斬っても意味がないんじゃないかしら」

「確かに。でも、横に斬ったとして、切断しきる前に再生してそのまま内部に閉じ込められかねないからね。安易に試すべきじゃないだろう?」

 キリエの背後に黒雲が現れ、そこからピンク髪をツインテールにした少女――ギャラリーが現れる。

 彼女もまた《前衛将軍》の一人だ。

 将軍が二人出現した。

「オイオイ。まさかアイツらと戦いながらとか言うんじゃねーだろうな」

 璃紗は嫌そうに顔を歪める。

 将軍はいずれも強敵だ。

 彼女たちを相手にしながら《魔界樹》を斬り倒すなど困難だ。


「ああ。()()()()()()()()()()()()()()。気にすんな」


「あ……」

 そんな悠乃たちのもとに降り立った燕尾服の男が一人。

 彼は泣き面と笑顔が別たれた仮面をかぶっており、素顔は見えない。

 しかし悠乃は知っている。

 彼は残党軍最強の男トロンプルイユであり――悠乃のクラスメイトである加賀玲央だ、と。

「ウチの女性陣はそっちに貸し出すからよ。とりあえず《魔界樹》をぶっ壊しといてもらうけど構わねぇか?」

「――玲央……トロンプルイユはどうするの?」

 悠乃は問いかける。

「オレがいても斬れねぇだろ?」

「まあ……」

 玲央が持つ能力は幻覚だ。

 対人戦では強力無比。

 しかし火力という意味では力不足だ。

「つーわけで、オレたちは露払いでもして来るからよろしく頼むぜ」

 そう言い残し、玲央が霞となり消えてゆく。

「……たち?」

 悠乃が知る限り、生きている《前衛将軍》は三人。

 となればキリエ、ギャラリーがこちらに参加する以上、露払いをするのは玲央一人のはずなのだが。

 まるで他にも《怪画》がいるかのような口ぶりだった。

(……考えても仕方ないか)

 今大切なのは、《魔界樹》についてだ。

 悠乃はふと浮かんだ疑問を頭の片隅に追いやった。

「なんか釈然としないけど――」

 悠乃は《魔界樹》へと振り返る。

 現在、キリエが獅子奮迅の勢いで何度も切り刻んでいる。

 だが斬られた端から再生しており《魔界樹》が崩壊する兆しはない。

 やはり一人で倒せる危機ではない。

「共同戦線……なのかな?」

 悠乃たちも《魔界樹》との戦いに身を投じてゆくのであった。



「――違う」

 世良マリアは走った。

 逃げるように言われたから。

 この場所は危ない。

 戦いに巻き込まれる危機がある。

 だからここでマリアが逃げるのは合理的な判断なのだ。

 なのに――

「これは――()()()()()()()()()()()()

 一歩ごとに違和感が積もってゆく。

 そしてついに、マリアは足を止めた。

 振り返る。

 氷。炎。様々な魔法が飛び交っている。

(運命に導かれている)

 マリアはそう感じた。

 自分が向かうべきは――あちらだと。

 本能が叫んでいた。

 一歩。

 マリアは来た道を戻った。

「やっぱり……」

 足が馴染む。

 これこそが自分の生きてきた道だと実感できる。

「――運命に導かれている」

 理由は分からない。

 だが、マリアは駆け戻った。

 あの戦場に――運命があると信じて。



「やっぱり全員でも削りきれない――」

 悠乃は表情を険しくした。

 蒼井悠乃。朱美璃紗。灰原エレナ。ギャラリー。キリエ・カリカチュア。

 ここには破格の戦力が揃っているのだ。

 それでも《魔界樹》を攻略できない。

 効いてはいる。だが、終わりが見えない。

 いずれ魔力が尽きてしまえば、打つ手がなくなってしまうだろう。

「ねえギャラリー。あれは固定できないの?」

 ギャラリーには視界を空間ごと固定する能力がある。

(《魔界樹》を固定して、全員で黒百合紫を倒しに行けばあるいは――)

 そう考えて悠乃はギャラリーに尋ねた。

 それに対する彼女の反応は――

「無理。固定の範囲は視界に限定されるのよ? あんな大きいもの全部入らないもの。入っても、消耗が激しくて体も魔力も耐えきれないわ」

「そうか……」

 当然といえば当然だ。

 固定する範囲が大きければ、コストも増える。

 ギャラリーの言い分はもっともだった。

「はぁッ!」

 キリエが回転しながら《魔界樹》に突撃した。

 絶対切断の竜巻が大樹を貫通する。

「うん。さすがにこれじゃ、今日中に核を破壊するのは難しいね」

 キリエは嘆息する。

 彼女の絶対切断を利用し、《魔界樹》の内部にある核を破壊する。

 それでも攻略は可能だが、核の位置が分からない。

 常に移動し続けるそれをキリエが掘り当てるまでにどれほど時間がかかるかなど想像もつかない。

 有効な手立てを用意できていないのが現状だった。

(なら黒百合紫にメンバーを割くべき……?)

 そして、根本から《魔界樹》の活動を停止させるべきだろうか。

 そこまで悠乃が思考した時、《魔界樹》が動き始めた。

 枝が蠢くと、大量の鎗となり降り注ぐ。

「《炎月》」

「《敗者の王》」

 璃紗とエレナが炎で鎗の大部分を焼き払った。

 しかし少なからず炎の壁を抜けてくる枝はある。

「せいッ」

「《虚数空間(スペースホロウ)》」

 悠乃が氷壁で防ぎ、あるいはギャラリーが空間門で枝を別の場所に飛ばした。

(やっぱりメンバーは減らせない)

 《魔界樹》は頻度こそ少ないが攻撃をしてくる。

 そして、その攻撃は暴力的で苛烈だ。

 今のメンバーが協力してやっと止めきれるほどに。

 ここで紫を倒すために誰かを派遣すれば、こちらの戦線が崩壊しかねない。

(多分、薫姉は最終的には黒百合紫を倒すために動くはず)

 火力的に、薫子が向かうべき戦場はここではない。

 そう彼女も考えているはずだ。

(つまり、なんとか持ちこたえていれば隙は必ずある)

 そう悠乃は己を鼓舞した。

 その時――彼女の足首に根が巻き付いてきた。

「地面からッ……!?」

 悠乃は想定外の状況に動揺する。

 だが、考えれば至極当然のことなのだ。

 植物なのだから根がある。

 あれほど大きな大樹なら、悠乃の足元まで根が張っていてもおかしくない。

 ただ、《()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 その警戒網の穴を縫って、根は悠乃を捕えたのだ。

 悠乃だけではない。

 ここにいた全員が、すでに根によって拘束されていた。

「邪魔臭いなぁッ……!」

 苛立ち紛れにキリエは鉤爪を振るう。

 そうして根は断ち切られた。

 しかしこれまで以上の物量で枝が彼女を襲う。

 既にほかの面々を捕えたことで、彼女へと向けられる攻撃が増えてしまったのだ。

 そうなればさすがにキリエも対処しきれず、両腕を絡めとられてしまう。

 彼女の能力は絶対切断。

 だが、腕を振るえなければなんの威力も発揮しない。

「《虚数空間》」

 一方、捕えられていたギャラリーは空間転移で拘束を脱した。

 だがすぐに殺到する枝に捕らわれ――また転移で抜け出す。

 それを繰り返すも、空間転移を連発する際のラグの度に捕らわれる。

 無為に消費してゆく魔力。結局ギャラリーは観念したように枝の拘束を受け入れざるを得なくなってしまった。

 悠乃たちは《魔界樹》のもとへと引き寄せられてゆく。

 近づいてくる大樹。

 そして、《魔界樹》の表面に体を押し付けられた。

 するとさらに大量のツルが伸び、悠乃たちを厳重に縛ってゆく。

「――結構マズいかも」

 悠乃はうめく。

 《魔界樹》の生態はよく知らない。

 だが、あまり安全な状況には思えない。

 むしろ、捕食される直前のような気分だ。

(全然抵抗できない……!)

 悠乃が全力で足掻こうと、体を戒める触手は動かない。

 抵抗はしている。拮抗しないのだ。

 それほどに《魔界樹》が持つパワーはすさまじい。

「……ぬぅ」

 エレナは表情を歪める。

 両手を絡めとられているせいで、彼女は銃口を動かせずツルを焼き切ることもできない。

「ぅぅ……」

(持ちこたえるなんて場合じゃない……!)

 悠乃は唇を噛んだ。

(今、逆転の一手が必要なんだ……!)

 このままでは悠乃たちは《魔界樹》に取り殺されて終わりだ。

 だから今、起死回生の一手が――


「――これが、運命の導き」


 閃光が《魔界樹》を貫いた。

 一条の光――なんてものではない。

 それこそSF映画でも出てきそうなほど極太のレーザーだった。

 暴力的な魔力によって《魔界樹》がこれまでになく損傷する。

「――《オールマイティ》」

 閃光の出所を悠乃が目で追うと、そこには一人の少女がいた。

 ピンクの髪を揺らし、弓矢を構える少女が。

「……マリア?」

 それは、その魔法少女は間違いなく――世良マリアだった。

 初めて会った時の衣装を纏い、彼女はそこに立っていた。

 状況から考えて、今の魔法はマリアのものだ。

(見つかった――)

 《魔界樹》を倒すための大火力。

 それを持っている人物が現れた。

 

(これが……逆転の一矢だ……!)


 悠乃たちがやろうとしているのは、正当な手段を用いないラスボス討伐です。

 そのため、本来よりもかなり多くの戦力が要求されます。


 ちなみに、マリアの魔法名がカタカナだけなのには理由があります。


 それでは、次回『逆転の一矢』です。

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