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もう一度世界を救うなんて無理っ  作者: 白石有希
5章 悪魔の花が咲く頃に
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5章 15話 運命への叛逆

 VS《魔界樹》は続きます。

「うん。かなり派手にやっているみたいだね」

 少女は街を見下ろして呟いた。

 ロックファッションの少女――キリエ・カリカチュアはビルの屋上に膝を立てて座っている。

 そんな彼女の傍らには仮面の男がいた。

 泣き面と笑顔が半分ずつに別たれた仮面をつけた燕尾服の男――加賀玲央は彼女の隣で戦況を眺めている。

 ――魔法少女と、魔界樹の攻防を。

「まあ……ギリギリ対応できてるって感じだな。誰かが崩れたら、そのまま――って具合だろ」

「案外、今日で人間って滅ぶのかな?」

 そうキリエが言う。

 特に焦るでもなく、だからといって面白がる様子もなく。

「――どう思う?」

 玲央が問いかけると、初めてキリエが笑う。

「困るね。うん。()()()()()()()()()()()()()()

 自分本位。

 しかしこの上ない正論だ。

 《怪画(カリカチュア)》は人間を食らう。弄ぶ。

 では人間なんて滅びて良いと思っているのか。

 それは違う。

 人間が滅べば、連鎖的に《怪画》も滅ぶこととなるのだから。

「じゃあ、介入するか?」

「そうだね。どうしようか? 君が決めるかい? ――ギャラリー」

 そうキリエが話題を投げる。

 彼女の視線の先にいるのは、ピンク髪の少女だ。

 ツインテールをドリルのように巻いた少女は鼻を鳴らすと、手の中に二丁の銃を顕現させた。

「アタシは戦うわ」

 少女――ギャラリーが選択したのは交戦。

「人間のために?」

 キリエはギャラリーの意図を問うた。

 彼女の立ち位置を見極めるように。

 しかしギャラリーは堂々とした態度を崩すことなく、ピンクの髪を手で払う。

「お姉様と一緒に戦いたいだけよ? 敵なんて誰でも良いわ」

「……言うと思ったよ。うん」

 ギャラリーはかつての魔王グリザイユ――今は灰原エレナと名乗る魔法少女と義姉妹の関係だ。

 エレナの存在に心酔しているギャラリーが戦う理由としては、一番『らしい』だろう。

 《怪画》と魔法少女。

 両者の道が致命的に別たれた以上、共闘の機会などそうないのだから。


「おおおおッ! これが戦場ですか! やはり、これくらい派手でなければ将軍であるこの私が赴くにはふさわしくありませんねッ」


 そんなことを考えていると、やかましい声が聞こえてきた。

 キリエは声の主を睨みつける。

「――うるさい。()()()

 そこにいたのは中年の男だった。

 モノクルをつけ、ダンディズムを感じさせる男性だ。

 もっとも、興奮したようにまくし立てる姿がすべてをぶち壊しているが。

「失礼。キリエ様はもっと地味な戦場で敗北なさったんでしたね! 配慮に欠けておりまし――」

「――殺す」

 ――キリエの声が低くなる。

 ほとんど反射的に彼女は絶対切断の鉤爪を振るい、男性に叩きつけていた。

 衝撃で屋上の床がめくれ上がり、砂煙が周囲を包み込む。

「……おいおい。せっかく補充した将軍減らすなよ」

 そんなキリエの振る舞いに、呆れた様子を見せる玲央。

 先程、彼女が惨殺したのは新しい《前衛将軍(アバンギャルズ)》だ。

 レディメイドが死んだことで生まれた空席。

 その補充要員だったのだが――

「あのままじゃアタシらの平均知能が下がりそうだったからね。仕方ないよ」

 キリエはそっぽを向く。

 別に将軍が4人である必要はないのだ。

 ソリが合わないから殺した。

 彼女にとって今の行動はそれ以上でも以下でもない。


「しかし! この《前衛将軍》は死にませぇんッ!」


 そうやって死人にカウントされていたはずの男性。

 だが、彼は砂煙の中から当然のように現れた。

 ――無傷で。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 そう。この男。実力自体は高いのだ。

「………………はぁ。誰だよコイツを将軍に据えた奴」

「――あんたでしょう?」

 キリエのため息に、ギャラリーは冷ややかに答えた。

「『5番目に強い奴で良いや』って確かめもしなかったキリエが悪いな」

 それに追従する玲央。

 事実ということもあり、強くは否定できない。

「チッ……これじゃあ筋肉オカマのほうがマシじゃないか……」

 まさかあのオカマメイドの復活を願うことになるとは思わなかったキリエであった。



「《女神の涙・(アメイジングブレス)叛逆の魔典(・リベリオン)》」


 薫子は歩む。

 黒い花嫁衣装を纏って。

 グリーンガウンの群れへと向かって。

 元来、薫子は直接戦闘向きではない。

 回復魔法などのサポートを得意とする分、身体能力や攻撃性能に不安があるからだ。

 だがあえて、薫子はグリーンガウンに近づいてゆく。

「ぼあああああああああああああ」

 たいした知能を持たないであろうグリーンガウン。

 奇妙な叫びを上げると、植物人形たちは無防備な薫子へと殺到した。

 四方を囲んでの攻撃。

 暴力の嵐。

 それでなお薫子は動じない。

 ただ――彼女を中心として半径5メートル程度の空間が球形状に輝いた。

 その金色の光は、柔らかく。そして美しい。

 この瞬間。この場所。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「わたくしの魔法は――()()()()()()()()


 次の瞬間に起こったのは、奇妙な現象だった。

 グリーンガウンの拳が――薫子をすり抜けたのだ。

 彼女だけではない。

 彼女を貫いた殴打は――向かい側にいたグリーンガウンをも突き抜けてゆく。

 結果として、誰も傷つくことなくグリーンガウンの同時攻撃は徒労となった。

「わたくしは未来に起こる結果を爆破できます」

 金色の天界が収束して消えてゆく。

「先程は、未来に起こる『破壊』を爆破しました」

 だから彼らの攻撃は『破壊』という結末に至ることはなかった。

 本来であれば避けられなかったはずの『破壊』が歴史に記されることはなかったのだ。

「わたくしが爆破した歴史は『破壊』だけ。だからあなたたちは攻撃できました。ですが、わたくしを『破壊』したという歴史には至れない」

 限定的な未来改変。

 それこそが《女神の涙・叛逆の魔典》

 文字通り、運命に叛逆する魔法だ。

 ――しかし、この魔法は言葉ほど万能ではない。

 まず、爆破できるのは『未来』だけだ。すでに起こった現象は爆破できない。

 加えて、爆破できるのは薫子が放った『金色の爆発圏内での出来事』のみ。その外部で起こった出来事に対しては彼女の能力は一切干渉しない。

 そして、未来の爆破は薫子自身にも作用する。

 今のように破壊が爆破された世界では、薫子も破壊を行えない。

 使いどころの難しい魔法である事は間違いない。

 だが問題はない。

 《花嫁戦形》の強みは、決して固有魔法だけではないからだ。

「――はぁッ!」

 薫子は一瞬にしてグリーンガウンの頭を貫いた。

 ――拳で。

 そのまま薫子は植物人形の脳に詰まった種子を握力だけで握り潰す。

 《花嫁戦形》による身体能力の向上。

 しかも、黒い結晶で基礎能力がすでに増していたこともあり、《花嫁戦形》による強化倍率の恩恵を大きく受けている。

 現在の薫子は――インファイターの魔法少女と真正面から戦えるほどに高い膂力を誇っていた。

「《花嫁戦形》に至ったことで魔法少女としての器が広がったのでしょうか? 先程まで御しきれなかった力が馴染むのを感じます」

 皮肉なものだ。

 《花嫁戦形》に到達するために作られた黒結晶が《花嫁戦形》に目覚めて初めて扱える代物だったとは。

 目的の達成が前提条件に入っているなど笑い話だ。

 だが結果として、薫子は条件を満たした。

 今の彼女はこれまでと比較にならない。

「ッ――!」

 迫るパンチを薫子は紙一重で躱す。

 ――元来、薫子は接近戦を得意とはしない。

 だが決して彼女は動体視力や反射神経に問題があるわけではない。

 ただこれまでは、肉弾戦では体が追いつかなかっただけ。

 追いつく体を得たのなら、彼女は近距離でも戦える。

「せいッ!」

 薫子は種子ごと植物人形の頭を吹き飛ばす。

 だが多勢に無勢。

 すぐにグリーンガウンたちは彼女を取り囲む。

 だが――

「――《叛逆の魔典》」

 未来を爆破され、グリーンガウンの攻撃は届かない。

 しかも、今回はそれだけではない。

(わたくしが一回で消せる未来は約5秒)

 それより長くも短くもできない。

 だから薫子は逆算した。

 爆破が終わる瞬間を。

 そして合わせたのだ。

 グリーンガウンの頭部だけが爆発圏から出た瞬間――爆破が終わるようにと。

「わたくしたちが『移動した』という未来は――世界の歴史から消えました」

 歴史から消滅した行為は――なかったことになる。

 そしてもう一つのルール――歴史の爆破が適用されるのは『爆発圏内』だけ。

 だからグリーンガウンたちは爆発範囲から外れている部位――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 ゴロリと落ちる大量の頭。

 首を落とされたグリーンガウンたちが一斉に膝をつく。

「エレナさん」

「分かっておるッ」

 直後、エレナが二丁の拳銃から炎線を放った。

 灰色の閃光は幾条ものシャワーとなり正確に、地面に転がっていたグリーンガウンの頭を焼却する。

「……まったく。ヒヤヒヤさせおって」

 薫子の隣に降り立ったエレナはそう口にした。

 言うまでもなく、彼女の表情には安堵の色が浮かんでいた。

「じゃが。これで気兼ねなく連携が取れるのう」

「ええ。ご迷惑をおかけしました」

 二人は背中合わせに構える。

 周囲には数十体のグリーンガウン。

(――最初よりも増えていますね)

 現在ここにいるグリーンガウンの数は、初めて薫子が到着した際と変動していない。

 エレナと薫子の二人で、すでに10を越えるグリーンガウンを討伐しているにもかかわらず、だ。

 となれば知らぬ間にグリーンガウンの数が増えていると考えるのが自然。

(やはり最終的には、本体を叩く必要がありますか……)

 このままではイタチごっこだ。

 増えれば倒し、数は一向に減らない。

 このサイクルを終わらせるには紫もしくは、あの大樹を破壊する必要がある。

(もう少し避難の時間を稼いだら、打って出る必要があるかもしれません)

 ここで薫子たちが戦えば、市民が避難する時間を稼げる。

 そうして市民の安全を確保できたのなら、一気に攻勢に出て事態の収束を図るのも一つの手だ。

 ――このままグリーンガウンを殲滅できる見込みがない以上は。


 そう薫子が考えていた時――グリーンガウンの動きが変わった。

「おおおおおおおお」「ああああああああああああ」「うううううううううううう」

 不協和音の大合唱。

 耳を塞ぎたくなる不快の声が周囲に響く。

 それと同時に――グリーンガウンがほどけた。

 植物のツルが人型になっていたグリーンガウン。

 その姿が失われ、大量のツルに還ってゆく。

 しかしそれは、戦いの終わりを意味しない。

「…………なんですか……あれは」

 薫子は天を仰いだ。

 ほどけたツルは天へと上り――大樹へと巻き付いていった。

 同時に大樹もほどけてゆき、集まるツルを受け入れた。

「――なるほど。あの大樹に咲いた花からグリーンガウンが生まれるのはそういう意味だったんですね」

 薫子はすべてを悟った。


「あの大樹は――グリーンガウンの集合体」


 幾百。いや、幾千だろうか。

 ともかく、途方もない数のグリーンガウンが束ね上げられ大木となった姿。

 それがあの大樹――《魔界樹》の正体なのだ。

「これは……圧巻じゃのう」

 エレナも茫然と空を見上げている。

 そして――《魔界樹》がついに動き始めた。


 ――天を衝くほど巨大なグリーンガウンとなって。


 ちなみに、《前衛将軍》内での戦闘力は、

 1位、トロンプルイユ

 2位、キリエ・カリカチュア

 3位、レディメイド

 4位、ギャラリー

 5位、ミュラル

 といった感じです。


 そういえば、5章が終わってから《逆十字魔女団》のメンバーの過去編を短編形式でやっていきたいなぁと考えています。いうなれば、5.5章です。

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