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もう一度世界を救うなんて無理っ  作者: 白石有希
5章 悪魔の花が咲く頃に
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5章 12話 黒百合紫暗殺計画

 事態はどんどん変わってゆきます。

「講演会?」

 悠乃は薫子にそう聞き返した。

「ええ。今週末、黒百合紫は隣町の芸術学校で講演会をする予定になっています」

 薫子はケータイの画面を悠乃へと見せる。

 確かに、そこには黒百合紫がとある大学で講演会をする旨が記されていた。

「つまり……その日その場所に彼女がいることが確定している……ということですね」

 美月は神妙な表情でそう呟いた。

 黒百合紫。

 彼女は《逆十字魔女団》を名乗り悠乃と対峙した。

 そして悠乃が危うく命を落としかけたのだ。

 その事態を重く見て開かれたこの作戦会議。

 参謀である薫子の表情はいつもよりも真剣だ。

「時と場所が分かる。こんなチャンスはそうそうありません」

 薫子はそう言うと、一呼吸を置いた後に言葉を続ける。


「――黒百合紫を()()しましょう」


 彼女そう告げると、部屋を沈黙が包み込んだ。

「相手の正体が分かった以上、後手に回る必要性がありません。彼女が変身していないタイミングを狙って暗殺します」

「それは……」

 彼女が言う言葉の意味は分かる。

 その合理性も。

 だが、悠乃は難色を示していた。

「つまり、自分からあの人を――殺すってこと?」

 これまでの戦いはどこか受け身な側面が強かった。

 敵が現れ、それに対応する。

 危機にさらされる誰かのため、敵を倒す。

 だが今回はその限りではない。

 自分へと攻撃をしてきていない相手を、自分から殺しに行くのだ。

「確かに良心の呵責はありますね。ですが、私も金龍寺さんに賛成です。敵対する可能性が明確である以上、対応は必要かと」

 美月はそう薫子の提案を肯定する。

「別に殺さなくていーけどよ。アタシとしても、最低でもボコボコにしねーと気が済まねーな」

 璃紗は肯定をせず、だが一定の共感を示す。

 彼女は腹の虫がおさまらないといった様子で腕を組んだまま眉を寄せている。

 そして、薫子の言葉に賛同できない少女がもう二人。

 黒白春陽と灰原エレナだ。

「人を殺しちゃったら……わたしたちも悪者だよ」

「妾も、《怪画》を積極的に狩らぬと決めておる以上、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ということはしたくないのう」

 沈痛な表情の春陽。

 対してエレナはあくまで冷静に。

 だが二人が口にしたのは、明確な拒否だった。

「じゃが……《逆十字魔女団》の目的を思えば、個人の感情で放置して良い問題でないのも分かるがの」

 そうエレナは付け加える。

 彼女は魔法少女となるにあたり、誰かを守るためにしか《怪画》を狩らないという取引をしている。

 自分の身を守るため――ただ、目の前に《怪画》がいたから。

 そのような理由では戦わないと彼女は決めている。

 だから、《怪画》との戦いにそのようなルールを課した以上、相手が人間であれば例外――といったことにはしたくないのだろう。

 だがそれは感情的な問題。

 一方でエレナは理屈の上では紫を暗殺する必要性を感じているようだった。

 彼女たち《逆十字魔女団》の目的は――世界の崩壊なのだから。

「まあ……こうなることは予想できていました」

 薫子はため息をついた。

 聡明な彼女の事だ。

 自分のアイデアに対し、悠乃たちがする反応など手に取るように分かっていたのだろう。

「――仕方ありませんね」

 だから彼女は代案を出すことにしたらしい。

「イワモン。魔法少女の魔法を剥奪することは可能ですか?」

 薫子が尋ねたのは隣にいるイワモンだ。

 五年前に悠乃たちが世界を救った時、彼らは魔法をイワモンに返却した。

 同じことが紫を相手にしても可能なのかを問うているのだ。

 そしてイワモンの答えは――

「――黒百合紫が我々の世界のルールに反しているのは確実なのだよ。だから魔法の剥奪そのものは可能だ。しかし、現実的には難しい」

 そんな微妙なものだった。

「といいますと――」

「抵抗する相手から魔法を剥奪するのは困難だということだ」

 五年前もそうだった。

 魔法は、承諾なしに回収できない。

 本人が抵抗すれば、魔力を引き剥がすことは不可能に近いからだ。

 それが、世界を救うほどに魔力の扱いに精通した魔法少女が相手ならば特に。

「では、気絶させれば可能ですか?」

「それは可能であると保証しよう」

 今度は快く頷くイワモン。

 それを見て、薫子はわずかに安堵した表情となる。

「それではこうしましょう」

 改めて薫子は部屋にいる全員に語りかける。


「黒百合紫は()()()()()生け捕りにして魔法を剥奪する。――これで構いませんか?」


 殺すのではなく無力化を。

 魔法を奪えば、どうあがいても彼女は世界を滅ぼせない。

 そうすることで手打ちにする。

 それが薫子の提案する二つ目の作戦だった。

「そういうことなら――」

「アタシもそっちのほうが胸糞悪い気持ちにならなくて済みそーだな」

「――全員の士気を思えば、そちらのほうが良いのかもしれませんね」

「わたしもそれならオッケーだよー」

「……そうじゃのぅ」

 各々が同意の意志を示してゆく。

 大勢は決していた。


「では――無力化を前提に作戦を立てましょうか」


 そうして悠乃たちの作戦会議は始まるのであった。



「今週末、確か紫さんは講演会の予定があったわよね」

 美珠倫世の邸宅。

 その一室で倫世はつぶやいた。

 確か、以前に紫がそんな事を言っていたことを思い出したのだ。

「うん……《表無し裏(フェイトロット)無い(・タロット)》もそう言っている」

 雲母が頷く。

 彼女は机にタロットカードを広げている。

 彼女の魔法は『占い』の魔法だ。

 そんな雲母が断言した以上、紫はその講演会を欠席するつもりはないのだろう。

 ――たとえ、命を狙うには絶好のチャンスだとしても。

 そこまで考えて、倫世は紅茶を口にした。

「残念だけれど、彼女が脱退した以上――それなりの対応が必要ね」

(彼女を通して情報が漏れるのはマズいものね)

 当然、紫は《逆十字魔女団》に関する情報を多く保有している。

 拠点も。構成員も。戦闘力も。


 ――()()()()()


 そんな彼女を放置しておいて、もしも紫が情報を周囲に流したのなら。

 それは倫世たちにとって都合が悪い。

(それに紫さんの言う世界の崩壊と、私たちの言う世界の崩壊にあるズレは――致命的すぎるわ)

 もしも紫が考える手段で世界を破壊されたのならば、倫世たちの目的は達成不能だ。

 考えれば考えるほど、今回の別離は必然だったのだろう。


「なら――アタシが処分して来るカラ」


 そう言って立ち上がったのは天美リリスだった。

 彼女はいつも通り猟奇的な笑みを浮かべ、紫の殺害を申し出た。

「――リリスさん」

 倫世は紅茶を一口飲んだ。

 そして心を平穏に保ち――

「――こういう事を言うのもなんだけれど。今回の件。正直に言って、貴女にも相応の責任があると私は思っているわ」

 できるだけ責める口調にならないよう気を付け、そう言った。

 今回の件の発端は、紫の大切な人をリリスが殺したことだと聞く。

 天美リリスは――1万人の人間を虐殺した過去を持つ。

 ――生存者はいない。

 だからそこで行われたやり取りも――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 彼女が何一つ語らない以上、残ったのはリリスが大量殺人を起こしたという事実だけ。

「……本当に、貴女が彼女の大切な人を殺したのならば、だけれど」

 結局のところ、倫世が聞いたのは紫の主張だけ。

 もしかすると、他の真実が隠れているのかもしれない。

 リリスなりの言い分があるのかもしれない。

 そんな意図をもって、そう倫世は言葉を濁した。

 そして、再び口を開く。

「――和解をするわけにはいかないのかしら?」

 できることなら、紫を仲間に引き入れ直すべきだろう。

 だがリリスは――嗤うだけだ。

「アハ……!」

 彼女は本当におかしそうに嗤う。

 首をコテンと傾け、無邪気に邪悪に嗤う。

「リーダーさんはおかしなことを言っている自覚があるワケ?」

 リリスは肩を震わせる。

「和解なんてつまらない結末、アタシが望むわけないデショ?」

 彼女は口元を三日月のように歪めた。

 その表情には抑えきれない狂気が滲みだしている。

「ぐっちゃぐちゃに殺して――破滅的なアートにしてあげるんだカラ」

 ――きひひ。くは……! きひはははッ……!

 リリスは嗤う。

 狂気にすべてを委ねて。

 破滅的な結末を思い描きながら。

「――――《侵蝕(ペスト)》」

 リリスがそう唱える。

 すると彼女の背に――黒い翼が生えた。

 世界のあらゆる色を混ぜ合わせたような混沌とした黒。

 汚泥が触手のように伸び、翼のようなものを形作っている。

「キハハッ……!」

 彼女は窓を開き、空へと身を投げた。

 広がる翼。

 同時に飛沫が周囲へとまき散らされる。

 穢れに満ちた飛沫はたった一滴で庭の植物を枯らす。

 芝生にいくつもの穴を作りながらリリスは飛び立つのであった。



「…………おかしい」

 雲母がそう言ったのは、リリスが去った後のことだった。

 珍しく雲母が驚いている。

 ほんのわずかだが目を見開いているのだ。

 普段は、死んだような絶望の眼差しを向けてくる彼女が見せた動揺。

 倫世にとっても無視できるものではない。

「何度占っても――結果が変わらない」

 雲母は占いの魔法を持つ。

 しかし結局のところ占いは当たるも八卦当たらぬも八卦。

 確率論でしかない。

 だが繰り返し占えば占うほど精度は増してゆく。

 何度占っても覆されない結果となれば、そこには相応の理由があると考えるのが自然。

「変わらない……ね。何を占っていたのかしら?」

 倫世はそう雲母に問いかけた。

 この状況だ。

 さすがに倫世たちと無関係なことを占っていたとは考えにくい。

「――違う」

 雲母が口にするのはそんな要領を得ない言葉。

 たどたどしく。

 だが、ゆっくりと雲母は語る。

 ――真実の片鱗を。


「わたしの《表無し裏無い》が……言ってる」


「紫さんの大切な人を殺したのは――()()()()()()()()()


リリス「(ま、アタシが始末したほうが後腐れもないデショ)」

雲母「あれ? 犯人はリリス先輩じゃない……?」

リリス「――――」ズコッ

雲母「………………」

リリス「――し、始末しに行って来るカラ」バサッ

雲母「それに……講演会は……週末」

リリス「コ、コンビニに行くだけダシ……」ストン……


 これから悠乃たち&《残党軍》&リリスVS紫へと発展してゆきます。


 ちなみに向日葵の死に謎解き要素はないです。ただ、リリスが殺してはいないというだけで。

 まあリリスが間接的原因ではあるんですが。


 次回は『《魔界樹》』です。5章のボスは、かつて紫が現役だった頃のラスボスです。


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