きずあと
私は、一命を取り留めたらしい。
私は気が付いたら病院のベッドに横たわっていた。
体のあちこちが痛み、わずかに首を動かすと全身に包帯が巻かれているのが分かった。どうやら大怪我をしたようだ。
「奇跡的でしたね。医者である私が言うのもなんですが」
手術を担当した医師の話によると、私の自宅で火事があったらしい。そこで私は全身に火傷を負いながらも、こうして助かったと。
「知ってますか? 人間は全身の20パーセントに重度の火傷を負ってしまうとショック死してしまうんですよ。アナタの場合、幸いなことにその殆どが軽度の火傷で済みました」
じゃあ、この包帯は一体?
「ああ、言ってませんでしたっけ? それは火傷とは別に傷があったんですよ。見たところ、切り傷が多かったんですが……おそらく火に巻かれた際、必死に逃げる為についた傷だと思います」
なるほど。
入院生活はひどく退屈で、不便で、何の面白みも無かった。
それはそうだ。殆ど動けないのだし、ずっと眺めているだけの、備え付けのテレビにも飽きた。
しかし、人間の治癒力というものは侮れない。いつの間にか退院の日がやってきた。
入院している間に警察の事情聴取も終わった。消防の見解も一致しているらしく、どうやら不審火、つまりは何者かによる放火の疑いが高いそうだ。まったく、迷惑な話だ。
とりあえず住む所が無いので、市がやってる公営住宅に入ることにした。なんでも、火事で家を失った人は優先的に入れるとのことだった。うん、こうやって税金は使われないとな。
退院したとはいえ、やはり傷が痛む。この腕の切り傷、ジクジクする。そんなときは仕方ないので病院でもらった鎮痛剤を飲んで寝るに限る。
退院してから一週間が経った頃。刑事と名乗る男がやって来た。
「言いにくいことなんですが……お宅の火事現場からね、ホトケさん……遺体がね。見つかってたんですよ。それがどうにも……」
ハァ。でも、私はあの家に一人で住んでたんですよ? いったい誰なんです?
「ちょいとコンガリ焼け過ぎてて……まぁでも、どうにかこうにか歯型や治療痕なんかが一致したんですわ」
そういってとある女性の顔写真を取り出す。
……いや、知らない人だな。
「ふーむ。そうですか」
そう言って、刑事は帰っていった。いったい、何なんだろうか。
腕の傷が痛む。今日は鎮痛剤を飲んで早く寝よう。
それからしばらく経ち、職場にも復帰の目途がついた。しかし、腕の傷はまだ痛む。また病院で鎮痛剤でも貰おうか。
「まだ痛みますか、ちょっと見せてください」
そう言うと、医者は私の腕を取って傷跡をじっと眺める。ちょうど肘の側なので、傷跡をちゃんと見た事は無いな。もしかして膿んでいるのか?
「ちょっと失礼」
チリチリと痛む。傷跡を指でなぞっているのか。
「いや、すみません。なんか、変な形に傷痕がついてるなぁって」
変な形? 不思議に思っていると、看護師さんが鏡を持ってきてくれた。
どれどれ……確かに不思議だ。これは……文字……にしては妙だな。
「ああ、鏡で見ると反転して見えますからね」
なるほど。
えっと……タ……レサ……ロコニエ……マ……オ……?
ああ、オマエ ニ コロ サレタか。なるほどね。