私を選んだからには浮気は許さないので覚悟してくださいね?
〜か弱すぎる悪役令嬢は溺愛に気づかない〜を読んでいなくても読めます!
私は アーリア・リーズノルド
大国アーマレン王国のリーズノルド公爵家の長女である
現在12歳である私はこの国の王太子の誕生パーティーに呼ばれている
この誕生パーティーでは現在14歳になった王太子の婚約者候補に上がった令嬢たちを招き、王子自らに自分の婚約者を決めさせるつもりらしい
正直に言って、どっちでも良い
王太子は特に取り柄もなく平凡で勤勉な性格、ただ、少々病弱だったため、王太子としての勉強は遅れ気味で学園では1つ下の男爵令嬢の取り巻きになったという醜聞付き、最近婚約破棄をしたばかりだ
まず、婚約者である公爵令嬢を蔑ろにし、男爵令嬢の取り巻きになるなど言語道断であるが、王太子で病弱だったため、世間知らずで取り込まれやすかったのだろう
世間では”能無し王子”と言われ、今では王太子としておいて良いのか、という意見も上がっているらしい
今更婚約破棄となったが、現在我が国の公爵家令嬢の殆どは婚約者持ちであるし、私以外には5歳以下の令嬢しかいない、しかも我が公爵家よりも権力の低い家しかない
王と王妃からは内々に王子との婚約を匂わされる手紙を受け取っているが、それは王子に会ってから、というものだ
私に婚約者がいなかったのは、私が隣国のワーマン王国に留学に行っており、婚約者を決めるような余裕がなかったこと、我が家の教訓で、恋愛結婚が推奨されており、残念ながら今の今まで恋をしたことがなかったから
勿論、自身の魅力磨きは怠っていないが、私に求婚してくる殿方は遊び人であったり、私よりも私の家の権力を求めていたり、容姿が好みでなかったり……となかなか婚約まで漕ぎ着かなかったのだ
そこで、父に此度の王太子の婚約者を探すパーティーで私が良いと思えるような殿方を探してこいと言われた
そんな簡単に見つかるものでもないと思うけれど……わたし、妥協って言葉が1番嫌いなの
自慢の腰までの艶やかな金髪も、アイスブルーの瞳も、わたしの一部ではあるけれど、この容姿がなくても、わたしの家柄のことがなくても、わたしを好いてくれる人、そんな人がいたら絶対に捕まえて離さないのに
だから、お父様に悪いとは思ったけれど、今回のパーティでは早々に辞することにした
見咎められたら困るから、魔法で私とは分からないように髪色を黒に変えて、ドレスの上に薄い上着を羽織る
そっとパーティーを抜け出し、テラスに出ると、下の中庭から大きな声が聞こえた
「エリカ!どうしてなんだ!」
「だって、聞いてないわ!なんでわたしと結婚するためには平民になるしかないなんていうの?!私は、そんなの聞いてない!」
「エリカは男爵令嬢で、どこかの有力貴族に養子に入れて貰えばなんとか体裁は整うだろう……でも、今回私の元婚約者を蔑ろにして婚約破棄したことは、貴族の間に知れ渡ってしまっている……君を王妃にする方法はなくなってしまったんだ。すまない。」
「で?さっきなんて言いました?」
「一緒に、ここから逃げて平民になろう。幸い、私には自分の資産もあるし、暫くは持つと思う……」
「絶対に嫌よ!!!!あんたなんか、王太子であることしか価値がない能無し王子のくせに!平民になって生きていけるとでも思ってるの?私があんたに優しくしてやったのはいつか王妃になれると思ったからよ!勘違いしないでよね!!」
……ひどい言い草だ、王子は固まって言葉も出ないようだ
「……君も、俺を能無しだって、言うのか?他でもない君が……」
「そうよ!あんたなんて顔も能力も平凡!世間知らずのお坊ちゃんでしょ!私は贅沢に暮らしたいの。じゃあね。もう二度とつきまとわないでよね!」
足早にホールに戻っていく令嬢と、その場に取り残された王子
あんなに言われても、言い返すことができないなんて、よっぽど信じられないんでしょうね。ていうか、あれは不敬罪になるレベルよね
中庭にいる王子の顔は見えないけれど、下を向いて静かに涙を流しているみたい……
咄嗟に、つい、声をかけてしまった
「ねえ、怒らないの?」
「っっっ……!!!」
王子の顔は見えないけれど、私の声が聞こえたみたいで私の姿を探しているみたい
「あんなこと言われて、悔しくないの?だって、貴方はあの子を守る為に婚約破棄をして、王太子だって辞める覚悟だったんでしょう?」
私だったら、キレて平手打ちして、復讐する
絶対に幸せになれないように
「……俺は、彼女に怒る資格なんて、無いんだ……。本当は分かっていたんだ。婚約者を蔑ろにしてまでエリカと一緒にいたのは、エリカのそばなら頑張らなくても良かったから。……結局俺は、王太子としてしか見てもらえないんだな……。」
「そんなの、貴方が婚約者を蔑ろにした言い訳に過ぎないわ。何もしていないのに婚約破棄をされた側の気持ちがわかる?王太子としてしか見てくれない?私は貴方のこと王太子としては見れないわ。だって頼りなさすぎるもの。」
「……そうだよな」
「怒りなさいよ!もっと怒って、感情を出せば良いのよ!自分の気持ちは言葉に出さないと相手に伝わらないわ。」
「……じゃあ君は、俺にどうしろと!?初めて認めてくれた人にも能無しと言われて、もはや王太子としてもこの国に居られるかわからない、俺に、どうしろというんだ!?」
「彼女は貴方を認めたんじゃ無いわ。利用したのよ。誰かに認めて欲しいなら、足掻きなさい。結果が全てなんでいうけど、私は足掻いてる人が1番素敵だと思うの。足掻かずに最初から最後まで諦めてるなんて勿体無いわ。認められたいなんていうのは行動してからいうものよ」
「……今からでも、遅く無いのか……?」
「そうね。少なくとも婚約者を決める誕生パーティーを抜け出してるなんて言語道断よ。まずは王太子としての仕事をこなせるようになってからじゃ無いとね」
「ふっ……君は、俺に媚びないんだな」
「あら?媚びて欲しかった?私、そういうのは苦手なの。でもさっきまでの貴方より今のやる気に満ちてる貴方の方が素敵よ」
「君は……?もしかして婚約者候補の……」
「さぁ?私はお父様に今夜のパーティーでステキな殿方を見つけたら連れてこいって言われただけで、王子に媚びろとは言われてないわ。」
「……また、君と話したい。」
「私の名前も聞いてないのに?もしかしたら子爵、……男爵家の令嬢かもしれないわよ?」
「君が言わないなら無理には聞かない。姿も見ない。でも、また俺が止まってしまったら、君の言葉が聞きたいんだ」
……あら、結構罵倒したと思ったんだけど、好かれちゃったかしら?
「じゃあ二階のホールまで上がってきて、私を見つけ出して?そしたら、貴方と話をしてあげるわ」
……これは賭けだ。テラスから見えるのは私の後ろ姿だけ、金の髪は魔法で黒色に変えているし、テラスの下にいる王子には私のドレスの色は見えない
しかも、今日のパーティーでは100人以上の貴族が集まっていて、ホールには数十人以上の令嬢がいる
「俺が貴女を見つけ出したら、名前で呼ぶことを許してくれるか?」
名前で呼ぶということは、家族や仲の良い友人にしか許されない、つまり、私の友人になりたいってことかしら?
「貴方が私を見つけ出したらね」
そういうと、一瞬空の隙間から月が現れて、私達を照らした
黒色の髪に翡翠色をした王子は、惚けたようにこちらを見ていた
……あら?結構好みの顔ね。あんまりけばけばしい顔じゃなくて、中の上くらいかしらね?
「あっ……!」
何かを言われる前にすぐにホールに戻る
結構好みではあったけど、私が欲しいのは本当の私を見つけ出してくれる人。
あの人には悪いけど、姿を見られたならあの賭けは破棄ね。
魔法で髪色を金に戻してドレスの上に羽織っていたものをとり、ホールの壁際の席に腰掛ける
……入口側がざわついている。王子が来たのね。でも目は合わせない。
……………
静かなざわめきの中から、1人の青年がこちらに向けて歩いてくる
私の前には金髪の女性が何人かいるし、その中の誰かだと思ってるのかしら?
……
「アーリア嬢、一曲私と踊っていただけますか?」
……さっきの”私”を探すのはもう諦めたのかしら?まぁ、私は元々婚約者候補の筆頭だったから踊るのは当たり前なんだけど……
「ええ、喜んで。」
そういうと、満面の笑みで私の手を取りホールへと進む
?なんか周りがシーンってしてるけどなんでかしら?
曲が始まると、王子が話しかけてきた
「アーリア嬢。俺は君を見つけたよ。」
……!?えっ、
「髪色を変えたの?黒髪の君は聖女のように美しかったけれど、金髪の君は女神のように美しいね」
「あら?どうして分かったのかしら」
「俺が君を間違えるわけないさ。俺は能無し王子だけど、少なくとも王太子としての教育は受けてきた。君の声は社交界では聞いたことがなかったから、隣国に留学していたアーリア嬢しかいないってすぐに分かったよ」
え、声まで覚えてるってこと?ふーん……意外とやるじゃない
「俺は、王太子としてはまだ不足で、世間知らずのお坊ちゃんかもしれないけれど、君の隣に並び立てるようになるから、僕を選んでくれないか?」
「……私、かなりわがままだし、浮気なんて許さないわよ?」
「ああ、……俺が道を誤りそうになったらまた怒って呼び戻してくれないか?」
「しょうがないわね……良いわよ。」
そういうと、満面の笑みを浮かべた王子が私の腰に手を回し、額に口づけた
ーーーーーーーー!!!!
こ、こいつ!さっきまで他の女に愛を囁いてたくせに、もう私に求婚する気!?
額への口づけは、愛を乞う、……
不覚にも真っ赤になったのは私の恋愛スキルが低いからだ……
「て、手が早いですわよ!私、結婚するまでキスは致しませんからね!」
「可愛い、アーリア。大人になるまで待ってるから早く結婚しようね?」
「…………!!」
へ、ヘタレだと思ったのに意外と手が早い気がするわ……
ふと周りを見ると会場中の視線が私たちに向けられていて、微笑ましいような笑みを向けられる
「皆も聞いたように、私はアーリア・リーズノルドと婚約する!以前のような態度を改め、王太子としての自覚を持ってこの国を盛り立てていくつもりだ。宜しく頼む……。」
……王太子としての自覚を持ち、少し前進した王子はちょっとヘタレが治ったのかしら?ま、私は私をありのままに見つめてくれる限りは貴方を1番に愛してあげるわ
♢♦︎♢
あれから10年、王と王妃となった私達は割と仲睦まじく過ごし、可愛い我が子を授かった
とは言え、うちの旦那は私を愛していると言いながら他の女とも付き合えるような人である。男っていうのは多情なのかしらね?
浮気は許さないけれど、国のために側姫を置くことは許した。流石に王族が妻1人だと、他国への体裁が悪いもの
でも、愛妾は絶対に許さない。これは私が王妃になった時に出した条件
側姫は政略的なものだけど、愛妾って完全な浮気だと思うの。許せないわよね?
とはいえ、浮気されるのは妻にも理由があると思うの。だから私は常に自分磨きを怠らないし、王妃としての仕事も手を抜かない
大事なのは、縋ることじゃなくて、相手に依存させること
王妃として、王を支え、政治も経済も私が口を出して改革も進め、王子を立派に教育し、常に隙を見せない王妃に……そして、王がいる時にだけ、甘える。
人は、自分にだけ素顔を見せてくれる人に、認めてくれる人に惹かれる。
私は媚びたりなんてしないわ。でも、浮気はもっと許さない。だから、緩やかな檻に閉じ込めて、檻から出たら生きていけないように甘えさせるの。そしたら絶対に逃げられないから。
「アーリア、私の可愛い奥さん、顔を見せて。」
「あら、私怒ってますのよ?又勝手に誰とも知れない女をひっかけてきて?」
「いや、ただ綺麗だね、と、褒めただけなんだ。お世辞でだよ?そしたら何を勘違いしたのか、王城に押しかけてくるなんて、最近の隣国の王女は凄いな、と、勿論アーリアが1番綺麗で愛しいよ」
「ふーん。私だって結婚してからも声をかけられること、ありますのよ?隣国で……」
「なっ!?誰だ!?アーリアに色目を使う奴は!!!」
「あら?貴方が私を蔑ろにしない限りは他の殿方に応えたりしませんことよ?」
「勿論だ。私が君を手放すなんてことはあり得ない。どこにもいかないでくれ。君がいないと俺は何もできないんだ。君が全てだよ」
「ふふっ、ならちゃんとここにいますわ?」
そういうと、私を抱きしめて「愛してる」とずっと囁く私の王。
ちょっとふっかけすぎたかしら?
でもね、時々こうやって揺さぶりをかけて依存度をあげるのも大切なのよ?
ふと傍にいる我が息子に笑いかけると、恐ろしいものを見たとでもいうように顔を逸らされた。
あら?あの頭のいい私の息子には分かったのかしらね?
でも、私はちゃんと愛してるのよ?
私を愛し、日々懸命に民のために仕事をする私の王は私の唯一の愛する人
私を必要としてくれる人
私を見てくれる人
いつか貴方にもきっとわかる日が来るわ。
だって私の息子ですもの
♢♦︎♢
それから数年経ち、2人目の息子もすくすくと育った頃、私の息子も愛する人を見つけたみたい
あら、公爵家の一人娘、私の親友の娘
見目愛らしく、王子に媚びない、魔法の申し子
引く手数多で、手に入れるのは骨が折れそうな子ね?
でも、きっとあの子は王家の子になるわ
だって、私の息子が本気で欲しがったお姫様だものね
私の息子はきっと貴女を大事に、大事に、籠だと気づかないように囲い込んで愛してくれるわ
ああ、可愛い娘ができるのも楽しみね?
評価、感想、お待ちしております!
依存系って結構好きなんですけど、みなさんはどうでしょうか?