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第47話 『居場所』下

 委員長がびくっと緊張するのが一琉にもわかった。少年にも見紛う少女が立っている。華奢な肩幅の軍服の上から、黒衣を羽織って。目元まで包帯を巻いていてもわかる、変わらず精悍なその瞳の持ち主。


「法子……」

 委員長は顔を背けた。とても正視できないといったように、己を隠すように。

「どうしてここにっ! ?」


 一琉の疑問に、棟方は「ラジオを聞いて。おおむね把握した」と端的に答えた。そして、涙にぬれ、自分の罪の重さに俯く一人の少女の前に進み出る。


「来ないで! 撃って……法子……あたしを、もう殺して!」


 だが、棟方は初めてそうするように、彼女のその頼みを無視し、構えていた小銃を下げた。体から握りこぶし一つ分だけ離して、左手で真っ直ぐ垂直に持つ。

 委員長が、言葉を無くしたように立ち尽くす。

「こんな……あたしを……。まだ……あなたはっ……」


 最上級の敬礼、捧げ銃――天皇陛下や首相、国旗掲揚時にしかとることのないような最敬礼。委員長の素顔を前に、棟方の意思表示は、微塵の揺らぎもない。


「法子……ごめんなさい、ほんとは、あたし……! あなたにそこまで尊敬してもらえるような人間じゃないの……! ちがうのよ……っ」


 しかし、委員長の泣き声にかき消されぬ声で、棟方ははっきりと言った。

「それは私が決めること」

 委員長のしゃくりあげる息が止まった。

「あなたに万能なんて求めていない」

 棟方は淡々と、委員長の返事など待たずに、続ける。

「あなたが不完全なのは、あなた以外の誰もが知っていること。あなたができないことなど、他の誰かにやらせればいい。ただ一つ、あなたにしかできないことを、やってほしいだけ」


「あたしに、なにが、できるの……?」

 委員長の縋るような問いかけに、棟方はなんの迷いもなく答えた。

「希望でいて」


 「希望……」と復唱する委員長に、棟方は言った。

「まだ、ここにいるのは烏合の衆」


 棟方の背後には、年齢も性別もばらばらの集団。一琉が委員長の家に泊まった時に見かけたのと同じような――夜勤会……! !


 棟方が連れてきたのか? それだけじゃない。こんなに大勢のラジオ局も……昼のテレビ局も混じっている。委員長の起こした立てこもり騒動で、近くに集まっていたのかもしれない。


 委員長は硬直を、解く。

 小さく息を吸い込み、視線を上げる。

 そして、夜勤会の信徒、憲兵隊の夜勤軍、テレビやラジオの向こう、昼も夜も関係なく、すべての人民を見据え、マイクを手に、叫んだ。


「あたしは夜勤会・新宿区第一司祭、寺本和美――」

 研究所を、指差して。

「――見なさい! 正道を踏み外し、怪しき禍を起こすものの正体を」

 委員長は熱くも落ち着いた声で民衆に語りかける。

「死者を蘇生させ、この世に死獣をもたらしているのはあの研究所だ!」

 惹きつけながら、

「昼世界空前の技術革新、そして夜の世界の死獣激増の真の理由。月夜見尊の遺された「月は鏡」という言葉の意味は……昼の民は、栄えるために過去の偉人を蘇らせ、ここに閉じこめて研究を進めていた。神への冒涜行為――その罪を、死獣という形で、私たち夜の民は背負わされていたのだ」

 高らかに、

「私は今、ここに宣言する! 『新夜勤会』の設立を! 同意するものは武装せよっ! 夜勤よ、今こそ月の輝きとなり、この暗闇を照らす時である!」

 鮮やかに、彼女は戻ってきた。

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