第27話 『研究施設での日常と非日常』上
そこは一面真っ白壁の、まるで病院のような場所でした。そこには私と同じような人のほかに、白い服を着た多くの人たちが出入りしていました。扉横のプレートには、A研究棟6階603シアタールーム。そう書いてありました。いろいろな大きい機械が置いてあって、私はそこで映像を見せられていました。空間充填モデルの立体映像とか、難しい機械の内部構造図とか。
私の一日は研究所の中で始まり、研究所の中で終わりました。病院の入院施設のような大部屋に十台ほどベッドが並べられていて、私ぐらいの年の女の子が集められて寝かされていました。簡易的ですが一応曇りガラスの板で仕切られていて、朝になるとピーンポーンというアナウンスで起こされます。出口に近い者から順に洗顔に行き、終わったことを次の子の板をノックして知らせます。待っている間に着替えと用意されている食事を済ませ、途中でも順番が来たら出入りします。私語厳禁です。部屋には盗聴器のようなものがついているみたいで、私語をした者はアナウンスで注意を受けます。注意が何度か続く場合は、寝室の移動をされてしまいます。ここより悪い部屋があってそこに移動されるのです。どんな部屋なのかは見たことはありませんが、だいたい想像がつきます。廊下を通れば、そこら中で女の子の絶叫や悲鳴、泣き声が聞こえてきますから。そのためそれだけの人数がいながら、毎日本当に静かなものでした。
決められた時間になると、白衣を着た案内の男の人が部屋の移動を知らせにやってきます。私たちはシアタールームへと行くのです。そこで午前中の「資料整理」がはじまります。シアタールームには、一部屋につき、だいたい十五人ほど入れられます。それぞれ担当の部屋に振り分けられて、寝室のメンバーとはだいたいお別れです。寝室のメンバーもそれほど固定ではありませんでしたが。
そこで、私たちは映像を見せられます。シアタールームと言っても、皆で映画を見るみたいにして映像を見るわけではありません。飛行機のコックピットのような機械にひとりひとりが載せられて、頭にヘルメットの形をした機械を取り付けられて、それぞれ違う映像を見せられます。内容は、一琉さんが見せてくださった『前時代技術予想図鑑』のような、人類が半減する前の再現映像だと思います。そして、見覚えのあるものが見えたら、すぐに手元のスイッチを押して映像を停めます。すると、その物について詳しく表示されていくので、さらに停めて、私の主観で真偽を判定していきます。真偽を判定していくというのは、映しだされているのは「予想図」なので、間違いがあるのです。それを私が修正します。ちょうど、電子地図を拡大して、修正していくような作業です。最初は真偽の判断などできず、もやがかかっているのですけど、突然頭の中でピントが合うように、正しいことがわかる瞬間があるのです。それを手掛かりに、もっと詳しいことを思い出していく感じです。その作業を繰り返すほど、スコアと呼ばれる値が加算されて行きます。あ、でも点数が増えるからと適当に答えていると、一日の終わりの照合時に大きく差っ引かれてしまいます。複数人の出した修正データを照合しているみたいで、修正ミスと思われる分だけ点数が引かれるんです。テストの答え合わせみたいに。信頼できないと判定されると、加算度も減ってしまいますので注意です。
「待ってくれ」
そこまで聞いた時、一琉は口を挟んだ。
「そこは学校なのか? おまえの保護者は?」
「滝本くん、質問はあとにするのはどうかしら?」
「まあ……そうだが」
委員長にたしなめられ、一琉は言葉を引っ込めるが、まひるは首を振って答えた。
「私には、親はいません」
「いないのか……?」
「それに、研究所は学校でもありません。言ってみれば、そこは、自由のない囚人収容所――いや、もっと人間扱いされない、モルモットの実験室のようなものでしょうか」
そう話すまひるの顔には、一琉の知らない表情が浮かんでいた。




