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第25話 『ロストテクノロジー』上

 まひるが現れてから、二週間が経とうとしていた。基地の中へ撤退し、本日の夜勤任務が終わろうとした時だった。


「滝本ぉ……ちょっとこれ、見てくれねえか」


 残っている人もまばらになった教室で帰り支度を整えているとき、加賀谷に泣きそうな鼻声で呼び止められた一琉は、何事かと振り返る。


「どうした?」

「これ……」


 その手に握られていたのは一丁の光線銃だ。


「まさか」


 故障……? そういえば今日、戦闘中に急遽、委員長に光線銃を借りていたな。


「でねーんだよ……、光」

「まじか……」


 やはり光線銃をぶっ壊したらしく、加賀谷の顔は相当青ざめていた。


 まあ、そりゃ青ざめるよな。


 光線銃と言えば、どれだけ金を積んでも直らない。


「故障させた心当たりはあるのか?」

「ない。ない! フツーに使ってたんだぜ!?」


「……そうか」

 一琉は鞄を背負う。


 それなら、運が悪かったとしか言いようがない。防塵・防水加工もしてある太陽光線銃だ。耐衝撃性も兼ね揃えていると聞く。だが、どんなものもいつかは壊れる。


「壊したのがたまたま加賀谷で、今日がその日だったってだけだろ。……仕方ない」


 上官からのキツイお叱りとなんらかの通達はあるだろうが、本当に心当たりがないのならもうすべて正直に受け入れるしかない。そうすれば、多少は配慮もしてもらえるだろう。だが、加賀谷が気にしていたのは懲罰の内容ではないらしい。


「これっ、たぶん……直らねえんだぜ! どれだけ金を積んでも、現在の技術じゃ……。オレの……っ、オレの愛銃はもう……! こんなの、信じられるかよ……!」


 同情しなくもないが、賠償金を請求されないだけここはまだ良心的だと思ってしまうあたり一琉の感覚は加賀谷とは違うらしい。


「あ……新しい銃、もらえるのか? もしかしたら、もらえない? ウソだろおい」


 それは……正直わからない。失くしたり壊したりした者にはもう配給されなかったという話も聞く。もちろん、他の武器に切り替えるという意味だ。あまりにもその銃の扱いに長けている場合を除いて、加賀谷は光線銃以外の担当に回る可能性がある。光線銃はいつだって不足しているのだ。


「試し打ちしてみていいか?」


 受け取り、少し眺めてから尋ねる。

「いいけど……」


「んじゃ、出よう」


 基本的にただの太陽光が出るだけの光線銃だが、念のため射撃場に行って撃つことにする。夜生まれには有害だし、あと暗闇に慣れた目にはまぶしい。まだ夜中で外は真っ暗だ。


 加賀谷と移動しようとしたら、今日も自主的に黒板をきれいにしていた委員長に、「ちょっと待って」と呼び止められた。委員長は最後の消し残しを消した後、手を洗って、


「それ、壊れてしまったの……?」

 ハンカチで拭きながら、こちらへと歩み寄る。


「そうなんだよ……」


 弱々しく頷く加賀谷に、委員長は一瞬の間のあと、決意したように一つ頷いてこう言った。


「どうしても直らなかったら、あたしのを使えばいいわ」


「えっ」加賀谷の顔が驚きとともに明るくなる。


「あたし、接近戦の方が得意だもの。光線銃持つのはやめて、拳銃と日本刀を専門に戦おうかなって考えていたところだったし。ちょうどいい機会だわ」


「ううっ……委員長……優しいな……ぐすんっ」

「仕方ないわ。あなたが悪いわけじゃない」


 委員長は、涙ぐんでいる加賀谷の肩をポンとたたいて、颯爽と帰っていった。


「ありがてぇ……委員長、神……」


 おまえも信者か。


 加賀谷は拝むようにして委員長を見送ると、廊下側の窓から身を乗り出して、委員長の姿が見えなくなるまで見ている。


「あーあ……でも、なんとか直らねーかな、これ。まあ無理だよな。いや、最近なんか光の出方が弱いような気がしてさー。んで、ちょっと開けて確認してみようかなー、いっそもっとパワフルに改造してみようかなーとか考えたのがいけなかったんだよな。オレにも非はあるな。いやまあ、フツーに使ってただけだけど……」


 こいつは呆れた。大分心当たりがありそうじゃねえか。


 どうやら一琉の考える「普通」と、加賀谷の言う「フツー」には大きな隔たりがあるようだった。感覚が違いすぎるだろ。一琉は加賀谷に光線銃を返した。試し撃ちはやめだ。改造銃……なんか危険な臭いがするので。


「俺は聞かなかったことにすればいいのかよ」

「そうしてもらえると助かる」


 ならどうして俺に言うのかね。


 加賀谷はそのあとすぐ故障したその光線銃を提出。当面の間は本部の武器庫で管理されることになった。使えなくなった光線銃は順番に研究部に出されるらしい。そこで加賀谷が自主的に改造を施し失敗したという過失がバレないことを祈るしかない。バレろ。


 そのままの流れで加賀谷と家路を行く。


「いや、オレはさー! けっこう自信あったんだよ。あらゆる銃を開いて、また元に戻してきたんだ! オレならいけると思ったんだよ! !」


 普段光線銃の収まっている腰のホルダーあたりで、加賀谷の右手が空をかる。一琉はため息を吐いた。


「良い銃は誰でも簡単にメンテナンスできるよう、分解しやすくできている。だが過去の技術で作られた光線銃はそういう概念でできていない。メンテナンス不要のハイテク電子銃だ。これが懐中電灯とでも思ったか」


 夜勤の使うような懐中電灯の回路ぐらいはつなげる電気屋が、己を過信して昼文明のコンピュータの本体を開けていじくるようなものだ。


「そうだけどさー……弱っちいのは嫌だったんだよ。ロマンを求めちまったんだ……」


 まったく。代償はでかかったな。

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