『第三十四話』
血の気の引いた頭に、夏の終わりの、肌寒い風が吹きすさぶ。
けれど、頭はまるで冷えない。
むしろ火照ってぐちゃぐちゃになった思考のまま、平日の街を無我夢中に駆ける。
何が何だか、わからないまま。
帰って、仮にまた会えたとして、それでどうする? それでどうなる?
きっと、何もかももう手遅れだ。
自分の荷物だけをまとめて、君はすぐさま出て行ってしまうのだろう。
そうして、問いただす僕に言うのだろう。
『何を考えているか、わからない』って。
――――そんなの、僕だってそうだ。
僕はテールに幸せであって欲しい。他の誰よりも、無論僕自身なんかよりも。
それを考えるなら、僕は向かうべきじゃない。走るべきじゃない。
けれど、この足は決して止まらない。
退学もバイト生活も、結局は僕の〝エゴ〟だった。
そんなものは、独りよがりの〝理想〟でしかなかったんだ。
ちょっぴり曇った小雨の日、僕は、ツインテールの美少女に出会った。
可愛いと思った、綺麗だって思った、素敵な人だって思った。
だから僕は、テールとの時間を選んだ。
テールと一緒にいる時間。テールと一緒にいる未来。
それだけで僕は幸せだった。
それこそが僕の幸せだった。
……けど、テールは、それで幸せだったのか?
僕は、僕にとっての幸せが、君にとっても幸せだって、そう、思い込んでいただけなんじゃないのか?
僕は知っている。
――――点滅中の横断歩道をそのまま無理やり突っ切って。
テールは、本当は無口なんかじゃないし、物静かなわけでもない。
――――近道の路地に飛び込んで。
そして別に、あの髪形が気に入っているわけでもない。
――――狭い曲がり角に手を突いて曲がり。
それは全部、僕の前でだけだ。
――――横切った自転車に轢かれそうになりながら。
僕がいないときの君は、明るくて、優しくて、温かくて、可憐で。
――――どっちが本当の君かなんて、馬鹿な僕にだってわかる。
だけど。
それでも僕は、止まれない。




