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『第三十話』
ようやく出された水に口をつけていると、おかめは目の前のまな板でネギの千切りを始めた。
エプロンをきつく締め直して包丁を握る姿は真剣そのもので、小刻みに揺れるお団子テールに合わせて、ものすごい勢いでネギを細切れにしていく。
普段テレビでしか見られないようなワザに、思わずおぉーと声を漏らす。
「……変わったね」
「え? 私?」
「他に誰がいるの」
手元で丁寧に仕事をこなしながら、おかめは続ける。
「昔はおちょくったりなんてしてこなかった」
「そうだっけ」
「……ていうか、"仕事中の"わたしのところに押しかけてきたりなんてしなかった」
「……」
返す言葉も無かった。
「似てきたんじゃない? 彼氏に」
「えっ」
「違うの?」
手を止め、見つめかえされる。
その顔は、少しだけ目を丸くしている以外、普段とほとんど変わらなかった。
耳元まで真っ赤になっている気がして、私は、たまらず目をそらしたくなってしまった。




