『第三話』
僕んちの台所にて、銀のボウルを未だにシャカシャカやっている君。そばには、ふうの切られたホットケーキミックス。
「ホットケーキ、作ってるの?」
コクリと小さくうなずいた気がする。怒っているならここらで拳が飛んでくるので、単に手が離せないだけらしい。
「僕の分、ある?」
今度ははっきり首を振る。ツインテールがでんでんだいこみたいに控えめに舞い上がった。
どうしてか、僕が頼むと決まって断られてしまう。そもそも、味見するたび顔をしかめている姿をたまに見るくらいで、こうして台所に立っていること自体珍しいのだ。
「今日はどうしたの? またいつもの気まぐれ?」
言いながら顔をのぞき込むと、ぷいとそっぽを向かれてしまう。どうやら怒らせてしまったらしく、生クリームをシャカシャカやる手が途端に雑になる。変に力を込めすぎて、ガリガリ底を引っかく音が混じり出した。
付き合い始めてそこそこ経つ僕にも、女心はわからない。とりあえず、今はそっとしておくことにした。
その後、君がトイレに引っ込んだタイミングでこっそり台所をのぞき込むと、黒焦げになったホットケーキが、歯型付きのまま置いてあった。