『第二十九話』
ツインからすいている時間と曜日をそれとなく聞き出し、ついに訪れた火曜の昼下がり、私は単身で味一番のスッポンラーメンに潜入した。
冷房の効いた店内は想像以上にすいていて、奥の席で眠りこけている白髪のおじいさん以外、お客さんは見当たらなかった。
この前のようなかけ声もなく、というか誰も現れず、私は勝手にカウンター席の一つを陣取った。
「ご注文はお決まりでしょうか」
「うわっ!?」
メニューに手を伸ばしかけたタイミングで突然横から声をかけられ、私は思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。
取り損ねたメニュー表が、イスの足元まで転げ落ちてしまった。
「……ご注文はお決まりでしょうか?」
少し間を置いて、何事もなかったかのように繰り返す女性店員さん。
もとい、私の幼なじみ。
「……いや、拾ってよ」
聞こえているのかいないのか、二つに結んだお団子テールは、無表情のまま微動だにしない。
「……」
「……」
沈黙を沈黙で返す謎のやりとり。交錯する二つの視線。冷房の風でかすかに揺れる、ツインテールとお団子テール。
沈黙を破ったのは、意外にも私だった。
「……おかめ納豆」
ぼそりとつぶやいた瞬間、確認表でバシンと叩かれる。
「いたっ」
「ご注文はお決まりでしょうか」
間髪入れずに繰り返す。
「あの、そういえば、水、まだ?」
「ご注文は以上でよろしいでしょうか」
よろしいわけがなかった。
「……ひょっとして、怒ってる?」
「……」
ちょっぴりご立腹のようだ。
ちなみに、おかめ納豆というのはこの幼なじみの中学時代のあだ名で、どうもこの子の短くて丸いまゆ毛が、某納豆メーカーのパッケージのそれにそっくりなんだそうだ。
当たり前だけど、本人はあまり気に入っていない。
言い出したのは確か男子だったと思う。しょっちゅうそうやってからかっては、強めに叩かれて泣いていた。
……個人的には、おかめ納豆というより、目つきの悪い豆柴と言った感じだ。
思い出に浸っていると、いつの間にかものすごい形相で睨まれていることに気づいた。
無言の威圧に押され、とりあえず、目についた札を読み上げる。
「じゃあ、その、……味噌ラーメンで」




