『第二十八話』
「ラーメン屋に行こう」
ソファで寝転がる背中に言い放つと、君はゆっくりと起き上がって、のそのそと支度を始めた。
「久しぶりだね、こういうの」
二人きりのエレベーターおり、並んで歩き出す僕ら。返事の代わりに、君は小さくうなずく。
行き先はずはり味一番のスッポンラーメン。少し歩いた交差点の向かいにそれはある。
着くまでの間、会話が続かないのがいつも通りなのか不機嫌だからなのか、気が気じゃなかった。
「……まだ怒ってる?」
「……」
うつむいたまま、返事はない。
「二名様入りまーすっ」
中へ入ると、軽快なかけ声の中、テーブル席へと案内される。平日の昼間にしてはややすき気味の店内で、僕らは一番奥の窓際の席についた。
「意外と冷房効いてるよね、ここ」
パーカーのチャックをあげながら、何気ない風に声をかける。
「……」
またもや無反応だった。
……気のせいか、さっきから視線をそらされている気がする。
向き合って座っているのに、驚くほど視線が合わない。
「ねぇ?」
遮るように、置かれた水に口をつける君。ほぼ同時に店員さんが来た。
「ご注文はお決まりでしょうか?」
びっくりしたのか、君は吹き出してむせ出す。
「……ご注文はお決まりでしょうか?」
少し間をおいてから、何事もなかったかのように繰り返す店員さん。
すました顔でこちらを見つめてくる。
「じゃ、じゃあ、醤油ラーメンと、味噌ラーメンで」
「かしこまりました」
すっと背を向け、そそくさと帰っていく。振り返りぎわ、テールの方を横目で見たような気がした。
「大丈夫?」
むせっぱなしの君はコクコクうなずきながら、落ち着かない様子でさっきの女性店員さんの背を視線で追いかけていた。
知り合いなんだろうか?
無意識に、僕もそっちばかりが気になってしまう。
さっきの店員さんは、レジの向こうへ引っ込んで、麺を入れた網のカゴを持ち手でしゃんしゃんやっていた。
身長はテールより少し低いくらいだろうか?
カゴに合わせて、二つに結んだお団子から伸びるふさが上下に揺れている。
お団子テール、とでも言うべきだろうか? あまり見かけない髪型だった。
顔は、目つきの悪い豆柴みたいで、けっこう整っていた。ラーメン屋さんのエプロンより、チャイナドレスが似合いそうだ。
けれど、気になるのはそれくらいで、見覚えはなかった。




