『第十八話』
坂を上り切って市民プールに着いた僕らだったが、中へは入らず、日影のベンチにかれこれ二十分以上座り続けていた。でなければ不法侵入者だ。
入り口のある、こぢんまりとした白い建物の扉には、すっかり黄ばんだ『閉め切り中』の張り紙。
……つまりはそういうことである。
「……まさかやってなかったとは」
「……」
隣に腰かけるテールは、着いてから終始無言だった。
なんとなく怒っているような気がしたので、ご機嫌取りに自販機のアイスをおごってあげたところ、ちょっぴりうれしそうな顔でもしゃもしゃ食べ始めた。
けれど、ときたまコクリと相づちを返すだけで、やっぱり終始無言だった。
ともあれ、テールが食べ終える前に作戦を立てなければならない。
具体的には、市民プールの代替案を。
……腕から下げたプールバックが、やたらと重く感じた。
そして、さっきからちょいちょいこちらを見てくる君の視線が刺さって痛い。
やめろ、やめてくれ。やってないなんて知らなかったんだ。
悪いのは僕じゃない。このクソ暑い初夏の陽気と、オープンがやたらと早い大手レジャーランドのせいだ。
「使うしかないか…」
こんな日に限って、僕の財布はパンパンではち切れそうだった。
気づいたのは、さっきアイスを買ったときだ。封筒に入れっぱなしにしておくのがいやで、もらったバイト代をすぐさま財布に突っ込むようにしていたのが裏目に出た。
おごるとき、テールにもバッチリ見られてしまっている。なんならちょっぴり驚いていたくらいだ。
そして、今もネズミか何かみたいにアイスをむしゃむしゃかじりながら、時折期待の眼差しで見つめてくる。
その背後には、元凶たる大手レジャーランドのポスター。スライダー付きの巨大プールを背景に、水着姿の三人の女の子が笑っている。
そのすぐ下では、『泊まりでだって楽しめる!』という謳い文句とともに、ホテルから見える花火の様子が大々的に宣伝されていた。




