『第十七話』
仕事終わりに改札をくぐり、屋根付きの階段を下っていく。
午後五時過ぎのホームは、ただただ閑散としていた。
いつもの癖で、なんともなしに壁の広告を眺めつつ、点字ブロックに沿って歩いていく。
と、張り替えたばかりの真新しい広告が目にとまった。
水着姿の三人の女性が、満面の笑みで笑っている。背後には、大海原のような巨大プール。
有名なレジャー施設の広告らしい。夜は施設内のホテルから、大きな花火が見られるという。何から何まで巨大が売りらしい。大方価格も例外ではないのだろう。
『泊まりでだって楽しめる!』
普段なら見向きもしないような、なんの変哲も無い宣伝文句に、今日だけは釘付けにされる。同僚たちに、合コンを兼ねてプールに行くと自慢された今日この日だけは。
暑いだなんだと理由をつけて、有給を浪費する同僚たちが今だけはうらやましい。
思い浮かぶのは、真っ白なビーチ。……砂浜を再現した波のプールが確かあったはずだ。
そして、水着を着込んで楽しそうに笑う先輩。はじけるような笑顔と、少し日に焼けた肌。
「……いや、いやいやいやいや、待て」
壁に手をついて頭を振り、必死で妄想を振り払う。
声に出てしまっていたことに今更気づき、慌てて口をつぐむ。まわりに誰もいないとはいえ、気をつけるべきだ。
いつ人前で同じことをするとも限らない。
……とはいえ、とはいえ、だ。
「……悪くない」
むしろ良い。問題なのは俺の度胸と、先輩の予定だけだ。
個人経営で何かと忙しい先輩は、職業柄儲けの良い土日よりも、平日が休日になることが多い。
新しく店員を雇ってから少しは楽になったというが、それでも定休日も発注や在庫整理に追われるあの人には、決まった休日があまりないと聞く。
それでも、たまにカフェへ誘ってくださるからにはある程度融通が利くのだろう。早いうちから頼み込めば、迷惑にもならないかもしれない。
胸ポケットのスマートフォンに手をかけようとして、目前を過ぎる回送電車にハッとなる。
胸ポケットのスマートフォンが、マナーモードで震えている。
……須藤先輩からの着信だった。
『やっほー、長谷川くん。どう? 元気そう?』




