『第十四話』
「今日は来ないの、彼?」
「なっ!?」
レジ横で突っ立っていると、突然店長に話しかけられた。いつの間に後ろへ回ったのか、私の下ろしたままの髪を掴んで、からかうように二つにわける。
「……今日は、ずっとバイトですよ」
「ふーん」
振りほどきながら答えると、店長は意味ありげな流し目で見つめてくる。
大抵からかっているだけなので、下手に反応してはいけない。平常心、平常心。
「そんなに寂しいなら、オバサンが慰めてあげよっか?」
「ちょっ……」
後ろからゆるく抱きしめられ、思わず動揺してしまう。
オバサンなんて言ってるけど、店長はまだまだ若いし、私なんかよりずっと綺麗だ。からかわれこそするけど、ツインと違ってピエロみたいな印象はない。綺麗で大人な頼れるお姉さんという感じだ。実際少し、尊敬しているところもあった。
背中に当たる温かい感触。店長独特の美容院みたいな香りは、爽やかで、ちょっぴり甘い。
大人の色香に頭がぼーっとなる。
「……おーい。テールちゃん?」
ひらひら横切る手のひらに、私は遅れてハッとなる。抱きついたままのぞき込んでくる店長に、再び意識が飛びかけた。
「ダイジョブ?」
「大丈夫、です……」
首にからまった腕をほどき、さりげなく脱出。この人は、夏も冬もおかましなしに、やたらとスキンシップが多い。平日はそのくらい暇だからまだわかるけど、戦場と化す休日の仕事終わりに寄りかかってくるのは本当にやめてほしい。
……あったかくて、やわらかくて、途端に眠くなってしまうからだ。
「まっさかあの子が、あーんなイケメンに化けちゃうなんてね」
「わっ」
今度はお腹で背中にのしかかってきた。右手に掲げたガラケーで、待ち受け画面を遠い目で見つめる店長。
そう、この人は、ツインのことを知っている。……聞いた話では、彼の昔も。
思えば、私がツインと初めて会った日も、こんな風な、店長と二人きりの平日だった。ちょっぴり曇った小雨の日、彼は突然ここに来て、並んでいる服でも、店長でもなく、まず真っ先に私を見たのだ。
「でも、あなたもあなたで随分変わったんじゃない?」
「そうですか?」
「そうよ」
ふふふとあやしく笑って、店長はまたガラケーの待ち受けを開いた。
「……あなたも、そう思うでしょ? 長谷川くん」
「え?」
声をひそめたそのセリフは、ほとんど聞き取れなかった。




