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『第一話』
目が覚めると、目覚まし時計が横倒しになっていた。
まぁいつものことなんだけど。
起き上がると、開けっ放しの扉から、うっすら光が漏れていた。
リビングに誰かいるらしい。ほのかに香るココアの香りからして、十中八九君だろう。
でなければ不法侵入者だ。
扉をくぐると、リビングの椅子に案の定君がいた。ダイニングテーブルに肘をついて、のんびりココアを飲んでいる。
不用心にあくびなんかしている君の猫背に、僕は背後からそっと近づいた。
肩の下まで垂れる黒髪ロングのツインテールを、僕はワレモノ気分で丁重に掴んだ。
ふわりと香るシャンプー。まだ気づいていない様子の君。
僕は両方の束を頬のあたりまでかかげると、プロペラよろしく振り回した。
「オスプレイ」
ほんの少しだけ振り返り、肩越しにキッと睨まれた。
「……ごめん」
手を離すと、手のひらに髪がすれてくすぐったかった。