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人生を変えられた転校  作者: クロノス提督
1/3

地獄へ進む学生時代

転校、それは学生時代に誰かしらが経験する。理由は様々だろうが、僕は転校ほど恐ろしく人生を変えるものはないと思っている。

そう…あの日から僕の人生は大きく変わった。


『ねえ、智大…お母さん、どうしたらいいの…?』


当時、我が家は父、母、弟、僕の4人家族。父はサラリーマン。母は専業主婦。僕と2つ下の弟は同じ中学校に通う学生だった。

裕福な家庭ではなかったが、両親のおかげで僕は特に不自由なく生活出来ていた。

学校では、中学3年として高校受験に向けて勉強し、中学最後の部活動に汗を流して、毎日友人とふざけて下校する。そんな充実した日々を過ごしていた。


『なあ、番長。もう受ける高校決めた?』


『うん。やっぱり普通科のA校にする。多分、今のまま勉強すれば大丈夫だべ。中田は?』


『マジかよー。オレ、B校になるかも。A校の偏差値高いから受かる気しないわ。』


僕をアダ名で呼ぶ友人の中田。こんな会話を受験を控える学生なら友人と交わしたことも一度はあるはずだ。

中田とテレビゲームの話題で盛り上がって下校し、帰宅した僕。マンションのポストを見ると家の鍵が入っており、母が外出中だと思うとウキウキしてドアの鍵を開ける。

普段はゲームを1時間以上出来なかった僕にとって、母の外出はゲームが長時間出来る天国のような時間だった。

外も暗くなってきた頃、玄関のドアが開いた。


『遅くなってゴメンね…。ご飯今から作るから…』


母の様子がおかしい。いつもなら必ずゲーム関連のことで怒ってくるはずだが、明らかに顔が青かったのを覚えている。

夕食を作る母の近くで、好きなお笑い番組を観る僕。しばらくして、部活動から弟が帰宅し、2人でお笑い番組を観る。

そのすぐ後、父が帰宅。その顔は暗く沈んでいた。

テーブルを囲んで食べる普段の夕食。会話のない不気味な雰囲気に僕から話を切り出した。


『ねえ、父さん、母さん。何かあったの?やけに静かだけど…』


『え?あ、ゴメンね。ちょっとお母さん考えごとしてて…』


『考えごと?まあ、いっか。父さんも静かすぎでしょ』


無言でご飯を口に運ぶ父。母の茶碗も全然減っていない。いつもの食事と違う。隣で黙々と肉じゃがを食べる弟を見て、考え過ぎと思い大好きな肉じゃがを頬張る。

だがこの時、僕の人生は刻々と変えられていた…。


5月に入った頃、平日は毎日仕事に行っていた父が家にいるようになった。有給休暇を取っていると父が言うので、特に気にせず過ごしていたが、とある日の夕方。両親にリビングに呼ばれて、こう告げられた。


『智大、長男のお前には伝えておくけど、お父さんの会社が倒産して、仕事が無くなった。だから今までみたいな生活が出来なくなる。ワガママ言ったりするんじゃないぞ。』


『パパは介護の仕事が決まったから、来月からは仕事に行くからね。あんたも勉強頑張りなさい。お母さんもパートするから、学校から帰っても誰もいないからね。頼んだよ。』


不景気による資金不足で父の会社が倒産。課長クラスの父は退職金を貰いはしたが、年齢もあり、再就職はなかなか難しく、僅かに残っていた介護サービスの仕事に就いた。

家計は更に悪化。母も昔勤めていた、化粧品の販売のパートをやって家計の足しにしようとしていた。

僕は長男として事実をしっかり受け止めたが、弟には伝えなかった。弟はまだ中学1年。まだまだ学校生活を楽しみたいはず。そんな中で、家族の問題を弟にまで背負って欲しくなかった。


最初は良かった。学校でも家族の問題を隠し通し、勉強や友人とゲームをしたりしていた。両親も必死に働き、僕たちを養ってくれた。

しかし、人生とは恐ろしいもので、家族が壊れていくのがハッキリ見えていた。

プライドの高い父は、老人介護にストレスを感じ、鬱になってしまった。仕事には行くが、帰宅した後は暗い部屋に篭り、夕食にも手を出さず、コンビニのおにぎりばかりを部屋で食べる生活。

母も、仕事のストレスで煙草を吸うようになり、なにかと感情の変化が激しくなっていった。


地獄である。学校から帰宅しても夜まで弟と2人きり。両親が帰っても、父は部屋に行き、母も適当な夕食を作り、煙草を吹かす。暗い食卓に僕と弟は無言で夕食を食べて寝る。

そんな毎日が永遠と続くように思われたが、6月に入り、父と満足に会話も出来ず涙を流す母から一枚の紙切れを見せられた。


『ねえ、智大…。お母さん、どうしたらいいの…?』


離婚届と記載された紙には、父の名前と印鑑が押されていた。中学3年の初夏を迎えるころ、僕はその一枚の紙切れが何を意味するか理解していた。

手が震えていたのをハッキリ覚えている。母はうなだれ、僕しか決めることが出来ない状態だった。

今、もしタイムマシンがあったなら、間違いなく僕はこの時の自分に会いに行く。この後に僕が発する一言は、27年生きてきた中で、最も後悔した言葉となる。


『いいんじゃない?父さんはあんな感じだし、母さんが限界なら仕方ないじゃん。ってことは転校だよね?どこに行くの?母さんについてくよ。』


何故、こんな恐ろしいことを言ったのか。まだ解決策はあったはず。この言葉の後、母は泣きながら紙切れにサインして印鑑を押す。僕は、ただただ母の泣いている姿を見てることしか出来なかった…。


幸いにも、母の姉にあたる方の住む家に空き部屋があり、僕と弟、母は叔母の家に居候生活をする決断をする。もちろん、父にはこの事は伝えず、母と僕で決めていった。この時の僕は、あろうことか転校にウキウキ気分だった。

馬鹿な息子である。本当に。両親が離婚するのに、転校でウキウキしている者がこの世のどこにいるのか。

しかも、極め付けは学校でいつ伝えようか考えていたのである。

夏休みに入る前のほんの数日間の出来事だった。

先生と母と僕は3人でこれからの事を真剣に話し合った。弟には最後の最後まで転校の件は伝えなかった。


『こんな時期に転校なんて…智大を含めたクラスの皆と一緒に卒業したかったのにね…。先生残念だわ。』


『先生、大丈夫。オレはすぐに慣れるよ。皆に会えなくなるのは辛いけど、頑張る。』


僕と先生の会話を聞いていた母は、少し安心した感じで転校の手続きをしていた。僕たちは北海道に住んでおり、転校先は叔母が住む青森県。全く未知の世界に飛び込んでいくような状態である。

こうして、決まったのは夏休み中に転校し、夏休み後から青森の中学に通うことになった。


夏休みの前日、先生の口から転校の件が告げられた。もちろん、クラス中が大騒ぎ。校内でも人気のあった僕は、学年問わず転校の話が行き渡ってしまった。

覚悟はしていた。が、一つ誤算が生じた。

今まで内緒にしていた弟が血相を変えて僕のクラスに来た。その目は明らかに憤怒の目であった。


『兄ちゃん…。なんで教えてくれなかったの?今日、先生から言われてビックリしたんだよ。オレ転校したくない!』


『話さなかったのは悪い。けど、お前はまだ1年だから抱えて欲しくなかったんだ。転校は決まったことだから、母さんと3人で青森行くぞ。』


僕はこの時、弟から殴られても仕方ないという思いで話していた。結局、悪いのは僕である。人生を左右する決断をあっさり、くだらない理由で決めた僕。

時はもう戻らない。転校という片道切符を持ち、新天地に向かう以外の選択肢はない。


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