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67、ジャム

 

「久々ですわ。海を見たのは」

 潮風に踊る月乃様の黒髪が日奈の鼻先をくすぐったのは、汽車が紫色の花が咲く小高い丘に差し掛かった時のことだった。月乃様の横顔の向こうに見える巨大な風船は、港街に係留された異国の飛行船である。

「月乃様・・・駅についたらまず何をしますか」

 二人きりの窓際座席に緊張している日奈は、少し小声でそう尋ねた。

「あら、まずはその握り過ぎてくしゃくしゃになった切符を駅員さんに渡したほうがいいですわ」

「あっ」

 日奈は握りしめていた切符を隠した。

「あらあら。まずは何か、食べましょうか。お腹が空きましたわ」

「そうですね」

「朝食にしましょう」

「・・・え?」

 月乃様が当然のように言うので、違和感を覚えるまでに日奈はやや時間を要した。朝食なら既に南の街の時計塔のレストランで食べてきたのだ。困惑する日奈の顔を見て、月乃様はフフッと笑ったのである。

「冗談ですわ。お昼ご飯ですわね」

 チョコレートケーキの中から顔を出したオレンジピールのような、優しくて大人びた遊び心であった。

 初夏の海原がキラキラと眩しい窓辺に見た月乃様の笑顔が、まるでガラスのように透き通った美しさだったから、日奈はその笑顔の向こうに色んなものが見えた。天使のように舞い降りるウミネコ、ベランダから手を振る子供たち、鮮やかな彩りの野菜や果物が並んだ市場・・・笑顔と優しさと花の色にあふれた大きな街の姿が、今の日奈の心そのものである。

「楽しみですね、月乃様」

「そうですわね」

 心臓がすこーし浮いて、前のめりになっているような心地よい高揚感だった。日奈がこんなに楽しい気分になったのは、本当に久しぶりである。



 というのが全て夢であったということを、日奈は目覚まし時計のアラームに教えられたのだった。楽しい夢の幕引き役を買って出た目覚まし時計ちゃんの胸は、さぞかし痛かったことだろう。

「夢・・・」

 日奈が月乃様の笑顔を見たのは初めてだったが、何しろ夢の中なのでオバケみたいな半透明だったからハッキリと思い出すことが出来ない。まだ頭がぼんやりしている日奈は現実の世界の感覚を取り戻すためにカーテンを開けた。梅雨が去ったセーヌハウスの眩しい庭は、白いサルスベリの花で朝から賑わっている。

「恥ずかしい・・・私ったら、なんて夢見てるんだろう・・・」

 日奈が真っ先に感じたのは恥じらいと切なさだった。

 日奈は心のどこか深いところで月乃様の笑顔を求めているが、月乃様本人の自己実現にスマイルは不要であるどこか邪魔なものなのである。確かに無表情な月乃様は人形のように美しく、この学園の生徒たちのほとんどが彼女のクールな顔に憧れているから、仕方ないのかも知れない。戒律がある限り、日奈の身勝手な願いが叶う余地はない。

「下りよう・・・」

 日奈はうつむきながら前髪を整えて、一階へ下りることにした。



「あら、おはようございますわぁ♪」

「おはよう日奈くん」

 既にキッチンにはリリーさんと東郷会長がいた。野菜多めの甘いコンソメスープは時間のある土日しか作らないから、このスープの香りを嗅ぐと日奈はちょっぴり自由な気分になれる。今日は月曜日までの宿題をゆっくり進めて、夕方は湖畔で東郷会長のアコーディオンを聴きながらのんびり過ごそうと日奈は思った。

 が、今日の日奈にはちょっと特別な仕事が与えられることになる。

「ねえ、日奈様」

「はい」

「今日は私たち二人で、これを届けにいくことになりましたわ」

「え?」

 朝食が始まるとすぐに、リリーさんが楽しげにそう言って布製の手提げを取り出した。なにやら重く固そうなものが入っている様子である。

「おいしいジャムですって。東郷様が、月乃様と林檎様に届けて欲しいらしいのですわ」

「うん。今度プレゼントする約束をしていたんでね。月乃くんたちに渡してきて欲しいんだ」

 よりによって月乃様への配達なので日奈は少々動揺したが、断る理由はもちろんない。

「わ、分かりました」

「私も一緒だから大丈夫ですわよっ♪」

 リリーさんは日奈の隣りに椅子を寄せて思い切りもたれ掛かってきた。秋の陽に輝く麦畑のような金色の髪が自分の肩と首筋に掛かって日奈はくすぐったかった。

 瓶の中身はラズベリー味のジャムだった。これは日奈が去年東郷会長に貰ったものと同じで、なかなか美味しいから、きっと月乃様や林檎様も喜んでくれるに違いないと日奈は思ったが、セーヌ会からのプレゼントを彼女らに素直に受け取って貰えるかどうかは怪しいものである。

「それでは行ってきますわね、東郷様♪」

「いってきます・・・」

 朝食後、二人を玄関まで見送りにきてくれた東郷様は「いってらっしゃい、気をつけてね」と穏やかに微笑んでくれたのだった。そういえば近頃東郷会長は日差しが強い時間にあまり外に出ない。


 ベルフォール女学院は山奥にあるので、蝉の声がまさに時雨のように降り注ぐ。

 ここは虫さんが嫌いな生徒ばかり集まっている場所だから、「だ、大聖堂の外壁に蝉が止まってミンミン鳴いているわ!」などと騒ぐケースが多い。そういう場合は虫とり網を持った運動部員が駆けつけ蝉を南の山に逃がしにいってあげているのだ。

「がんばってー♪」

「えぇ!? は、はい!」

 虫とり網を持って駆けていく陸上部員たちにリリーさんは明るく声を掛けた。戒律も校則も顧みずいつもにこにこしているセーヌ会は皆から嫌われているのだが、このように屈託の無い声援を送られてイヤな気分になる生徒はいない。

(リリーさんって、凄いなぁ・・・)

 日奈は恐れを知らず誰とでも仲良くなれるリリーさんの才能をちょっぴりうらやんだ。自分がこの力を持っていたら、どんな風に使うだろうかと日奈が妄想を始めた頃、南大通りの画材屋から見覚えのある生徒がひょっこり顔を出した。

「あら♪ 桜ちゃんじゃない」

「うっ」

 その少女はリリーさんの顔を見ると一瞬で顔を赤くした。桜ちゃんは表情豊かなので見ていて飽きない。

「絵のお店? こんなところで何をしてたのかしら?」

「そ、その・・・特に・・・別にっ・・・です。はい」

 ちなみにこのお店は有名な絵画を立体的に再現した面白いミニチュアがたくさんあるので一度は訪れたほうがいい。元々絵を描くのが好きな日奈も、たまにここへ来て絵の具などを買うのだ。

「おヒマなら、一緒に月乃様たちを探しに参りません?」

「え? 月乃様ですか?」

 クラスメイトの桜ちゃんと一緒ならすぐに会えそうである。桜ちゃんはリリーさんと日奈様という、情勢的にも美しさ的にもトンデモナイ二人と共に行動することに少々気後れしている様子だったが、やがて「わ、わかりましたっ!」と言ってくれた。こんなにいい子は滅多にいないので大事に育ててあげるべきである。

「それじゃあ、とりあえずロワールハウスの方へ行きましょう♪」

「はいっ!」

 日奈はリリーさんと一緒に桜ちゃんを挟む形で大通りを歩き出した。月乃様に失礼がないか、ガッカリされないかなどを気にして萎縮していた日奈だが、ちょっと楽しい気分になってきたのも確かである。



 さて、そのころ何も知らない月乃は学園の南の山の裏手にある廃遊園地で、地元の小学生たちと対峙していた。

「ですから、花火はやめて下さいます? しかも昼間から・・・。学園の方まで響いてますのよ」

「すごーい! 本物のベルフォールのおねえさんだぁ・・・!」

「聞いてますの? 生徒たちから苦情がいっぱい来てますの。トンネルを通って学園を覗きにくるのもやめて下さる?」

「綺麗・・・」

「はぁ・・・学園の敷地に入りたかったら、わたくしのような美しいオトナの女性になってから、普通に受験して入って下さい」

「髪ながーい!」

「聞いてますの?」

「はーい!」

「学園のそばではお行儀良くして下さい」

「はーい!」

 夏になるとロワールハウスに飛び込んでくる仕事もバラエティに富んでくる。


 七夕の一件で月乃は最終的に小学生モードになっていたが、期末試験の直前に「授業中に居眠りせずに済む方法」を保健室に訊きにきた桜ちゃんに、座ったまま出来る目が覚める体操を適当に教えてあげたところ、感謝されて高校生モードに戻ることができたのだ。まさか本当に信じると思っていなかった月乃は、その後桜ちゃんが授業中に目を見開いて天井を見上げながら足をブラブラさせているのを見てちょっと申し訳なく思っている。

「さてと、小学生たちも帰りましたし、わたくしも戻ろうかしら」

 月乃は再びトンネルを通って学園に戻ることにした。日焼けが心配だから早く日陰に行きたいところである。



「あら! 桜様も数学補習なの?」

「は、はい、お恥ずかしいんですけど」

「私もよ♪ よかったぁ、教室で会ったらよろしくね♪」

「は、はい・・・」

 大聖堂広場のすぐ東にあるカフェで、日奈たち三人は一服していた。広場の生徒たちに尋ねたところ、月乃様はどこか南のほうに行ってしまったらしく、どうやら入れ違いになったようなのでこのまま北上しても無意味だから、一先ず涼しいところで休むことにしたのだ。無駄なことはしないというのがリリーさんの信条らしい。

 カフェは日奈様とリリー様、ついでに桜様の美しさに魅せられた少女たちが集まり、そして次々に意識を失ったり、体に力が入らなくなったりしていった。倒れたくなかったら近寄らなければいいのだが、美を求める乙女心と熱い恋心は止められない。

「あら、私たちみんなストローの色が違うわね。私はグリーンだわ」

 リリーさんがどうでもいいことを発見した。

「ほ、本当ですね。みんな同じアイスティーを注文したのに、不思議です!」

 ピュアな桜ちゃんがこのミステリーに大きな反応を示した。

「ねえ桜ちゃん、知ってるかしら。ストローが違うと飲み物の味が違うのよ」

「え・・・味は一緒だと思いますけど」

「一緒じゃないのよ♪ 試しに・・・桜ちゃんのアイスティー貰うわね♪」

「あっ・・・!!!」

「んー! ほんのり甘いわ♪」

「そ、そうですか!?」

「うん、そうよ♪ オレンジ色のストローは飲み物を甘くする力があるのね」

「へー!」

 ただ間接キスが欲しかっただけの小悪魔リリーさんに、桜ちゃんが騙されている。

「わぁ・・・」

 なぜか桜ちゃんはしばらく自分のストローを見つめた後リリーさんを見上げ、顔を妙に彼女に近づけて、ちょっと哀しそうな目をした。桜ちゃんの不可解な動物的行動にさすがのリリーさんもちょっとドキッとした様子だったが、すぐに嬉しそうに自分からも桜ちゃんに顔を近づけた。キスをされてしまう直前で、桜ちゃんは「キャッ」と言って顔を伏せた。

(リリーさんって・・・本当にすごいなぁ・・・)

 日奈はなんだかテレビの向こうの出来事のようにリリーさんと桜ちゃんの様子に見入ってしまった。日奈はどんなに強い願いを胸に秘めていても、それを行動に移す一歩を踏み出す勇気がないのだ。日奈に欠けているのは大胆な行動力と、自分の願いが必ずしも人の迷惑にならないという自信の二つなのだが、日奈のように自分のモテが原因で地上を混乱させ続ける人生を歩んでおれば、これらを失って当然である。遠慮深い人格が形成されるのはさだめなのだ。

「あの、リリー様」

 ある事を尋ねたいという欲求に逆らえず、日奈は思わず話を切り出してしまった。リリーさんの意外にも澄んだ青い瞳と、桜ちゃんのまっすぐなお目々に見られて、日奈は後に引けなくなってしまった。

「リリー様は・・・この学校の戒律についてどう思われますか」

「え?」

「戒律・・・です・・・」

 てっきりストローの話だと思っていたリリーさんは、日奈のアイスティーを飲むために考えたとっておきの口実の置き場所を失ってちょっと慌てた。

「戒律・・・そうですわねぇ」

 桜ちゃんも身を乗り出してリリーさんの言葉を待っている。

「私はもうこの戒律と戦うと決めた一人ですのよ。だから戒律はキライ。私たちには東郷様がついてますから百人力ですわ♪」

 リリーさんは続けて何か言いたげだったが、セクシーな眼差しでウインクしたきり特に話を続けてくれなかった。とにかくリリーさんは自由に恋愛が出来る学園にしたいのである。

 日奈は考えた。月乃様が望む学園の姿と、日奈が望む月乃様の笑顔とが、単に好みの問題で対立しているとしたら、それは現行の戒律とそれを守る生徒たちの優位性が圧倒的に勝る。いたずらに学園の風紀を乱すことはおそらく悪いことであるし、行動力のあるリリーさんが何か信念を持って戒律を嫌っているのなら、それを教えて欲しいところであるが、どうやら秘密らしい。日奈は何か明確な原動力を得ない限り、人に迷惑を掛けてまで自分の好みを押し通すことなど出来ない。

「日奈様♪」

「は、はい・・・?」

 いつの間にか暗い顔で考え事をしていた日奈に、リリーさんが声を掛けてくれた。

「私のアイスティーは元気が出るわよ♪」

 リリーさんが自分のストローを日奈の方に向けて微笑んだ。彼女の優しさを何でもかんでも受け入れてはいけない。



 一度は帰ったと思った女子小学生たちが仲間を連れて大挙しサインを求めてきたため、月乃が南の山から下りてきたのは夕方だった。サインを書くのはいいが、色紙ではなく適当な国語のノートとか体操服とかにも書かされたので微妙な気分である。

 バスターミナルの辺りまで来ると、公務を終えた月乃様にご挨拶しようと生徒たちが集まってきて「ごきげんよう、細川様」「おつかれさまですっ」と口々にねぎらってくれた。やっぱり高校生同士の世界のほうが月乃は落ち着く。

「ごきげんよう。はい。ごきげんよう。おつかれさまですわ」

 クールな顔でみんなにご挨拶して歩いていた月乃は、大聖堂の方角から南大通りを下ってくる三人組の姿を見つけてしまい、変なポーズのまま体が固まってしまった。ウォーキングに最適なシューズを紹介するためのマネキンみたいなポーズである。

「月乃様ぁー!」

「月乃様ぁー♪」

 桜ちゃんとリリーさんがまるで姉妹のように息ピッタリで駆け寄ってきたので、月乃は抵抗する余裕もなく二人の接近を許してしまった。桜ちゃんは問題ないが、リリーさんと仲良くしているところをこんな大勢の生徒に見られるわけにいかない。

「な、な、なんですの!?」

 茜色に焼けたレンガの道に立ち止まった日奈様の姿をリリーさんたちの髪の向こうに見つけた月乃は動揺した。月乃は近頃ずっと七夕の日のことを思い出しては小さなハートを揺らしているのだ。あのようにじっと見つめられる理由に心当たりが全くなかった月乃は、あの時の自分の顔になにか付いていたとか、前髪がひどく乱れてカッコ悪いことになっていたという結論に至ったため、あの日のことをとても恥ずかしく思っている。二人きりの時間を過ごせた幸福感を素直に噛み締められるほど月乃の精神に余裕はない。

「はい! 月乃様と林檎様に、我らが東郷会長からプレゼントですわよ♪」

「い、いりませんわそんなの! 燃えないゴミですわ!」

「じゃあこの桜ちゃんからのプレゼントだと思って、とにかく受け取って下さいな♪」

「えぇ、こ、困りますわよ!」

「はい、確かにお渡ししましたからね! ごきげんようー♪」

「ちょっと・・・!」

 強引なリリーさんに渡された袋は、いろんな意味でずっしりと重い。

 どうしようかと辺りを見回した月乃は、まだその場に留まっていた日奈様と目が合ってしまった。

「ひ!」

 月乃は喜怒哀楽は表現しない代わりに驚きのリアクションだけはいつも結構素直である。


 日奈は月乃様を遠い星のまたたきでも見ているような気持ちで見つめてしまった。

(私なんかが・・・月乃様のために出来ることなんて何もないのかな・・・)

 むしろセーヌ会の人間として白いリボンを身につけて生活していることが月乃様のクールなお嬢様道を邪魔しているくらいである。今朝見た幸せな夢の面影を現実に投影していくことは罪なのかも知れない。

 日奈は月乃様に向かって深々とお辞儀をして、やがて西の路地に向かって駆け出した。憧れの対象との距離感が、自分の望みのせいでより遠くなってしまう感覚は、その心が本気であるほど苦々しくなるので厄介である。日奈がこのような気持ちになったのは人生で初めてなのだ。



 その夜、月乃はいつも通りベッドの上で日奈様のことを考えながらゴロゴロし、切なく身悶えしていたが、不意に今日貰った瓶のことを思い出して顔を上げた。既に片方の瓶は夕ご飯時に合流した林檎さんに渡してある。

「ラズベリージャム・・・? あらまあ。ラズベリーって、どんな味かしら」

 たぶん食べたことはあるのだろうが、その経験がラズベリーという名に結びついていない。教養を得るという目的で月乃は瓶を開けることにした。不味かったら林檎さんに追加でプレゼントしちゃえばいいのである。東郷会長からの贈り物なので味にはあまり期待しないほうが良さそうだ。

「ん・・・」

 鼻を寄せたが、特に匂いは感じられない。月乃はココアを混ぜる時などに使うマドラーで、ちょこっとジャムをすくってみた。

「あら・・・?」

 ようやく香りがした。新鮮な果実のようでもあり、海外のガムみたいな大げさで毒々しい匂いにも感じられる。

「あら・・・!?」

 その香りを開演のベルにして、一瞬で自分の脳裏に映し出された光景の数々に月乃は目を疑うことになる。それは自分が戒律を破ってしまい、鐘の音から逃げ惑っているシーンたちであった。

「こ、この香り・・・!!」

 それは月乃が小学生に変身させられる時、鐘の音と一緒に迫ってくるいつもの甘酸っぱい香りに限りなく近かったのだ。

(こんな偶然、あり得ますの!?)

 おそらくあり得ない。東郷会長はきっと戒律を破ったら変身してしまう月乃の症状の核心を知っているのだ。分かる人には分かる、そんなシロモノを渡し、相手方からの反応を待つというやり方なのかも知れない。

(ど、ど、どうしましょう!!)

 東郷会長は月乃が戒律破りの常習者で、小桃ちゃんと同一人物であることに気づいているのだろうか。すっかり混乱してしまった月乃がその夜なかなか寝付けなかったことは言うまでもない。月乃が苛まれたのは、自分が今迫られている選択がのちにこの学園全体に飛んでもない影響を与えるかも知れないという予感であり、その予感は的中している。しかもこのラズベリーのジャム、翌朝ちゃんと食べてみたらかなり美味しかったから驚きである。

 

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