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32、ソロ

 

「何もかも順調ですわねぇ♪」

 リリーさんは月乃の部屋のカーペットに寝転がってファッション雑誌を読んでいる。

「リリー様、そんなところにいると踏みますよ」

「まあ怖い♪」

 ベッドの隅におとなしく腰掛けて楽譜を眺める部屋着姿の林檎さんは、リリーさんの自由すぎる態度に少々あきれ気味である。

「順調順調など言っていると、すぐにセーヌ会の人気が我々に追いつきます。もっと精進なさって下さい」

 確かに林檎さんの言う通りだなと月乃は思った。

「そうですわよ、リリー様。わたくしたちは前だけを見て頑張りましょう」

「はーい♪」

 小学生モードの時に目撃したセーヌ会の練習風景がかなりパワフルなものだったので、月乃はこの一週間本気で合唱の練習に取り組んでおり、彼女のやる気に呼応する形でヴェルサイユハウスの助っ人たちも頑張ってくれたのだが、まだまだ油断は出来ないのだ。

「それにしても、今日は涼しいですわねぇ♪」

 リリーさんはカーペットから起き上がって林檎さんの隣りに腰掛けた。レースのカーテンを揺らす夜風は月乃の部屋に優しい秋の虫の声を届けてくれる。

「・・・なぜ私の隣りに」

「あら、寝転がるのはやめろと言ったのは林檎様ですわ」

 リリーさんに顔を寄せられた林檎さんは一歩ずれて彼女から距離を置いた。ちなみに林檎さんのパジャマは大きなフード付きの黒いパーカーであり、帽子を被っていない時も顔の上半分は隠している。もしかしたら彼女の目を見たものは石になるとかそういうオプション機能が付いちゃってるのかも知れない。

「月乃様のベッド、気持ちいいですわぁ♪」

「お、おりろ無礼者! 月乃様の枕を放せ!」

 林檎さんはリリーさんの素足を引っ張ってカーペットに引きずり下ろした。月乃は自分のことを尊敬してくれている林檎さんのことが大好きだが、ここは心の広さも見せておかなければいけない。

「いいんですのよ林檎様。ベッドは乱れるものですから」

「ほーら、月乃様は私の味方よ♪」

「ぬぬ・・・」

 カーペットの上に正座した林檎さんは、腰の辺りをリリーさんの長い脚にパフッと挟まれて遊ばれながら悔しそうな顔をした。

「月乃様はリリアーネ様に甘過ぎます・・・」

「ウイーン、ガシャン♪」

 林檎さんはそのまましばらくリリーさんの脚に挟まれ続けた。


「あら、まだ起きてるの?」

 三人が仲良く自分のクラスメイトのことやおすすめの店などを話していると、パジャマ姿の西園寺会長が月乃の部屋にやってきた。

「お邪魔してもいいかしら」

「えっ、も、もちろんですわ! どうぞ」

 月乃は慌てて西園寺様に椅子を用意しようとしたが、会長は当然のように月乃のくしゃくしゃなベッドの上に腰掛けた。彼女は他の三人と同様に紅茶のカップを持ってきており、初めからここで夜のティータイムを過ごすつもりだったらしい。

「仲がいいのね」

 西園寺様に言われてハッとした林檎は、リリーさんの脚をほどいて飛び退いた。リリーさんの綺麗な脚が自分の腰をぎゅっと抱きしめてくる感触に妙に落ち着いていた自分を林檎は恥ずかしく思った。

 リリーは相変わらずエッチな少女なので、お風呂上がりのメンバーの写真をこっそり撮ったり、すれ違い様に体に触ったりと好き勝手やっているが、月乃と林檎があまりにピュアなお嬢様であるため今のところ下心には気づかれていない。相手に気づかれなければそれは罪ではないというのがリリーの考えである。

「秋はいいわね」

 ひとつしか歳が違わないのに西園寺様の言葉にはやたら重みがあり、ティーカップの湯気の中でそっと目を閉じて紅茶を飲む彼女の美しい横顔に、月乃はすっかり見とれてしまった。月乃の目標は西園寺様みたいな立派なお嬢様になることである。

「西園寺様は秋がお好きなのですか」

 林檎さんが身を乗り出して質問した。彼女も月乃と同じで、美しい西園寺様の生態に興味津々である。

「ええ、好きよ」

「どのような点が?」

「そうね、春の対極にあるからかしら」

「対極・・・つまりそれはどういうことですか」

「裏側っていうことよ」

「な、なるほど・・・さすがは西園寺様です」

 西園寺会長は頭が良過ぎてるので、上手く会話が成立しないことがある。

「あーら林檎様、よく分からずに返事してません?」

「し、していない! あなたは床に這いつくばっていればいい」

 林檎さんはリリーさんをカーペットに押し倒して月乃の枕を使ってベシベシ叩いた。

「あの・・・わたくしの枕ですのよ」

「このっ! このっ!」

 暴走中の林檎さんは誰にも止められない。

 後輩たちの様子を眺める西園寺様の顔はいつも通りの冷たい人形フェイスのままだが、その眼差しは子猫を見守る母猫みたいに優しかった。

「林檎さんとリリーさんがこの寮に馴染んでくれて良かったわ」

 その言葉を聞いた林檎さんは我に返り、恥ずかしがりながら体を起こした。

「そうですわね。お二人が来てからロワール会の影響力はさらに強くなりましたし、わたくしも心強いですのよ」

 月乃も二人を褒めておいた。ちょっと遠回しな言い方になってしまったが、良い友達が出来て嬉しいというメッセージである。お嬢様同士が小さな部屋に集まって仲良く語り合うこんな毎日がずっと続くんだろうなと月乃は思った。

 柔らかいカーペットの温もりを背中に感じながら珍しく無口になったリリーは、仰向けになったまま天井のライトをぼんやりと見つめ続けた。


 翌日、秋の夕闇迫る放課後のベルフォール大聖堂には少女たちの歌声が響いていた。

「いい感じね」

 南のバラ窓がワインのような赤紫に輝く時は、夕焼けが綺麗な証拠である。

「昨日は遅くまでやり過ぎてしまったし、今日はこれくらいにしておきましょう」

 西園寺様の指示に、大聖堂内に集まって見学していたヴェルサイユハウスの聴衆も全員起立し、お祈りのポーズで会長に一礼した。ステージの上で林檎さんとリリーさんのあいだに挟まれて立つ月乃ももちろん例外ではない。心静かにロワール会の栄光とこの学校に本当にいるかも知れない神様について思いを馳せる時、月乃の横顔は最高に美しい。

「月乃様、祈りが長過ぎます」

「あら」

 林檎さんは月乃のライバルを自称するだけあって結構細かく月乃のことをチェックしている。

「本番は来週だから、各自で心の準備も整えておいてね。今日はこれで解散よ」

「はいっ」

 ステージと客席合わせて百余名の少女が同時に返事をすると空気が震える。

 心の準備と言えば、月乃には今回の合唱コンクールに不安な点がある。実はこの聖歌にはソロパートが二つあり、西園寺様と月乃がその担当になっているのだ。合唱にソロがあるなんて珍しい感じがするが、現在の人気トップの少女と次期会長候補の少女が両方活躍できるという、歴代正統生徒会が歌ってきたことも納得の合理的な構成なのだ。本番は日奈様も聴いているはずなので、月乃はそのソロパートに大変緊張している。

「それじゃあ帰りましょうか♪」

 大聖堂を出たところでリリーさんが月乃の腕に抱きついてきた。リリーさんは日本語がペラペラだが見た目は完全にフランス人だから、急にくっつかれるとちょっとドキッとしてしまう。

「今日はですね、実は用事がありますのよ」

「用事?」

「ええ。用事ですの」

 月乃は今夜もみんなと一緒に寮部屋で集まって楽しく過ごしたいところだったが、歌のことが余りに心配なので、ちょっとした計画を立てたのだ。

「保科先生のお手伝いがありますのよ。晩ご飯は別のところで食べますけど、ちゃんとロワールハウスに帰って寝るつもりですわ」

「そう・・・ですのね」

 リリーさんはなぜかちょっと寂しそうである。


 月乃は誰にも見つからない場所で秘密の練習をしようと思っているのだ。そのような隠れ処は先週訪ねた湖上レストラン以外に無いと思われがちだが、月乃にはひとつ心当たりがある。

「ほら、お弁当」

「ありがとうございますわ。無理なお願いを聞いて下さって申し訳ありませんの」

「はいはい。それ、私の愛情が詰まってるよ」

「あ、それは結構ですわ」

 まず月乃は事前に先生に頼んでおいた晩ご飯を保健室で入手した。偶然にも若山桜ちゃんが保健室で宿題をやっていたので窓からの受け渡しになったのだが、日が暮れた窓に顔を出した保科先生が妙に絵になって見えたのでちょっと得した気分ではある。

「月乃ちゃん、私数学分かんないんだよ・・・」

「あら、先生はお医者様じゃありませんの? 理系科目くらい教えてあげてください」

「うひぇー・・・」

 先生ここ教えて下さ〜いという桜ちゃんの声に呼ばれて保科先生はしぶしぶ窓辺から去っていった。普通の診療所ではなかなか無いシチュエーションなのだからせいぜい楽しんで頂きたいところである。お弁当を用意してくれたお礼を後でちゃんとしなきゃいけませんわねと思いながら、月乃は澄んだ夜空に浮かぶ煙突屋根の影を数えるように、夜の大通りを西に向かって歩き出した。


「わぁ・・・」

 鈴虫の声を聞きながら足元が覚束ない階段を上ってきた月乃は、振り返った眼下に広がる金ピカの街並に思わず感嘆してしまった。ただでさえおもちゃの街みたいな可愛い学園なのに、そこにオレンジ色の街灯りが金木犀の花のように無数に咲いてしまったら、さすがのクール月乃も乙女チックな気分にならざるを得ないのだ。

「誰もいませんわよね」

 月乃がやってきたのは、彼女が初めて日奈様と出会って会話したあの北山教会堂である。長い坂の上に建っているせいで、普通の生徒は近寄ろうとしない小さな聖堂だから、秘密の練習にはピッタリの場所なのだ。

 教会堂の中に入って電気を点けて歌うのもちょっと無粋なので、月乃は近くにあった屋外ベンチに腰掛けて、学園の夜景を贅沢に眺望しながら練習することにした。

「よし・・・」

 誰も聴いていないと思うと逆に少し恥ずかしくなってしまうが、月乃は小さな声で自分のソロパートを歌い始め、徐々にはっきりと大きな声にしながら、本番をしっかりとイメージしていったのである。

「ほーしかーげーのー」

 ちなみに月乃は幼い頃からピアノを習っているだけあって歌はまあまあ上手いのだが、ごく稀に音がサッパリ取れないメロディーに出会ってしまい、とんでもない音痴になる場合もある。そういう曲はもう諦めるしかないのだが、幸い今回歌う旧ベルフォール聖歌第一番は月乃と相性がいいため、自信を持って声を出すことが出来るのだ。月乃のお嬢様ボイスは月夜の木の葉を静かに揺らす秋風に乗って、教会堂の花壇付近を小さなコンサート会場に変えた。

「さやーけきーまーちーはー」

 人と異なる美しい時間を過ごしているという実感が陶酔感に変換されるのはお嬢様特有の現象で、月乃はなんだか今の自分にウットリしてしまった。これだけ堂々と歌えるのならきっと本番も大丈夫に違いない。自信を持った月乃はちょっと休憩にして保科先生から貰ったお弁当を食べることにした。

 その時である。月乃の背後から遠慮がちな拍手が聞こえてきたのだ。

「ひい!」

 驚いた月乃は先生が作ってくれたタマゴサンドを一度ぽーんと宙に放ってしまったが、ギリギリでキャッチできた。

「歌、お上手なんですね・・・」

「あ・・・う・・・!」

 タイミング良く登場したの他でもない、月乃の青春の嵐のド真ん中にいる美少女、姉小路日奈様である。なんと彼女も合唱のソロパートの練習のために北山教会堂にやって来ていたのだ。日奈の場合はかっこ良く歌うためではなく、真面目に歌いつつも自分のモテ具合をこれ以上高めない絶妙な歌い方を探るための練習だったが、同じ場所を選んだという点で二人はやっぱり気が合う。

「わた、わたくしは歌は別に・・・いえ、その、もちろん上手いんですけれど、その」

 まさか日奈様に聴かれていると思っていなかった月乃は、ノリノリで歌っていた自分が恥ずかしくってすっかり動転した。

「盗み聞きみたいになってごめんなさい。顔を出す機会を見失っちゃって・・・」

「ほ、本当ですわ。セーヌ会の人は礼儀もなってませんのねっ」

 強がってみせる月乃の言葉に、なぜか日奈はちょっと嬉しそうで、前髪をいじるフリをしながら照れを隠していた。日奈だって月乃に会えて幸せなのだ。

「あの・・・」

 長く心地良い沈黙ののち、教会堂の入り口からゆっくり出て来た日奈は、月乃のすぐ近くまで歩み寄った。

「な、なんですの?」

「あの、私」

 頬に夜景の輝きが映る日奈様の顔があまりに美しいので月乃は逃げ出すことも出来ずその場に立ち尽くした。

「月乃様の歌・・・本番でも楽しみにしてますね!」

「うっ!」

 もう月乃は我慢の限界である。自分の歌を褒められた挙げ句、スマイル光線までくらってしまったら、もう恋心を抑えることなど出来なかった。鏡のように冴えた満月の向こうから月乃にしか聞こえない鐘の音が下りてきて、かすかな甘酸っぱい香りに包まれた彼女は、まもなく小学生に変身してしまう運命にある。

「わた、わたくし・・・ごはんの時間ですのお!!」

 月乃はタマゴサンドを抱えたままそう言い残して、長い階段を駆け下りて行った。

「月乃様・・・」

 月乃様はもしかしたら食いしん坊なのかなと思うとちょっと可笑しくて、日奈はくすっと笑ってしまった。

「月乃様の歌声、素敵・・・」

 日奈の耳にはいつまでも繰り返し月乃の優しい歌声が響いていた。



「それでまた小桃ちゃんになっちゃったわけね」

 水面に映った幼い自分の頭を保科先生が少々強めに撫でてくれた。

「あんなのどうしようもありませんわ・・・。日奈様が教会堂に先に到着してたんですのよ」

 お昼休みの学園の賑わいに紛れて、小学生モードの月乃は先生とお散歩中である。小川に掛かる橋の上から見上げる街並と青空は、高校生状態の時とは比較にならぬほど大きく、そしてちょっぴり鮮やかだ。

「あ、そう言えば私が作ったタマゴサンド食べた?」

「申し訳ありませんけど、食べる前に変身しちゃいましたのよ」

 つまりあのサンドイッチは現在、高校生の月乃の体や制服と一緒に異空間を漂流中ということになる。

「あ」

「あ、って何ですの?」

「あの子あれじゃん。ロワール会の」

 先生が指差す先、川縁の軒並みの陰に月乃が良く知る人物の後ろ姿が歩いていた。彼女の髪は日陰でも目映い金色である。

「リリー様ですわ」

「リリアーネさんは私ちょっとニガテなんだよなぁ」

 夏祭りの日に自分のエッチな趣味を見抜かれた経験がある保科先生はちょっとリリーさんに苦手意識を持っている。

「ちょっとリリー様に挨拶して来ますわ」

「いってらっしゃーい」

 林檎さんは小学生を嫌っているが、リリーさんなら普通にしゃべってくれるし、こんな南の方まで来ているのはもしかしたらロワール会の仕事かも知れないから、お手伝いをしようと月乃は思ったのだ。小学生になっていても月乃がロワール会を想う気持ちは変わらない。

 今の月乃の足が遅いせいもあってか、早歩きで追ってもなかなかリリーさんに近づけない。しかもリリーさんはいつもの明るく堂々とした気性からは想像出来ない不思議な忍び歩きをしており、陰を渡ってこそこそ動いていたのだ。

(あら・・・?)

 とうとう小島のレストランがある湖まで来てしまってからリリーさんは立ち止まったのだが、彼女の到着に気づいて湖畔の桟橋から歩いてきた一人の少女があまりにも意外な人物だったので月乃は言葉を失ってしまった。

(あ、あの人は!!)

 白いリボンとカーディガンを風になびかせるカッコイイ立ち姿、彼女は間違いなく悪のセーヌ会の会長、東郷様である。

(ど、どうしてリリー様と東郷会長が会ってますの?)

 月乃は飼育小屋から脱走したウサギのフリをしながら物陰をピョンピョン進んで二人に近づき、メープルの木の後ろに隠れて聞き耳を立てた。

「調子はどうだい」

「順調ですわ、東郷様♪ なにもかも」

 月乃の小さな胸がトントンと音を速めていく。

「合唱コンクールの本番は来週だが、リリーくんの言っていた策は上手くいきそうかい」

「はい、ちゃんと西園寺会長に飲ませますわ」

「どうやって」

「紅茶に混ぜますのよ」

 月乃はついに知ってしまったのだ。毎日仲良く語り合っているリリーさんがセーヌ会のスパイだったことを。

「そういうのはあまりやりすぎないでくれると助かるが・・・」

「大丈夫ですわ♪ 必ず成功させます」

 二人の短い密会が終わりそうな気配を察した月乃は木陰から飛び退いて路地に身を隠した。

「それではまたご報告致しますわ」

「よろしくね、リリーくん」

「はい♪」

 東郷会長と別れたリリーさんが、辺りを見回してちょっと警戒しながらこちらに戻ってくる。月乃は我慢出来ずに道に飛び出した。

「ちょ、ちょっと待ってくださいます!?」

 リリーさんは一瞬しまったという表情をしたが、相手が小学生の小桃ちゃんだと分かってすぐにいつもの余裕を取り戻した。

「あら、可愛い小桃ちゃん、何の御用?」

「何の御用じゃありませんわ!」

 月乃はリリーをビシッと指差して叫んだ。

「リリー様はセーヌ会のスパイですのね!」

 リリーさんは少し眉をひそめたが、なにしろ相手は小学生なので自分の正体を見破られても特に焦る様子はない。

「さっきの話聴いてたのね?」

「聴いてましたのよ! 信じられませんわ! わたくしビックリですのよ!」

「あら、どうして小桃ちゃんがビックリするの?」

 まったくである。

「と、とにかくわたくしは許しませんのよ! 何を企んでるか知りませんけど、リリー様の好きにはさせませんわ!」

「ふーん、どうするの?」

 リリーさんは月乃のあごをこちょこちょしてきた。普段一緒にいる時より妙にセクシーなおねえさんである。

「西園寺様たちに報告しますわ!」

「んー、小桃ちゃんみたいな可愛い〜小学生にそんなこと言われて、月乃様や林檎様が信じるかしら?」

 月乃様はたぶん信じますわよと月乃は思った。

「いい? 小桃ちゃん。私はね、この学園をもっと自由な恋愛の場にしたいの。女同士の恋愛ってとっても素敵で、気持ちいいんだから♪」

「も、もう! とにかく、絶対あなたの好きにはさせませんわ!」

「一人で何が出来るのかしら♪」

「な、何でも出来ますわ! 一人でも!」

 月乃はリリーさんに背を向けて小川の道を駆け出した。想定外の事態に月乃はまだ頭の中がふわふわとして落ち着かず、考えもまとまらないが、とにかく今はロワール会の危機なので、なんとしても自分が西園寺会長を守らなければいけませんわねと思った。早めに高校生に戻るか、今すぐ手だてを打つか、とにかく迅速に対処する必要がある。


「ん〜」

 リリーはまだ小川沿いの道におり、綺麗な細い指をあごに当てて何やら考えている。

「ま、一人なのは私も同じかしらね」

 彼女はわざと明るくそう呟いて、秋の陽が注ぐレンガの道を再び歩き出した。

 

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