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3、お引っ越しの日

 

 春めいてきたが、桃の花はまだつぼみである。


「小桃ちゃんに会いた~い!」

 白いリボンのセーヌ会が天下を取ってからおよそ一週間が経つと、街角からそんな声がちらほら聞こえるようになってきた。

「・・・でも、もう神様は天罰を下さないはずよ」

「ええー! それじゃあもう小桃ちゃんにはお会いできないの!?」

 昼下がりのカフェテラスに響いたその声に、大通りを行き交う少女たちも振り返った。小桃ちゃんのファンは明るみに出ているだけでも数百人おり、近ごろは小桃ちゃんをかたどった『小桃ちゃん実物大抱き枕』というちょっぴりイカレたクッションが三番街で飛ぶように売れているのだ。

「んー、小桃ちゃんの正体は月乃様だったわけですから、月乃様とお話すればいいんじゃない?」

「月乃様は月乃様です! 幼い小桃ちゃんの頭を優しくナデナデしたいですねぇ・・・」

「確かにぃ・・・」

 生徒たちにとって月乃様は伝説のお嬢様であり、恐れ多くて後ろから抱き着いたりなど出来ないが、小桃ちゃんに変身してくれれば話は別なのである。久しぶりに可愛い小学生の小桃ちゃんのほっぺをぷにぷにしたいと皆思っているのだ。



「っていう噂を聞いたけど~?」

 青空の下、まるで体育教師のようなエンジ色のジャージに身を包む保科先生は、お嬢様月乃をからかってそう言った。

「・・・冗談じゃありませんわ。わたくしはもう小学生になんて変身しませんのよ」

 パイプ椅子運搬用の台車をレンガの道でガタンガタンと押しながら、月乃はネコのような目で先生を睨んだ。二番街の体育館から湖上レストランまで椅子を運ぶのは大変な作業であるが、100人態勢で行っているのでまもなく完了するはずである。

「でも、私も久しぶりに小桃ちゃんに会いたいかも知れません♪」

「ひ、日奈様まで何をおっしゃいますの!? この完璧なお嬢様であるわたくしに、あんな姿は似合いませんわ!」

「そうでしょうか」

「そ、そうですわ!」

 月乃と一緒に台車を押す日奈はクスクス笑った。月乃は日奈様と一緒に歩いているだけで全身が熱くなり、頭がくらくらしてくるというのに、日奈様は時折月乃に冗談を言ってきたりもするので気が休まる暇がない。互いに初恋のカップルであるというのに、月乃のほうだけやたら余裕が無いのは、素直になれず見栄を張りたがる彼女の性格のせいかも知れない。


 さて、今日は東郷様がセーヌハウス周辺の寮生たちと一緒にコンサートを開く日である。

 本当はベルフォール大聖堂が会場にピッタリなのだが、祭壇前に横たわる戒律の石版を歴史的遺物として記念に残すための改装作業が美術部員によって行われているため、当面は立ち入り禁止なのだ。

「いやー、壮観だねぇ」

 保科先生は感動のハードルが低く、大抵の事に「すごいねぇ~」みたいな台詞を言うが、今回ばかりは月乃も同意だった。ずらりと並ぶパイプ椅子は湖上レストランのテラスのみならず、湖の周囲の桟橋や遊歩道にまで広がっていたから、月乃が見渡したここら一帯は、客席にドカンと湖面が広がる不思議なコンサート会場になっていたのだ。立派なものである。

「月乃様ー!!」

 聞き慣れたビタミンカラーの声と一緒に慌ただしい靴音が近づいてきた。

「月乃様! 林檎お姉ちゃんが追いかけてきますー!」

 楽し気に登場した桜ちゃんは月乃の腰に抱きついてきた。

「こら桜! 早く返しなさい!」

 林檎さんは珍しく体操服姿で現れたが、白い帽子はいつも通り被っている。

「今日はこのままでいいじゃーん・・・」

「あなたが着けているそれは・・・私のブ、ブラジャーですから、返しなさい!」

「また着替えに戻るの面倒だもん」

 寮を移る引っ越しの準備のごたごたで荷物が混ざってしまった姉妹は、下着を取り合って追いかけっこ中らしい。

「いいから脱ぎなさい!」

「わ! イヤだもーん」

「こらー!」

 ここで今すぐ脱ぎなさいというのも無理な注文である。

「月乃様日奈様たすけてぇー!」

「こぉらー!」

 桜ちゃんは姉に追いかけられるのを楽しんでいるようだ。

(・・・小桃なんかいなくても桜様たちで十分じゃありませんの?)

 はしゃぎながら自分の周りをグルグル回る可愛い姉妹を見て月乃はそう思ったのだった。


 ちなみに、引っ越しの準備をしているのは若山姉妹だけではない。

 今日は音楽ライブ当日だが、大勢の生徒が寮を移る日でもあり、月乃や日奈も仮住まいだったマドレーヌハウスから一番街のヴェルサイユハウスに引っ越す事になっているのだ。荷物を新しい寮に運び終えた生徒から順次着席して夕方にコンサートを楽しむ流れである。午前中にコンサート会場の設営をして、その後お引越し作業だから、明日はきっと筋肉痛に違いないのだ。



 切なくて優しいギターの音色が、湖面に映る夕焼けを揺らし始めた。

 ギターの音色が奏者のハートを映す鏡であるというなら、まもなくコンサートを始める東郷様の心はとっても穏やかであるに違いない。

「西園寺様、もっと前へ行かなくていいんですの?」

「ここからでいいのよ」

 レストラン前の船着き場に置かれた椅子に腰かけている西園寺様は、いつも通りクールな横顔を見せている。東郷様がギターやアコーディオンで弾き語りしてくれるのはほとんど西園寺様のためだというのに、随分遠慮がちな陣取りだ。

「西園寺様は、久しぶりに東郷様のお歌を聴くんですよね」

 ゴンドラを繋ぐためのロープをぐるぐる巻いて整えながら日奈が尋ねた。

「そうよ。・・・久しぶりだわ」

 このロープに足が絡んで湖にダイブする桜ちゃんのような生徒がたまにいるのでしっかり片づけなければならない。


 結局月乃や日奈はコンサート会場の準備が忙しくて寮の引っ越し作業が出来ていないが、運ぶのは生活に必要なささやかな荷物なのでスクールカバンと大き目のスーツケース一個くらいであるから、コンサートの後にゆっくり新居に持って行けばいいという事になった。

「・・・あの子は別に、歌が上手いわけじゃないわ」

「え、東郷様の事ですか?」

「そうよ。上手くないけど、古い万年筆のような、味のある歌い方をするの」

 どんな歌い方なのか分からず月乃と日奈は首を傾げた。

「私は好きだった。あの子の歌声・・・」

 西園寺様は東郷様の歌声に心から恋をしていたから、東郷様の声だけが聞こえなくなるという天罰が下されてしまったわけである。ちなみに東郷様が受けた味覚がサッパリ利かなくなる罰は、西園寺様の手料理を味わえなくさせるためと思われる。和解できたから良かったものの、実にイジワルな神様だ。



『皆さん本日はお集り頂き、ありがとうございます』

 マイクを通して響く東郷様のカッコイイ声が会場に歓声の波を起こした。機材のチェックが全て終わったらしい。

『今日は私たちの拙い歌とギターで学園の新しい時代の幕開けをお祝いできたらいいと考えてこのライブを開かせてもらった。会場の設営を手伝ってくれた諸君、引っ越しで忙しいはずなのに本当にありがとう』

 レストランのテラスのステージに登場した東郷様は、長い髪を風に揺らしながら客席に手を振った。東郷様は昔からセーターやコートを白で統一しており、そのイメージが強いから、現在の白い制服もとても良く似合っている。

『ゴンドラの上の生徒は気を付けてくれたまえ。湖には鯉たちがいるが、救助の仕方は教え込んでいないからね』

 椅子に座れなかった一部の生徒たちは小舟の上からの鑑賞となり、夕暮れの雲の上にいるような不思議な浮遊感に包まれて音楽を楽しむことが出来るのだが、この辺りを泳いでいる鯉たちはテンションが上がると水面からジャンプしてボートに飛び乗ってきたりするので、油断していると魚まみれになる。

『それじゃあ、聞いてもらおうかな』

 テラスの柱にぶら下がるランプを灯してから、東郷様はつやつやと輝くアコースティックギターを抱きしめるようにして椅子に腰かけ、弾き語りを始めた。


 これが、たまげるほど上手かったのだ。

 優れた音感と絶対的なリズム感が上品に調和したキャンバスを、天馬のように縦横無尽に駆ける東郷様の豊かな表現力が、観客たちの乙女心を色鮮やかに躍動する夢の世界にいざなった。のびやかで透き通った歌声に、耳と心が洗われるような気分である。

 ちなみに歌詞はイタリア語だかスペイン語だかよく分からない言語だったので、その意味は誰にも分からなかったが、細かい事は気にしてはいけない。

(東郷様・・・本当にすごい人ですわ・・・)

 学園を変えるために戦ってきた東郷様はやはり普通の女ではなかった。歴史の転換期に現れ、月乃たちを導いて風のように去った、クールで優しい魔法使いなのかも知れない。

 このとき月乃は西園寺様の横顔を覗き見ることにした。


 夕焼けをバックに、西園寺様は泣いていた。

 失われた二人の時間に満ちていく東郷様の歌声は、クールなフリをして表情をこわばらせておくには、あまりに優しかったのである。

 西園寺様の瞳からこぼれた宝石のような涙に沈んでいく美しい夕日を、月乃はしばらく見つめ続けたのだった。



 さて、お引越しの時間である。

「別に引っ越しなんてしなくて良かったですのにね・・・」

「んー、そうですね」

 コンサート帰りの少女たちで賑わう大通りでキャリーケースを引きながら月乃は小言を洩らした。

「わたくしの新居はヴェルサイユ寮の最上階のお部屋ですけど、日奈様はどうですの?」

「え?」

 日奈はフフッと笑って夜空を見上げた。

「秘密です♪」

「ひ、ひみつ? なんだか怪しいですわ・・・」

 近頃の日奈様は月乃に隠れて何かを企んでいる気配があり、昨夜も学舎の廊下でヴェルサイユハウスの前髪パッツンの寮長さんと陰でコソコソ打ち合わせをしていたようなのだ。突然月乃の前に巨大なウサギの着ぐるみを着た桜ちゃんが飛び出してくるとか、新居のクローゼットからリリーさん扮するオバケが顔を出すとか、そういう類いのドッキリが仕掛けられているに違いないと月乃は思っている。

「・・・わたくしはいつも平常心ですから、ビックリなんてしませんのよ」



「ええええええ!?」

 月乃はビックリした。

「おかしいですね、月乃様。私も東501号室ですよ♪」

「どどどどういう事ですの!?」

 一番街ヴェルサイユハウスの階段の踊り場で荷物を放り出した月乃は、顔を真っ赤にして後ずさりし、背中を壁にピッタリつけた。サスペンスドラマでよく見かけるポーズである。

「間違って同じ部屋の鍵が渡されてるだけかも♪ とにかく東501号室に行ってみましょう!」

 鍵が二つある時点でセキュリティー的にもおかしい推理だが、とにかく月乃は日奈様の背中について5階へ上がることにした。頭の中が混乱しており足元が覚束ない月乃は、赤いじゅうたんに何度もつまずいた。

 月乃が知る限りマドレーヌハウスやヴェルサイユハウスにあるのは全て一人用の個室であり、二人暮らしができるほど広い部屋は無いはずである。月乃にとって自室というのは日奈様の美から遠ざかり、ひと時の安息を得る場なので、万がいち相部屋になんてなってしまったら月乃の心身は幸福のあまりクルクルパーになってしまう恐れがある。戒律からは解放されたが、クールなお嬢様でありたいという気持ちに変わりはない誇り高き月乃にとって、これは由々しき事態なのだ。



「あ、ここですね」

 最上階はかつて存在した生徒会、ヴェルサイユ会の関連部屋が多く、現在一般生徒が暮らす部屋は無いから、廊下には下の階の寮生たちの笑い声などがほんのり響いてくるだけである。

「開けてみて下さい、月乃様♪」

「う・・・」

 ドアの隣りに掲げられているはずのネームプレートは真っ白であり、誰の部屋なのかまだ明確でない。未だ動揺を隠せないままの月乃は、クレマチスのようなつる性植物の模様が彫られた重厚なドアノブに手を掛けた。ドアは重かったが、ガア~っとアヒルようなひょうきんな声を出して開いた。

「おめでとうございまーす!!」

「ひ!!」

 クラッカーの弾ける音と同時に、ボリューミーな白い生き物が部屋の入口で出迎えてくれた。彼女の声と同時に部屋の電気が点いたが、大きな耳が邪魔で中の様子は見えたものではない。

「ななななんですのこれは!?」

「ウサギです!!」

 ちょっと的外れな回答をしてくれたのは、ウサギの着ぐるみを着込んだ桜ちゃんだった。

「ささ、どうぞ中へ!!」

「何なんですの・・・?」

 月乃に休む暇は与えられない。事態を頭の中で整理するより先に、月乃は桜ちゃんのふわふわハンドに導かれて入室した。一歩入ると、月乃はお昼時の窯焼きパン屋のような香ばしい匂いに包まれる。

「おめでとうございまーす!!」

「それはさっき聞きましたわ・・・」

 ツッコミを入れながら部屋を見渡した月乃は、やや間を置いてから驚愕した。

「え!?」

 どう見てもひとり部屋では無かったのだ。


 赤とブラウンを基調にしてアンティークな風合いを見せるチョコレート細工のようなその部屋は、小さめの教室くらいの広さがあり、カウンター風の対面キッチンやふかふかのベッドなど全てがビッグサイズである。白いレースのカーテンは、ライトアップされたヴェルサイユ広場に吹く輝く夜風を受けてオーロラのようにゆったりと窓辺を泳いでいた。とっても可愛いお部屋である。

「ほら、月乃様、ここに座って下さい!」

 ウサギの桜ちゃんが月乃を三人掛けのふわふわソファーに誘導してきた。

 ちなみに彼女が着ているこの着ぐるみは、南の山の裏手にあった遊園地のスタッフが学園に寄付してくれた物なのだが、史上稀に見る使い道の無さからウサギ好きの飼育委員たちに預けられ、代々受け継がれてきたのだ。初心に返り、ウサギの気持ちを知りたい時などに利用される事がある。

「あら、いいソファーですわね」

「ばあー!!」

「ひいいい!!!」

 月乃が腰かけたソファーの背後の衣装だんすから、白い布を被ってフランス風のオバケに変装したリリーさんが登場した。全ての仕掛けに律儀に引っかかる月乃お嬢様はもしかしたらドジなのかも知れない。

「も、もう! 皆さん一体何をしてますの!」

 日奈様の前で「ひいい!」を連呼している自分が恥ずかしくて月乃は足をばたばたさせた。追い詰められると小桃ちゃん風の動きになるのが彼女の特徴である。

「改めてお祝いですよ、月乃様」

 キッチンからクールな林檎さんが登場した。普通に現れてくれて何よりだが、冷静に考えると他人の新居で料理を作っている彼女もやっぱり異常である。

「おめでとうございます、月乃様。お引越し祝いです」

 林檎さんはアップルパイを焼いてくれたのだ。



 林檎さんのアップルパイと、リリーさんが作ってくれた発光する謎のスープで、5人は仲良く晩ご飯タイムである。

『はーい、ラジオのお時間で~す!』

 蓄音機によく似た可愛いマシーンから歌うような明るい声が聞こえてきた。

 放送部が毎晩楽しいトークを繰り広げる女学院ラジオをかけながら食事をするのは、明るい子が多い三番街の習慣だったが、今はもう学園中で許されている行為である。

「あ、林檎お姉ちゃんったらこの前、タオルと間違えてはんぺんで顔拭いてたんですよぉ」

「紛らわしい所にいるあのウサギが悪い・・・」

「はんぺんちゃんは洗面所でお昼寝することがあるから気をつけなきゃダメよ♪」

 桜ちゃんたちは日常のささやかなエピソードで食卓に花を添えているが、月乃はそれどころではなかった。

(ななななんでわたくし、日奈様と二人部屋ですのぉ・・・!?)

 月乃以外の4人はここが二人部屋になることを知っていたらしいが、これは伝説級の美少女カップルの誕生を祝い、月乃様に喜んで頂こうというヴェルサイユ寮長さんの粋な計らいによるものである。

 背筋をピンと伸ばしたまま、玄関の陶器の犬のように微動だにしない月乃に、日奈は気が付いた。

「月乃様」

「ひ!」

「これ、美味しいですよ」

 日奈様が隣りの席から月乃に肩を寄せて来る。

「い、今食べようとしてましたのよ!」

「この時期が旬の芽キャベツですよ♪」

「わわ、分かりましたから! 自分で食べますからぁ!」

 まずいことになった。こんな生活をしていたらクールな細川月乃様のイメージがガタ落ちである。向かいの建物から双眼鏡などでこの様子を覗き見されたら恥ずかしいので、新居の場所はなるべく秘密にしたほうがいいですわねと月乃は思った。

『あ、ちなみに本日お引越しされた月乃様と日奈様の新しいお部屋はヴェルサイユ寮の東501号室でーす! 皆さんお間違えのないようにー!』

 一瞬でバラされた。放送部員の天真爛漫さにも困ったものである。



「それじゃあ私たちはこれでおいとましようかな」

 リリーさんはそう言いながらウサギの着ぐるみを被った桜ちゃんをおんぶした。いつの間にか桜ちゃんはベッドの上でスヤスヤ眠っていたのである。

「え、帰っちゃいますの!?」

 月乃は思わずリリーさんを引き留めてしまった。

「だって、私たちのお部屋は別ですし♪」

「リリー様たちの新居はどこですの?」

「この階の西の端っこよ」

 ヴェルサイユハウスは学園で最も大きな寮なので、反対側の隅っことなれば距離はまあまあである。

「月乃様ぁ、何か助けて欲しい事があったらいつでもご連絡下さいネ」

「別に助けなんかいりませんわ・・・」

「日奈様、もし月乃様が素直じゃなかったら、お姉さんになってみたら良いんじゃないかしら♪」

「なな何を言ってますの! もう帰って下さい!」

 月乃は意味不明な事をしゃべる金髪の少女と桜ちゃん、ついでに林檎さんを部屋の外に押しやってドアを閉めた。

「はぁ・・・・。まったく騒がしいですわね」

 月乃はドアに背中をつけてほっと一息ついた。彼女はこの瞬間自分が置かれている状況が一変した事をまだ自覚していないのである。

「ひ!」

 だから顔を上げた時、ひどく慌てたのだ。

「本当に・・・楽しい人たちですね、月乃様♪」

 少し照れたような顔の日奈様が、上目遣いで月乃を見つめながらそこに立っていた。

 思えば月乃は日奈様と久々に二人きりになったわけだが、このように外界と隔てられた空間で一緒になるのは本当に珍しい事態である。

(ま、まずいですわ・・・!!)

 全校生徒の前で公式にカップルになったのだから今更まずいも何も無いのだが、月乃は狼狽した。

(日奈様にもし・・・手を握られたらどうすればいいんですの!? あの時みたいにチュウされたら!?)

 感情と全ての遊び心を捨てて硬派な少女を演じ続けてきたプロのお嬢様月乃は、このような場面においてとるべき行動がサッパリ浮かばないのだ。

「月乃様・・・」

「ひっ!」

 日奈様はなぜかゆっくりと月乃に歩み寄り、ドアと自分の間に月乃を挟むようなドキドキな距離感まで迫ってきた。

(どどど、どうしましょう!!)

 日奈様の手がそっと月乃の脇腹あたりに伸ばされて、月乃は震えながら目を白黒させた。が、その直後自分の背中のドアにコトンという小気味良い衝撃を感じる事になる。

「鍵、掛けますねっ」

「へ・・・!?」

「私お皿洗ってきます♪」

 日奈様の笑顔を前に一気に脱力した月乃は、空気がしぼんでいくようにその場に座り込んだ。この調子では月乃の身が持たない。


 日奈様はそれほど積極的に恋人とイチャイチャするタイプの女性ではないかも知れない、月乃はこの時ちょっぴりそう思った。二人で暮らせる事になった時点で月乃はもう充分幸せなので、それくらいの関係のほうがむしろ助かるくらいである。月乃はやっぱり今でもクールな女性でありたいからだ。



 部屋は旅館のロビーくらいの明るさがあり、照明が暖色なので非常にエレガントで落ち着いた雰囲気である。

「月乃様、明日は体育ありますか?」

 月乃の体操服を畳んでくれながら、日奈様が尋ねてきた。

 忘れられがちであるが彼女たちは普通の高校生であり、卒業直前の三年生と違って平日はしっかり授業がある。

「え、えーと・・・ありませんわ」

「そうですか。私はあるんですよねぇ。バレーボールです」

 クラスが違うと時間割が異なるわけである。

 まだ制服姿の月乃は、ソファーの上で体育座りをしながらこっそり日奈様を見ていた。暖炉型のストーブ置きの横にある柱時計の針は21時を差している。

「さてと」

 衣類の整理を終えた日奈様は椅子から腰を上げ、ぐいーっと伸びをした。そして綺麗な腕と脚をバレーボールのジャンプサーブのようにゆっくりお茶目に動かして、月乃に無邪気な笑みを見せたのだった。

「月乃様」

「は、はい?」

「シャワー、お先に浴びてきていいですよ」

 緊張しすぎて頭が非日常状態になっている月乃は、いつもやっている習慣などすっぽ抜けていたので「シャワー」と言われてなんだか懐かしい気持ちになった。もうここが月乃の新しい家なのだから、温かいお湯をたっぷり浴びて落ち着くべきに違いない。

「じゃ、じゃあ浴びてきますわ」

「はい」

 月乃はネコのように音も無くソファーから床に下り立ち、靴下越しにじゅうたんのフワフワを感じながらシャワールームに向かった。もちろん日奈様の横を通り過ぎる時は気高いライオンの顔である。

 


 シャワシャワと心地よい湯音を遠くに聴きながら、日奈はソファーに座って思案していた。

「うーん・・・」

 月乃様のお嬢様オーラがバリアーのようになっていてなかなかイチャイチャできないのだ。確かに日奈は月乃様に嫌われたくないから、突然抱き着いたりキスしたりをあんまり頻繁にやらないほうが良いのかも知れないが、せっかく同室にして貰えたわけだし、恋人同士のドキドキな触れ合いを楽しみたいものである。二人はこれからずーっと一緒なのだから焦る必要などないのだが、日奈は今夜猛烈にそんな気分なのだ。

「どうすればいいかなぁ・・・」

 相手はこの学園で最も難攻不落だったスーパークール美少女である。小手先の戦術ではお嬢様バリアーにポーンと跳ね返されてしまうだろう。日奈は悩んだ。


 ふと、日奈の脳裏に今日一日の出来事が一幅の絵巻物のようになって再生された。問題を解決するのが本人である以上、その方法が彼女の過去から探り出される事は必然である。

「あ!」

 そして日奈は名案を思い付いたのである。



 淡い桜色のシャワールームの温もりの中で、月乃はほっと一息ついていた。

(あったかいですわぁ・・・)

 二つずつ並んだシャンプーやトリートメントが目に入った瞬間は、胸に二人暮らしの緊張感が駆け抜けもしたが、シャワー室は乙女の聖域であるから、さすがの月乃も気を抜いている。

(なんとかこのままクールな感じで今日を乗り切りますわよ・・・)

 恋人同士とかそういう事は置いといて、月乃は自分のプライドを守るのに必死である。


 お風呂場がバニラの花のような甘い香りでいっぱいになった頃、月乃はお湯を止めてバスタオルで体を拭き始めた。脱衣所で拭いてもいいのだがここのほうが温かいし、何より日奈様に出会う心配もない。

「ふう・・・」

 落ち着いて気合いを入れた月乃は、バスタオルを体に巻いてから脱衣所に出ることにした。ちなみにヴェルサイユハウスのバスタオルは分厚いくせにフワフワと柔らかいので身を包むには最適である。

 月乃がドアを開けて素足でバスマットに乗ったその瞬間、事件が起きたのだ。

「え・・・」

 火照った月乃の耳の彼方に、毎度おなじみの鐘の音が聞こえてきたのである。

「ええッ!?」

 間違いない、これは小学生モードに変身する合図である。戒律が消滅した今なにが原因で変身させられるのかサッパリ心当たりが無い月乃は、迷子のプレーリードッグのような動きで慌てた。

 変身する時に身を隠すのが癖になっている月乃は、とっさにお風呂場に戻り、バスタブの中でうずくまった。鐘はいつもよりずっと早く迫ってきているようだったので、急いで姿勢を低くしないと変身後に倒れて目を回す事になるのだ。



 プレーリードッグが慌てているような気配が収まったのを耳で察した日奈は、星に祈りを捧げていた手を胸の前からそっと下した。

(うまく・・・いったかな?)

 そう、犯人は日奈なのである。

 学園を見守って下さっている姉妹の神様はいつもかなり近距離で学園生徒たちを見守っている感じがあったので、「月乃様を今だけ小桃ちゃんにして下さい」とお願いすれば叶えてくれそうな気がしたのだ。

 日奈はドキドキしながら脱衣所のドアを開けた。

「月乃様ぁ?」

 甘いシャンプーの香りに大きな鏡が曇っているが、月乃様の姿は無い。日奈はさらにドキドキしながらシャワー室のドアを開けた。

「月乃様ぁ?」

 いた。バスタブの中で子猫のように丸くなり、意外にも安らかな表情で眠る裸の小桃ちゃんである。

 


 どれくらい眠っていたのか月乃には分からなかった。

 目が覚めると彼女は柔らかいお布団のサラサラと心地良い温もりの中におり、アンティーク風の間接照明が2、3台壁際で夕焼け色に輝いているのが見えた。どうやらまだ消灯していないようなので、それほど時間は経過していないらしい。

(日奈様は何をしてますの・・・?)

 上半身を起こした月乃は、ここで自分の身に起きている問題を思い出したのだった。

「あ!」

 体が完全に小学生だった。

「うぅ・・・」

 理由は不明だが月乃はまたおこちゃまになってしまった。これではクールなお嬢様を演じることが困難になる。

「あれ、起こしちゃった?」

「ひ!」

 脱衣所から出て来たバスローブ姿の綺麗なエンジェルに、月乃は目を丸くした。微笑む日奈様はスリッパを履き、鼻歌などを歌いながら冷蔵庫を開けて覗き込んでいる。

「飲む? 小桃ちゃん♪」

「こ、こももちゃん・・・?」

 日奈様が持ってきて差し出してくれたのは夕方のコンサートの時に周辺の寮の子たちから貰った160ml缶の桃ジュースである。日奈様の美しい腕がバスローブから覗いたのと同時に夢のようないい香りに襲われた月乃は、ここに長居されては困ると感じ、ジュースに手を伸ばした。

「開けてあげるね♪」

「え・・・」

 日奈様は缶をぱしゅっと開けてから月乃に渡してくれた。これにはお嬢様月乃ちゃんも顔が真っ赤である。

「わ、わたわた、わたくしは月乃ですのよ! 小学生じゃないんです・・・!」

「分かってますよ♪ でも今は、小桃ちゃんですよね」

「・・・違います」

 違わないのだが、月乃は素直になれない。そっぽを向きながら飲んだ桃のジュースは、月乃の小さなお口と胸をみずみずしく潤した。

 横目で日奈様を見ると、ベッドのへりに腰かける彼女も同じジュースを飲んでおり、目を合わせてにっこり笑ってくれた。ああ、私たち本当に一緒に暮らしてるんだ・・・月乃はこの時ようやくそれを実感するのであった。


 日奈様が窓を閉めると、それまでどこかの部屋から微かにこぼれていたラジオの音楽や風の音が止み、一気に部屋の空気が静まった。二人きりの空間であるという実感が、月乃の体の芯をじんわり締め上げる。

「お祈りしたんですよ」

「へ?」

「神様にお祈りしたんです。月乃様を小桃ちゃんに変身させて下さいーって」

 日奈様はそう言って部屋の隅の照明を一つだけ消した。

「どどどうして変身なんか!?」

「だって・・・」

 日奈様はベッドの上にゆっくり乗って女の子座りをした。

「このほうが、お互い素直になれるかなぁって♪」

 バスローブの隙間から見える日奈様の豊かなお胸の谷間に月乃は怯えた。

「あ、ちなみにこのバスローブ、乾いてる奴だからお布団は濡れないよ♪」

 そんな事はどうでもよい。月乃はジュースを飲んだあと再び潜り込んでいたお布団の中という無防備なポジションから起き上がり、日奈様に体を横に向けて正座した。よく見ると月乃はちゃんと子供用のパジャマを着ているが、月乃は着た覚えがないので、気絶している間に日奈様が着させてくれたのだろう。


 日奈様の視線を頬にじんわり感じて、月乃の耳はサクランボみたいに赤く染まった。

「小桃ちゃん♪」

「・・・小桃じゃないですわ」

「月乃ちゃん♪」

「ちゃ、ちゃんって言わないで下さい!」

 日奈様がクスクス笑った。これは他の誰でもない、月乃にだけくれた笑顔である。伝説の美少女と言われた日奈様のスマイルを今、月乃は独り占めしているのだ。

「月乃様」

「は、はい・・・」

「こっちむいて♪」

「う・・・」

 まるで本当に小学生と触れ合うような声に月乃は恥ずかしさ大爆発であり、しばらく身動きを取れなかったが、ここは密室ゆえ恥をかく心配は普段に比べると圧倒的に少ないという安心感に動かされ、顔だけはそっぽを向けたまま、体を日奈様に向けてあげた。日奈様の前で恥ずかしい想いをする事を何よりも避けたがっているいつもの月乃ならしない、油断まみれの動きであるが、平静でない今の月乃にまともな判断力などないから仕方がない。

「月乃様」

「・・・は、はい」

「おいで♪」

 日奈様が手を伸ばしてきた。

「ほら、おいで♪」

「ななな何を言ってますの!?」

 日奈様はちょっと恥ずかしそうに俯いてから、にっこり笑って答えた。

「月乃様、もう・・・我慢しなくていいんだよ♪」

 この一言が実は今夜の一番のポイントである。

 二人はこれまでずっとずっとずーっと我慢してきた。社会に求められる立場は恋心を閉じ込めるイバラの森となって二人の間に立ちはだかり、あらゆる恋の望みを実現不可能な幻想絵画の向こう側のものにしてしまっていた。好きな人とデートをしたり、手を繋いだり、キスをしたり・・・そんな事は夢のまた夢だったのだ。

 しかし今は違う。花と実りの桃源郷となったこの学園に翼のない夢など無く、届かない星など無いのだ。秘する美徳は確かに乙女の人生にとって大いなるスパイスであるが、そこに生まれる不幸な齟齬に打ちひしがれて悲劇のヒロインになる必要はない。悲しみの泥沼に清らかな花を咲かせるレンゲによく似たこの甘美な自由を、今こそ信じて両腕いっぱいに抱きしめるべき時である。

「おいで♪」

「う・・・」

 月乃は横目で日奈様を見た。

 まるで天国からの使者のようだった。なぜ彼女の背中に翼が生えていないのか不思議に感じるほど神々しい日奈様の笑顔に、月乃の粗雑な理性など風前のともしびである。

「来てくれないの?」

「イ、イヤです・・・」

「じゃあ・・・今夜は私から、いくね♪」

 月乃の覚悟を待つことなく、日奈様はハイハイして月乃に寄ってきた。

「ひー!」

 逃げようとする月乃の意志は上半身にしか反映されず、そのままなだれるように仰向けに倒れてしまった。そんな月乃の小さな体の上に、日奈様は四つん這いでやってきたのだ。

「えへ、捕まえたよ、小桃ちゃん♪」

 もう逃げられない。

 外国のフレンチマカロンみたいな甘ぁ~い匂いが、フルーティーでフローラルでラグジュアリーな温もりになって月乃の鼻をくすぐり、彼女の心を一瞬で虜にしてしまった。夕焼け色の優しい薄明かりに照らされるバスローブ姿の日奈様の顔が目の前に迫って月乃は声が出せず、息も出来なくなりそうである。

「このまま覆いかぶさって、ぎゅうってしていい?」

 月乃は「あ」だか「う」だか「え」だか分からない声を洩らしてあわあわするだけである。

「いい? いくよ♪」

 なぜか小桃ちゃんにだけは積極的な日奈様は、プライドが高くしがらみの多い月乃の恋人にぴったりである。

 日奈様は月乃の瞳をまっすぐ覗き込みながらゆっくりゆっくり滑り込むように月乃を抱きしめ、唇を月乃の耳元に寄せる体勢になった。

「はぁっ・・・ん!」

 日奈様と密着し頬が触れ合った月乃はアホみたいな声を出してしまった。天にも昇る気持ちとはまさにこの事である。

 パジャマ越しではあるが、ふわっと柔らかい日奈様の温もりと優しい感触に全身包まれ、月乃は幸福感がどんどんどんどん溢れてきた。それはまるでお湯をいっぱい吸ったスポンジのようで、抱きしめられれば抱きしめられるほど幸せがじんわりあふれ出す感覚であった。

「どう? 気持ちいい?」

「うぅ!」

 耳元でささやかないで頂きたい。

 全身をじんじん痺れさせるような日奈様の声に、月乃は子猫のように身もだえした。

「でも・・・月乃様。まだ、ゼロじゃないよね」

「ん・・・え?」

「私たちの距離」

 そう言うと日奈様は一度体を起こし、お布団を自分の背中に被りながら器用にバスローブを脱いでいったのである。その様子を茫然と見ていた月乃も、日奈様の胸が見えそうになって我に返り、大きな枕を自分の顔にバフッと乗せて現実逃避した。

「ほら、小桃ちゃんも♪」

「あっ・・・!」

 ただでさえ小桃ちゃんモードになっているのに今の月乃は日奈様に魅了されて全身脱力してしまっているから抵抗しても無駄なのである。もじもじふにゃふにゃと抵抗する月乃のパジャマを、日奈様はニコニコしながら脱がしてしまった。

「ぎゅうってしてあげるね♪」

 そして先ほどと同じように覆いかぶさって月乃を抱きしめてきたのである。

 既に天に昇っていたはずの月乃のハートは大気圏を飛び出し土星の環をシンバルのように鳴らしてかすめながら遥か銀河のきらめきへすっ飛んでしまった。さらさらすべすべの美肌が圧倒的温もりの面となって月乃の小さな心身に押し寄せ、彼女の理性を完璧に燃やし尽くしてしまったのである。青春を長い冬の時代に凍結させてきた月乃は、人の肌の温もりがこれほどに幸福を通わすものであるとは全く知らなかったわけである。

「はぁ・・・あぁ、んっ!」

 小さな月乃は優しくぎゅうううっとされた。温かくて柔らかくていい匂いで、もう本当に本当に幸せだった。日奈様の綺麗な髪がほっぺを滑るだけで月乃はゾクゾクが止まらなくなった。

「月乃様かわいい・・・」

「ひゃああ!」

「かわいいですよ、月乃様♪」

 また耳元でささやかれた。たぶんわざとである。

 最大の武器である忍耐力がここでめでたく払底した月乃は、本能に導かれるままに細い両腕を日奈様のすべすべしてぽかぽか温かい背中に回してしまった。全身密着である。

「月乃様、幸せ?」

「うん・・・うん・・・・!」

 子ギツネが鳴くような声で月乃は返事をした。

「私も・・・すごく幸せ」

「あぁ・・・うっ・・・」 

 ハリがあってすべすべでふわふわで、もちもちポヨンなおムネが温かく密着し、全身が浮かんで日奈様と混じり合うような一体感に包まれた月乃は、時間やら空間やらがハッピーに歪んだ永遠の楽園に昇っていくような気持ちになり、いつの間にか涙までこぼしていた。


「月乃様・・・」

「・・・お、お姉さまぁ・・・!」

 姉小路日奈という女は世界一と言って過言でないミラクル級の美少女であるので、そんな彼女にこんなことされたら、どうにかなっちゃうのが自然である。

「これからはずーっと、一緒だからね」

「うん・・・うんっ・・・!」

 ましてやその相手が今までいっぱいいっぱい我慢してきた健気な少女だったとしたら、彼女の喜びは計り知れない。

「・・・愛しています。月乃様」

「わたくしも・・・んっ・・・!」

 うっとりするほど幸せな日奈様のキスに小さな唇を奪われた月乃は、一瞬で頭の中が真っ白になり、気を失ってしまった。キスで目覚めるお姫様は童話に何人かいるが、このお嬢様はキスで眠っちゃうのだから大したものである。どうやら月乃が感じている幸福が、彼女の許容量をオーバーしてしまったらしい。

 これからこんな生活が毎日続く事になるというのに、月乃は随分無邪気な、幸せそ~うな寝顔を見せた。そのあまりの愛おしさに我慢できない日奈は、背後から月乃をぬいぐるみのように優しく抱きしめながら眠ることにしたのだった。何から何まで不思議なカップルだが、相性だけは最高なようである。



 爽やかな朝の陽が寮の窓辺に差し込む頃、山肌の桃の花のつぼみは、空の青がみずみずしく透き通る朝露に誘われてそっとほころび、乙女たちの恋心によく似た可愛い桃色を覗かせていたのであった。

 

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