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紫をまとういと高き天使  作者: げんくう
第11章 鎌倉古寺巡礼
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【報国寺(竹の寺)】

「次はやっと報国寺だな、ここからすぐだから」


 バス通りを渡り、川沿いに歩いて行く。


「この金沢街道の先が、十二所(=じゅうにそ)って所で、

この川な、十二所神社の手前から、旧道の朝比奈の切通し沿いに、

太刀洗い川って名前が付いてるんだ。

 この川、由比ヶ浜の海岸まで、いくつも名前を変えて、

最後が滑り川となって海にそそいでるんだ」


「オズ、太刀洗い川って、梶原景時公が、どなたか暗殺したあと、

太刀を洗ったという、名水が在る所でしょ」


「ああ、上総広常な。

 ジャンヌ『太刀洗い水』、役行者に浄めてもらえって言ったじゃん」


「ええ」


「今度の土曜の午前中、六郎参り、畠山重保のお墓に行くじゃん。

 その前に行こうか? 

 鎌倉駅からバスに乗ればすぐだから」


「わ! ほんと? 行く行く」


 しばし歩くと、

「ジャンヌあそこが浄妙寺のバス停だよ、帰りに寄っから。

 オカアがさあ、浄妙寺には、本格的なお茶室あるから、

ジャンヌ茶道部だから、案内してあげろって」


「え! お母様が? わー嬉しい。楽しみぃー」


 バス通りを右に入って行く。


「あそこが報国寺だよ」

「オズ、あれが山門?」


 ジャンヌは思はず立ち止った。


「ジャンヌどうした?」


「あ、いえね、何ていうか、あの参道の雰囲気ね、

樹木の剪定のセンス、とても素敵だなって」


「そうかぁー、そう言われてみれば、確かにセンスいいわな。

 俺も調和っていうか、ハーモニーの良さ感じるな」


「そうでしょ、山門とのバランスが見事よね。

 浄智寺のような、自然の木立に囲まれた、

山奥の清浄な雰囲気とは違って、人の気配は感じるけど、

それはまた、素晴らしいわね。

 東慶寺の、女性的な、尼寺の雰囲気とはまた違っていて、

それぞれ独特な魅力があるわね」


「なんかさぁジャンヌ、ここも禅寺なんだけど、

座禅組んで、悟りを開く、精神修養の場なんだろうから、

参道から、山門にかけての雰囲気って、大事だよな。

 ここ、俺今まで、竹の庭しか意識してなかったから。

 ジャンヌ寺に入る前から気に入ってるじゃん」


「そうね、竹のお庭、楽しみぃー」


 山門前の駐車場に、車が5~6台停まっている。


「俺、久々に来たけど、駐車場、まだあるんだ」


「駐車場って、そこに停まっている車?」

「ああ、左の参道脇にもあるだろ。

 浄智寺は、山門前に無料の駐車場があって、

アニメの『TARITARI』でも登場して、まだあるんだけど、

ここもまだあるんだ」


「鎌倉はやはり、歩いて散策する所だから、車で来る人は少ないのね。

 ここもみんな、歩いて来るみたいね」


「うーん、でも、俺んちの下の、鎌倉街道、

休みの日はいつも、渋滞してるぜ」


 俺とジャンヌは、参道に掲げてある、案内板を見る。


「臨済宗建長寺派ってなってるな」


「建立は、建武元年1334年てなっているけど、

鎌倉幕府を滅ぼした後に建てられたのね。

 開基の、足利家時ってどういう方?」


「足利尊氏の祖父なんだ。

 この人、北条時宗の時代の人で、

時宗が亡くなった後自害してるから、実際の開基は、

上杉家の人なんだ」


「え! 自害なさったの?」


「ああ、先祖の八幡太郎義家が、七代のちに生まれ変わって、

天下を取ると書き置きして亡くなったんだ。

 その七代目が家時だったんだけど、自分の代では難しいので、

三代のちに先延ばすことを八幡大菩薩に祈念して、

自らの寿命を縮めたんだ」


「それでお孫さんにあたる、尊氏公が天下をとったのね」

「そういうことになるな」


 俺とジャンヌは、山門をくぐって、参道を入ると、

「わぁーあ、やはり中も素晴らしいわね!」


 ジャンヌは、左手の灯篭から、石庭の辺りを観て驚嘆している。


 少し進むと、立ち停まり、合掌しながら、

「観音様のお出迎えね」


 ふと見ると、大きな銀杏の根元に、

白い観音像が座って出迎えてるようだ。


 俺は今まで気付かなかった。

 ジャンヌはこの寺、スゲー気に入ってるみたいだ。


「中もよく手入れされているわね。美しいっていう感じね」


 なるほど美しいか。

 ジャンヌはしきりに歓心している。


 参道を進んで行くと、右手に、赤い帽子とよだれかけ(?)を掛けた、

お地蔵さんがいた。


 ジャンヌはそこにも、合掌してお祈りした。

 ジャンヌと来ると、今まで気付かなかった、新しい発見だらけだ。


 更に進むと、右手の広い階段の上に、本堂が見える。


 ジャンヌと階段を昇りながら、

「正面が本堂で、裏が竹林になっているんだ。

 本堂まで無料でさ、左手に竹の庭の入口があって、

そこは拝観料がかかるんだ」


「竹が見えるわね。オズご本尊は?」

「さあ、なんだろう。判んないなぁ」


 俺とジャンヌは、本堂でお祈りし、左手の、竹の庭の拝観入口に。


 拝観料は200円、抹茶込みだと700円だ。

 拝観券と、抹茶の引換券をジャンヌに渡してやる。


「ありがとうオズ」


 ジャンヌは拝観券を見ながら、

「竹の庭と足利の史跡って書いてあるわね」


「おう、たしか山側の崖に、足利家を祀ったやぐらがあるはずだけど。

 ジャンヌ先に竹の庭で抹茶飲むか?」

「はい」


 竹林の中の、庭石の上を進んで、左手奥に抹茶席がある。

 緩やかなカーブのある屋根に、庭に面して椅子が三列に並んでいる。


 一番奥の前列が空いていた。

 前列は木のテーブルがある。


 後ろの抹茶の、受付カウンターのおばちゃんに、

抹茶引換券を渡すと、パンフレットと番号札を渡される。

 受付番号6番だ。


 俺はジャンヌを奥に座らせ、リュックを降ろす。


「ここ特等席ね。あれ湧水かしら?」


 前の岩肌から、細い滝のように水が落ちている。


「だろうなぁ、いい音してるな」


「ええ、素敵な竹のお庭で、お抹茶頂けるなんて、オズありがとう。

 私、このお寺も、このお庭も、とっても気にいっちゃった」


「そっかー、よりゃよかった。

 俺、四日市の、椿大神社の鈴松庵で抹茶飲んだじゃん。

 あれ以来、ジャンヌをここに、連れてきてやりたかったんだ。

 絶対ジャンヌ喜ぶだろって」


 ジャンヌは両拳を、胸の前で握り締め、ゆらしながら、

「わーぁ、オズありがとう。

 私今、なんか、日本の文化って素晴らしいなって……感激しているの!」


「あー連れてきてよかった。

 ジャンヌここなぁ、外国人にも人気あるんだ」


「そうなんだぁ。やはりねぇ」


 ジャンヌは、目を輝かせて庭を鑑賞している。


 抹茶カウンターから、

『6番の番号札の方』と呼ばれた。

 ここはセルフサービスだ。


「オズここは、お抹茶だから、私に取りに行かせて」

「おう、そうか」


 ジャンヌはカウンターで、番号札を渡しながら、

「ありがとうございます。あ、このお盆、鎌倉彫ですか?」

「はい、そうですよ」


「わーぁ、一枚一枚、彫られている絵が違うのですね……」


 俺は、はじめに一つ受け取ると、

ジャンヌの席の前のテーブルに置いてやる。


 二つお盆が揃ったところでジャンヌが、両手を合わせ、

「それではオズ、お菓子から頂きましょうか」


 鎌倉彫のお盆には、抹茶と、竹を擦り込んだ懐紙に、

小粒な落雁が二つ載っている。


「オズこの落雁の家紋、足利氏の家紋かしら?」


「おう、足利二つ引きっていうんだ。

 ほら、このパンフレットにも、透かして刷り込まれてるだろ」


 お菓子を食べ終わり、俺は抹茶茶碗を手に取ると、


「ジャンヌ先に頂きますしてから、回すんだったよな?」

「ええそうよ。こうやって……」


 ジャンヌが先に見本を見せながら一口すすると、

「美味しいー!」


 俺に微笑みながら促された。


 ジャンヌの所作を見ていると、手の動きなど、

日本的な女性の美しさを感じる。


「そっかー、ジャンヌ姿勢いいじゃん」


 俺は一口すすると、

「うーむ、いい感じ。

 お菓子ちっこいけど、抹茶とスゲー合うよな」


「ええ、先に甘いお菓子食べると、そんなににがく感じないでしょ」

「ほんとだ。ちっこいけど、効果抜群だな」


 飲み終わると、ジャンヌは茶碗を見ている、


「俺のお盆、松が彫られてるな」


「鎌倉彫って、鎌倉時代に、宋から禅宗と共に、

彫刻の技術も伝えられたのよね。

 ですからはじめの頃は、仏師が造っていたのでしょ?」


「え! 俺か? 

 鎌倉彫のことは解からねえなあ。

 そうか、仏像造りの技術が活かされてるんだ。

 ここも禅寺だから、鎌倉彫がよく似合うよな」


「そうね、山門前の参道から、おもてなしの心が、

至る所に現わされているわね。

 外国の観光客に、人気なのも解かるわね」


「ジャンヌこのパンフレットも、カラー刷りで豪華じゃん」


 ジャンヌはパンフレットを見ながら、

「ほんと、英語でも書かれているわね」


「英語だけだから、東南アジアや、他の外国語で書かれた、

各国語毎のパンフレットあればいいのにな」


「そうね、鎌倉は、ユネスコの、

世界文化遺産の登録を目指しているから、国際性も豊かでないとね」


「ジャンヌご本尊、釈迦如来坐像だ」


「そうね。崖に掘られたやぐらには、足利一族のお墓があるのね」


「ああ、足利尊氏が室町幕府を作ると、四男の基氏を、

鎌倉公方として、関東を治めさせたんだ。

 だけど四代目の持氏の時、執事の関東管領上杉憲実と対立し、

室町幕府の六代目、足利義教との争いに発展し、

パンフレットに『永亨の乱』て書いてあるだろ。

 本家と分家の争いだよな。

 最後は持氏が敗れて自害し、嫡男の義久が、

この寺で自害したんだ」


「あ、オズの謂うとおり、鎌倉公方は、

四代九十年にわたって栄えたけど、報国寺は、

関東に於ける、足利公方終焉の地って書いてあるわね。

 この辺りは、芸術家が多く住んでいたのね。

『特に川端康成先生は、この山あいのしじまの音なき音を

《山の音》と表現されました』って書いてあるぅー」


「さすがノーベル賞作家! やっぱ感性が違うな。

 でもジャンヌも共鳴してるじゃん。

 俺なんか、《山の音》ってなんだろう? 

 滝の音かって思っちゃうけど」


「ねえねえオズぅ、このパンフレットも、最後に、

『この古都鎌倉では、一木一草が歴史を語り、

時代の情念が身に迫る思いが致します。

 まさに、功名手柄をたてんとて、

《いざ鎌倉》と馳せ参じて、

武運拙く散って行った若きもののふたちに思いを致しつつ、

粗葉粗菓ですが茶を喫して下さい』って」


「うん、ぴったしじゃん」

「でしょおー! 名文よねぇ」


「そうだな、下の『特筆すべきこと』がいくつか書かれてるけど、

《北條勢新田勢両軍 戦死者の供養塔》って書いてあるじゃん。

 どこにあるんだろう。

 ジャンヌお参りしたいだろ?」


「ええ、足利一族のお墓もお祈りさせてね」

「おお、観光客来たから、席空けよっか」


 ジャンヌと竹林の中を進み、奥のやぐらを眺め、


「足利一族のお墓だよな、ここからお祈りしよっか」


 それから本堂裏の、中庭を鑑賞する。


「ここからの眺めも見事よねぇー。

 ねえオズぅ。このお寺、境内飲食禁止って書いてあるけど、

お昼どこで食べるの?」


「お稲荷さんか? 

 大丈夫、この先に華頂宮邸ってあって、

入口にテーブルと椅子があっから。

 じゃあ最後に、新田義貞の、鎌倉攻めの時の供養塔でお祈りすっか。

 俺場所判んねえから聞いて来る」


 拝観受付で聞いたら、釣鐘の横にあるとのこと。


 ジャンヌを連れて、鐘楼の後ろをまわってみると、供養塔はあった。


 供養塔は、沢山の小さな石塔群に囲まれて、

大きな敷石の上に建っており、真新しい花が活けられていた。


 供養塔から山門に続く、下りの参道の入口付近にも、

小さな石塔が並んでいて、中に石碑と、後ろに塔婆が数本建っている。


 石碑には、

『元弘三年五月(一三三三年) 北条一族と新田勢が合戦の折、

両軍戦死者の遺骨を、由比ヶ浜よりこの地へ埋葬す 

 昭和四十年 秋……』と刻まれている。


「北条軍の戦死者、ここにも埋葬されていたんだ。

 俺知らなかった」


「え? 他にも供養されているお寺、あるの?」

「ああ、今日、三浦一族とか、沢山の御家人が、

北条氏に滅ぼされた話ししたろ。

 だから最後は、滅ぼされた北条氏を祀る、

宝戒寺案内してやろうと思ってたんだけど。

 八幡様の近くに、かつての北条得宗家の屋敷跡にあるんだ。

 そこは北条高時はじめ、自害した一族郎党を祀っていて、

毎年5月22日の命日に、盛大に供養されているんだ」


「帰りに寄ってくれるの? ありがとうオズぅ」


「おう、宝戒寺は、北条一族だけど、新田義貞が、

亡くなった北条軍の兵士を供養するため、材木座に九品寺を建てて、

そこで供養しているんだ。

 ここ報国寺の遺骨は、きっと、発掘調査で出てきたんだろうに」


「そうなのかぁ、由比ヶ浜って、昔は多くの人が、

埋葬されていたのね」


「ああ、新田義貞が、稲村ケ崎で龍神に、黄金の太刀を投げて祈願し、

潮がさぁーと引いて、磯伝いに鎌倉に攻め込むんだ。

 だから由比ヶ浜が戦場になったんだろうに」


 ジャンヌは頷きながら、急に歌いだした。

『……稲村ケ崎 名将の 剣投ぜし古戦場』


「おうジャンヌ、素晴らしい! 

 鐘楼の梁塵も動いたぜ。絶対」


「ありがとうオズぅ。思わず歌ってしまったわ」


「いい歌じゃん、何ていう曲?」

「え? オズ知らないの? 

『鎌倉』っていう、小学唱歌よ」


「へ―え、憶えてねぇなぁ。

 でも、ジャンヌが歌ったメロディ、なんか聴いたことあるなぁ」


「鎌倉駅のホームで、発車の時に流れているでしょ」


「あ、そっかー。あれと同じだぁ。

 ここに祀られた人達、ジャンヌの歌声に、

惚れ惚れして聴いていたぜ、きっと。

 なぁジャンヌ、鎌倉駅も、ホームの発車の合図のメロディ、

ジャンヌの歌に替えたらいいのに、絶対みんな喜ぶぜ」


「オズ、恥ずかしいから、あまり誉めないで。

 供養塔でお祈りしましょ」


「わかった。じゃあお祈りしたら、昼にしような」

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