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紫をまとういと高き天使  作者: げんくう
第11章 鎌倉古寺巡礼
98/105

【杉本寺(光明皇后)】

 帰りは島津家の階段を降りて行く。


「毛利家も島津家も、お墓は並んでいるけど、

階段も参道も別なのね」


「そりゃあ大名家だからな。

 両方のお墓とも、江戸時代に造られたんだけど、

こっちの薩摩藩の、島津忠久のお墓の方が先に出来たんだ。

 江戸時代には、藩主も墓参に来てたみたいだけど、

毛利家の藩主も同じだろうに」


「え? 明治維新後に出来たのではないの? 

 薩長連合で、徳川幕府を倒したから……」


「そうだよなぁ、謂われてみれば、薩長が手を結んだのは幕末だけど、

坂本竜馬が仲介する前に、藩祖は仲良く隣同士、お墓に収まっていたんだ」


「オズこれって、薩摩藩の島津家発祥の島津忠久公と、

長州藩の毛利家発祥の毛利季光公が、江戸時代に既に、

仲良く並んで祀られるなんて、近代日本の発展を、

両家の子孫に託されたのは、神様の昔からの、遠大な御計画だったのね」


「そっかー、やっぱジャンヌ、ロマンチストだなぁ」


「え? 私、意外からやっぱに変わったの?」


「いやーだってさ、ジャンヌ夢みたいな、乙女チックな話が好きじゃん。

 俺、そーゆージャンヌの話し、好きだぜ」


「ありがとオズ。私、誉められたみたいで、とても嬉しい」


 ジャンヌはいかにも嬉しそうだ。全身で反応している。


 帰りは広場を真っすぐ進み、正面の階段の降り口まで来て、

ジャンヌは振返りながら、

「こちらからも帰れるの?」


「ああ、この階段は、薩摩藩が造ったのだろう。

 さっき上がって来た階段は、入口に長州藩の、記念碑があるから、

あとから別に造ったんだよな」


 ジャンヌは合掌しながら、三浦一族のやぐらを見つめている。


 目を閉じて、軽く会釈すると、

「それではオズ、次お願いね」


「おう、ジャンヌなあ、三浦泰村公が最後に、

北条家もいつか天の報いを受けて、滅びるだろうっていったろ」


「ええ、最後は、新田義貞の鎌倉攻めで、滅ぼされるのよね」


「ああ、その前に、三浦泰村公の館を急襲した、安達泰盛なあ、

その時はまだ、十代で若かったけど、その後、お祖父さんの、

景盛の思惑どおり、鎌倉幕府内で、

御家人ナンバー1の位置を獲得するんだ。

 父の義景に、腹違いの妹が生まれ、義景がすぐに亡くなったので、

自分の養子として育て、当時まだ、10歳だった時宗と、

一歳下の9歳になった妹と、結婚させるんだ」


「オズぅ、北条時宗公の奥様って、東慶寺開山の、

覚山尼様じゃなかったかしら?」


「おぅそうだぁ。

 泰盛だけど、外戚となって時宗と一緒に、蒙古来襲も乗り切るんだ。

 時宗が、元寇のあと、若くして亡くなると、息子の貞時が、

12歳で執権になるんだ。

 安達泰盛は、御家人だから、泰盛の力が強くなりすぎると、

得宗っていって、北条家嫡男の家の家来で、

御内人と呼ばれる連中の反発を受けるようになり、

御内人筆頭の、内管領平頼綱らとの対立が表面化し、

結局平頼綱らの讒言を真に受けた貞時が、安達一族を滅ぼすんだ」


「みんな自分や子孫に帰ってくるのね。

 鎌倉の世界って、凄いわね」


「ああ、貞時と頼綱が、用意周到に密謀してな、

泰盛と息子が、幕府に出仕したら、いきなり捉えられ、

殺されてしまい、長谷の近くの、甘縄にあった屋敷も襲われ、

同時に親族や、仲間の御家人たちも多数襲われ、

地方にいる息子や親族たちも、襲わせて、滅亡するんだ。

 弘安8年、1285年の11月、霜月に起きたから、

霜月騒動とかいわれ、500名近くが亡くなったんだ」


「あれぇ、安達家って、貞時公の母の、覚山尼様のご実家でしょ? 

 叔父様やいとこを滅ぼしたのね。

 覚山尼様、お止めすること出来なかったのかしら?」


「あ、ジャンヌなあ、貞時の命令って言ったけど、

貞時が執権になった翌年だから、まだ13歳のはずだから、

まだほとんど自分で判断出来ねえじゃん。

 だから頼綱にはめられたみたいなもんさ。

 それに密謀だから、突然襲いかかったんだろうから、

覚山尼も、事前に判れば当然止めさせるわなぁ。

 でも、霜月騒動の後か、最中か知らねえけど、

覚山尼は、子供たちを保護して、後のお家再興に繋がるんだ」


「そうなんだぁ。 

 覚山尼様は、親族を、お見捨てにはならなかったのね」


「それがなぁジャンヌ、東慶寺が開かれたのは、

霜月騒動と同じ年なんだ」


「え! それなら覚山尼様は、滅ぼされた安達家の、

親族の妻子たちを保護するために、東慶寺を建てられたの?」


「うーん、それは判らねえけど、開山にあたっては、

息子の執権貞時の許しを得てるって書かれてるから、

ジャンヌの謂うとおりかもしれねえな。

 貞時の許しとかいうけど、まだ中1くらいの子供だから、

母親のいいなりだろうに」


「でも妻子の人達は、助かってよかったわね。

 宝治合戦の時も、三浦一族の、妻子は助かっているのよね?」


「おうそうだぁ。

 覚山尼も、家族を滅ぼされた妻子の救済が、切実だったのかもな。

 結局、霜月騒動で、有力御家人たちが、みんな滅ぼされたから、

北条得宗家の独裁体制が確立するんだ。

 といっても、実際は、頼綱の独裁になるんだけど」


「ねえオズぅ、三浦泰村公を滅ぼした、安達泰盛公も滅ぼされたけど、

お二人とも、北条泰時公から、泰の字を一字頂いたのかなぁ? 

 それなら仲良くしないといけなかったのに!」


「そうかもな。泰時公も嘆いているぜ、きっと。

 ジャンヌ今度、常楽寺も行こうな」


「ええ、お願いね」


 俺たちは、荏柄天神の前まで来た、


「ジャンヌここ、荏柄天神だけど、ちょっと時間押してるから、

パスするからな」


「はい、それじゃオズ、私ここでお祈りするわね」


 俺とジャンヌは、奥の社殿に向かい、並んでお祈りした。


「荏柄天神って、鎌倉幕府の鬼門にあたるから、

頼朝が守護してもらうため建てたんだ。

 福岡の太宰府天満宮、京都の北野天満宮とここで、

三大天満宮って謂われているんだ」


「そうなのぉ、立派そうなお社ね」


それからすぐ、鎌倉宮の通りに出た。


「ジャンヌこの通りの奥に、鎌倉宮があるんだ。

 後醍醐天皇の皇子、大塔宮護良親王を御祭神として、

明治天皇の勅命で建てられたんだ。

 ここもパスするけど、ここからお祈りすっか?」


「ええ」


 ジャンヌを道路の端に寄せ、手を合わせてお祈りした。


 これから金沢街道へ出て、報国寺を目指す。


「ねえオズぅ、東慶寺の用堂尼様は、後醍醐天皇から、

大塔宮護良親王の菩提を弔うために、東慶時に入られたのよね」


「おうそうだぁ。

 足利尊氏と対立して捉えられ、本殿の後ろにある、

土牢に9ヶ月間幽閉され、尊氏の弟の、直義に殺されるんだ。

 土牢は、地下室みたいになっていて、上から覗けるんだ。

 それから本殿の脇に、『村上社』ってあって、

護良親王の忠臣の村上義光公を祀っているんだ。

 護良親王が、吉野城落城の折、もはやこれまでと、

宴会を始めるんだけど、そこに村上義光公が、

鎧に16本の矢を突き立てた、凄まじい恰好で駆け付け、

護良親王の錦の直垂を自分が着用し、

『我こそは、護良親王ぞ、汝ら腹を切る時の手本とせよ!』といって、

腹を一文字に切り、壮絶な最期を遂げたんだ。

 その間に、護良親王は、南に逃れることが出来たんだ」


 俺は右手で、腹を切るポーズした。


「それで身代わりとなって、犠牲になられたから、

神様として祀られているのね」


「おう、それでな、お社の横に、村上義光公の全身像があり、

『撫で身代わり』として入魂されていて、

体の悪いところを撫でて、身代わりになってくれるんだって」


「いろいろな神様がいらっしゃるのね。

 身代わりを願う人は多いでしょうから、毎日神職の方が、

お祈りして、光で浄めて差し上げないと、

村上義光公だけでは追い付きそうもないわね」


 金沢街道に出ると、観光客が、報国寺方面を歩いて行く。

 平日でもちらほらいる。


「ジャンヌさっきの霜月騒動の話しだけど、安達泰盛の屋敷は、

長谷の甘縄にあったんだ。

 屋敷跡にはな、北条時宗が産湯を使った、井戸が残ってるよ」


「え? なんで安達家の屋敷で生まれたの?」


「あ、それはな、時宗のお父さんは頼時だろ、

頼時の母は、安達景盛の娘の松下禅尼だからさ」


「そうなんだぁ。じゃあ姑の実家で生まれたのね。

 松下禅尼って、仏教を篤く信仰されていたのよね」


「ああそうだぁ。屋敷跡は甘縄神社の近くなんだ」


「一族のお墓は?」


「ジャンヌやっぱお墓とか、供養されているか気になるんだ」


「ええ、成仏できないで、迷っていたら悲しいでしょ」


「そっかー、安達泰盛の妹は、覚山尼だぜ、

東慶寺できっちり供養してるよ。

でも今度、甘縄神社、行ってみっか」


 ジャンヌは嬉しそうに頷いた。


「それから、安達一族を滅ぼした、内管領平頼綱だけど、

霜月騒動のあと、権力を握ると、強権的な恐怖政治を行い、

その力は、執権の貞時をも凌ぐといわれたんだ。

 でも貞時も成長し、21歳の時、1293年4月に、

鎌倉に大地震が起きるんだ。

 建長寺はじめ、多数の神社仏閣が倒壊し、死者も多数出たんだ。

 大地震の混乱の中、貞時は、どさくさに紛れて、

頼綱の屋敷を急襲させ、頼綱は自害し、溺愛していた二男も殺害され、

この時、家に火をかけられ、一族朗党93人が亡くなったんだ。

 中には貞時の娘もいて、二人亡くなったそうだ。

 この事件のことを、『平禅門の乱』と呼ばれているんだ」


「わーぁ、鎌倉では、至る所で一族が滅ぼされているのね」


「なんでも、頼綱と仲の悪かった長男が、

父は二男を将軍にしようとしているって、密告したという話しなんだ」


「え! そうなの? 

 幸せだった家族が、ある日突然、青天の霹靂のように襲われて、

亡くなったり、不幸のどん底に陥れられたり、

鎌倉には、悲惨な歴史が沢山あったのね。

 それで、そのぉー……」


「お墓か? 俺も判んねぇーんだよ。

 屋敷は経師ヶ谷っていって、

材木座の実相寺のあたりじゃねえかっていうんだけど……」


「そうなのぉ、いずれにせよ、経師ヶ谷って、

山が近くに迫っていたんでしょうから」


「ジャンヌ実相寺の辺りも、今度歩いてみっか?」


 ジャンヌは立ち止って合掌し、


「オズ是非お願い!」


「おう、それからな、熱海に頼綱の別邸があってな、

亡くなった後、地元の人々は、生前頼綱は、

日蓮や宗徒たちを弾圧したり、沢山の人を殺してるから、

屋敷は地中に沈み、生きながら地獄へ落ちて行ったと謂われ、

屋敷跡を『平左衛門地獄』と呼ばれていたそうだ」


「えーぇ、大変ねぇ。

 オズ、そこの路地ちょっといいかなぁ?」


 ジャンヌは眉を曇らせながら、

バス通りから少し入ると目を閉じて合掌し、


「大天使ミカエル様、み心に叶いますならば……平左衛門頼綱様が、

苦界にいらっしゃるのならば、お救い頂けないでしょうか? 

 一族御一統の皆様も」


 ジャンヌは無言でお祈りしている。


 俺もジャンヌの正面に回り、一緒にお祈りしようとしたら、

ジャンヌの瞳から、涙が流れ落ちた。


 ジャンヌが祈る姿は、正面からは初めて見た。


 合掌して祈っているその姿は、

純心無垢な『乙女の祈り』とはこのことかと、

俺はその清らかで、可憐な姿に見とれてしまい、

しばし祈るのを忘れてしまった。


 ややあって瞳が開き、俺と目が合うと、

濡れた瞳でニッコリ微笑み、頷いた。


「そっかー、よかったな。もういいのか?」


「ええ、ごめんなさいオズ、急ぐのでしょ」


「大丈夫だよ、じゃあ行こっか」


 再び金沢街道を歩いて行くと、左手に杉本寺が見えてきた。


 光明皇后が開基の寺だ。


 ほんとはジャンヌを案内したいけど、

時計を見ると、もう1時を回っている。


 迷ったけど、腹も空いてきたから、ここもパスしよう。


「ジャンヌこの杉本寺なぁ、鎌倉で一番古い寺なんだ。

 でもな、このあと報国寺見てから昼にすっから、

遅くなるから、ここもパスしような」


「はい、あ、ちょっと待って!」


 ジャンヌが入口で立ち止り、


「オズ、大天使ミカエル様が、

上で光明皇后様がお待ちだから、お参りしなさいって」


「え? マジで?」


 やばい! 横着したから、しかられそうだ。


「オズごめんなさい!」


 ジャンヌがすまなそうに、両手を合わせ、懇願している。


「い、いや、俺……」


 俺もジャンヌに両手を合わせ、階段上をちらっと見て、


「ジャンヌ、た、頼む、光明皇后と、

大天使ミカエルにお詫びしてくれ」


「え? お詫びって、なにを?」


「あ、それから観音様にも」


「え? オズお詫びお詫びって、どうしたの?」


「俺な、光明皇后が開いた寺だから、

ほんとはジャンヌを案内したかったけど、予定より時間過ぎて

腹も減ったから、迷ったけどパスするって言ったろ。

 そしたら上で、光明皇后がお待ちだからって言われたから、

俺ビビったよ」


「なんだぁー、そうなの……」


 ジャンヌは合掌しながら上を見上げ、


「光明皇后様、大天使ミカエル様、観世音菩薩様、

オズが反省していますので、お許し下さいませ」


「サンキュージャンヌ。じゃあ案内すっから」


 俺は階段上に礼をして、ジャンヌを促した。


「オズ、光明皇后様って、このお寺とご縁があるの?」


「あるもないもないよ。

 この杉本寺、開基は光明皇后なんだ」


「え? そうなの。

 光明皇后様って、聖武天皇のお妃で、奈良時代の人でしょ」


「おう、案内板に書いてあるだろう。見てみっか」


 階段下の案内板を、ジャンヌと読んでみる。


『鎌倉幕府が成立する500年も前の奈良時代(八世紀)に、

行基が開いたと伝える鎌倉最古の寺です。

行基は奈良の大仏造営への貢献や

貧民救済の社会事業などで知られています。

 その後、光明皇后の寄進で本堂が建てられたと言われています。

 本尊の十一面観音像三体は、国または市の指定の重要文化財で、

うち一体は行基の作とされています。

 坂東三十三観音霊場の第一番札所で、

八月十日の縁日は参拝客でにぎわいます』


「奈良時代に建てられたのね。

 正倉院の宝物って、聖武天皇の遺品を、光明皇后様が寄進されたのよね。

 中学の時、修学旅行で行ったわね。

 オズも行ったでしょ?」


「ああ、東大寺や国分寺の建立を進言したり、

仏教に深く帰依したんだよな」


 階段途中の拝観受付で拝観料200円を払い、

パンフレットをジャンヌに渡してやる。


「ここの観音さん、杉本観音とか下馬観音って呼ばれているんだ」


「オズ下馬観音?」


「ああ、そのパンフレットの後ろの方に書いてあるだろう。

『信心なくして御堂の前を馬にて乗り打ちする者は

必ず落馬すると云うので、

当時は下馬観音と云った……』

 だけどそこに、建長寺の開山大覚禅師がうんぬんって、

蘭渓道隆のことだけど、この寺に参詣され、祈願して、

行基菩薩が造った観音様に、自分の袈裟を被せて眼を覆い、

それ以降、落馬のばちが当たらなくなったそうだ」


「それでオズさっき、観音様のばちが当たらないように、

観音様にもお詫びしてって言ったのね」


「ああ、観音様に横着しようとしたからな。

 でも高僧の人って凄いよな、霊力っていうか、

諸々の不浄を浄めてしまうんだな」


「ほんと、『夫れより覆面観音と号し、

往来の不浄は彼の袈裟により落馬等の利罪止むと云う。

依て頼朝時代より秘仏とされたのである』って書かれているわね」


 階段を上がると本堂だ。


「ジャンヌ、《平成の祈り》のあとは、光明皇后への感謝だな」


「ええ。オズぅ、このお寺、山門の仁王様はじめ、

地蔵菩薩も運慶の作品なのね。

 ここに書かれている神様たちは、

あとで本堂で、個別にお祈りしましょう」


 俺とジャンヌは、本堂の前で、並んで祈った。

俺には分らないけど、きっと光明皇后が降りて来られ、

ジャンヌと交流されたのだろう。


「ジャンヌじゃあ、本堂に上がってみっか」


 靴を脱ぎ、拝観券を小箱に入れて上がってみる。


 建物自体が小さく、本堂も薄暗く、

仏像がところ狭しに祀られている。

 

 仏像はどれも、歴史を感じさせる立派なものだ。

 ジャンヌを先に促し、それぞれの仏像にお祈りする。


 始めに、中央に据えられた大きな観音様だ。


「オズ光明皇后様ね。

 ここにいらっしゃったのね」


「え? あ、ホントだ! 

 この観音様、光明皇后の化身なんだ」


 パンフレットを確認すると、     

『本尊前立 十一面観音(頼朝公寄進)運慶作』

と書いてある。


 ジャンヌはお祈りの後、深々と礼をして仰ぎ見て、

「光明皇后様は、ずっとこの地で見守り下さっていたのね」


 続いて各仏像をお参りしながら、本堂奥の、

一段高い所に本尊の観音様が祀られていた。


 一通りお祈りすると、ジャンヌは、

壁に飾ってある写真を観ている。


「ねぇオズ、美智子皇后様と浩宮皇太子殿下よ。

 このお寺に参詣されたのね」


「どれどれ、あ、ほんとだ。

 皇太子まだ学生時代じゃねぇ?」


「オズぅ、美智子皇后様には、光明皇后様が、

浩宮皇太子殿下には、聖徳太子様が、

背後でぴったり護っていらっしゃるそうよ」


「ジャンヌ、大天使ミカエルか?」


 ジャンヌは頷いた。


「そっかー、それで美智子様は、参詣されたんだな」


 俺とジャンヌは、靴を履き、階段を降りながら、


「光明皇后様って、医療施設の施薬院や、悲田院をお造りになって、

貧しい人や孤児の救済にあたられたり、慈悲深いお方だったのよねぇ」


「そうそう、今でいう、ボランティアの神様かもしれないな。

 ジャンヌ光明皇后の、千人風呂の話し知ってる?」


「え? 仙人って、芥川龍之介の小説に出てくる、

あの仙人の入るようなお風呂?」 


「『杜子春』か? いや、光明皇后の時代、疫病が流行ってな、

夢で霊示を受けて、千人の人をお風呂に入れて、

体を浄めるという誓いを立てたんだ。

 ちょうど千人目の、老人を洗っている時、

汚い患部の膿を吸い出すよう求められ、

光明皇后は躊躇なく膿を吸い出すんだ。

 その瞬間、老人は、光明燦然と輝き、如来の姿となり、

『我は阿閃如来(=あしゅく)の化身なり』といって消え去ったんだ」


「わぁー、光明皇后様凄―い。

 大感激! きっと、疫病患者を、民を救いたいという願いが、

神様のみ心に叶ったのね」


「そっかー、疫病も収まったんだぁー。

民は救われたってことだったんだな」


「それにしても光明皇后様、千人もの人、

洗うの大変だったでしょうに」


「あはぁージャンヌなぁ、千人も洗ったら、

腱鞘炎になったり、手がふやけてしまうじゃん。

 だから、光明皇后に仕える、三人の典侍が手伝ったんだ」


「そうなんだぁー、そうよね」


「三人の典寺(=すけ)が一緒に背中を流したり、

垢を擦ったりしたから、お風呂屋さんで、

背中を流す人のことを『サンスケ』って呼ばれるように、なったとさ。

 はいお仕舞い。

 あ、美智子様で思い出したけど、光明皇后は、王族以外から、

初めて民間人として皇后になったんだ。

 藤原家出身だから、

自身で藤三娘(=とうさんじょう)って署名されたり、

光明子とか呼ばれていたんだ」


「そうなのぉ、美智子皇后様の、ご活動を振返ってみると、

光明皇后様と、いろいろ共通なさるところがお有りなのね」


「おう、俺もそう思う。美智子様は、現代の光明皇后だな」


 ジャンヌは、嬉しそうにニッコリ頷いた。

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