【法華堂跡(頼朝の墓)《宝治合戦》】
これからジャンヌを、宝治合戦で滅ぼされた、
三浦一族のやぐらへ案内する。
「じゃあジャンヌ、北条時頼に滅ぼされた、
三浦一族のやぐら、お参りしたいんだよな」
「ええ、お願いできる?」
「ああいいよ。
ちょっと寄り道だけど、途中頼朝のお墓もあるけど。
ジャンヌ、頼朝のお墓、行ったことあるか?」
「いいえ、ないわ。一緒に案内してくれる?」
「おういいよ、すぐ近くだから」
俺たちは参道を左手に折れ、
「ジャンヌ、ここが流鏑馬が行われる馬場なんだ」
「え? こんな狭い道でやるの?」
「ああ、観光客で一杯で、もう身動き取れねえよ。
鎌倉まつりの、最終の日曜日にやるんだ」
流鏑馬の馬場を、ジャンヌと歩いて行く。
ジャンヌが途中、左側に白い案内柱を見つけ、
「ねえオズぅ、『静桜』ですって」
「あ、ホントだ。
『静御前終焉の地 福島県郡山市』って書いてあるな」
桜の木はまだ細い。最近植えたのだろう。
「きっと、義経を平泉まで追っていく途中で、
亡くなったことになっているのね」
「おう、そうだろうなぁ。
それなりの伝説があるさ、きっと」
静桜の隣りに、『実朝桜』が植わっていた。
ジャンヌは、石碑に彫られた和歌を読んでいる。
「鎌倉右大臣は、歌人としても、優れていたのね」
「自分の歌が、石碑に刻まれ、人に読まれるって、
やっぱ嬉しいだろうな」
馬場の入口まで来た。
鳥居の前に、『畠山重忠邸跡』の碑があった。
「畠山重忠の屋敷があったんだぁ。
俺知らなかった」
「オズ畠山重忠って、静御前が舞を舞う時、シンバルでしたっけ?
のような楽器を打ったのよね?」
「おうそうだぁー。
畠山重忠って、源平合戦でもよく登場する武将で、
最も武士らしい武士として、また、清廉潔白な人柄から、
他の御家人からも、尊敬されていたんだ。
それなのに、政子の父親の、北条時政の謀略で、
本人と、息子や一族が滅ぼされたんだ」
「また謀略なの?」
「ああ、重忠の正妻は、時政の先妻の娘で、息子の重保が、
同じく時政の後妻、牧の方の娘婿と、京都で宴会中に喧嘩するんだ。
そのことを恨みに思った娘婿が、牧の方に重保の悪口を言い、
牧の方が謀反をでっちあげて、時政をけしかけたんだ」
「先妻と後妻の争いなのね。
でも重忠公って、時政公の婿殿でしょうに。
それに、重保公はお孫さんなのに……」
「ああ、時政の息子の義時も、重忠の人柄から、
謀反に半信半疑で、当初は反対したけど、
重ねて強く迫られ、畠山氏の誅伐に同意するんだ。
先ず息子の畠山重保が血祭りに上げられるんだ。
本人を由比ヶ浜に誘き出し、身に覚えのないまま殺されてしまうんだ。
殺したのは、これから行く、三浦一族の、
当時の棟梁だった、三浦義村だったんだ。
宝治合戦の時には、義村は既に亡くなっていたけど、
息子たちが滅ぼされたんだ」
ジャンヌは、また眉を寄せて、顔を曇らせながら、
「わーあ、世代を超えて、因果応報が繰り返されたのね」
「ああ、畠山重保だけど、明け方屋敷に、
『由比ヶ浜で謀反だ!』って触れ込まれたんだ。
驚いた重保は、寝起きのまま、少数の朗党と、
由比ヶ浜へ駆け付けるんだ。
そこには、三浦義村の手のものが待っていて、
謀反人はお前のことだと言って、
本人訳も解からず殺されてしまったんだ」
「え、本人、身に覚えなかったのでしょ?」
「ああ、もともとでっち上げだから、
ジャンヌ由比ヶ浜に、一の鳥居って分る?」
「由比ヶ浜近くにある、大きな鳥居でしょ」
「おお、道路が二股に分かれる辺りだけど、
浜に向かって右側の、歩道の脇に、大きな石塔の墓があるよ。
それが重保の墓なんだ」
「あそこなら、人通りが多いわね。
夏なんて、すごい人が通るでしょ」
「ジャンヌ俺の話し聞いて、お参りしたくなったろう?」
「ええ、オズよく解かるんだ」
「やっぱし。今度行こうやぁ。
でもなジャンヌ、重保って、咳の持病があってな、
だから、咳の病気の神様になっていて、
六郎様って呼ばれ、親しまれているんだ」
「え? ほんと? 楽しみぃー。
それでオズぅ、お父様の重忠公は?」
「おう、武蔵の国の、自分の領地から、
134騎で鎌倉へ駆け付ける途中、横浜の鶴ヶ峰の辺りで、
北条義時を大将とした大軍と戦い、全滅するんだ。
途中、既に息子の死を知らされ、周囲は領地に戻って、
防戦することを勧められたけど、潔く大軍と戦ったんだ。
北条方では、重忠謀反と聞き、大軍を率いて攻めてくると思い、
関東の有力御家人が招集され、
数万の大軍に膨れ上がって迎え撃つんだ。
合戦後、重忠が、大軍ではなく、
一族郎党の一部しか率いてなかったから、
謀反の疑いは晴らされたんだ。
騙されて動員された、他の御家人たちの反発も強く、
討伐に向かわされた義時は、謀った牧の方と父の時政を、
鎌倉から追放して、第二代執権に就任するんだ」
「そうなんだぁ。
由比ヶ浜のお墓で、重忠公も一緒にお祈りさせて頂くわね」
「あのなジャンヌ、心配いらねぇーと思うよ。
戦場となった、横浜市旭区の周辺には、慰霊碑とか、
重忠関連の史跡が沢山あってさ、重忠の人柄を偲び、
地元の人たちが、手厚く祀ってきたんだ。
毎年命日の、6月22日には、
盛大な慰霊祭が行われているんだ」
「そうなのぉー、それなら安心ね」
「それからなぁ、合戦の報を聞き、急いで駆け付けた、
『菊の前』と呼ばれた妻が、討たれた重忠を悲観して、
その場で自害して、駕籠ごと埋葬された、駕籠塚もあるんだ」
「残された家族は、つらいわね」
「俺、今週の土曜日、部活午後からだから、
午前中お参りしようか?」
「え? 大丈夫? 嬉しぃ」
俺とジャンヌは、沢山ある案内板の、
『頼朝の墓』を目当てに歩いて行く。
ジグザグ曲がりながら進んで行き、
途中宝治合戦の話しをしてやる。
「ジャンヌなぁ、宝治合戦は宝治元年、
1247年の6月に起こるんだけど、前月の5月に、
八幡様に、三浦泰村を非難し、近いうちに、
誅罰されるであろう内容の、立て札が立てられたんだ。
デマとか噂も流れ、北条氏と三浦氏の緊張が高まって行くんだ」
「デマとか噂って、本気にしたり、疑心暗鬼になって行くわね」
「おう、そうなんだ。
時頼の母の父親である、安達景盛が、高野山から戻り、
御家人最大の三浦氏を排除し、
息子たちに取って替わらせたかったんだ。
泰村には、謀反の考えは更々なく、北条時頼方と、
使者のやり取りをしながら、合戦の回避に努めていたんだ。
それでも、双方合戦に備え、兵を集めて、
緊張が頂点に達した時、時頼が、合戦を回避し、
和平を求める誓詞の書かれた書状を届けさせたんだ」
「さすが最明寺入道殿ね」
「え? ジャンヌ、この時はまだ、
時頼21歳のときだから、まだ出家してねーぞ」
「そっかー、ごめんなさいオズ」
「使者から書状を受け取った泰村は、感激して涙を流し、
妻に、書状を家宝として、大切に保存しておくよう預けたんだ。
その妻だけど、北条泰時の娘だから、時頼の叔母になるんだ」
「北条家も、有力御家人とは、姻戚関係で、繋がっていたのね」
「時頼からの書状が届き、すっかり安心した泰村は、
湯漬けを食べるんだけど、ずっと緊張状態に置かれていたから、
吐いてしまってな」
「その時は、合戦は回避出来たのね」
「いや、和平に納得しない、安達景盛が、
息子の義景や、孫の泰盛らを焚きつけて、
『このチャンスを逃したら、これからずっと、
三浦氏の下に甘んずることになるぞ!』って言って、
八幡様の近くの、泰村の屋敷を急襲させたんだ」
「え? それじゃあ騙し討ちねぇ! 泰村様可哀そう」
「ああ、不意を突かれた三浦一族は、
屋敷に籠ってなんとか防戦するんだけど、
合戦の火蓋が切られると、時頼も討伐に乗り出し、
北条方に、続々有力御家人が加勢に加わるんだ」
「時頼公は、誓詞に反して、勝手に合戦が始まったのなら、
抑えなくてはいけないのに」
ジャンヌには珍しく、怒っている感じだ。
「毛利季光(=すえみつ)といって、大江広元の四男で、
出家して西阿と名乗っていたんだけど、
当初北条方に付こうとしていたんだけど、妻は泰村の妹だから、
『兄の泰村を見捨てる気ですか!
武士として信義に背きます。
どうか兄を助けてやって下さい』
それで季光は、一族郎党、泰村に加勢するんだ」
「義理の兄を裏切らなかったのね。
嬉しぃー」
「そうか、そうだよな。
でもなジャンヌ、季光の娘は、時頼の正室だったんだ。
だから奥さん、娘の嫁ぎ先より、兄の方を選択したんだ」
ジャンヌは一瞬啞然として言葉も出ない。
「合戦後、娘は時頼から離縁されてな」
「奥様、辛い選択だったのね。
それなのに私、喜んだりして……」
「しょうがないよジャンヌ。
鎌倉って、狭い所だから、
有力御家人同士の婚姻が多かっただろうから。
それから、その他、一族や、
将軍派の御家人も加勢するんだ。
戦況は、弟の光村が、守りを固め易いからと、
永福寺に精鋭80騎と共に立て篭もって防戦し、
泰村は屋敷に立て篭もって防戦するんだ。
膠着状態のまま推移するんだけど、
風向きが変わったところで、泰村の屋敷に火をかけられ、
煙に炙りだされて、頼朝を祀ってある、
法華堂に後退して、立て篭もるんだ。
多勢に無勢で、しかも泰村は、元々戦意もなかったから、
ここで死ぬつもりで、法華堂の先にある、
永福寺に立て篭もった光村へ、
泰村の口上を伝えるべく使者を出すんだ。
使者はなんとか光村の陣へ達して、
『滅びゆく定めは、もはや逃れようもない。
どうせ死ぬのなら、頼朝公の御影の前で、
兄弟一緒に、今生の別れをしたいから、
法華堂に参るべし』と光村に厳命するんだ」
ジャンヌは立ち止り、ハンカチを出して泣いている。
「この兄の厳命には、光村も従い、
手勢を含めた80騎は、敵の囲みを強行突破して、
全員手傷を負いながらも、奇跡的に法華堂に集結出来たんだ」
ジャンヌはハンカチで顔を覆い、泣きながら、
「……そう、兄弟一緒に……死ねたのね……」
「ああ、法華堂の中では、外で防戦している間、
出家していた毛利季光が、導師を務め、
称名念仏が行われ、その後しばし談笑し、光村が、
憤怒と悔しさのあまり、太刀を抜いて、自分の顔を切り刻み、
『まだわしの顔と判るか?』と問うと、
『まだ光村殿と判ります』と誰かが答えると、光村は、
更に顔を切り刻むので、泰村が、
『頼朝公の御影の前ぞ! 血で汚してはならぬ!』
泰村は止めさせ、涙ながらに、
『当家は累代に渡り、主君に仕えてきた功臣の家柄である。
北条家をも助け、尽くしてきた。
されど今、讒言により、謀反の誅罰を受けんとするは、
悔しく甚だ恥辱である。
父義村も、多くの者を陥れ、滅ぼしてきた。
今その報いを受ける時である。
北条殿も、きっと報いを受けるであろう。
だが我は、これから冥土に行く身、
北条殿に恨みはない……』と。
こうして一族郎党他、加勢の御家人たち500人が、
自害して果てたんだ」
「泰村様って、ご立派な最後だったのね」
「おう、そうだろう。死に際は立派だよな。
この話しなぁ、たまたま法華堂で、頼朝の供養していた僧が、
三浦一族が乗り込んできて、逃げ遅れ、
屋根裏に隠れ、堂内の一部始終を聞いていたんだ。
泰村が、法華堂に、火を掛けさせなかったから、
焼け出されなくて済んだんだ」
「それからオズ、奥さまや子供達は?」
「合戦は、男子のみでやったみたいだから、妻子たちは、
どこかへ避難していたんじゃないかな。
戦後、関連した妻子たちは、鎌倉を追放されているから」
「奥様たちは、助かったのね、ああよかった」
「泰村の奥さんだけど、逃避中も、時頼からの誓紙を、
お守りと一緒に、大切に持っていて、
鎌倉を出る時、時頼に返却されたんだ」
歩きながら話し、角を曲がると、正面に頼朝の墓が見えてきた。
墓地に続く階段の下、左側に白旗神社がある。
明治維新後、祭神を頼朝として出来た神社だ。
ジャンヌと一緒に由緒書きを読む。
頼朝の居館の北隅で、持仏堂があった場所で、
頼朝が亡くなると、法華堂として頼朝を祀ったと書いてある。
「ここで三浦一族の方々が亡くなったのね。
八幡様からここまでの道って、
合戦で人馬が往きかったのでしょうに」
「ジャンヌお参りするよな?
階段の上が、頼朝公のお墓だから」
俺とジャンヌは、並んでお参りすると、
階段を上がって行く。
正面が宝篋印塔だ。
「五重の宝篋印塔ね。いい形しているわね。
品があって、頼朝公にお似合いね」
「そっかー、そうだな。形いいよな。
ジャンヌここもお祈りして、すぐ行こうや」
「はい」
俺たちは階段を降り、左手に曲がり、
住宅の細い小道を進んで行く。
左側が山側で、途中に大きな石碑があり、
横のそれらしき階段を上がると、広場になっている。
案内板には、第二代執権の北条義時を祀る、
法華堂があった場所と書いてある。
右手奥には、長い階段の上に、大江広元らのお墓がある。
大江広元の墓地の、階段下に続く
細い小道を辿って行くと、階段の手前の左側に、
大きめなやぐらが見える。
小道から3~4メートル入った奥にある。
案内板も何もなく、ひっそりとしている。
「ジャンヌ、あそこが三浦一族のやぐらだよ」
「お寂しそうね」
無念の最後を遂げた、一族が祀られていると思うと、
多少引きぎみになる。
そう思った次の瞬間、
『これじゃいかん。ジャンヌは俺が護る!』
「ジャンヌ待て! 俺が先に入る」
俺が先に進み、やぐらの入口にリュックを置き、
中に入ると、ジャンヌが後ろから、
「オズ待って!」
「いや、いい。ここは……」
言いながら後ろを振り返ると、
「オズ違うの、ちょっと待ってて、
私今、チョコレートとミルクティ出すから、差し上げて」
ジャンヌもリュックを下ろし、一口サイズのチョコレートを、
懐紙に載せ、カップにミルクティを注いでいる。
凄い光の波動にやぐら内が覆われた。
と同時に、目から涙が溢れ出した。
「じゃ、ジャンヌ俺、涙が止まんねぇ……前が見えねー!
お、俺、胸が詰まって……」
俺は、三浦一族の感謝の思いを受け、
感動で胸がじーんときた。
「皆さん降りてきていらっしゃるわね」
俺は、ジャンヌからチョコレートとミルクティを受け取り、
石塔の前の献花用の板の上に置いた。
左右にまだ新しい花が捧げられていたが、
お酒やペットボトルのお茶は、埃にまみれ、
大分古そうだ。
やぐらの奥は広く、結構な広さだ。
「ジャンヌ俺も、ジャンヌがオトウに買ってくれた、
大澤酒造の御神酒、開けてもいいか?」
「ええ勿論よ! お喜びになるわ」
俺はリュックから、御神酒を取りだし、紙箱から出すと、
小さな徳利に小さなお猪口もついていた。
お猪口をジャンヌに持ってもらい、
徳利のコルクのふたを開けると、
「オズ私お注ぎしようか?」
「おう、そうだな。ジャンヌも前に来いよ」
俺とジャンヌは、石塔の前にひざまずき、
徳利と猪口を交換し、ジャンヌがお酒を注いでくれた。
徳利とお猪口を置いて、石碑をよく見るが、
風化して字が読めない。
両サイドに塔婆が立てかけてある。
『附施餓鬼会 為 三浦若狭守泰村他一統五百余人……』
と書かれている。
「ジャンヌそれじゃあお祈りしてあげて」
「はい、えーと、三浦泰村様の弟さんは、
光村様でよかったわね?」
「おう、そうだ」
自らの顔を切り刻むほど、憤怒の思いで亡くなったので、
ジャンヌも気にかけたのだろう。
「三浦光村様、こんにちは。
今、お祈りさせて頂きますから、
お兄様のいらっしゃる、天界に昇って下さいね」
ジャンヌは、優し気に石塔に話しかけると、
やぐらの天井を見上げ、
「最明寺入道殿、三浦一族の仕置きは如何に!
大天使ミカエル様、宜しくお願いします。
それではオズ、私が声に出してお祈りします。
宜しいですか?」
「はい」
既にジャンヌは、完璧にミッションモードだ。
スゲー!
やぐらの中は、既に光の波動で満ちているのを感じる。
俺もジャンヌに倣って、ピラミッドの印を組んだ。
「『内平らかに外成る。地平らかに天成る。
地球の安寧と世界の平和が達成されますように。
大天使ミカエル様、み心のままになさしめたまえ。
三浦泰村様、三浦光村様、他ご一統の皆様が浄まり、
天界に導かれ光り輝きますよう、
大天使ミカエル様ありがとうございます。
役行者様ありがとうございます』」
ジャンヌが祈りだすと、やぐらの中が燦然と輝き、
また自然と涙が流れ出した。
「はい、ありがとうございました」
目を空けると、ジャンヌは合掌して天井を見つめていた。
大天使ミカエルへ感謝しているのだろう。
俺もすかさず役行者へ感謝した。
「オズぅ、みなさん迷っていらっしゃらないわね。
私安心した」
「そっかー、よかったな。
塔婆の数を見ても、毎年供養してるだろうし、
花も絶えないみたいだしな」
俺は、供えたお猪口の酒を徳利に戻しながら、
「ジャンヌそのミルクティ、俺ここで飲んじゃうから。
チョコも後で食べるから持って帰ろう」
「そうね、もうみなさん、召し上がって頂いたでしょうから」
それぞれリュックにしまい、やぐらの外に出た。
青空が広がって、すがすがしい気分だ。
俺は、高い階段の上を見上げながら、
「さっき案内板にあったけど、大江広元公のお墓と、
島津忠久公の他、三浦氏に殉じた、毛利季光公のお墓もあるんだ。
階段が二つあるだろ。
右側が島津忠久公のお墓で、長州藩と薩摩藩が、
江戸時代に別々に建てたんだ。
じゃあ行ってみっか」
俺とジャンヌは、鳥居の前で一礼し、
長い階段を上がって行く。
一気に昇ったので、ジャンヌが息切れしている。
「ジャンヌ悪ぃ、もっとゆっくり上がればよかったな」
「ううんん。大丈夫」
「ジャンヌ、正面が大江広元公のお墓で、
右が島津忠久公だろ、左が毛利季光公のお墓なんだ」
「じゃあ大江広元公からお参りしましょうか」
俺たちはやぐらに入り、無言でお祈りした。
外に出て、やぐらを見ながら、
「ジャンヌなあ、大江広元公って、京都の学者の家系で、
頼朝から鎌倉幕府にスカウトされた文官だったんだ。
それじゃお隣な」
隣の季光公のやぐらに入り、同じく無言でお祈りした。
「息子の季光公は、武士となって、厚木の毛利庄をもらい、
地名から毛利姓を名乗るようになったんだ」
「それなら、季光公が、初代毛利家なのね」
「ああ、宝治合戦で、息子たちも亡くなったんだけど、
季光公の四男が越後にいてな、許されて、
毛利庄は没収されたけど、安芸の吉田庄はそのまま与えられ、
その後、血脈は受け継がれ、戦国時代に毛利元就を生み、
明治維新を迎えるんだ」
「そうなのぉ、季光公が、信義の為に命を捧げたから、
戦国時代を経て、八〇〇年も血脈と家を繋いでこられたのね。
毛利元就公って、三本の矢の教えね」
「ジャンヌその、三本の矢の教えって何?」
「え、毛利元就公が、三人の息子を集め、
初め一本ずつ渡し、矢を折らせるのね。
次に三本束ねて折らせるけど、矢を折ることは出来ないの」
「あー判った。
兄弟三人、仲良く力を合わせなさいってことだろ」
「ええ」
「そういえば、毛利家の家紋って、一文字三つ星っていって、
三つの星の上に、一の字が乗ってるやつだよな。
戦国時代、毛利の両川っていって、養子に行った、
吉川と小早川の兄弟、仲良く本家を支えたもんな」
「兄弟の仲がいいのって、季光公の奥様が、
兄思いだったから、その遺伝子が継承されたのね」
「おう、季光公の血脈だけど、長州藩は、
明治維新で花が咲いたろ」
「ええ、明治以降、子孫の方はどうなったの?」
「毛利家の子孫は、どうなってるか判らねえけど、
最後の藩主、毛利元徳公の八男の、八郎さんが、
西園寺公望公の娘と結婚し、婿養子となって、
西園寺家を継ぐんだ。
西園寺公望公は、結婚はしなかったけど、
しっかり女の子は産ませていたんだ。
西園寺八郎さんは、優秀な宮内官僚として活躍し、
その長男の公一さんは、ゾルゲ事件っていって、
ソ連のスパイ事件に連座して、廃嫡になり、
三男の不二男さんが跡を継ぐんだ。
不二男さんの長男が公友さんで、現在の当主でさ、
弟に裕夫さんっていてさ、
五井平和財団の理事長ってなっていたな」
「オズぅ、五井平和財団って、どんな財団なの?」
「俺もよく判んねえんだけど、ホームページ見るとな、
『五井平和財団は、
【平和に向けて、人々の心と様々な分野の英知を結集する】
ことを目指しています。
【生命憲章】を基本理念に、
人々の平和意識を啓発する様々な活動を展開するとともに、
教育、科学、文化、芸術などあらゆる分野が協力し、
英知を結集するためのネットワークづくりを推進しています』
って載っていた」
「そうなんだぁ。
西園寺裕夫さんって、世界を平和にしていく財団のお仕事なんて、
素晴らしいわね。
大天使ミカエル様も、活動ご存知かもしれないわね」
「そうかもな。
最後、向こうの、島津忠久公のお墓行こっか」
「はい。
ねえオズぅ、島津忠久公ってどんな方なの?」
「初代島津家の人で、本姓は惟宗姓だけど、
近衛家に仕えるとともに、頼朝公の御家人でもあったんだ。
頼朝公から、日向の国の島津庄の地頭職を与えられ、
以降島津姓を名乗るんだ。
後に頼朝公から、大隅、薩摩、
それから日向の守護職に任じられたんだ」
「へ―ぇ、それなら、毛利家と島津家の祖の方が
、お二人揃っているのね」
「おう、ここは凄いとこだよな。
あ、それからな、忠久公の妻は、畠山重忠公の娘なんだ」
最後の忠久公のやぐらでお祈りし、外に出てからジャンヌが、
「島津家も毛利家も、ご先祖様をしっかりご供養なさってきたのね」
「おう、だから明治維新まで、生き残ったんだろう」
ジャンヌは、階段の上から、法華堂の方角を見つめながら、
「ねえオズぅ、毛利家って、宝治合戦が契機となって、
亡くなった季光公の子孫が、越後、広島と移り変わりながら、
現在も血脈が続いてるなんて、この辺りに立ってみると、
なんか悠久のロマンを感じるわね」
「へ―ぇ、ジャンヌも意外とロマンチストなんだ」




