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紫をまとういと高き天使  作者: げんくう
第一章 六国見山(ろっこくけんざん)
9/105

【神殿】

 家に帰ったら、ジャンヌとゴリの家の車が停まっていた。

 みんなの話し声が裏庭から聞こえてきた。


 俺たちも、裏庭へ回ってみると、そこには驚愕の光景が目に入った。

 親たちが振り返り、


「オズ、ちょっと、大変」

 オカアが興奮気味に叫んだ。


 裏庭の山側の斜面に、大きな石室が出現していた、前面の壁というか、

扉というか、おそらく封印されていたものだろう。落雷で砕け散っていた。


 今まで、単なる崖かと思っていた。

 ところが、単なる崖ではなく、大きな石室の封印部分だったのだ。


「オカア、懐中電灯貸して、俺、中見てくる」

 ジャンヌとゴリは、それぞれの親へ、初対面の挨拶をしている。


 俺は、ジャンヌとゴリの親への挨拶もそこそこに、

オカアから懐中電灯を受け取り、中を確認した。


 石室の奥に石の祭壇があり、サッカーボール大の水晶が祀られていた。

 俺は、中から皆に、

「ちょっと待ってて下さい。奥に祭壇があります。

ジャンヌ、ゴリ、こっちへ来て。足もと気をつけて」


 ゴリは、ジャンヌの手を取りながら入ってきた。

 ジャンヌは、水晶の前で、指を絡ませた合掌から、人差し指を揃えて天を指し、

ピラミッドの印を組み、《平成の祈り》を唱え祈った。


 祈り出すと、水晶が輝き出した、石室内が明るくなった。

「大天使ミカエル様がおっしゃられた、神殿て、ここのことだったのね」


 ジャンヌが祈り終わっても、輝きは消えなかった。水晶の灯が灯されたみたいだ。

 この神殿の封印が解かれ、水晶も輝き出したのは何年ぶりだろう。いや何百年、

それ以上何千年前の昔からかもしれない。


「この水晶、タイムカプセルね。過去・現在・未来が見透すことができるみたいね。

必要に応じて映し出されてくるわ」


「オズ、明日から私、ここで毎日、お祈りに来ていい?」

「勿論だよ、大天使ミカエルの指示だろう。

俺たちも、できるだけ一緒に祈るよ、なあゴリ」


「俺も毎日祈りに来る」

 ゴリの方が俺より気合い入ってるし、信仰心も篤そうだ。


「ありがとうオズ、モンチ。私、毎朝登校前にお祈りするわ。

来月もまた、山登り、お願いします」


「ああ、でも、これって、偶然じゃないよな。俺たちの聖地だな」とゴリ。

「そうだな、だから、俺たち三人以外、入るの遠慮してもらおう。

外の親たちも、いいか? ジャンヌ、ゴリ」

 二人は頷いた。


 俺たちは外へ出て、両親たちに中の様子を説明した。

それと、山上での出来事も、手短に報告した。


 大天使ミカエルより、天界では、この平成の世に、地球に安寧と平和を

もたらす意思が決定している。その成就のために、ジャンヌが、地上に降ろされ、

大天使ミカエルより、《平成の祈り》を授かった。そしてこの《平成の祈り》を、

明日から四十九日間、奥の祭壇で、毎朝祈ることを命じられた。

俺の話が終ると、親たちは感嘆の声をあげた。


 ジャンヌのお母さんが、ジャンヌの肩を抱き、

「やはり特別なお役目があったのね」

 ジャンヌは黙って頷いた。


「いやー、夢で見た《紫をまとういと高き天使》は本当だったんですね。

お嬢さんすごいですねえー」とオトウがジャンヌのお父さんへ。


「お母さん、これから家のオズやゴリ君が、しっかり守っていきますから、

どうぞご心配なさらないで」とオカアが、

 

 続けてゴリのお母さんが、

「そうですよ、息子たちは、ジャンヌさんをお守りするために生まれて

きたんですから」


「皆さんには、これからいろいろご迷惑をおかけすると思いますが、

どうぞ娘をよろしくお願いします」とジャンヌのお父さん。

 

 オカアが、

「とにかく、ここではなんですから、みなさん中にお入りになって。

ジャンヌさん、早くお風呂に入って、お母さんが、着替え持ってこられているわよ。

お母さんもどうぞ」


 オカアが、ジャンヌとお母さんを促し、先に家へ入って行った。

 

 オトウは石室を見ながら、

「まさか家の裏庭に、こんな石室というか祭壇というか、いやー、びっくりですねー」


 ジャンヌのお父さんと、ゴリの両親に向かって話している。

 話が落ち着いたところでゴリのお母さんが、

「彦、着替え持ってきたから、大澤君と一緒に着替えなさい」

 

 ゴリは、家では彦って呼ばれてるんだ。なるほど、俺はゴリを見ながら、

「じゃあ彦、入ろーか」ゴリのお母さんと、中に入って着替えることにした。

 

 オトウたち三人は、まだオトウがいろいろしゃべくっている。

 

 俺とゴリは、パンツまでびしょ濡れだ。

 先にゴリのお母さんが家に入り、 バケツとタオルを勝手口まで持ってきた。

 俺たちは、外でパンツいっちょになり、中に入って着替えた。


 オトウたちがリビングに移ってきた。

 父親たちは皆、夕食がまだだったが、なによりオトウが父親たちと

一杯やりたがってる。


 オトウが、二人をテーブルの前に座ってもらってから、

「なんにもありませんが、どうぞゆっくりしてって下さい。

お二人とも今日は奥さんの運転だから、大丈夫ですよね。

軽く一杯やっていって下さい」


 二人とも、いやーとか、すぐ帰りますとか言っているけど、

オトウはさっさとキッチンへいき、オカアにつまみを用意するように言って、

さっそく冷蔵庫からビールを出して、コップと一緒にリビングに戻ってきた。


「いやー、今晩は、ジャンヌさんの記念すべき夜でしたね」

 オトウは、なにかというと、何々記念日だ、やれ何々のお祝いだとか、

酒を飲むこじつけが好きだ。


 オトウはコップにビールをつぎながら、ジャンヌのお父さんは、

明らかに遠慮というか、酒席が好きでない様子だ。

オトウはそんなことにお構えなく、


「それでは、ジャンヌさんの今後のご活躍をお祈りして、乾杯」


 二人とも、さすがに紳士だから、嫌な顔せずオトウに合わせてくれている。

 オトウが飲みだすと、長いし、くどいし、心配だ。


 ジャンヌのお父さんが膝を正すと、

「本日は、息子さんたちにご協力頂きまして、本当にありがとうございました」

 

 ダイニングで牛乳を飲んでいた俺とゴリにも、

「大澤君大田君ありがとうございました。これからもよろしくお願いします」って

深々と頭を下げられた。


 キッチンで、オカアの手伝いをしていたジャンヌのお母さんも、

みんなにお礼を言っていた。


 ジャンヌが風呂から上がってきた。ジャージの肩にタオルを乗せ、

長い黒髪をバスタオルでしごきながらオカアと俺たちに、


「お先に頂きました。オズくん、モンチ、今日はありがとうございました」

オカアとゴリのお母さんへも、ジャンヌのお母さんと一緒に頭を下げている。


 次に、リビングのテーブルへやってきて、正座して、

オトウたちに深々頭を下げながらお礼を言うと、

ジャンヌのお父さんの背中にまわり、肩に手を乗せ、


「ねえ、お父さん、頂上では大澤君と大田君が、しっかり私を守ってくれたのよ。

すごい大雨だったけど、二人とも学生服脱いで、私に被せてくれたの。

一時真っ暗になったり、目の前で雷が落ちたりして、始めは怖かったけど、

二人が全身全霊で私を守ってくれているって感じてから、全然怖くなくなったのよ。

お父さんからも、二人によーくお礼言っておいて」


 お父さんに夢中で話すジャンヌを見て、お父さんから愛情いっぱい受けて

ジャンヌは育ったんだ。だから素直なんだなって、俺は感心してしまった。


 ジャンヌは、オトウとゴリのお父さんを見ながら、

「お二人とも、とても頼もしかったですよ。勇気100%っていう感じでした。

お父様方にも見て頂きたかったくらいでしたの」

 

 ジャンヌの目が輝いて、嬉しさで、笑顔があふれている。


「そうでしたか、息子も役にたったんだ。家では『彦』って呼んでいるんですが、

彦には大橋さんのお嬢さん、しっかり守らなきゃだめだぞって、

言っていたものですから」


「皆様にご心配お掛けして」「お父様、ありがとうございます」

ジャンヌとお父さんが同時に、再び、頭を下げながらお礼を言った。

 

 オカアが、おかずとつまみを出しながら、

「それにしても、物凄ーい雨でしたよ、それと落雷。爆弾が爆発した感じで、家が地震の

ように揺れ、窓ガラスが割れるかと思いましたよ」

 

 ジャンヌのお父さんが、

「どうぞお構いなく」

「いえいえ、あり合わせですけど、どうぞ、ごゆっくりなさっていってください」


「それにしても落雷、ピンポイントで壁に直撃しましたね。

あんな立派な祭壇が埋まっていたなんて、いつ頃のものでしょうか?」

とゴリの親父さん。


「さあ、見当もつきませんね。だけど、この山全体が、

修験道の修行場だったんですね。

この高野台の住宅地を開発する時、修行場跡が発見され、

発掘調査が行われたんですね」


「ほーう、そうだったんですか。修験道の開祖は、役行者ですから、

オズ君も、この地に縁が深いんですね」

とゴリの親父さん。


 ジャンヌのお父さんも、

「六国見山は、ちょうど北鎌倉にある、円覚寺の裏山にあたりますから、

円覚寺の山号の『瑞鹿山(ずいろくさん)』とも呼ばれていますね。

昔から、円覚寺の領域で、奥山の聖地だったんですね」


 オトウは、役行者だの聖地だとか言われて、ますます上機嫌だ。


「私は今晩、ジャンヌが、六国見山に登るって言ってましたから、

会社の帰りに大船駅からモノレールに乗ったんです。そう、8時すぎでしたかな。

山頂付近が黒雲に覆われて、雷がピカピカ光ってましたから、心配しましたよ。

でも、大船駅は降ってなかったですね」

 ジャンヌのお父さんが、首をかしげた。


「私も、大澤さんの奥様から、お電話頂いて、大雨で、

ずぶ濡れになって帰ってくるだろうから、お迎えの時、

着替えをもってきてあげて下さいって。

でも、私ども、湘南台でしょ、こちらは、よく晴れているしと思って」


ゴリのお母さんが、キッチンから話に加わっている。


「私が大船駅に着いたのは、9時前だったんですけど、

バスから六国見山を見ると、オーロラのように輝いていましたよ。

今晩、オズたちが、六国見山に登るって聞いていたから、

ジャンヌさん、凄いなって思いましたよ」


「その頃、頂上で彦たちが、神様たちと御対面の時刻だったんですね」

とゴリの親父さん。


「私が大船駅からバスに乗っても、駅周辺は、濡れてなかったですけど、

鎌倉街道の手前ぐらいから、地面が濡れてました。

だから六国見だけ限定して降らせたんですね。息子のオズが言ってましたが、

やはり、ジャンヌさんを祝福する、浄めの雨だったんですね。

いやー、お嬢さん、凄いですね」

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