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紫をまとういと高き天使  作者: げんくう
第10章 沖縄戦《高女学徒隊》
87/105

【牧志市場(山羊汁)】

「それでは比嘉さん、お勧めの市場へお願いできますか」


 車は再び大通りへ出た。


「今から国際通りを少し入ったところに、牧志市場という、

公設の市場があります。

 そこの二階なら、昼間から営業している食堂がありますから。

 沖縄には、ヤギ料理の専門店が、いくつかありますけど、

居酒屋みたいな店が多く、昼はやってない店がほとんどなんです」


「そうですか。

 私も父から、父も沖縄でゴルフの旅行に来て、

ヤギ料理の専門店へ行ったそうなんですけど、

昼はやってないと言ってました」

「そうでしょう。

 ですから、沖縄の郷土料理で、

昼間からヤギ汁を食べさせるといったら、

観光客が行くような店になります。

 一階が市場で、観光スポットにもなっています。

 魚屋は、沖縄近海で取れた、本土にはない、

珍しい魚介類が沢山そろってますよ。

 市場で買って、500円出すと、

二階の食堂で調理してもらえます」


 ゴリがスマホで飛行機の運航状況を確認している。


「飛行機は40分遅れだな。

 20時15分になっている」


「それならジャンヌ、国際通り散策できるじゃん」

「そうね、またモンチのおみやげ見なくちゃね」


 タクシーは路地に入り、一方通行の細い道を、

くねくねすすんで行く。


「あそこが牧志公設市場です。

 駐車場がないので、食事が済んだら携帯にお電話下さい。

 ここに迎えに来ますから。

 いいですか、ヤギ汁は、二階の『つばめ食堂』ですから。

 それから、遅くても、7時までには来て下さいね」


 ゴリが比嘉さんの携帯番号を確認していた。


 市場に入ると、狭い通路にお店がびっしりだ。


 魚屋さんも、沖縄らしく、赤や青といった、

原色の魚が沢山並んでいる。

 それに伊勢エビとか、南国風の、大きなカニも満載だ。


 市場を見物していると、ジャンヌが突然止まり、

同時に俺の袖をギュッとつかんだ。


「え、どうした?」


ジャンヌを振り返ると、顔をしかめている。


 肉屋さんの店先だった。


 豚のお面というか、耳から皮をはがされて、

顔の皮全体が置かれていた。


俺も一瞬ドキッとしたが、


「ジャンヌ、うまそうじゃん」


 ジャンヌは、俺の肩越しに、

豚が見えないように顔を隠している。


 幽霊屋敷の中を歩くように、俺に寄り添って袖を掴んだままだ。


 ジャンヌが怖がって俺にすがってくれるなんて、

内心喜びでゾクゾクしている。


 今度は、豚の首から上の頭がデンと置かれている。

 サングラスを掛けてお愛きょうだ。


 俺は立ち止って、左の肩越しのジャンヌに小声で、


「ジャンヌ下向いてろよ! 

 もっとすげえのあるからな」


「ハイ」って蚊の鳴くような返事をしながら、

両手で俺の腕をがっちり掴まれた。


 俺も、わざとジャンヌをビビラセたみたいだけど、

やっぱかよわい女性の姿は、最高に魅力的だ。


「なあゴリ、ここの豚の足、ももの部分かな、迫力あるな。

 ジャンヌがビビってるから、二階へ上がろうか」


 俺たちは、エスカレーターで二階へ上がり、

『つばめ食堂』はすぐにわかった。


 ショッピングモールの中にある、飲食コーナーみたいな感じだ。


 ゴリが店の人に、ヤギ汁あるか確認したら、OK。

 他にもヤギ料理はいろいろあるといわれテーブルへ。


 食堂みたいなテーブルで、中国からの観光客でにぎわっている。

 合席というか、隣も中国人のグループだ。


 店員さんも中国人で、中国語でお客さんと話している。


 メニューには、沖縄料理が満載で、

山羊料理のコーナーの記載もあった。


「俺は、ゴリの親父さん推奨の、山羊汁定食でいいや、

1600円かあ。ジャンヌは?」


「私もみんなと同じでいいわよ」


「ジャンヌな、親父が言ってたけど、ヤギって、スゲー癖があって、

臭いも強烈かもしれないけど、いいか?」


「ええいいわよ。私もみんなと同じもの食べたいから」


「どうせジャンヌ、全部食べられないから、

俺とゴリでもらってやるよ。

 山羊刺しもいいなあ。でも1000円かあ」


「オズぅ、遠慮しないで食べて。

 今日は神様からのご褒美よ」


「そっかー。サンキュージャンヌ。

 お母さんにお礼いっといてな。

 そういえば俺たち、尖閣でのミッションのこと、すっかり忘れてたな。

 あんな大仕事したのにな。

 ゴリ、あとでニュースチェックしてよ」


「おう、山羊刺しって、酒のつまみみたいだな。

 オズもお父さんに似て、きっと吞んべいになるな」


 ゴリもメニューを見ている。


「ねえモンチ。モンチも何か沖縄のお料理たのんだら」


「おう、そうだな。

 さっき店員さんが、山羊汁もいいけど、

イラブ―汁(海蛇湯)がお勧めって言ってたな」


 みんなで料理の写真を見ながら、


「海蛇じゃん。汁もんだなあ。ゴリ食べれば?」


 ジャンヌがちょっと顔をしかめた。


「みんなで食べられるのがいいな。

 へちまかあ。

 へちま炒めたり、そばに入れたりするんだ」


「え、へちまも食べられるの?

 私小学校の時、お家でへちま育てたことがあるわ」


「へちまって、あのタワシみたいな、

風呂で体こするやつだろう。

 腹の中で消化するのかな」


「無難なとこで、ゴーヤチャンプルにしようか。

 本場沖縄の」


「私は賛成だけど、オズは?」


「おおいいよ。

 じゃあゴーヤチャンプルで決まりだな。

 じゃあ注文すっか」


 ゴリがスマホでニュースを見ている。


「ニュースどう? もう発表された?」


「ちょっと待ってな……あー、いや、

トップニュースは東名高速で事故のニュースだな。

 あ、尖閣諸島の地震は4番目だな。

 観測史上最大の地震だと。

 それから、自衛隊が、尖閣諸島の空域を飛行禁止にして、

民間の飛行機やヘリを入れさせないみたいだな。

 海域も締めだしているって」


「え! それじゃあまだ、政府は尖閣諸島の消滅を隠しているんだ」


「政府も、中国との領土問題があるから、

発表のタイミングと、対応に苦慮しているのだろう」


「私たち、あとは神様にお任せしましょう」


 俺の隣の夫婦に、下の魚屋さんから、

伊勢エビとか刺身の船盛りが運ばれてきた。


 ジャンヌは、目の前の醬油を取ると、隣の中国人へ渡してあげた。


 40才位の夫婦とも、ニッコリと微笑まれ、

俺は日本語で、どこから来たか尋ねたら、香港と言っていた。


 改めてテーブルを見渡すと、中国人のツアー客かもしれない。


 子供連れや若いカップル、それに、俺たちの前は、

3人組の若い女性グループだ。


 みな船盛りを注文してるようで、魚屋さんが、次から次と運んでくる。


 ゴリが親しくなった(?)若い男性店員さんと話している。


「店員さんは、中国の福建省出身だって。

 お客さんは、台湾と、中国からの観光客が多いそうだけど、

中国は香港の人ばかりだそうだ」


「そっかー、尖閣の騒動以来、中国からの観光客は、

ぴたっと来なくなったけど、香港の人は別なんだ」


「オズのお隣さん、いい人たちみたいだけど、

香港って、中国の良心みたいね」


「ああ、もともとイギリスの植民地だったからな。

 いまだに中国政府の締め付けっていうか、影響を受けないんだな。

 でも、上海なら経済発展している国際都市だから、

もっと上海の人は、日本へ観光に来てもよさそうだけどな」


 山羊刺しが先にきた。

 山羊刺しは、薄くスライスされており、よもぎが添えられていた。


 外が薄いゼラチン質みたいな皮だ。

 肉は赤みを帯びて色鮮やかだ。


「じゃあみんなで山羊刺し味見してみっか。

 ジャンヌも食べてみてよ」


 みんなでいただきますをして、最初に俺が箸を付けた。

 濃いめの醬油につけて食べる。


「うーん、旨いけど、なんか生ハムって感じ」


 ゴリもつまんで食べると、

「確かに旨いけど、これは酒のつまみだな」


「オズのいうとおり、生ハムを厚切りにしたみたいだけど、

ハムと違って塩っけがなくて美味しいわね。

 皮はコラーゲンみたいでお肌にいいかもね」


 俺たち肉食べるの、何日ぶりだっけ?


「今日で九日目だよ。

 オズ、これ薄くて物足りないな」


「おう、ゴーヤチャンプルには豚肉が入ってるだろうから」


 そういってる間に、ゴーヤチャンプルが運ばれてきた。

 みた目にもゴーヤが満載だ。


 ジャンヌが取り皿を頼んで、ゴーヤチャンプルをよそっている。


「俺、ゴーヤチャンプルって、あまり食べたことないけど、

本場だから、すげー美味く感じる」


「私、この苦みはちょっと苦手だけど、苦にならないわ。

 やはり本場は美味しいわね」


「おお、俺も、豚肉まで旨く感じる。

 オズ、早く飯欲しいな」


「私、先にご飯お願いしてこようか?」

「いいよ、そのうちくるだろう」


 間もなく定食のお盆に載せて、山羊汁とご飯が運ばれてきた。


 山羊汁は白いスープに、山羊肉のぶつ切りと、

ヨモギが一緒に煮込まれていた。


 臭いは全然気にならないし、スープも臭わない。

コクのあるスープで、栄養がありそうだ。


「ゴリ旨い。内臓も入ってるじゃん。

この黒いの、センマイじゃねえ?」


「どれ、あ、ほんとだ。

 でも牛は胃袋が4っつあるけど、山羊も同じかな。

 どこの部位か判んねえや。肉は骨ごとぶつ切りだな」


「オズとモンチ、お肉あげる。

 私二切れもあればいいから。

 ご飯も半分取って」


 俺は、ジャンヌのどんぶりを持って、レンゲを突っ込みながら、


「脂身とか内臓はもらうから、ジャンヌこの、

普通の肉のぶつ切りだけでいいか?」


「ええいいわよ。

 ヨモギが少しと、あと全部山羊のお肉なのね」


 ジャンヌがやっとスープを飲むと、


「モンチこのスープ、とっても美味しい。

 全然癖も臭いもしないわね。

 養分が体に浸みこんで行く感じね……

お肉も柔らかくて食べやすいわね」


「そうか、よかった。ジャンヌも食べられて」


 俺たちは、食べ終わって時計を見ると、6時を回ったところだ。


「まだ時間大丈夫だから、国際通り、ぶらついてみるか?」


「ゴリこっから近いよな? ジャンヌ行ってみっか」


 国際通りに出るアーケードも、買い物客で凄い人だ。


「これが国際通りか、片側一車線なんだ。

 だから比嘉さん、国際通りは混むって言ってたのか。

 三越もあるじゃん」


 みやげもの店も沢山あり、観光客も大勢いる。

 若い女性グループが目立つ。

 沖縄は、若い女性に人気のようだ。


 ジャンヌを先頭に、俺とゴリはぶらぶらついて行く。


「モンチ、美希さんと由希ちゃんへのおみやげ、

買ってあげるんでしょ?」


「姉貴たちには、観光じゃないから、

おみやげなんかないぞって言ってるんだけど。

 なんでもいいからって……」


「ねえモンチ、このピンクのシーサーの置物どうかしら?」


「おおいいじゃん。あいつらきっと喜ぶよ。

 それにまた、ジャンヌが姉貴たちのために選んだっていったら、

それだけで充分なんだから」


「あと家へのお菓子は、空港行って見ようか? 

 ジャンヌ他に行きたいとこあるか?」


「いいえ。

 あ、私もシーサー、ジュリに買って帰るわ」


「おうジャンヌ。

 それ俺に譲ってくれないか?」


「そうだ! 

 モンチそれがいいわね。そうしてあげてね。

 ジュリ、きっと喜ぶわ。

 私はまたお菓子にするから」


「そのお菓子なんだけど、今回おふくろがさあ、

紅いもタルト買ってきてっていうんだ。

前に友達の家で食べて、気にいったんだって」


「じゃあ私も、モンチのお母様推薦の紅いもタルトにするわ」


「俺も同じのにすっかな」


「よっしゃー。

 それならもう比嘉さんへ連絡して、早めに来てもらおうか」


 降ろしてもらった集合場所へ戻ってみると、

比嘉さんはもう待っていてくれた。


「山羊汁はどうでした? 

 親戚の家でも山羊を飼っていましてね、なにかお祝い事があると、

つぶして食べていました」


「いやー、臭みもなくて、美味しかったです。

 栄養価が高そうでしたね」


「はい、滋養強壮にいいですね。

 ですが、高血圧の人にはお勧めしませんね。

 なんでも山羊の脂が、血行を悪くするとか、

脂が血管につまるとかいいますね。

 でも、ヨモギには、血圧を下げる効果があるそうですから」


「それでお刺身にもヨモギが付いていたのですね

 単なる臭い消しの役目だけではないのですね。

 でもほんとに臭いませんでしたよ」


「お店によってはすごく臭くて、

食べられなかったお客さんも多いですから。

 山羊汁は、内臓からなにから、全部鍋に入れて煮込みますから、

下処理の違いかもしれませんね」


 7時前には空港に到着できた。


 ゴリが清算をし、トランクから荷物を降ろしてもらうと、

ジャンヌが例によって丁寧な挨拶をして、比嘉さんを喜ばせていた。


 ゴリが名刺をもらっていたので、後日の再会を約束してお別れした。


 俺たちが、比嘉さんの車を見送ったあと、

早速ゴリがニュースをチェックした。


「やはりまだ報道されてないな。

 じゃあおみやげ買いに行こうか」


 おみやげのお菓子は、みんな紅いもタルトだ。

 今回もゴリが、ジャンヌのお母さんの預かりから支払っていた。


 おみやげも買って、ロビーのベンチに腰をおろすと、


「なんか今日の一日って、すげー長くねえ?」


「おう、もう何十年もいたみたいな気がする」


「モンチもオズも、お世話になりました。

二人とも疲れてない、大丈夫?」


「大丈夫だよ。山羊汁が効いてきた感じ。

それよりジャンヌは?」


「私も大丈夫。

 二人のサポートのお陰で、全然平気よ。

 山羊汁のスープって、疲れた時にもってこいね。

 体が温まって、飛行機の中でぐっすり眠れそうね」


「そうか、親父の勧めのとおり、最後に山羊汁食べてよかったな」


 俺たちは、比嘉さんのことを話してるうちに、

ジャンヌはうとうとしている。


 今日一日を振り返っても、ジャンヌは相当疲れてる筈だ。


 よし、俺は最後までジャンヌを、

羽田で両親に引き渡すまで護るんだ! 


 意気込んだものの、気がついたらゴリに起こされた。


「おいオズ、さあ行くぞ。

 ジャンヌも起きて。搭乗始まったぞ」

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