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紫をまとういと高き天使  作者: げんくう
第10章 沖縄戦《高女学徒隊》
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【ずゐせんの塔(瑞泉学徒看護隊)】

「次のずゐせんの塔は、県立首里高等女学校の4年生61名が動員され、

33名亡くなっています。

 塔の正面に、33名全員の名前が刻まれています。

 その他、教職員が15名、同窓生が50名亡くなり、

一緒に祀られています」


 車は駐車場を出て、国道331号線を左折すると、

ちょっと行って信号を右折すると、すぐ右側にあった。


 梯梧之塔と同じように、ひっそりと建っている。

 他に参拝客もいない。


「ここは駐車場がないので、ここで降りて下さい」


 俺たちは、参道の入口で降ろしてもらうと、入口で整列し、

ジャンヌともども一礼した。


「ここでも、《平成の祈り》の後に、梯梧之塔と同じように、

『ずゐせんの塔に祀られた皆様が浄まり、

天界に導かれ光輝きますように』と祈ります。

 最後の守護神様への感謝の後に、

『瑞泉学徒看護隊の天使のみなさま、

ありがとうございます』を加えます。

 よろしいですか?」


「はい」


 慰霊碑の前に、ジャンヌを中心に三人並ぶと、

ジャンヌは天を仰ぎ、

「瑞泉学徒看護隊の天使の皆さま、宜しくお願いします。

 それでは守護神様に全託して下さい。ハイ」


 祈り終わるとジャンヌが、俺とゴリに、

微笑みみながらありがとうって握手された。


「やっぱお祈りに来てよかったな、ジャンヌ」

「ええ。比嘉さんにもお礼いわなくちゃ。

 モンチの車の手配のおかげね」


「おう、俺はいいよ」


 車を駐車してきた比嘉さんが、

「もうお参りは済みましたか?」


「はい。おかげさまで、3ヶ所お参りさせて頂きました。

 看護隊のみなさんと、ご縁を結んでくださり、

ありがとうございました」


「いえいえこちらこそ。

 瑞泉学徒のみなさんも、さぞかし喜んでいるでしょう。

 ここも、ひめゆりの塔と比べると、寂しいかぎりでしょう。

 花もありませんし」


「比嘉さん、一つお聞きしても宜しいですか?」

「はい、なんでしょう?」


 ジャンヌは、慰霊碑に刻まれた、

『首里高女』と刻まれたレリーフを見て、


「比嘉さん、この『首里高女』と書かれたレリーフは、

泉が涌き出ている絵のようですが、瑞泉と関係があるのですか?」


「首里高女の前身は、女子工芸学校と呼ばれていまして、

校舎が首里城の中に有ったのです。

 首里城は、尚王の王宮で、首里城の中には、

王様の飲み水となる泉が、涸れることなく、

こんこんと涌き出ていて、その近くに瑞泉門がありまして、

『瑞泉』の額がかかっていたのです」


「それで瑞泉学徒と呼ばれているのですね」


「そうだと思います。

 でも、実物の泉は、『龍樋』と呼ばれ、

今でも竜の口から流れ出ていて、この絵とは違いますけど。

 もっとも今の瑞泉門も、戦後建て替えられていますから。

 首里城の守礼の門とか、国宝級の建物も、みな焼失しましたから」


「比嘉さん、日本軍は初め、司令部を首里に置いたんでしたね?」


「そうです、大田さん、お若いのによくご存知ですね。

 日本の守備隊の第32軍は、首里に司令部を置きましたから、

首里を巡って、アメリカ軍との激しい攻防戦が続きました。

 日本軍は、首里城の地下に、膨大な地下壕を掘って、

守りを固めたんですけど、結局アメリカ軍に押され、南へ撤退するのです」


「それで首里の街が焦土となってしまったんですね」


 ジャンヌは、慰霊碑の正面に刻まれた案内文を読んでいる。

 振返って比嘉さんへ、


「比嘉さん、先程、瑞泉学徒のみなさんは、

4年生61名が動員されたと仰られましたけど、昭和20年3月27日に、

野戦病院壕で卒業式を挙行と書かれていますが、

高等女学校は、5年制と聞いていましたが? 

 私の祖母も、5年間学んだと……」


「終戦近くになると、1年短縮して、4年までとしたのです」


「それで最高学年の生徒さんが動員されたのですね」


「そうです。

 4年生というと、今の高校1年生ですから、

まだ15歳、16歳の少女ですよね」


「えーえ! みなさん、私と同じ年代だったのですね。

 なにか信じられない感じです」


「他の高女でも、だいたい4年生を動員対象にしましたが、

ひめゆり学徒隊の場合は、3、4年生を対象にしていました」


 ジャンヌは、ずっと驚きの表情で聴いている。


 看護隊の仕事も過酷だったようで、俺は比嘉さんへ、


「さっきのでいごの塔の、説明文に書かれてましたけど、

ナゲーラの壕って、負傷兵が次から次と運び込まれ、

壕の中はまるで、生き地獄だったと書かれてましたね」


「そうですね。

 首里高女の看護隊も、でいご看護隊と同じく、

ナゲーラの壕に配属されていましたから。

 壕の外も地獄で、悪臭を放つ死体を、担架に載せて、

壕の外に埋葬するのも看護隊の仕事でしたから。

 埋葬といっても、米軍の艦砲射撃で出来た、大きな穴に、

投げ込むしかなかったそうです。

 外は常に砲弾や爆撃、機銃掃射の危険が伴っていましたから。

 壕の中は、死臭、腐敗臭、ウジ虫だらけの中で、

そのうえ高温と湿気で、蒸しかえっていたそうです。

 手術する場所の、ロウソクの灯り以外は真っ暗だったですし、

手術といっても、麻酔もなく、切断された手や足は、

無造作にバケツに捨てられ、それを捨てに行くのも看護隊の仕事でした。

 壕内は、定期的に換気をしないと窒息しますので、

看護隊のみなさんが、チームワークよろしく、定期的に毛布をもって扇ぎ、

新風をリレーのように送り込んでいたのですね。

そのとき、『ふるさと』などの小学唱歌や童謡を歌いながら、

みんなでリズムをとってやっていました。

 その看護隊のみなさんの歌声は、まさに天使のようで、

傷病兵の心と傷を癒したそうです。

 新しい空気が送り込まれた爽快感と相まって、天使たちの歌声が、

父母を思い、故郷を懐かしむ、安らぎのひとときでもあったのです」

 

「看護隊のみなさんって、なんて素晴らしかったのでしょう! 

 ご自身がつらい環境に置かれていても……」


 ジャンヌは声が詰まって泣きじゃくり、ハンカチで顔を覆ってしまった。


「彼女たちの偉かったことは、指導教員がいない中で、

健気に頑張ってきたことです。

 ひめゆり学徒隊は、規模も大きく、指導教員が付いていましたから。

 中でも親泊千代子先生という、東京女子師範を最年少で入学した、

若き女性教師が一人、引率されていましたから。

 親泊先生が、過酷でつらい壕の中の生活でも、常に生徒たちを励まし、

慰め、先程の壕内の換気のときも、先生が先頭に立って、

歌を歌いながらおこなっていました」


「比嘉さん。どこの壕でも換気のときに、看護隊のみなさんが、

歌を歌いながら換気していたんですね」


「オズさあ、病床で横たわる兵隊さんたちも、

今まで軍歌ばかり歌ってきたんだろうから、

小学唱歌とか童謡聴いたら、そりゃあ癒されるよな。

 それも、うら若き乙女たちの声だから」


 目を腫らしながらジャンヌが、

「比嘉さん。

 そのぅ、親泊先生は……どうされ……?」


 比嘉さんは、ジャンヌをちらっと見ると下を向きながら、


「ひめゆり学徒隊に、6月18日の夕刻、解散命令が出され、

親泊先生はちょうど、ひめゆりの塔の真下にある、

第三外科病棟のがまにいました。

 他の壕にいた学徒隊の人達は、18日の夜からグループ毎に、

次々脱出していきました。

 第三外科病棟のがまでは、19日の未明に脱出することを決め、

みな制服に着替え、胸に校章を着け、夜明け前に、壕の入口に集まりました。

 そして、壕を出ようとしているときに、米軍の攻撃を受け、

沢山の人が亡くなりました。

 その中に親泊先生も含まれていました……」


 そこまで話されると、ジャンヌはその場で泣き崩れてしまった。

 声をあげて泣いている。


 俺は、なんて声をかけたらいいかわからない。


 ひざまずいて泣いているジャンヌの前に、俺もひざまずき、


「ジャンヌさあ、さっきさあ、

天使となった、親泊先生と交流されてたじゃん。

 ジャンヌの涙に、先生もきっと喜んでるって。

 ジャンヌありがとうっていってるだろう」


 ジャンヌは下を向いたまま頷くと、

さっと顔を挙げ、ニッコリと、


「オズありがとう。そうだったわね」


 立ち上がるとジャンヌは、涙目のまま笑顔で上を向き、


「先生ごめんなさい」って言うと、右手を天に差し出した。


 親泊先生と、握手しているのだろう。

 嬉しそうな表情だ。


「よかったなジャンヌ。

 瑞泉のみなさんにも、握手してやれよ」


 ジャンヌは俺を見て、うふっていう表情で頷くと、

慰霊碑の正面に右手を差し出した。


 ジャンヌが振返り、満足げな表情を見せると、


「ジャンヌ、そろそろ次行こうか」


「ハーイ。比嘉さん、宜しくお願いします」

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