【普天間基地】
起床。
目覚ましは5時にセットした。
今日が9日目だ。
俺が大天使ミカエルから指示された、ジャンヌと同じ課題も、
神殿で最後のお祈りをすれば、課題達成だ。
それから沖縄へ飛ぶ。
JAL903便、羽田8時00発、10時55分沖縄到着予定だ。
だから俺ん家に6時集合だ。
俺は下に降りて行くと、オカアに天気を確認した。
関東も沖縄も全国的に快晴だ。ラッキー。
俺は、オカアが沸かしておいてくれたお風呂に入った。
湯船につかりながら、ジャンヌのことが頭に浮かぶ。
きっとジャンヌのことだ、髪をお風呂で洗って、今頃は髪を乾かして、
丁寧に手入れをしているだろう。
今日もジャンヌの長い黒髪が見られるんだ。
白いブラウスに古代紫のリボン、それに紺のブレザー。
ジャンヌを一段と引き立てる道具は揃っている。
それに今日はミッションがあるから、
身につけるものはすべて新品のはずだ。
待てよ! 先週、北京でミッションがあったから、
制服もすべて新品だったよな。
でもジャンヌは、新品にこだわるはずだ。
絶対制服も新品だ! 俺は賭けてもいい。
俺は湯船でいろいろ想像していると、
「オズ、いつまで入ってるの。長風呂はできないわよ!」
やべ、早く支度しなきゃ。
俺は、湯船でのぼせてしまって、喉がからからだ。
今日は朝から、飲まず食わずのつもりだった。
ゴリからも、昨日の夜から、水分控えておくよう注意されていた。
でも、このままだと脱水症状になりそうだから、コップ1杯の水を飲んだ。
汗で出た分があるから、ぜんぶ体に吸収され、多分大丈夫だろう。
昨日のうちに、旅行の準備しといてよかった。
今朝は朝食は食べないから、あとは髪を乾かし手入れするだけだ。
オトウも起きてきた。
「オトウおはよう」
「おはようオズ、どうしたお前、ゆでダコみたいになって」
「いやちょっと長風呂しちゃってさ」
「朝から長風呂なんて、オズ、今回は余裕じゃないか」
「いや、湯船で精神を統一してたんだ」
「そうか、修行の成果だな。最近のお前、お父さん見直してるぞ」
「オズ早くしなさい。もうみんな来るわよ」
時計を見ると、もう6時半をまわっている。
俺はダッシュで準備に取りかかる。
今回の沖縄行きは、オトウもオカアも、
ぜんぜん心配してないみたいだ。
北京でのミッションが無事に終わったし、国内だから安心なのだろう。
それに尖閣諸島へ行く事は、それぞれの両親には話してない。
だけどジュリだけには話してある。
今回も、俺たちのミッションが成功するように、
天之宇受売命にお祈りして、応援してくれるはずだ。
ジュリは俺たちの、ミッションの仲間だとみんな思っている。
俺は着替えて準備完了。バックを持って下に降りていく。
玄関のチャイムが鳴った。まだ6時10分前だ。
ジャンヌだった。両親が揃っている。
「おはようオズ、ちょっと早くてごめんなさい」
「ぜんぜん。それよりジャンヌ、ちゃんと寝られた?」
「ええ、大丈夫よ。心配してくれてありがとう」
「ジャンヌ、今朝も制服、ばっちり決まってるじゃん」
「ありがとう」
ジャンヌは恥ずかしそうに肩をつぼめて微笑んだ。
「オズも決まっているわよ。
とても清潔感があって、爽やかな感じよ」
やや遅れて両親が登場。
「オトウ、オカア。ジャンヌん家のお父さん、お母さん」
オトウ、オカアにジャンヌの両親をバトンタッチした。
ジャンヌの両親がリビングへ。
俺はジャンヌを引き留め、肩を寄せて小さな声で、
「ちょっとジャンヌさあ、今日もバッチリきまってんだけど、制服新品か?」
「ええそうよ、なんで?」
「やっぱな」俺は自分で納得して頷いた。
「どうしたのオズ?」
「いや俺、今朝お風呂の中で考えたんだ。
今日もジャンヌの制服新品だろうって。
先週、北京へ行くんで、新品買ったばかりだけど、
また新品買うんだろうって」
「え? オズ、新品って、この制服、先週着た制服よ。
だってまだ1回しか着てないでしょう。
だから私、新品のつもりだったんだけど」
ジャンヌが困った顔をしてしまった。
自分がなにか、悪いことをしてしまったような顔をしている。
やばい、すげー余計なことを言ってしまった。
「あーそうだよな。
1回しか着てないんだから、ごめんごめん。俺の考えすぎだった」
「ねえぇオズぅ、神様の大切なミッションだから、
やはり制服も、新しく買った方が良かったかな?」
「いやいやとんどもないよ。
これどう見たって新品にしか見れないよ!
俺、余計なこと言っちゃってごめん。
神様も絶対、常識的にジャンヌと同じ考えだから……」
俺は最後に、神様を出してジャンヌを納得させた。
あーやばかった。
再び玄関のチャイムが鳴った。
「よう、おはようゴリ」
「おはよう、ジャンヌもうきてたんだ。
なんで二人、こんなとこで?」
「いやぁ、今日もジャンヌの制服きまってるなって。
今日は親父さん?」
「ああ」すぐに親父さんも登場した。
ゴリがリビングの親たちに挨拶すると、すぐに神殿へ。
ジャンヌのリードで、9日目のお祈りが終わった。
「モンチ、オズ、お疲れ様。おめでとうございます」
「おう、やったなゴリ、俺まだ続けても大丈夫みたいだから」
「ほら、オズすぐ調子に乗るから。
謙虚にみんなに感謝しなきゃ。
おふくろさんも、食事とか協力してくれたんだろ」
「そうだった。反省だな。後で報告がてら親たちにお礼言うよ」
「みんなでお礼言いましょう」
「家の両親もそうだけど、ジャンヌとゴリの親も、
なんか安心顔してね?」
「そうだよな、俺の両親も、全然心配してないし、姉貴と由希なんか、
俺たち沖縄へ、観光旅行へ行くみたいに思ってるぜ」
「俺も今お祈りして、絶対ミッション大丈夫って自信持てた」
「オズ俺も」
「よろしくお願いします」ってジャンヌが俺とゴリと握手して神殿を出た。
俺たちは、那覇空港に到着した。
空港からは、タクシーで普天間基地に直行だ。
ゴリの事前情報によると、沖縄普天間基地は、宜野湾市にあり、
那覇空港から約10キロのところにあるといっていた。
米海兵隊の航空基地だ。
那覇空港の到着出口を出ると11時10分だ。
ゴリが
「これから基地に直行だから、基地に着いたら即尖閣に向かうだろうから、
トイレ済ませておこうぜ。な、ジャンヌ」
ゴリからは、事前の注意事項として、当日、普天間基地から尖閣諸島まで、
ミッション含めて、往復2時間以上かかるだろうから、
それに、オスプレイは軍用機だから、旅客機と違ってトイレもないだろうから、
前日の夜から、水分控えるように言っていた。
飛行機の中の話で、俺を除く二人とも、
今朝は、水も含めて何も飲み食いしてなかった。
やっぱし沖縄は温かい、なんとなく南国の雰囲気だ。
荷物をタクシーのトランクに積み、タクシーに乗り込む。
俺、ジャンヌ、ゴリの順だ。
「普天間基地へお願いします」
運転手さんはちょっと戸惑いながら、
「米軍の普天間基地でいいんですよねえ」と再確認された。
「宜野湾市ですよね。ここから10キロくらいですか?」
「そうですね、30分もかからないと思います」
普天間基地が見えてきた、なるほど市街地の真ん中にある基地だ。
時計を見ると、12時8分前だ。
「ゲートへ進んで宜しいですね」
「ハイ、お願いします」
ゲートの脇で、将校が二人立っている。一人は日系人らしい。
「きっとジミー井上さんとケリーさんね」
車はゲートの入口で停まった。俺は窓を開け、検問の兵士に、
「ジミー井上プリーズ」って声を掛けると、兵士は頷き、
ジミー井上さんに合図した。
すぐにジミー井上さんが、運転手さんのところまで来て、
車をゲートを入った左側に停めるよう指示した。
俺たちは、タクシーを降りると、ジミー井上さんが、驚嘆の表情で、
隣のケリーさんの肩を叩いている。
真っ先にジャンヌに握手を求めてきた。
「初めまして、ジミー井上と申します。お待ちしていました」
「初めまして、大橋ジャンヌと申します。
お出迎えありがとうございます」
「大橋さん、こちら……」
「ケリーさんですね、初めまして、大橋ジャンヌです」
今度はケリーさんが驚愕し、ジミー井上さんの肩を叩いた。
続いて、俺、ゴリとそれぞれ握手を交わした。
ゴリが、
「本日、我々が訪問した目的は、ジミー井上さん、ご存じですよね?」
「はい、たった今、確信しました。
尖閣諸島にご案内します。
私、とても驚いてます。
私も司令官から、大統領の署名されたレターを見ました。
でも、本当か、半分でした。
司令官たちも同じでした。
でもケリー少尉は、
『これは間違いなく神からのレターだ!
《紫のリボンを結んだ天使》は、必ず現れる』とずっと信じていました」
ケリーさんは、ジャンヌをみて微笑みながら頷くと、
「おー、サンキュベルマッチ」ってジャンヌは言いながら、
ケリーさんの手を両手でがっちり掴んだ。
ケリーさんは、ジミー井上さんに何か聞いている。
「あー、大橋さん、ケリーさんは、
なんで私の名前を知っているのか聞いています」
「それは、私たちも、神様からのレターを読ませてもらいました」
「え? それはどういう意味ですか?
あのレターは、大統領始め、我々関係者の6名しか知らないはずですが」
「私たちには祈りの神殿があります。
そこの祭壇には大きな水晶があります。
その水晶の中で、神様が見せて下さったんです。
ケリーさんが、マリーン・ワンのキャビンの中で、
大統領に手渡されたことも、見せていただいています」
ジミー井上さんが通訳すると、二人は顔を見合わせ驚愕した。
「信仰心の篤い、ケリーさんを、神様が使われたのです。
ケリーさん、ありがとうございます」
ケリーさんは、両手を胸の前でからめると、
左膝を地面に着け、天を仰いだ。
その輝く瞳からは涙が流れている。
立ち上がると再びジャンヌに握手を求め、
左膝を地面に着けて頭を垂れた。
ジミー井上さんが、
「さあ、行きましょうか、司令官がお待ちかねです。
我々の後を着いてきて下さい」
俺たちは、ジミー井上さんが運転する、大型乗用車の後をついて行く。
広大な飛行場だ。
オスプレイが何機も停まっている。
中の一機は、エンジンが掛ってプロペラが回っている。
近くに将校が三人立っている。おそらく司令官たちだろう。
前の車は、司令官たちの少し前で停まり、
タクシーは、司令官たちの前に停まった。
ゴリが料金を清算し、タクシーを降りると、司令官たちを見て、
「プリーズ モメント」と言って、タクシーのトランクを指し、
「バッゲージ」と言ったら、司令官たちは頷いてくれた。
ゴリに続いてジャンヌがタクシーから降りると、
司令官たちが、こぞって驚嘆した。
俺たちは、キャリーケースやバックを降ろすと
、運転手さんにお礼を言って帰ってもらった。
ここであらためてご対面だ。
ジミー井上さんが、ジャンヌに、右端から、
「在沖縄海兵隊のトップで第三海兵遠征軍の司令官です」
「ナイスミッチューサー、アイアム ジャンヌ オオハシ」
ジャンヌは左手を胸に当て、腰をかがめながら司令官と握手していく。
大橋さん、こちらが、
「第一海兵航空団の司令官です」
「ナイスミッチューサー、アイアム ジャンヌ オオハシ」
最後に、
「こちらが今回、オスプレイでの輸送を担当する、普天間基地の司令官です」
「ナイスミッチューサー、アイアム ジャンヌ オオハシ」
俺たちも、ジャンヌに続いて一通り挨拶が終わると、
ジャンヌが司令官たちに、
「今回、お出迎え下さり、誠にありがとうございます。
又、本日は、私どもを、尖閣諸島まで輸送していただき、
感謝いたします。
これから神様のみ心のままに、尖閣諸島でミッションを行ってまいります」
ジャンヌが挨拶すると、各司令官から、健闘を祈りますと言われながら、
握手をしてオスプレイに向かった。
オスプレイに乗り込むと、コックピットには、
機長と副操縦士の二人がスタンバイしていた。
二人とも振り向いて頷いてくれた。
コックピットはチョー狭く、機械類でびっしり詰まっている。
二人の座席も全く余裕なさそうだ。
その後ろに、座席が一つ確保されている。
キャビンの座席は、左右12席づつ並んでいる。
窓は搭乗口の窓だけだ。
前方コックピットの中は、天井も含めてすべてガラス張りで、
見通しは抜群だ。
プロペラの音が激しくなり、やがて垂直に上昇を始めた。
数十メートル上昇すると、エンジンナセルを少しづつ前方に傾けて行くと、
斜め上に上昇を始め、スピードも増していき、
そのうちエンジンナセルが真横になり、飛行機走行になった。
あっという間に沖縄本島を飛び去って、オスプレイは尖閣諸島へ向かった。




