【下流方針】
俺たちは、成田空港の到着ロビーに出ると、ジャンヌの両親と、
ゴリの親父さんが迎えに来てくれていた。
ジャンヌは真っ先にお母さんに「ただいま!」っていうと、二人抱き合った。
「お帰り彦、ジャンヌさんもオズくんもお疲れさん。
彦なぁ、昨日、全人代で、中国が平和的かつ友好的な方針で、
国家運営していく事が決定されたんだ」
「うん、今朝、向こうの通訳の人から聞かされた。
老子の力はチョウ絶大だから」
「それが彦、今回の決定が、お前たちのことっていうか、
老子もなにも、全く出てこないんだ。
ただ会議の冒頭、約20分間が、空白の時間になって、
だれも記憶も、テレビの記録も、何もないんだ。
きっとその時間帯に、ジャンヌさんと老子が、
何らかのミッションを行ったんだろうなって」
「はい、老子様が、中国の指導者たちの意識を変えられました。
北京では、大天使ミカエル様が仰っていらしたとおりでした。
もう全てが整えられていました」
ゴリの親父さんから、昨日全人代で決定された、
中国の新たな政策を聞かされた。
新たな政策方針は、次のような内容らしい。
1.日中関係の正常化を目指し、尖閣諸島の領有権を棚上げする。
2.尖閣諸島を含む海域を、日中で共同開発する。
3.尖閣諸島海域の海上保安庁による管轄権の継続は認めるが、
漁業権を台湾を含めて認める。
4.尖閣諸島周辺海域を含めた東シナ海を、友好の海域として、
日中両国が努力する。
5.愛国教育を見直す。
特に反日教育を改め、高潔で隣人との友好を育める人間を醸成していく。
6.中国は、アジアの安寧と平和の確立に最大限努力していく。
以上が要点らしいけど、あとは日本政府の対応が注目される。
空港でゴリと別れ、俺はジャンヌん家で送ってもらう。
ジャンヌは、車の中で話す内容は、食べた中華料理と、
万里の長城のことばかりだ。
やっぱミッションのことは、なにも話さないし、両親も聞いてこない。
娘を心底信頼している感じだ。
夜俺が先に寝てしまって、
ジャンヌがゴリのベッドで寝たことまで話していた。
俺はすぐに寝てしまった。
起こされたら俺ん家に着いていた。ジャンヌも寝ていたようだ。
玄関でお互い両親が挨拶すると、ジャンヌ一家は帰って行った。
俺はまだ寝足りないので一旦寝ることにした。
夕食時に、オトウに北京での土産話をしてやろう。
《翌日の月曜日》
今日、月曜日から木曜日まで、中間テストのテスト週間だ。
俺たちは、一昨日の北京でのミッションの報告と感謝をこめて、
今朝7時半に神殿で祈った。
お祈りのあとジャンヌから、大天使ミカエルが現れて、
中国北京でのミッションの成功を褒め称えられ、
老子も大変お喜びなされた由のお話しがあった。
そして、これから中国が、真の大国としての役割を担っていくために、
大きく変わっていく旨のお話もあった。
それから、今月10月の六国登山は、今週の木曜日だそうだ。
ちょうど中間テストが終わった日だ。
大天使ミカエルも、俺たちの学業のことも配慮してるみたいだ。
俺たちは、8時少し前に登校した。
既にジュリも登校していて、俺たちを待ちかねていたみたいだ。
「よう、おはよう。三人ともお疲れさん」
それぞれジュリとハイタッチした。
「ゴリ昨日ありがとう」ゴリはOKサインで応えた。
ゴリは昨日、帰りにジュリの家へ寄って、
中国のおみやげを持って行ったみたいだ。
ジュリはジャンヌの手を、両手でがっちり握ると、
「あー、ジャンヌの顔見て安心した。
私、今度は中国行くっていうから、今だからいうけど、
ジャンヌが捕まって、監禁されるんじゃないかと心配したのよ」
「心配掛けてごめんなさい。ジュリ」
「ジュリさあ、ジャンヌどこ行っても絶対大丈夫だから。
俺、今回よく判ったよ。なあゴリ」
「ああ、今回、大国の中国だから、それなりに凄かったよ」
「そうよね。それにしてもジャンヌ、あなたたち凄いわね、
あの中国の、指導者たちの意識、変えちゃうんですもの。
そうそう、私心配しちゃったから、あなたたちが北京に着く、1時ころかな、
勉強やめて、天之宇受売命=(あめのうずめのみこと)にお祈りしちゃった」
「ありがとうジュリ、また天之宇受売命にお祈りしてくれたんだ」
「そーよ、どーか中国でのジャンヌたちをお守り下さいって。
そしたらさー、この前みたいに、急に目の前が明るくなって、
天之宇受売命を感じられたわ。
だから私、久々に『平成の祈り』も祈ったの」
「わー、ありがとうジュリ」今度はジャンヌがジュリを抱きしめた。
「でもジャンヌ、今回のミッションって、なにやったか知らないけど、
あなたたちのこと、全く報道されないんだけど。
中国だから、報道規制したの?」
「アー私、昨日テレビ見てないからわからないんだ。
でも神様が、私たちの存在、みんなの記憶から残らないように配慮されたわ」
「ふーん、でも無事でよかった。
テスト前だから、ほとんど観光してないんだって?」
「ええ、でも万里の長城だけは行ったわ」
「ジュリさあ、本場の北京料理食ったんだぜ。
北京ダック、焼きたてを、目の前でさばいてくれるんだ。
皮をメインに食べるんだけど、すげー美味かった」
「わー羨ましいなー。
オズはジャンヌをサポートしたご褒美ってところね」
「おう、まあそんなとこかな。
夜も中華でさ、でも料理かぶらないようにしてもらってさ。
全然飽きなかったぜ」
「俺もオズも、ジャンヌに合わせて菜食だったから、
中華で今までのカロリー不足、取り戻した感じ」
「ゴリしっかり食べてよ、木曜日、テスト終わったら稽古だからね。
オズもジャンヌもね」
今日でテストも終わり、部活も解禁だ。
だけど早速今晩、六国登山だ。
ゴリは部活終わってから俺ん家に寄る。
ジャンヌは一旦帰って夜やってくる。
その後の日本政府の反応は、一応中国の、
政策変更を歓迎するコメントを発したものの、
尖閣周辺の日中共同開発には前向きだけど、
漁業権の解放には否定的な見解だ。
それに、相変わらず尖閣諸島が日本の固有の領土だと、
繰り返し主張している。
日本政府の対応には、中国からの落胆と、アメリカ政府、
世界各国の反応も、頑なな日本の態度に批判が集まっている。
先週の北京でのミッションで、老子が中国の指導者の意識を変えて、
中国もせっかく『下流方針』を打ち出したのに。
日中関係の改善をはかるべくボールを投げられたのに。
今度は日本の指導者、マスコミ、国民の意識を変える番だろう。
今日も俺は、ゴリより先に部活が終わったから、ゴリを置いて先に帰った。
帰宅したら、早速今晩の準備だ。
ランタンと懐中電灯、それから展望台のデッキに敷くマットも用意した。
ゴリが来るのを待って夕飯にした。
俺とゴリが食べ終わって、お茶を飲んでると、
7時45分にジャンヌがやってきた。
「おうジャンヌ、お母さん帰ったの?」
「ええ、今晩は。お夕飯は? もう食べ終わった?」
「ああ、今俺もゴリも食べ終わったところ」
「モンチ今晩は、今晩宜しくね。
あ、お母様、今晩は。
9時頃両親がやってきますので、宜しくお願いします」
「はーい、その頃にはうちのお父さんも、帰ってると思うから」
「ジャンヌ、こっちで一緒にお茶飲んだら?」
「ありがとうオズ、私自分でいれさせてもらうから」
キッチンからオカアとジャンヌの会話が聞こえてくる。
オカアのテンションが上がってるのがわかる。
「お母様、夕食のお手伝い、なかなか出来なくてごめんなさい」
「いいのよ、ジャンヌさん。ぜんぜん気にしないで。
修行とか中国とかで、大変だったでしょうから……」
「ありがとうございます。
お母様もオズくんの食事、大変だったんじゃないですか?」
「そうそう、でもね、初めのうちは大変だったけど、
結構精進料理とか、菜食のレシピ本、沢山あるのね。
それにネットでの情報も、菜食のブログとか見たりしてね」
ヘーえ。オカアもいろいろ気ぃ使ってくれてたんだ。俺初めて知った。
キッチンで、オカアとジャンヌが、いろいろ話が盛り上がっていたが、
そろそろ時間になったのでゴリが、
「そろそろ行こうか。ジャンヌいいかー」
俺たちは、8時ちょっと前だけど出発した。
今月も曇り空だ。頂上の展望台から空を見上げても、月明かりもない。
ジャンヌは、頂上のベンチで呼吸を整える。
ジャンヌの呼吸が整ったところで展望台に並び、俺たちは祈りに入った。
いつものように、役行者、猿田彦大神の順で、
大天使ミカエルが、最後にお出ましになった。
俺たちは合掌して神々を迎え、ジャンヌは、合掌したままひざまずき、
深々と一礼すると、大天使ミカエルを仰ぎみた。
大天使ミカエルより、
『天界での決定により、汝らを尖閣諸島に派遣します』
「ハイ、大天使ミカエル様」
『今回は、大澤小角と大田猿田彦、汝らにもミッションが課せられています。
汝らも明日から9日間、断食するように。
そして9日目に沖縄へ飛びなさい。
那覇空港に着いたなら、米軍普天間基地に直行しなさい。
全ては整えてあります』
俺は役行者を見上げると、俺を見て頷かれた。
ゴリも同様に猿田彦大神から頷かれた。
「ぁ、あのう、ど、どんなミッションなんでしょぅ……」
俺は気になって、思わず大天使ミカエルに聞いてしまった。
すると役行者が俺を睨み、
「汝は当日、大橋ジャンヌの指示に従えばよい」
しっ責を含んだ役行者の言葉に、俺は驚愕と恐怖で全身がぶるっと震え、
上半身が思はず30~40センチ飛び上がってしまった。
すかさずジャンヌが両手で俺の左腕と左肩を抑えながら、
「ハイ、役行者様。み心に従います」
役行者は、なんとジャンヌを見て笑って頷かれた。
「役行者様、ありがとうございます」
ジャンヌは合掌して頭を下げた。
俺もあわてて役行者に合掌して頭を下げたけど、あの笑いというか、
ほほ笑みは、ジャンヌに免じて俺を許してやろうという意味だったのか?
神々が去られた頂上で、
「なあジャンヌ、大天使ミカエルは、
天界での新たな決定事項って言ってたよな。
次のミッションでは、俺とゴリも使うって言ってたけど、何だろう?」
「さあ、私にも判らないわ? でもオズなら絶対大丈夫。
成功間違いなしだから。
オズは、役行者様に全託して、絶対的に信頼してね」
「よっしゃあ、任せとき」
「そうそう、その調子ね」
「オズ、えらい気合い入ってるな」




